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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編

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理路整然と(スタン視点)

投稿の配分を間違えて、まだだいぶ先が残っています。12月13日の発売まで、毎日のように投稿してしまうかもですが、よろしくお願いします。

 そう意気込んだ割には、犯人はあっさりと判明した。


「ハロルド・モールゼイ。やはりお前か」


 うんざりしたようなモールゼイの当主に、同姓同名の護衛隊員は顔を真っ青にしている。


「なぜご当主が……」

「同じ四侯の娘が悪意のある噂にさらされているのに、黙っていられるか。リアとは個人的にも交流がある。リアにはハルおじさまと呼ばれる仲なのだぞ」


 孤高の当主が、リアのような幼い子と仲がいいとは思っても見なかったのだろう。ハロルドはいっそう顔を青くした。


 誰が取り調べるのかということになったとき、一族の当主が一番いいだろうということで、モールゼイが担当している。


「もちろん、クリスのことも大事に思っている。親がいない分、特にな。今回、リアと逆にクリスに悪評が流れても、私は動いたぞ。お気に入りかどうかという話ではない」


 生きているのに、親がいないと言われてしまうフェリシアとクリスが気の毒ではある。だが二人の現保護者だからと言って、それを気にしている場合ではない。モールゼイは今、ハロルドを叱責しているが、この場にはおよそ百人近くの人が集められている。


 フェリシアに噂を持ってきた本人のグウェンダル子爵、それから同じようハロルドが噂を流した貴族数名、使用人、そしてそれらの人たちが噂を流した者たち、それに監理局から代表として一人だ。


 ハロルドが不満交じりに自分に都合のいい噂を流してから、半日しかたっていなかったのにこの人数である。


 確かに、上位貴族の噂は、関係ない者にとっては格好の娯楽の種だろう。


「オールバンスの娘は、たいそうわがままだそうですな。王子のお気に入りだからと、やりたいほうだい。こないだなど、クリス様の護衛を、勝手に辞めさせたとか」


 モールゼイが手元の紙を読み上げ。グウェンダル子爵が体をびくっとさせる。


「私はそのようなことは言ってはおりません」


 ハロルドが即座に否定した。


「……オールバンスの娘のわがままで、クリス様の護衛を辞めさせられたと言っただけです」

「それだけか」

「王子殿下も、クリス様も、オールバンスの娘の言いなりだったと言ったかもしれません。ですが!」


 ハロルドは大きな声で主張した。


「護衛対象について、軽々しく口にしてしまったのは事実です。ですが、私は嘘は申しておりません」

「ふうむ。スタン。どうだ?」


 あえてディーンに聞かず、私に尋ねたモールゼイである。


 俺は、噂についてではなく、リアとの会話について聞くことにした。


「リアに、こんな子どものせいで、監理局がかきまわされているのか、と言ったそうだな」


 そんな話は聞いていなかったであろう人々がざわついたが、ハロルドは平然と嘘をついた。


「そんなことを言ってはおりません。おそらくリーリア様が聞き間違えたのでしょう。まだ三歳でしたか、無理もない」

「そうか」


 今の一言で、この男がどうしようもないことが判明した。


「ディーン。リアを呼ぼう」


 俺の提案に、集められた人々がざわついた。


 リアは二歳のころにお披露目されたが、その場には高位の貴族しか招かれていなかった。また、毎日城に通っていても、限られたコースしか通っておらず、リアを見たものはほとんどいない。


 幼い頃ウェスターにさらわれて、半年以上行方不明だった、わがままなオールバンスの娘。


 おそらく、今ここにいる人々のリアの認識はそんなものだろう。


「わかった」


 隠せば隠すほど、守ろうとすればするほど、噂だけが独り歩きしていく。


 ここで噂を否定し、口外を禁じたとしても、ここだけの秘密というおいしい果実を独り占めにすることは難しい。


 私たちの知っているリアの愛らしさが伝わらず、あやふやな悪評だけが残る。


 それなら、リアを見せたほうが早いと、ディーンもわかっているのだろう。返事は早かった。


 立たせたままのハロルドは、リアを呼ぶと言っても落ち着いた顔だ。ハロルドの言葉を直接聞いたのはリア一人。大人がどうとでもごまかせると思っているんだろう。


「城で働くこれだけの人数を集めて、証言もできぬ幼児を呼ぶまで待たせるとは、オールバンスもずいぶん暇を持て余しているとみえる」


 皮肉げに口に出したのは、監理局副局長のゴドフリーだ。ここには四侯どころが王族までいるというのに、オールバンスを名指しすることからも、誰を疎んでいるのかすぐにわかる。


