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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
辺境編

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道中

「にーに、か」

「どうした、アリスター」

「こいつ、さ」


アリスターはこてんと寝てしまったリアの頭の位置を直すと、


「おとうしゃま、にーに、ってたまに言うけど、お母さんって言ったことないのな」

「そう言えばそうだな。おとうしゃん、にーに、ハンナ、か」

「ハンナは死んじまった子だろ、メイド服着てた」

「ああ、あれはいたましかったなあ」


辺境では油断すると虚族に命を取られる。子どもや若い女は夜には外には決して出ないように言いつけられている。それは、結界があって夜も守られているトレントフォースでも同じだ。もっとも、夜の仕事の人は別だが。


なぜトレントフォースでも夜外に出ないかと言うと、町が結界ギリギリにあるからだ。あまり知られてはいないことだが、結界は時々弱くなったり、位置がずれたりする。キングダムの中央にいれば気づかないことだろう。


だからトレントフォースの人も、結界を過信はしない。女子供の夜の外出はもってのほかなのだが。リアもハンナと言う子も、それを全く知らなかったか、知っていても自分ではどうしようもない状況に置かれていたということなのだろう。


「リア、幸せって言ってた」

「ああ。見ててわかるよな。あんな目にあったはずなのに、大人を信じて、自分の言う通りにしてもらえるのが当たり前のように行動してる」

「俺たちに魔力の訓練までさせてさ」

「変な子どもだぜ」

「でも、母さん、たぶんいないんだな……」


アリスターは風にもつれたリアの髪をそっとなでた。




せっかく知らない土地に来たのだから、正直なところ草原ばかりではなく町にも寄ってみたいところだった。しかし実はバートたちは若いながらも結構有名なハンターで、町に行けばハンター仲間が必ずいるらしく、


「あいつら子連れだったぜ」

「紫の目だった」


などとすぐ噂になる可能性があるらしい。


「トレントフォースでまで隠すつもりはないけど、途中でトラブルに巻き込まれるのも嫌だろ。だからお前は草で遊んでろ」


ということでいつも草原にお留守番なのだった。たいていキャロとクライド、ミルとバートとアリスターの組み合わせで出かけるのだが、アリスターが買い物に行くと、小さいお菓子や変わった食べ物を買ってきてくれるので、とても楽しみなのだった。


「なあ、なんでウェリ栗なんて買ってくるんだよ。なんでリアが好きだってわかった」

「これ、キングダムにはあまり売ってないんだ」


アリスターが文句を言うキャロに答えている。アリスターが買ってきたウェリ栗を、私がとても喜んだので悔しがっているのだ。キャロもクライドも、何かおいしいものをと思ってくれているらしいのだが、幼児の喜びそうなものは甘いものしか思いつかないし、甘いものはあまり買いすぎるなとアリスターに言われているので、どうしてもチーズとか干し肉とかありきたりのモノしか買ってこれない。


もちろん、パンと水だけに比べたらそれだって充分に嬉しいのだが、


「もっとこう、リアが『しゅごい』とか『わあ!』とかいうものを買いたいんだよー」


と頭をかきむしっている。一方アリスターは母一人子一人で、小さいころから買い物や家事には慣れているのだという。また、自分がキングダムから辺境に来て、面白いとかおいしいとか思ったものもちゃんと覚えていて、それを買ってきてくれる。甘さ控えめの甘栗のようなウェリ栗もその一つだ。


「だってさ、ウェリントン山脈なんて、半分はキングダムにあるんだぜ。なんでウェリ栗がキングダムにないんだよ」

「ああ、海風にあたる側でないと育たないって店の人言ってたよ」

「まじか!」


キャロが悔しそうだ。


「りあ、ちーじゅ、しゅき」

「ああ、リアに気を遣わせちまった。うん。また買ってくるからなあ」

「あい」


でもチーズや干し肉は塩分が多いからほどほどになのだ。


そうして町で小さい魔石は売り払い、代わりに割安な魔力の抜けた魔石を買ってくる。そうしてお昼ご飯を食べた後で、皆で魔力を充填する訓練をずっとやっている。どうやらとてもおもしろいらしい。しかも充填した魔石は売れるのだからさらにいい。もちろん私もやっている。




狩りでいつもやっている気配察知と同じだとわかると、みんなの上達は本当に早かった。何が上達したかと言うと、魔力をギリギリまで注いで止める見極めではないだろうか。こないだのミルのように、一人か二人は必ず魔力を残して見張りに立つ。残りは私も含めて魔力を使って昼寝をする。


もしかしたら兄さまも、自分の体に魔力を回すのではなく、外に魔力を出す訓練をしたらよかったのではないかと私は屋敷での訓練を思い出す。


それでも夜になって、皆が虚族に向かっていくのを見ると、それは無理なのだとわかる。目的もなく、自分の魔力を外に開放できたりなどするわけがない。ヴン、と、虚族の現れる瞬間は何かが体に響いてとても気持ち悪い。それでも気持ち悪くて、しかも命にかかわるから早く察知して警戒しなければならないという緊張感があって初めて、その力を高めていく。


それが辺境のハンターなのだ。


どこまで魔力を注いだら寿命が縮まるのか、本当のところはわからない。しかし、無茶をしがちな若者たちは本当にギリギリまで魔力を使うことを覚え、それを止めるためにさらに微妙な魔力の見極め方を私も覚える羽目になった。何度魔力を充填しているバートたちの手から魔石を叩き落し、


「にゃい!」


と注意したことだろう。結果的にギリギリまで魔力を使い回復することで魔力の量が増えることが分かったのは、思わぬ副産物だった。もっとも、それが目で見てわかるのはどうやら私だけらしい。


本人たちは、


「何となく魔力が増えたような気がする」

「そんなわけあるか。リアの言うとおり、効率よく、細く使えるようになったんだろ」

「それもそうか」

「ははは」


で終わっていたので、あえて言う必要はないと思った。


トレントフォースまでの三週間のはずの道のりは、結局ひと月かかった。なりかけの春はすっかり本物の春へと移り変わり、そして少しだけ日に焼けた私は、やっと人のいる町に入れることになったのだった。

明日は「聖女二人の異世界ぶらり旅」の更新をしする予定です。「転生幼女」は1日おやすみ、次は5日の木曜日更新予定です!

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