成果はなかなか
小さいマールライトは、一時的に変質してもすぐに戻ってしまい、私の実験は苦戦していた。一方で、ニコの実験は最初から大成功だった。
「30分、三日で一応使える形のものができましたね」
兄さまが記録を取りながらふむと満足そうだ。ただし、アリスターが用意していた、明かり用の魔道具箱は少し大きくて、できあがった結界箱は小さいとは言えないものだった。
「大事なのは、結界の範囲と、俺でも充填できるくらいの魔石で動くかどうかってことなんだ」
変質が終わったらそれで終わりではない。実際に使えるかどうか試さねばならず、そこでバートの登場である。
「まずはどの大きさの魔石なら動くか試しましょうか」
兄さまが様々な大きさの魔石を小さいほうから順番に並べている。
それをいろいろな大きさの頭がのぞき込んでいるという、ちょっと狭苦しい状況だ。
小さい子組が夕食の後楽しそうなことをしているということで、最近は自然と全員が、一部屋に集まってくる。広いと言えば食堂なのだが、宿の食堂で大っぴらにすることでもないので仕方がない。
「へやにおうじがいっぱい」
「いっぱいって、三人しかいないぞ」
思わずこぼれた本音に、ひたすら旅を楽しんでいるだけのカルロス王子が不思議そうに感想をのべるが、
「カルロス、それは感覚が麻痺しています」
すかさずリコシェに突っ込まれていた。いい主従である。
「王子だけでなく四侯の血筋が四人もいますよ」
「四人? ああ」
アリスターもバートと同じように周囲の警戒に当たったり、雑用をしたりしているから、四侯だということをうっかり忘れてしまいがちである。もっとも、なにをしていようと私にとってアリスターはアリスターだ。
「こないだまで王子が五人もいたからな。少なくなったと思ってしまっても仕方ないだろう」
言い訳をしながらも、アリスターが箱の中に魔石をはめ込んでいくのを興味津々で見ている。
「小さいのからやっていくぞ。この小さい奴で動くと助かるんだけどな」
綿と布を詰め込んだ箱に、小さな魔石をはめ込んでいく。
「箱を閉じて、スイッチを入れる」
なんの気配もしない。
「駄目だ。次」
アリスターは次々と魔石を入れていくが、反応しない。
「次はこれ。結界箱に使う魔石ほど大きくないけど、かなり大きいし、バートでも何回か頑張らないと魔力がいっぱいにならないくらいの石だぞ。値段もかなりする」
「この魔石ならなんとか買える値段だ。だが、これで発動しないと、これ以上大きい魔石は俺にはちょっとつらいなあ」
バートが祈るように手を組んで胸にとんと当てた。
「よし、スイッチを入れてと。あ」
ほわんと立ち上がったのは確かに結界だった。
「おお」
魔力を持つものばかりなので、全員何かしら感じたようだ。
私は急いで部屋の隅まで移動した。
「ここまでけっかいきてる。はんい、ひろすぎだとおもう」
「む。ぜんかいより広いけっかいでやったつもりだったが、大きすぎたか」
だがこれで、大きい結界だったせいで、前回より大きい魔石が必要だったということがわかった。
「それでも俺は、これを外で試してきたい。ちょっと出かけてきてもいいか?」
バートは今すぐにでも外に出たいという勢いだ。
「宿の者は嫌がるだろう。外の宿泊所のあるところまで待てないか」
「うーん。あ」
広がっていた結界は、しゅんと消えてしまった。
「けっかいのおおきさか、じかんか、ひにちか。このみっつのうちのどれかだとおもう」
私は原因を指摘した。
「では時間と日にちは、あとで相談しましょう」
兄さまが私に目配せした。秘密を話しすぎるなということだ。
「わたしはつぎのじっけんをするまえに、けっかいの大きさをちゃんとりかいしたい」
ニコはとても悔しそうだ。
「リアもわたしも、なんとなくやっていて、ちゃんと大きさをきめていなかった。まずそこからだ」
「だろ? ニコ殿下はさすがにわかってる」
バートが得意そうに自分に親指を向けた。
「だからさ、俺と一緒にラグ竜に乗ってほしかったんだよ」
「たしかに、らぐりゅうのしっぽまで入る大きさは、じっさいにのってみないとわからぬ」
ニコがぎゅっと両手を握りしめている。よほど悔しかったのだろうと思う。
「よし! じゃあニコ殿下! 今から俺と出発だ!」
バートが嬉しそうにニコを連れて行こうとする。
「いけませんよ」
当然兄さまに止められている。
「その実験なら昼のほうがいいはずです。しっぽまで目で確認できるなら、そのほうがいいでしょう? ニコ殿下も、まだ一度目の実験です。焦りは禁物ですよ」
「わかってはいる。だが……」
なかなか素直に言うことを聞かない珍しいニコを見て、私は急いで近寄り、額に手を当てた。
「ニコ、まりょくがおおい、ナタリー!」
王子様でいっぱいの部屋で、部屋の隅に張り付くように立っていたナタリーはすぐにやってきて、ポケットから空の魔石を出してくれた。空の魔石をいつでも出せるナタリー、さすが優秀なメイドである。
「ニコ、このませきにまりょくをながして」
「ああ」
ニコをベッドに座らせて、魔石を握っている手と反対の手をしっかりと握った。
「リア、私の時はそんなことはしてくれなかったのに」
「カルロスでんかはおとなでしょ」
あきれた私は、そんなことをいうカルロス王子がおかしくてフフッと笑ってしまった。
「ニコ、これはたのしいことよ」
笑った顔のまま、ニコに静かに話しかける。
「べんきょうでもないし、おしごとでもないの。しっぱいなんてないの」
「だがな」
「カルロスでんかをみて。あそんでばかりでしょ」
「心外だな」
反論するカルロス王子に私はまたフフッと笑った。
「まりょくがあまるはずないのだがな」
三歳の頃だったらあったかもしれない。だが、その後はいつもきちんとコントロールしてきたのだろう。ニコの魔力が多すぎて困ったことは一度もなかったように思う。
「まりょく、りょうだけのもんだいじゃない。こころがゆれたら、まりょくもゆれる」
「心が、ゆれる?」
「たぶん、あせりすぎたから」
本来は魔道具師が時間をかけてやることだ。いくら優秀な私たちでも、勘だけでやれることではない。
「あと、たぶん、マールライトにそそぐまりょく、そんなにおおくない」
魔力の量ではなく、質の問題なのだ。
「まりょくがたまっていくばかりだったということか。ふう」
魔石の色はあっという間に濃くなり、それと共にニコの目が穏やかになった。
「しばらくお休みしましょうか?」
兄さまが心配そうに尋ねてくれる。
「いや、だいじょうぶだ。あすからは一じかんでやってみようと思う」
「リアもいちじかん。あきたらやめる」
一時間集中力が持つかどうかは自信がない。
「そのくらいでいいですよ」
「けど、俺と一緒に竜に乗ろうぜ」
優しい兄さまと違って、バートがぐいぐい来る。
「リアも!」
「わたしものる!」
サイラスという危険を避けて西部に回ったはずの私たちだが、自分たちが想像したよりずっと楽しい毎日を送っていたのだった。