 監理局幹部がこれだから、部下である護衛隊のハロルドがオールバンスを軽んじてもいいと思ってしまったと、なぜわからないのかとあきれてしまう。


 だが、それを無視したのは私とディーンで、モールゼイはゴドフリーには厳しい態度だ。


「黙れ。お前に発言の許可は出していない。発言を望むなら、護衛対象について軽々しく口に出すような護衛の育成しかしていないことを問題視する場に変えようか」

「は、いや。今のは独り言であって、発言ではない」


 ゴドフリーの言い訳は、先ほどのハロルドそのものだ。


「そうか。誰かを非難するような発言をしたとしても、独り言だったと言えばすむといことか。なるほど、護衛隊にはそなたの教育が行き届いているとみえる」


 ハロルドは四侯としてあるべき姿がはっきりしているため、私たちにもそれを求め、厳しい態度を取る。だが、それは四侯以外に向けられないわけではないのだ。


 集められた人たちには、リアを待つまでの娯楽になっているに違いなかった。


 その時、トントンと、ノックの音がした。


「淡紫の娘だ」

「オールバンスの」


 どんなに小声であろうと、狭い部屋の中ではよく響く。ひそひそと期待に満ちた声が広がる中、ドアが開き、ニコラス殿下の護衛がまず顔を出した。


「お呼びにより、リーリア様、クリス様、そしてニコラス殿下、オッズ殿をお連れしました」


 部屋に満ちていた声が一瞬で静まった。


「呼んだのはオールバンスの娘だけだろう」


 ゴドフリーの声だけが響く。


「べんきょう中に、わが学友がよびだされたのだ。わたしがみとどけずにどうする」


 その声と共に、堂々と一番先に入ってきたのはニコ殿下である。


 城にいても王族を見る機会はほとんどない。

 集められた人々からは抑えきれない興奮が感じられる。


「さあ、クリス、リア」


 ニコ殿下は数歩進んで、くるりと後ろを向いて呼びかけた。


「はい」

「はーい」


 楽し気で弾んだ声と共に、クリスとリアが登場した。


「なんとかわいらしい……」


 七歳と三歳。


 姉と妹のように手をつないで、何が楽しいのかニコニコと笑顔を浮かべている二人は、部屋に入ると驚いたように足を止めた。


「ひとがいっぱい」


 三歳らしいあどけない様子のリアに、クリスがお姉さんぶって話しかける。


「こんな時はごあいさつよ」

「うん」


 手を離した二人は、スカートの裾をちょんとつまむと、顔を見合わせて、声を出さずにせーのと合図した。


「みなさま、ごきげんよう」

「ごきげんよう」


 少しだけ膝を落とした軽い挨拶だが、クリスはレディらしくしずしずと、そしてリアは元気にぴょこんとはね、それからはじけるように笑顔になった。


 挨拶がうまくできたことが嬉しいのだろう。


 この場になぜ呼ばれたのかわからず、午後のいい息抜きとしか思っていないような楽しげな姿を見れば、不穏な噂が本当だったのかどうかすら怪しく感じてしまうはずだ。


 まして、子どもたち三人の、特にクリスとリアの仲の良さを見れば、クリスがかわいそうになどと言えるはずもない。


「おとうさま!」


 立って出迎えたディーンのもとに走っていくリアと、それを見送りながら自然に俺のもとにやってきたクリス。


 リアを抱き上げ、微笑みかけるディーンと、寄り添うクリスの肩に手を載せる俺。


「ハルおじさま! マークに、ギルに、フェリシア! こんにちは」


 四侯すべてに気楽に声をかけ、優しい笑みを受け取るリアは、ランバート殿下にもにっこりと笑いかけた。


「ランおじさまも、こんにちは」

「ああ、よく来てくれたね」


 リアとクリスを迎えるために、全員立ち上がった俺たちを見れば、王家にしろ四侯にしろ、不和などないと一目でわかるはずだ。


 だが、確かにゴドフリーの言う通り、主に城で働く人たちを時間的に拘束しているわけなので、問題は早く解決してしまいたい。


 俺はすぐに話を進めた。


「リア、今日来てもらったのは、この間交代することになった、クリスの護衛の件なんだ」

「ごえいたいの、ハロルド・モールゼイのこと?」


 モールゼイの当主が微妙な顔になる。


「そうだ。あの時、彼が何と言ったか、もう一度話してくれるか?」

「うん。ええと、『こんなこどものせいで、かんりきょくがかきまわされているのか』っていった」


 途端に部屋がざわついた。


「それが嫌だったから、ハロルドを変えてほしいと思ったの?」

「そう」


 リアは余計なことを言わず、ただそれだけを口にした。

 さて、ここからが勝負だ。


