ラグ竜と共に
感想返すの遅れてますが、今週中にはなんとか返せると思いますので、のんびりお待ちください!
部屋に戻ると私は兄さまとギルとハンスとナタリーに囲まれた。
「リア」
「わかってましゅ」
兄さまは私の名前を気がかりそうに呼んだが、私もわかっているのだ。ニコはともかく、私が来たのはイースターの第三王子が王都に来るからだ。私のことを守ろうとする人がたくさんいたからだ。でも、ニコは少し違う。
「あるでんか、にこといっしょにいたいだけ」
「アル殿下が、ですか」
兄さまが首をひねっている。
「にこのため、ちがう」
「ニコ殿下のためではないと?」
「あい、ううん、にこのため、ありゅ。でも、まず、じぶんのため」
自分のためという言葉を皆少し考えているようだ。
「正直なところ、幼児が付いてこない方が旅は楽だと思いますよ、リア様。自分のためだけというなら、ニコ殿下は置いてくるような気がしますけどねえ」
ハンスが納得できないという顔をした。私は首を横に振った。
「あるでんか、にこ、だいしゅき」
「確かに何かとリアに対抗意識を持っているようですが、あ」
兄さまは何かに気が付いたというようにはっとした。
「リアのほうがニコと仲が良い気がして、悔しいということですか?」
「りあだけじゃないでしゅ。にいしゃま、ぎる。しぇんしぇいだから、なかよち」
「じゃあなんでニコとふれあわないのですか、ああ」
兄さまは想像がついたようだ。
「好きな気持ちを、どう表していいかわからないということなのですね」
「あい。わからなくても、べちゅにいい。でも、あぶないの、だめでしゅ」
それを聞いて、ギルが大人のように顎に手を当てて考えている。
「それとニコ殿下を連れて帰るということに何の関係がある?」
一緒に考えていたハンスがハッと気づいた。
「リア様、もしかして、寂しいから帰らないでくれと言わせる気ですか?」
「あい。にこがだいじなら、にこをだいじにちないと」
「そううまくいきますかねえ」
それはわからない。しかし、本当に王都に帰るなら、ニコの護衛と私達だけではもちろん不安だ。どちらが先に折れるか、勝負なのだ。
「わからないなら、これからも、にこ、あぶない」
「アル殿下にとっては試練ということですね」
「あい」
勝負は明日だ。寝るまでに頑張って明日の打ち合わせを終えた私達だった。
そして次の日の朝ご飯の後、コールター伯の屋敷の前では、私ご一行様が今にも帰ろうとしていた。既に兄さまたちも旅支度は終わり、あとはナタリーが竜車に乗り込むのを待っているところだ。ナタリーはと言うと、私がラグ竜に乗り込むのを待っているので、結局私が動かなければどうしようもない。
「結局竜車に乗せてもらわねば帰れぬのではないか」
アル殿下が馬鹿にしたように腕を組んでいるが、周りがハラハラしてそれを見ていることに気が付いていないの、ちょっと間抜けだからね。
私はただ腕を組んで、ふふんと言う顔でアル殿下を見ただけだった。それからくるりと竜のほうに振り返った。既にミニーには移動用のかごを取り付けている。
「りゅう!」
「キーエ!」
「キーエ!」
私の声にミニー以外のラグ竜が集まった。ニコは経験があるので、落ち着いたものだ。しかし大人たちはそうではなかった。
「なんだこれは!」
「は! 殿下が! リーリア様が!」
と大騒ぎだ。しかしラグ竜がたくさんいて私たちに近付けない。その大騒ぎを尻目に、私は一番近くにいた兄さまのラグ竜に手を伸ばした。
ラグ竜は大きな頭をぐっと下げてくれた。私はその鼻面にぺたりと張り付いた。
「ああ、リア様が!」
「なんと……」
ハンスや兄さまたちが助けに入ろうとする大人たちを止めてくれている間に、ラグ竜はそっと私を持ち上げるように頭を起こすと、ミニーのかごのところまで移動してくれた。
「よっと」
ラグ竜の頭から手を離すとかごにすとんと落ちる。ほら、これでかごに乗れた。私は腕を組んでどうだという顔をしたが、かごの中であまり他の人には見えなかったと思う。
「ちゅぎ、にこ、どうじょ」
「わかった。りゅう!」
ニコも大きな声で竜を呼ぶと、別のラグ竜が慎重に頭を寄せる。ニコがしがみつくと、そのまま私の反対側のかごに乗せてくれる。
「のれたぞ!」
「あい!」
その私とニコの声とともに、ナタリーが竜車に乗り込み、兄さまやギルも竜にまたがった。もう周りの大人たちは呆気に取られてそれを見ているしかない。もっとも、おじいさまが苦笑しながら頭を振っているのが見えた。大騒ぎしてごめんね、おじいさま。
そのうえで兄さまが、呆然としているアルバート殿下に声をかけた。
「それではアルバート殿下、妹のわがままのために申し訳ありませんが、一足先に王都に戻ります。安全を優先して最短で帰りますので、どうかご安心を」
「いや、その、待て」
しどろもどろのアルバート殿下に、ニコがかごの中から声をかけた。
「おじうえ、わたしがしっかりしていなかったばかりに、こんなことになりもうしわけない。ちゃんとみんなのいうことをきくので、あんしんしてほしい」
「ニコ、ニコ、待て」
ニコは最後に大きな声を出した。
「おじうえ、だいすきなおじうえとたくさんいっしょにいられて、わたしはとてもうれしかった」
この声はアル殿下の心にちゃんと届いただろうか。何も言えず拳を握っているアル殿下をちらりと見ると、私はラグ竜に声をかけた。
「しゅっぱちゅ!」
「キーエ!」
「キーエ!」
ラグ竜は楽しそうに声を上げると軽やかに動き出した。
「ゆっくりとでしゅ」
最後に付け足した小さな声に、ラグ竜は、
「キーエ」
と小さな声で答え、ゆっくりと進んでくれた。
「ぐすっ」
ミニーの反対側から声がする。
「にこ、なかないで」
「ないてなどいない。むねのところがいたくて、ちょっとめがあつくなっているだけだ」
「にこがなでてるとこ、たぶんおなかでしゅ」
見えないけれどそうだと思う。ランバート殿下と離れた時でも泣いたりしなかったのに、やはり寂しいのだろう。やがてニコが顔を起こした気配がした。
「リア、たのしかったなあ」
「あい」
「まだかえりたくなかった」
「あい。たぶん」
「たぶん?」
落ち込んだニコの声がする。
「たぶん、だいじょうぶ」
「キーエ」
ミニーがこちらに振り向いた。スピードを上げようかって?
「キーエ」
だって後ろからすごい勢いで何かが来るから。
「しょのままで」
勝負は負けてもいいのだ。
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