そうして気に入られました
かくれんぼも何回もやると、さすがに飽きてきたようだ。そうなると、
「よし、鬼ごっこだ!」
となるわけである。それはそうだろう。しかし問題がある。
鬼ごっこの勝率は足の速さと素早さに比例する。つまり、二歳児と三歳児には不利だということだ。ということでニコと作戦会議をする。
「にこ、あれいきましゅ」
「あれか」
ニコがうなって腕を組んだ。城でだって、クリスに対抗したり、クリスを味方に引き入れたら、今度はフェリシアや兄さまやギルに対抗したり、不利な条件で戦わなければいけないこともあるのだ。だからそのたびにニコと作戦を練っては実践しているのである。
「あれのもんだいはいちどしかできないということだ」
「しょもしょも、おにごっこでおおきいこにはかてましぇん」
「りあはとくにな」
まるで私の足が遅いような言い方には困ったものだ。
私はちらりとロークとジェフのほうを見た。何やら話している。ちなみに兄さまたちは、ほほえましそうに私たちのほうを見ながらなにやら頭を寄せて話し込んでいる。楽しそうなのでよい。
「まけてもたのしければいいとおもうが」
どれだけ人格者なのか、この三歳児は。しかし、現実は楽しければいいということはない。小さい子供の世界は厳しいのだ。最初にガツンといかないと。
「まけてばかりじゃたのちくないもん」
たとえ負けるとわかっていても、挑戦はすべきである。相手に一目置かせることが重要なのだ。
「いちどだけ。いちどだけかてば、こっちのものでしゅ」
「そういうものか」
「しょういうものでしゅ」
「では、やるか」
そのためには鬼ごっこにルールを設けなければならない。普通の鬼ごっこでは絶対負ける。
「ながいけいとをくだしゃい」
「毛糸、ですか?」
メイドの人に頼むと不思議そうな顔をしたが、用意してくれた。私とニコはそれをもらって、広い場所に毛糸を大きなヒョウタンの形に置いていく。みんな不思議そうに見ている。もっとも、ハンスとナタリー、それに兄さまとギルが苦笑している気配がする。特に兄さまたちは自分たちが一度やられたことを思い出しているのだろう。
「つまり、おにはこのせんのそと。ほかのものはひょうたんのなか。そとからなかのものにさわったらおにのかち。さわれなかったらおにのまけだ」
詳しい説明はニコがしてくれた。
「よーし、こんなせまい線の中なんて、すぐに捕まえられるだろ!」
そういって鬼になったのは活発なロークだ。
「じゃあ僕たち三人は中だな。よーい、はじめ!」
鬼ではない組のジェフの声を合図に、ローク君はヒョウタンの周りを走り回るが、私はヒョウタンの太いところを直線的に動くだけで手の届かないところに移動できる。結局は捕まるのだが、なかなか長く楽しめる遊びである。
一方、私が鬼になっても、ヒョウタンの細いところで待ち構えれば移動するときいずれは捕まえられる。幼児にも優しい鬼ごっこなのだ。
何回か鬼が入れ替わった時、ついにその時が来た。さすがのロークも走り回らず、ヒョウタンの細いところで待ち構えればいいとわかったのである。
「にこ」
「いくか」
「あい!」
作戦発動だ。私とニコは、じりじりとヒョウタンの細いところに移動を始めた。
「早く来いよー」
勝ちを確信してにやにやするローク。そこにニコがぎりぎりまで近づいて、さっと横にずれる。手を伸ばして少しバランスを崩すローク。
私はすかさず四つん這いになると、細いところをかさかさと這って通り過ぎた。
「む、虫」
失礼な。何度も見ているのにこの体たらく。護衛としてどうなのか。正直なところ、未だに走るより這うほうが早いというだけのことである。だてにハイハイを鍛えたのではない。
「あ、ずるいぞ!」
「はっちゃだめとかないでしゅ」
「あ!」
私に気を取られているすきに、ニコも細いところをさっと移動した。これでは待ち構えていても捕まえられない。
私とニコは腕を組んで、ヒョウタンの太いところでにやりとした。しかし油断して反対側からロークに捕まえられたのだった。残念。
「お前ら、やるな」
しかし、これでロークに気に入られ、ロークに一泡吹かせたということでジェフにも気に入られ、屋敷にいる間中、面白い遊びを考えさせられる羽目になったというわけである。
「さいちょからおとなちくしていれば……」
後悔する私だったが、
「そもそもおとなしくないのだから、しかたがないのではないか」
「くっ」
そんなことはない。おとなしいはずだ。ただ、自分は少しばかり負けず嫌いかもしれないと気付く二歳の冬であった。
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