西部へ
投稿遅れました!
今回短めです。
次の日、お父様は何度も振り返りながら、護衛隊に急かされて帰っていった。
それでも以前よりは王都を長く離れられるようになったのだという。私がさらわれた時に国境際まで来た時は、そこからとんぼ返りさせられたというのだから、こんなに慌ただしくても、前回よりも数日は余裕があったということになる。
そのためにお父様は魔力を増やし、効率よく結界の魔石に注げる力を身につけてきたのだ。
「早く私も成人して、お父様の助けになりたいものです。そしたら、お互いに今の倍以上、長い旅ができるでしょうから」
交代で魔石に魔力を入れたらよいのだと兄さまは笑った。
「モールゼイのところがそうしていますよね。あそこは旅には出ませんけどね。やはり一人で魔石の責任を持つのは重すぎますよ」
そんな私たちと一緒にキングダム一行を見送ったヒューが、兄のギルバート王子にもう一度確認している。
「本当に私が残らなくていいのですか」
「お前が行かなくて、誰が子どもたちを守るのだ」
「それはそうなのですが」
子どもたちだけでなく、カルロス王子他二人、ファーランド一行のことも気にかけてあげてと思う私である。
「ヒュー、お前さあ、兄さんがそんなに頼りないか?」
のんきな声でヒューに話しかけているのはミルである。あまりに気さくな態度にギルバート王子も苦笑いだ。
「何を言う。兄上が頼りないわけがないではないか」
「じゃあお任せしちゃえよ。ギル殿下よりさあ、俺たちのほうがよっぽどヒューの力が必要なんだって」
ギル殿下と言われてついに噴き出した当人である。さすがに第一王子を略称で呼ぶ部下などいないのだろう。
「お前、兄上に向かってその態度は!」
「まあまあ、ヒューよ」
そのギル殿下にヒューがなだめられている。
「だが、その通りだ。本当は人手はいくらあってもいい。それが信頼できる弟のお前ならなおさらだ。だが、お前に託された役割は、私より重いかもしれぬ。どれだけの他国の要人を預かっていると思うのか」
ヒューはそう言われて初めてハッとした顔で私たちの方を見た。
ずっと仲良く一緒に旅をしてきたせいで、私たちがキングダムの王族であり四侯であること、そしてカルロス一行がファーランドの王子であることなど、頭のどこか片隅に行ってしまっていたのだろう。
「言い訳かもしれませんが、この一行で要人と言われてすぐ納得できるのはルーク殿だけです」
プイと顔をそむけたヒューの子どもっぽい姿は本当に珍しい。しかし、私とニコだけならともかく、要人の範疇から飛び出てしまったギルは、さすがに心外そうな顔をしている。
カルロス殿下については、本人はまったく気にしていないし、お付きのリコシェとジャスパーはあきらめ顔である。
「お前も含めてすべての人が要人だ。王族が多いから目立たないかもしれないが、リコシェ殿もジャスパー殿も伯爵家の子息だぞ」
伯爵家と言えば、領地を預かっている存在なので、確かに身分は高いなあと私はリコシェとジャスパーを眺めた。
「すべての方が自分より身分が上ですから、我らが要人などとおこがましいですね。カルロスも、ヒューバート殿下も、この状況で自分たちが重要な役割から外されているようで悔しい気持ちはわかります。ですが」
リコシェが話を引き取ってくれた。
「我ら全員で、キングダムの後継者を守ると思えばいいのではないですか。ニコラス殿下にはそれだけの価値があるでしょう」
「私だってファーランドの後継者だが」
「そうですね」
リコシェは何も言わなかったが、うちの殿下は要人のうちに入れられない後継者ですがと言外に続いたような気がした。
「わかりました。いつまでもグズグズ言って申し訳ありませんでした」
ヒューが昨日の兄さまと同じようなことを言っている。真面目すぎるから、自分だけが楽しんでいるみたいで落ち着かないのだろう。
「お前がウェスターと私のことを大事に思っていることは十分にわかっている。ケアリーが断罪された噂は早晩西部にも伝わり多少なりとも動揺が走るだろう。西部の様子もよく見てきておくれ」
「わかりました。必ずや」
ギルバート王子から追加の仕事をもらってヒューもやっと落ち着いたようだ。
「それでは気ぜわしいですが、私たちは明日、出発します」
ということで、思いがけなくも長い滞在になったケアリーを、ようやっと出発することができたのだった。




