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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
辺境編

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北の領地へ(お父様視点)

ネヴィル伯爵に連絡を取ると、訪ねることには大喜びで頷いてくれた。クレアを育てた家だ。人が好きで、素朴。そんな土地柄である。しかし、私がルークにさせようとしていることには、賛成しかねているようだ。


また、私がネヴィル伯爵の領地に滞在するのにも、監理局からの許可がなかなか下りなかった。この監理局というのは王都の結界の管理を一手に引き受けている。つまり、結界に必要なだけの魔力が魔石に残っているか常に監視し、補充の管理をしているということになる。


「オールバンス侯、前回の遠出はこちらに断りもなく、しかも10日の期限のギリギリまで戻られなかったことは記憶に新しい。その侯が、三月と空けずまた10日間王都からいなくなるという。さすがにそれは」


これが監理局の見解だ。


「娘をさらわれても10日の期限に間に合うように戻ってきた私にその言か」

「その件はお気の毒としか言いようがない。私どもの申しておるのは、四侯として民を守る気持ちを大切にしてほしいということであり」

「だから10日に間に合うように戻ってくると、計画書を提出しているが」

「しかもリスバーン家の跡取りまでついていくとなっては、もし二侯の跡取りに何かがあっては」

「そうだな。跡取りの予備がいればこれほど頭を悩ませずにすんだのにな。監理局が聞いてあきれる」


この皮肉はさすがに通じたようで、黙り込んだ。頭の固い年寄りどもめ。


「許可が下りるかどうかは形式に過ぎない。四侯としての協約に一切違反していない以上、これ以上引き止められる理由がない。このように過度に管理されているようでは、うっかりと10日を過ぎてしまいたいと思うものも出かねぬなあ」

「まさか!」

「いいか」


しょせん四侯が欠けて困るのは監理局なのだ。


「10日で戻る。その計画書を出している。訳の分からぬ理由で引き止めているのはおぬしらだ。さあ、どうする」


こうして監理局は折れた。


夏休み初日、ルークより三歳上の、リスバーン家のギルも同行することになり、いよいよ北部のネヴィル家に向かって出発だ。


「オールバンスに迎合していると見られるのは得策ではあるまい。我らはこのところすっかり王都の問題児扱いだ」


こういう私に、スタンは、


「なに、ギルには得難い体験だろうよ。というか、辺境に行くなどと考えもしなかった若いころの自分が悔やまれてならない。確かに18までならとがめられることもなかっただろうに。今回のリアのことがあるまで、会ったことがないとはいえ自分の弟のことですら他人事に思っていた自分が情けないよ」


とぼやいた。


「それにリアのことはギルもかわいがっていたから、何かしたいんだろうよ」

「危険は伴うと思う。すまない」

「いいんだ」


ネヴィル家到着まで三日、そこから国境まで二日。私は一日滞在し、そこからラグ竜で三日で帰る。強行軍だ。


「では、行ってくる」

「幸運を祈る」


スタンと侯爵家の使用人に見送られ、私たちは北へと向かう。


「前方に二組、後方に三組! 散開」


もちろん、護衛隊も付いてきた。体のいい監理局の監視だ。


「レミントン、災難だったな」

「グレイセスとお呼びください。これが任務ですから」


竜車では遅すぎるので、帰りはともかく、行きはラグ竜だ。ギルは竜に、ルークはかごに乗る。疲れ切りはしたが、ネヴィル伯爵家までは予定通り三日でついた。


「ディーン! 久しぶりだな。ルークは結婚式の時以来だが、覚えているだろうか」

「覚えていますとも。優しい茶色の髪と茶色の瞳。『仲良くしてね』と微笑んだお母様と同じ」

「クレアは子どもをあきらめていたから、小さい男の子が自分の子になると知って大喜びだった」

「本当に、お母様には大事にしていただきました」


伯爵は挨拶をしてルークをぎゅっと抱きしめるとそんな話をした。血はつながっていないルークの祖父だ。


「クレアばかりかリーリアも守れず、それなのに厚かましいお願い申し訳ありません」

「よいとは言えぬが。私もせめて一目リーリアに会いに行けばよかったものを。クレアをなくした傷がやっと癒えたかと思えば、運命も酷なことをする」


私はただ頭を下げる。


「直接の知り合いではないが、お抱えの商人を通して優秀なハンターを雇っている。四侯の跡継ぎ二人、守り抜いて虚族と戦うさまを見せよとは、ディーン、相当難しい注文だったぞ」

「申し訳ありません。成人したらキングダムの外へは出られぬ身。一度何から民を守っているのか肌で感じさせてやりたかったのです」

「それにしても、危険だ。しかし本当にあれをハンター風情にやるつもりなのか」

「その報酬がなければ、どんなハンターも食いつかなかった、そうでしょう」

「それは確かに」


あれ、つまり結界箱をキングダムから持ち出すことは公的には禁じられていない。そこまでしてしまったら、自分たちだけ結界の中で守られていればいいのかという話になるからだ。


しかし、その値段はかなり高い。いくら稼いでいても一介のハンターが買うには値段が高すぎる、らしい。それは結界箱そのものを作っている職人が限られているせいもあるし、結界箱に使う魔石自体が大きいために手に入れにくいということもあるらしい。結界箱に使うほどの魔石に魔力を充填できるほどの魔力もちは市井にはほとんどいないだろう。


しかし、私の魔石の事業はもともと魔道具師をたくさん抱えている。作っても売れない高価なものを作らせること自体は容易なのだ。今回はそれを餌にした。


「子どもたちは後で滞在をお願いします。今日一泊したらすぐに国境に向かいたいのです」

「手筈は整えているよ。にしても警護隊がついてくるとは」

「ていのいい監視です。どうやら私は問題児らしい」


ネヴィル伯爵は自嘲する私の肩に手を置いた。


「いいか、ディーン。お前はずっと何の問題も起こしてこず、たんたんと結界の役割を果たし続けた。悪いのは、リアをさらった奴ら、そしてそれに何もしなかった奴らだ。今回のこれもリーリアをあきらめていないから、私の孫のために、そうだな」

「……はい」


目頭が熱くなり、頭を下げる。みっともなく涙を流すまいと誓ったではないか。クレアの、私に人間らしさを教えてくれたクレアの、これこそが父親なのだ。


「さ、今日はルークや他の客と共にゆっくり休め。もちろん、警護隊も手厚くもてなそう」

「お願いします」


明日からはまた、強行軍だ。

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