「でもね、リア。どうしてそれが嫌だと思ったんだい?」


 普段からリアやニコ殿下と過ごしていると忘れがちだが、リアはまだ三歳だ。


 こんな子どものせいで、という言葉も、監理局、という言葉も、ましてやかきまわされている、という言葉も、それが合わさって非難する文脈になっているということも、普通なら理解できるわけがない。だが、リアは確実に理解できている。


 ハロルドがつい口に出してしまったのも、こんな子どもに何を言ってもわかるわけがないという侮りがあったからだ。


「ええとね、リアがさらわれたとき、たくさんのひとがこまったの」


 リアはゆっくりと子どもらしい言葉で話し始めた。少々遠回りの話だ。


「いっしょにさらわれたリアのじじょは、へんきょうでしんでしまった」


 いきなりの重い話を、部屋のものは受け止められただろうか。

 ちらりと目をやると、口元に手を当てている者、呆然とリアを見つめる者、さまざまだが、少なくともリアの話にひきつけられてはいる。リアがさらわれたということを、本人が話す、これほど強く印象付けられる場はないだろう。


「おとうさまはなんにちもかけて、さがしにきてくれたけど、まにあわなかった。へんきょうでたすけてくれたひとのこどもも、さらわれそうになった。リアをまたさらおうとして、ひとじちにされたひともいた」


 リアは、部屋の壁の向こうの、どこか遠くを見ているかのように話し続ける。


「リアはおもったの。リアがいるから、リアのめがむらさきだから、めいわくをかけるの? って」


 リアの話を、ちゃんと受け止めているだろうか。

 私はハロルドに目をやった。

 さすがに罪悪感があるのだろう。目をうろうろと泳がせている。

 ゴドフリーとは、その通りだろうというように、いまいましげに腕を組んでいる。


「でもちがうの。こまるのは、リアがいるからじゃない」


 リアは、どこか遠くを見ていた目を、しっかりとハロルドに戻した。


「こまるのは、わるいひとがいて、わるいことをするから」


 そして念を押すようにゆっくりと話す。


「かんりきょくがこまるのは、わるいひとが、わるいことをするから。リアのせいじゃない」


 リアの目は、ハロルドの後ろに座っている、ゴドフリーをとらえた。


「ハロルドがリアにいったのは、リアのせいでかんりきょくがこまっている、ってことでしょ?」

「私は、そんなつもりは……」


 こんな大ごとになるはずではなかったのだろう。ハロルドがもごもごと何か言い訳している。


「わるいこと、リアのせいにするかんりきょくのひとに、そばにいてほしくない、っておもったの」


 もうすぐ四歳になるとはいえ、三歳の幼子がこれほど論理立ててしゃべれるだろうか。

 その驚きを呑み込まざるを得ないほど、リアの説明はわかりやすかった。


「だが、ハロルドはリア様ではなく、クリス様の護衛だ。自分のそばにいてほしくないからと言って、護衛を変えろと言うのはわがまま以外のなんだというのだ」


 リアはそう突っ込むゴドフリーを見て、大きなため息をついた。


「なんど同じ話をすればいいのかしら。ハロルド、あなたはごえいの交代のことを、ちゃんとせつめいしてくれなかったの?」


 意外なことに、ここでクリスが発言した。


「私、あのとき、ハロルドに言ったはずです。リアは私の大切な友だちなの。私の大切な人を大切にできない人は信じられないわ、って」


 リアと出会ったばかりの頃のクリスは、やんちゃでわがままなところが目立つ子だった。それがいろいろなことを経験して、ここまで成長したのだ。つらい目にあったのはリアだけではない。


 俺は目頭が熱くなった。


「リアのわがままで、ごえいの交代をおねがいしたのではないわ。私がそうしたいと思ったから、交代をおねがいしたのです」


 クリスのまっすぐな言葉には、リアのわがままで、クリスが迷惑しているなどみじんも感じられない。


「ですが、私は、そのようなことを口に出した記憶はありません」


 ハロルドが最後の抵抗をする。

 そこで口を出したのは、今まで黙って聞いていたランバート殿下だ。


「リア、私と最初に出会った時をおぼえているかい?」


 リアは殿下の唐突な質問に、首を傾げて少しの間黙って考えている。


「ニコが、たいへんだったとき」

「そう。あれは君が二歳になる前、ニコの遊び相手として城に来るようになった頃のことだ」


 今度は何の話が始まったのだろうと、人々の関心がまた一気に高まった。


「私が部屋に入ってきた時、何と言ったか覚えているかい?」


 そういうことか!

