いきます
厳しい展開がもう少し続きます。
12月にはまとめて読めますので、つらい方はしばらくお休みを。
「転生幼女はあきらめない」書籍9巻は12月15日、
コミックス7巻は同じく12月14日に発売予定です。
また、「転生幼女」9巻は通常版と、リアのアクキーがついた特装版と二種類発売決定です。
特装版は一二三書房のページから予約のみで購入できます。アクキーの分お高いですが、確実に手に入ります。
「リア」
離れたところから聞こえてきたのはギルの声だ。
「リアの言う通りだ。サイラスは途中で捜索に出ていたバートたちと遭遇し、レイとエイミーを見せて、解放する条件としてリアに魔石を充填させるように言った」
私の思った通りだったようだ。
「バートたちはとっさに、リアをレイとエイミーと引き換えるなら、リアの安全を保証しろと交渉したそうだ」
「自分のせいで友だちが死んだとわかったら、淡紫の心はこの先耐えられるものかと、あいつは笑った。笑ったんだ」
バートはギルに続けて悔しそうに顔を上げた。
「だが、こちらが人質の命を無視すれば、サイラス自身が生き延びる可能性はゼロになる。あいつは最終的にリアは返すと約束はした。だが、そうだよな」
バートは大きくため息をついた。
「リアの言う通り、ファーランドで解放する可能性が一番高い。俺たちでもとっさに思いつかなかったのに、リアはすごいな」
普段なら褒められたと胸を張るところだが、続く沈黙に私はちょっと焦っている。このままでは気持ち悪い子どもだと思われてしまうではないか。
「リア」
その沈黙をギルが破った。
「キングダムの代表として私が指示する。サイラスのところに行ってくれ」
「ギル!」
兄さまの悲痛な声が響いたが、仕方のないことだ。誰かが決めなければならなかった。身内の兄さまに決められないことなら、ギルが決めるしかない。
いくら私のことが大事だからと言って、その代わりに四侯の跡継ぎを行かせることはできない。ギルが自らつらい決断を引き受けてくれたのだ。
「リア、いきます」
私は胸を張り、ラグ竜のぬいぐるみをしっかりと肩にかけ直した。
黙って話を聞いていたニコが、私の肩を抱く。
「リア、ぶじでかえってこい。わたしのいちばんのともだちは、リアだ」
「うん!」
サイラスとの因縁はトレントフォースから始まった。
それならば、トレントフォースで終わらせよう。
指定の場所は、トレントフォースからウェスターに向かう街道の山側だった。
竜の振り分け籠に乗せられながら、バートが説明してくれた。
「なぜファーランド側じゃないのかわからないが、使者の虚族が出たところっていう指定なんだ。悪趣味だよな」
普通の子どもなら怖くて聞きたくないことも、私なら大丈夫だ。
「だがウェスター側には逃げられないように、町の人たちも協力して待機してくれてる。どうやってもファーランド側に逃げるしかないんだ」
バートは私にというより、自分に言い聞かせている。
「なにがあっても、絶対に助けるからな」
「うん。しんじてる」
やがてウェリントン山脈が黒々した影を落とす場所に、数十頭のラグ竜の大きな群れが見えた。
そのラグ竜を従えるように立っているのがサイラスとシーブスなのだろう。
「あれだけの群れがじっとしてても虚族に襲われてねえ。ってことは、すべてのラグ竜が入れるように、結界箱を複数、惜しげもなく使ってるってことか。ラグ竜の商人って、こういうことだったんだな」
それでどう商売するのかは私にはさっぱりわからないが、少なくとも必要な時必要なだけのラグ竜を用意する力はあるということなのだろう。
「止まれ!」
私たちがゆっくり近づくと、サイラスの制止の声がした。
サイラスの足元には、縄で縛られたレイとエイミーが座らされている。さらわれてから数時間たつが、大丈夫だろうか。
「リア! 来るな!」
「来ないで!」
それでも大きな声で叫ぶレイとエイミーは、待たされている間、お前たちはリアを呼ぶための囮だとさんざん吹き込まれていたのだろう。
サイラスのやりそうなことだ。
私は二人の気持ちに思わず涙が出そうになったが、ぐっとこらえた。
サイラスは竜から降ろされた私を見て、ニヤリと笑った。
「確かに、あいつだ」
私の斜め後ろに立つ兄さまがつぶやいた。ウェスターの城で一度、キングダムの城で一度、兄さまがサイラスと顔を合わせたのはその二回だけだ。
私は誰に何も言われずとも、ずいっと一歩前に出る。
「淡紫よ。よい覚悟だな」
覚悟などないが、私は腕を組んでふんっと鼻息を吐いた。サイラスは私から後ろに目をやると、ふっと鼻で笑った。私のかわいい鼻息と比べるとまことに憎たらしい。
「ためらいなく幼い子どもを犠牲に差し出したか。王族にしろ四侯にしろ、しょせんその程度」
兄さまやアリスターが前のめりに飛び出そうとして、止められている気配を背中に感じる私である。
私はむしろ感心してサイラスを眺めてしまった。ためらいなく全方位に悪意を撒き散らす、そんなことができる人がいるのだということに。
その幼い子を差し出せと言った奴は誰だとか、反論したいことは山ほどある。だが、大事なのは悪意に乗せられないことだ。何を反論したところで、響くことはないのだから。
兄さまは心をぐっと抑え、数度息を吸って吐くと、落ち着いた声で交渉を始めた。
「私がリアをそちらに送ります。その後、レイとエイミーを引き取って戻ります」
私を一人、向こうに残す。つらい選択だと思う。
「駄目だ」
サイラスはただでさえつらいその提案を切り捨てた。
「子ども二人を戻すのは、淡紫が魔力を充填し終わった後だ」
「承服しかねる。魔力を充填し終わった後に、お前がリアを戻す保証がない」
「なら、今ここで人質を殺す」
サイラスの声に、隣のシーブスが剣をすらりと抜いた。
「単なる脅しだ。魔石に魔力を入れなくていいのか」
「試してみるか」
兄さまとサイラスの攻防が続く。
私はふうっと大きく息を吐いた。
「にいさま、だいじょうぶ」
「リア、しかし」
私は兄さまの足をぽんぽんと叩いた。本当はこういう交渉ごとに口を出してはいけないとわかってはいる。レイとエイミーを傷つけたら、サイラスとシーブスには交渉の手段がなくなるから、強く出たほうがいいのかもしれないということも。
だが、なんとなくだが、今はサイラスを追い詰めてはいけないという気がしたのだ。
「リア、いきます。けんをおさめて」
私の子どもらしい高い声が響くと、シーブスは一瞬ためらった後、剣を鞘に納めた。レイとエイミーの震えが少しだけおさまった気がする。
わたしはゆっくりと歩き始めた。
「リア、結界箱を」
心が痛むが、兄さまの優しい提案を断り、私は結界の外に一歩踏み出した。
筆者の別作品、「転生少女まず一歩」書籍7巻は11月25日、
コミックス4巻は同じく11月14日に発売予定です。
最近のもろもろは活動報告にまとめてありますので、よかったらご覧ください。




