出発!
すみません、昨日ぼんやりして投稿忘れていました。
一日遅れです!
「気をつけてゆくのだぞ」
一見冷静そうに見えて、心配を押し隠しているお父様の姿はこれで二回目となる気がする。前回は北の領地に行った時ではなかったか。
「リアのことは私が守ります」
「ルーク!」
ひしと兄さまを抱きしめるお父様の姿も前回と同じだ。だが今回は私も三歳である。兄さまの隣にきりっと立ってお父様に力強く保証した。
「にいさまのことはリアにまかせて」
「リア」
兄さまから手を放して私を抱き上げたお父様の口元が笑い出しそうなのはおかしくはないか。そこは感動で私をひしと抱きしめるところだと思うのだが。
「三人そろうと本当に美しいな、オールバンスの一家は」
久しぶりに聞いた声はカルロス王子のものだった。
「幼い方たちは、ファーランドの私どもも配慮するゆえ、ご心配なく」
兄さまは夜の交流でだいぶカルロス殿下に気に入られたようで、カルロス王子はお父様にそう言ってくれた。普通ならありがたいと思うのかもしれない。
だがお父様はフッと口元に皮肉な笑みを浮かべた。普段表情を変えないお父様がそれをするとちょっと怖いくらい迫力がある。
「カルロス殿下。お言葉非常にありがたく思います。ですがお心づかいは過分かと。私からは、ファーランドの皆様が非常時にルークとリアの足を引っ張らないでいてくれるだけで十分です」
「おお。オールバンス侯はご子息への信頼があついとみえる」
個人的な会話なので集まった民には聞こえなかったと思うし、カルロス殿下も顔は引きつりつつもうまく対応できたのはさすがである。にしてもお父様は本当にまったくもう。私たちが何のために友好的に振舞っていると思っているのか。
「おとうさま、め、よ」
ここは身内がたしなめておかなければ。兄さまは苦笑してるだけじゃダメでしょ。
「おお、リア、私としたことがすまない。つい口が滑って本音が出てしまった。カルロス殿下、子どもを大事に思うあまり失礼なことを申しました」
「なあに、このような愛らしいお子では心配なのは無理もない」
カルロス殿下は割と心臓が強いと思う。
「さあ、そろそろしゅっぱつのじかんだぞ」
どうしようかと思ったが、ニコの声で救われた。それぞれ竜車に乗り込む。とりあえず見送りの民のために、ニコとカルロス殿下はじめファーランド一行、それから私たち四侯一行に分かれて竜車に乗り、集まった民たちに手を振りながら走り出した。とはいえ、持ち運ぶ物も従者や警護の者も多いので、竜車は何台も連なっている。オッズ先生の他にユベールもいたような気がしたが、ユベールが付いてくるとは知らなかったので少し驚いた。四侯も王族もだが、魔道具師もキングダムの外に出てはいけないのではなかっただろうか。だがその疑問も旅立ちの楽しい気持ちの前ではどこかに行ってしまった。なにしろ、
「いちねんぶりのりょこう」
なのだから。
「そうだな。北の領地に行ったのは、もう少し寒い季節だったが」
ギルも窓の外を見て、何かを思い出しているような顔をしている。北の領地でも、北の領地に行くまでもいろいろあったが、その後もいろいろあった。私は言葉に願いを込めた。
「こんどはだいじょうぶ、きっと」
「一度通った道だしな」
「そうですね。前回はもっと深刻でした。ファーランドの王子のお守りくらい、何とかこなさないと」
兄さまはぐっと気合をいれた。
「ルークはなんだか気に入られちゃったもんなあ。ファーランドってあまり問題のない国だって言うの、本当かもしれないな。カルロス殿下にもお供のものにも何にも危機感がないもんな」
「そんなかんじなの?」
「ああ」
新情報である。最近知ったのだが、ファーランドの現王には第一王子の他に第二王子、それからテッサ王女の上に一人王女の四人のこどもがいるという。それだけ兄弟がいてもあんなにのんびりしていられるのは、問題がないからだというギルの判断のようだ。
「うーん、リコシェがなあ。完全に殿下のお守りって感じでさ。同級生らしいから気楽なんだろうけど、国に問題があったらそんなのほほんとしてはいられないだろ」
「確かにもう少し敬意をもって接してもいいと思うんですよね。学友とはいえ、リコシェは伯爵家にすぎません」
学生時代に第一王子に振り回されてさんざんな目に遭ったということは考えられるかもしれない。それに伯爵家にすぎないという兄さまの言葉は傲慢なようだけれど、身分差のある国では当たり前の考え方なのだ。
しかしそんな新情報を得ても私にできることは何もない。せめて応援しよう。
「にいさま。がんばって!」
「リアとニコ殿下にお願いするわけにもいかないですしね。なんとか乗り切りましょう」
兄さまたちは大変だが、私はわくわくしている。旅は始まったのだ。
午前に出発し、そこから二時間ほど休みを入れず竜車を走らせる。余裕のある日程を組んではいるのだが、日にちが長引けば費用も掛かるわけで、
「リアがつらくない程度で、ギリギリの日程とは」
とお父様が悩んでいたのを知っている。
「いや、リアならあまり休まなくても行けるか?」
そのうちとんでもないことを言い出したので、三歳と四歳の幼児がいかに繊細か言って聞かせたものだ。確かに体力はあるほうだが、休まなかったら遊べないではないか。
つまり、二時間竜車に乗りっぱなしは正直つらい。だが、多少は耐えねば遊ぶ時間が取れないということを知っている私はちゃんと我慢したえらい子なのである。
「さあ、お昼ですよ。リア、手を」
「はい」
もう小さい頃のように竜車を飛び出したりはしない。兄さまが先に降りて、差し出してくれた手にそっと手をおく。だが、手を置いたからと言って竜車の階段を降りられるわけではない。
「そーれ」
結局兄さまが抱っこしてくれるのでキャッキャと草原に降り立った。
「リア! 行くぞ!」
「うん!」
待ちかまえていたニコと二人で行き当たりばったりに草原に駆けだすと、すぐに手ごろな太い枯れ草を見つけて手にした。昼食で降りたはずだろうって? 王族が食事をするにはテーブルを出したりとか事前の準備が必要なのだ。その間、ぼーっとしていても仕方がない。時間は有効活用せねばなるまい。
「やあ!」
「えい!」
そして枝を振り回して周りの枯れた草を倒していく。
「私が付いていきます」
ジャスパーがすかさず付いてきてくれているが、実は心配はいらない。ハンスが見ているからというのもあるが、ここは草原だ。
「キーエ」
「キーエ」
あまり遠くに行こうとすると、竜車から外されて休んでいるラグ竜が、あまり遠くに行ってはいけないわと止めに来てくれるのだ。
「だいじょうぶよ」
心配して鼻を押し付けるラグ竜の顔をぎゅっと抱え込むと、どうかしらねとふんと鼻息を吐く。隣でニコもラグ竜の顔を抱え込んで笑っている。
「ハハハ、くすぐったいぞ」
「にこ、いいえがお」
「キーエ」
ラグ竜があきらめずに優しく私たちを押し返すので、仕方なく皆の元へ帰るのだった。