 リアの記憶力の良さは恐ろしいほどだ。

 それを印象付けようというのだろう。


「ええと、『いったいなにがおきている』って」

「それから?」

「『そなたがリアか。なるほどあいらしい』」


 一瞬ののち、部屋のあちこちで噴き出す声が響いた。


「確かに、それはランバート殿下ですな」


 モールゼイの当主があきれたように保証する。


「このように、リーリア・オールバンスは抜群の記憶力を持つ。それは、そこのクリス、それから我が子ニコラスも同じ。たかが幼子と侮ると、最後は痛い目を見るぞ。サイラス・イースターのようにな」


 ハロルドはついにがくりと頭を垂れた。


 いろいろ言い訳していたが、もうごまかせないと悟ったのだろう。


「さて、これでわかったと思う」


 モールゼイの当主が、部屋に集まった人に話しかけた。


 今まで他人事のように話をきいていた人々は、自分たちに話が振られて居住まいを正した。


「ここに集められた者たちは、護衛隊のハロルドが軽々しく口にした偽りの噂を真に受け、広めた者、あるいは広めようとした者たちだ」


 実際には噂を聞いただけの者もいるだろう。だが、心当たりに皆、居心地が悪そうにしている。


「グウェンデル子爵」

「は、はい」


 フェリシアに直接噂を伝えた子爵は青い顔で返事をした。


「オールバンスの娘は、たいそうわがままだそうですな。王子のお気に入りだからと、やりたいほうだい。こないだなど、クリス様の護衛を、勝手にやめさせたとか」


 自分が言った言葉をモールゼイの当主にもう一度繰り返されて、ぶるぶると震えている。


「そなたがフェリシアに言った言葉だが、どうだ。どれか一つでも、リアに当てはまると思うか」

「いいえ! いいえ! わがままなどと、こんなにもけなげで賢いお嬢様なのに、間違った噂を流していた自分が恐ろしい。大変申し訳ございませんでした!」


 地面に這いつくばらんばかりに、身を低くした。


「そなたらはどうだ。その噂、真実だと思うか!」


 部屋のすべての者が目に入ったわけではない。だが、おそらく全員が首を横に振っただろう。


「リアがわたしのお気に入りときくと、まるでリアがものみたいで、ふゆかいだな」


 黙って様子を見ていたニコラス殿下がそう言い出した。


「リアもクリスも、だいじな友だちだ。共に学び、あそび、ときにはたびをする。それのなにがもんだいなのだ」


 この純真な子どもたちを前に、何が言えるだろうか。


「この間違った噂が、他の場所から一言でも聞こえてきたら、そなたたちの誰かが広げたとみなされること、覚悟しておけ」


 覚悟だけを問うて集会は終わった。広げたらどんな罪に問われるかなど一言も言わずに。


 だが、リアを直接見て、子どもたちだけでなく、四侯と王家のつながりの強さを知ったいま、リアの悪評が広がることはもうないだろう。少なくともこの件については。


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― 新着の感想 ―
ハルおじさん、厳しい雰囲気のまま「ハルおじさんと呼ばれる仲なのだぞ」って言ってしまうのwww 厳しくてかっこいいし、リアはよそ行きだし、クリスはお姉ちゃんだし、ニコ殿下は「友」じゃなくて「友だち」って…
管理局本当にろくでもない思考してますね……自分達護衛隊が護るべき四侯当主達と王族の前で嘘やごまかしを言うような護衛隊隊長もやはりろくでもないし……隊長ですらコレとか今後が心配すぎます。
いつも愉しく拝見しています。 今回のお話でピシャリと仕返しでき、多少スッキリしました! ただ、護衛隊のハロルドが王族の前なのに自己保身のために何度も嘘の証言を したことは、大問題のような気がします。…
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