みんな忙しい
前回200話でした!全く気づいていなかったので、ご指摘嬉しかったです(^^)これからもリアをよろしくお願いします!
ギルのお父様が視察から戻ってきて一週間ほどで、今度はお父様が視察に出かけることになった。ケアリーまで大急ぎで向かい、たった一日の滞在で帰ってくるという。
「魔力量が増えたから、本当は10日どころか、もう少し大丈夫だとは思うのだが、キングダムの結界を材料に実験するわけにもいかないのでなあ」
そう嘆くお父様だが、私も実験してみたらいいと思う。私は指を一つずつ反対の指で押さえて、できることを数えてみた。
「ひとーちゅ。おひるにしゅる。きょぞく、でない」
「リア、お前……」
「ふたーちゅ。ほかのよんこうがしゅる。おとうしゃまのかわりに」
「……」
「みっちゅ。あしゃ、けっかいとめりゅ。ゆうがた、またちゅける」
このやり方なら手を握って数えなくてもいいから数えやすいのだ。二つが三つになることもない。私はうまく数えられたことに満足し、手から目を上げて胸を張った。
おや、皆が口を開けて私を見ている。ハンスまでどうした。
「なぜ、そんなことを思いつくのだ」
お父様が思わずと言ったように口に出した。なぜと言われても、むしろなぜ思いつかないのか。結界が切れそうな瞬間に急いで魔力を補充してもいいのだし。そもそも結界箱などは、最初からつけたり切ったりできるものなのだ。
「けっかい、なりたち、かんがえりゅ」
「成り立ち……。虚族を入れないようにするため、だな」
「あい。きょぞく、よるでりゅ。ひるは?」
「昼は、あらわれない、な」
お父様は呆然としている。
「結界を入れたり切ったりすると、それだけ事故が増えます。万が一にも何かの原因で結界のスイッチを入れ忘れたりしたら、と考えると、ずーっとつけているのが安全だと言えます。安全だけは効率でははかれないものですからね」
「ルーク様もすげえな」
ハンスは兄さまの前にまず私のことをほめるべきでしょ。
「でも、それは後付けの理由です。おそらく大きい結界箱は一番最初に、つけたり切ったりと言う仕組みが作られなかったためにそのまま来た可能性がありますね。一度結界箱の歴史を調べてみましょうか」
兄さまが顎に手をあてて考えこんだ。
確かに、小さい結界箱は入れたり切ったりできる。では大きいものは? 私はトレントフォースの町の結界箱のことを思い出した。それに、ウェスターの領都ではどうだったか。トレントフォースでは非常時にだけつけるものであったし、領都では、お休みの日だけ結界を張るという私の提案を受け入れそうな気配があった。
つまり、入れたり切ったりすることが前提の結界箱なのだ。
「うぇしゅたー、まちのけっかいばこ、いれたりきったりしゅる」
「そういえばそうですね。では、キングダムの大きな結界箱だけが特別なのでしょうか……」
皆でうーんと考え込んでしまった。
「キングダムの結界箱を管理するのは王家だから、王家の魔道具職人に話を聞いてみるか。まあ、『極秘事項』だろうなあ」
「キングダムの民の安全が一番ですが、今までといろいろ変われば、私たちももう少し自由になるのですけどね」
「あい」
私はお父様と兄さまに神妙に頷いて見せた。途端に二人が噴き出した。
「ぷっ」
「ははは。リアはかわいいなあ」
深刻な話をしていたのではなかったのか、まったく。
「とりあえずは行ってくるよ。土産話を楽しみにしているといい」
「あい!」
「行ってらっしゃい、お父様」
そうしてお父様は出かけてしまった。
「というわけで、いま、おうとにいるよんこうは、リスバーン、モールゼイだけだ」
お父様が出かけた後、ニコがそんなことを言った。
「レミントンもいるわよ」
「アンジェどのはいるが、フェリシアはいないではないか」
「でも姉さまがよんこうのしごとをしているわけではないもの」
「そうともいえる」
そうとも言えるというか、これはクリスが正しい。そしてクリスはちょっと不機嫌である。
「姉さまがお父様について行くなら、わたしも行きたかったわ」
クリスのお父様は、アンジェおばさまの代わりにイースター方面の外交を担っている。夫婦で四侯の仕事を分担している珍しい例だ。
ついこの間、珍しくアンジェおばさまが視察に行ったかと思ったら、今度はフェリシアである。私は護衛のほうをちらりと見た。若い護衛隊員と目が合った。グレイセスが来ていない。
「隊長はフェリシア様についております」
「余計なことを言うな!」
私の聞きたいことを答えてくれた若い隊員は、年上の隊員に叱られていた。
「リーリア様も、護衛に話しかけられては困ります」
「はなちかけてないもん」
「護衛に何か聞きたそうにするのも困ります。リーリア様のお相手をしている間に何かあったら対処できません」
「あい」
何かあってもどうせ対処できないではないかと言う嫌味は二歳児にはふさわしくないので、おとなしく頷いておく。
「わたしもまた、しさつにいきたいものだ」
「ニコもリアもずるいわ。わたしだって行きたいもの」
「そうでしゅねえ」
私だって兄さまが出かけたら一緒に行きたいから、気持ちはよくわかる。
「姉さまだってはじめておうとの外に出るのだからって。クリスのとしのころには、やしきからだって出なかったわって言われたけれど」
「でもいきたいでしゅ」
「いきたいものだよな」
「そうよね!」
周りがこの子どもたちは仕方がないという目で見ているような気がするが、だって行きたいものは行きたいのだ。
「おじうえもさいきん、またどこかにいってしまって、しろにいないのだ。つれていってくれてもいいのに」
それは警備の関係で難しいだろうとは思う。だけどそんなことは言わなくてもいいのだ。
「そういえば、あるでんか、みないでしゅ」
「ほんとうにいないのだ」
「姉さまもいないの」
何ともやる気の出ない状況である。
こんな時は遊ぶに限る。なんとかオッズ先生を説得できないものか。
「てんきもいいし、にわのいきものかんさつでもいいな」
「でしゅよね」
「そうよね」
三人寄ればなんとやら。オッズ先生を説得するため、策略を練る春の一日であった。
「聖女二人の異世界ぶらり旅」コミックス3巻、4月1日、発売しました。
3巻は、
1、魔物に湖に落とされ、人魚に救われる
2、二人さらわれる(また)
3、ついに目的地のダンジョンへ。そして……
と盛りだくさんな内容です。ぜひお手元に!




