前回さらわれたのはどこだった?
途切れがちでしたが、毎週月曜日に更新戻ります。
近況については活動報告を上げていますので、よかったらごらんください。
『転生少女はまず一歩からはじめたい』も明日から更新再開します。
その日の夕方、バートたちは難しい顔で帰ってきた。そう言えばヒューとファーランド一行がいないと思ったら、ヒューも出かけていたようで一緒に戻ってきた。ファーランド一行はどうしたのだろう。
皆のことは丸一日以上見かけなかったが、その間ずっと出かけていたようで、さすがに疲れた顔をしていた。
「途中で伝言をもらってもう一度ファーランド国境に引き返す羽目になったから、疲れたよ。それでも俺が足手まといにならなくてよかった」
食後にアリスターが、部屋まで事情を話しに来てくれた。隣にニコもいるのは、先にニコの部屋によって連れてきてくれたらしい。腰にはちゃんとぬいぐるみがついていて、私はほっとした。
ニコはポケットからマールライトを引っ張り出して、アリスターに手渡した。
「あたらしいマールライトができたのだが、アリスターとヒューとカルロスおうじがつかうとよい」
「もうできたのか、ニコ。すごいなあ」
アリスターは嬉しそうだが、腰のぬいぐるみをぽんと叩いた。
「でも、俺にはこれがあるから大丈夫だ。こっちは預かって、先にヒューとカルロス王子の分を作っておくことにするよ」
アリスターは嬉しそうにマールライトをしまい込んだ。
「アリスター、ファーランドのほうにいっていたの?」
「ああ。リアの父さんが言ってただろ? ファーランドとウェスターの国境も閉鎖して、あいつをファーランドからウェスターへ戻ることのないようにするって。まあ、結局ウェスターにいたってオチなんだけどな」
苦笑いのアリスターだ。
「初日はさ、俺たちが来た道を逆にたどって、使者の痕跡がないか探したんだ。何も見つからなかったけど、虚族にその姿が映されてた。わかるよな」
「ああ。わかる」
ニコがしっかりと頷いた。一生懸命先行して役目を果たそうとしていたのに、トレントフォース一歩手前で命を落としたということになる。大人たちが私たち子どもに言いたくなかったことを、アリスターが教えてくれた。
「でも、どうして」
その先の言葉がつながらなかった。
聞きたかったのは、どうして亡くなったのかではない。
どうして虚族にその姿を映されたのかである。
虚族は生きた者しか襲わない。そして生きた者の命を吸い、その姿を映す。
つまり、使者は誰かに殺されたのではなく、虚族に命を奪われたことになるのだ。
殺す理由があるなら、その姿は見えないほうがいいではないか。
「わからない」
アリスターも首を横に振った。
「そのわからない中で、あいつら二人組らしい旅人がトレントフォースからファーランドへ向かったとわかった。俺たちは、その二人組が通ったかどうかを確かめに国境に向かったんだ。適当にあしらわれないために、ファーランドのカルロス王子を連れてさ。さすがに自国の王子はわかるだろってことで。ウェスターからは今回国境に兵は出してないからな」
ヒューが行ってもあまり意味はなかったかもしれないということである。
「いちおう、街道沿いにファーランドの兵はいた。型どおりに国境を越える人はチェックしていたようだけど、怪しい二人組は通らなかったってさ。それでとりあえず戻ってきたら、途中でサイラス確定って知らせが来て、慌てて国境に戻って」
アリスターは手を行ったり来たりさせて説明してくれた。
「国境の警備を厳重にすることと、ファーランドの領都とキングダムに連絡することをカルロス王子が指示を出してて、そのままそこに残ってくれた。で、俺たちはまた急いで戻ってきた。そして今ここ」
一気に説明してくれたアリスターは、ふうっと息を吐いて椅子に腰かけた。
「アリスター、がんばった」
私は背伸びして、椅子に座ったまま頭を下げたアリスターの頭をよしよしと撫でてあげた。
「うん、頑張ったけど、一番大事なことは何も解決してないんだ」
「サイラスがみつからないことか」
「ああ」
アリスターは、座ったまま膝に頬杖をついた。
「国境の警戒に気が付いて、このままウェスターに戻った可能性もある。だが、ここにはあいつが倒したかったキングダムの王族と四侯の後継がいる。ヒューと、カルロスもだ。好機だと、そう思うかもしれない」
「りゆうがない。サイラスはあのときも、リアたちをそのままにしたもの」
「そうかもしれない。だが、そうでないかもしれない。ただ逃げていただけかもしれないが、国境を通っていないということは、自分が怪しまれ追われているということに気が付いたかもしれないということなんだ。追い詰められたら、なにをするかわからないだろ」
何もせずに、私の目に入らないどこかの町の片隅で、普通に生活していてくれたらよかったのに。
「じゃあ」
「ああ。明日からはこの付近を大捜索だろうな。リアもニコも、しばらくは屋敷暮らしだ」
「おにわもだめ?」
「駄目だよ。前回どこでさらわれたのか忘れたのか」
はい、庭です。
こうして次の日からも、部屋遊びの日々と決まってしまった。
ハンターとして働いていたアリスターと自分が違うことはわかっているから、ちゃんと我慢しているのは偉いと思う。
「ニコとも外で走り回れたらいいのにな」
「とてもそうしたいが、ここはがまんするしかない」
危ないから邪魔にならないようにしてほしいという要請には慣れ切っている私たちである。
「リア」
レイが私の方を振り返った。
「裏のウェリントン山脈のふもとの森にはね。ウェリ栗が少し生えてるところがあるんだよ」
「ウェリぐり!」
「今度もし秋までいたら、一緒に採りに行こうな」
「うん!」
栗拾いは草だらけで大変なのよとエイミーにため息をつかれながら、今はできない外遊びに思いを馳せる。
「とはいえ、へやにいるのはあきるな」
私がお昼寝の間静かにしていたらしいニコは、外に出たそうに窓を眺めた。いざという時にたくさんの人が入れるように、窓の一部が開き戸になっているこの部屋は、その窓枠にもしっかりとローダライトがはまっている。
「そうだな。この部屋だけだと飽きちゃうから、厨房にでも行っておやつをねだってこようか」
レイの提案で、おやつをねだりに行ったり、お屋敷の探検に行ったりして、なんとか飽きずに皆が帰ってくるのを待つ私たちである。
「そろそろぬいぐるみのお着替えをたたみましょうか」
「うん」
エイミーと二人でぬいぐるみの服を畳んでいると、窓の外は日が陰り、薄暗くなってきているのが見えた。
キングダムにいるときは気になったことなどなかったが、ウェスターではこの時間はいつも胸がざわめくような気持ちになる。
いや、本当にざわめきが聞こえるかもしれない。私が完全に窓の方に体を向けると、ハンスの静かな声が部屋に響いた。
「リア様、下がってください。ニコ殿下、そして町長のお子さん方も」
私はエイミーと、ニコはレイと手をつなぎ、部屋の入口まで下がった。その前にナタリーが立ち、ハンスとニコの護衛が前に立つ。
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