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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編

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滞在

 お披露目の次の日はお休みして、おじいさまと兄さまとたくさんラグ竜に乗った。兄さまもおじいさまが来たということで学院をお休みすることができた。


「キーエ」


 小さい竜はすっかり群れにもなじんで、他の竜と一緒に走ったり、もっと小さい竜の面倒を見たりしていた。


「りゅう!」

「キーエ」


 それでも私が声をかけると、とっとっと走ってきてくれた。


「キーエ」


 手を伸ばすと頭を近づけてくるので、大きな頭に手を回す。しかし、別の竜がやってきて、私の体をつつく。


「ははは、リアは竜に好かれているなあ」


 おじいさまは笑い飛ばすが、確かに私は竜に好かれているかもしれない。しかし、私をつついた竜は、意味ありげに私を見ている。私ははっと気づいて竜の笛を出した。


「キーエ」


 わかってるじゃない、と竜は言った。


「ぷーってしゅる?」

「キーエ」

「プー、プー」

「キーエ、キーエ」


 竜たちは嬉しそうに鳴くと、元気に走り回った。


「なぜその笛に反応するんだろうなあ」


 おじいさまはあごに手をやって不思議そうにしている。


「かぜのおとに、にてましゅ」

「風か。思い出すのかもなあ、広い草原を」

「キーエ」


 何を考えているのかは本当はわからないけれど、少なくとも楽しそうだから、いいのである。


 お父様に駆け足はいけないと言われていたが、駆け足でなく軽く走るならいいだろうとおじいさまが言うので、私と兄さまはけっこうなスピードで牧場を走り回ることができた。


「リア、今度大きなお休みの時に、おじいさまのところに遊びにいきませんか」

「いく!」


 兄さまの提案に大喜びの私に、おじいさまも嬉しそうだ。


「おお、来い来い」

「前回は移動と剣の訓練に必死で楽しむ間もありませんでしたが、ゆっくり滞在して竜で遠乗りもいいですね」


 兄さまがおじいさまのところに行ったのは聞いているが、そんなにハードな生活を送っていたとは知らなかった。


「でも、ありしゅたも」

「え?」

「ばーとにも、みりゅにもあいたい」


 まだ別れたばかりだが、きっと勉強で忙しいと思うのだが、会いたいと思うくらいはいいだろう。


「あいつらは放っておいてもきっと会いに来るでしょうよ」


 あいつらとは、兄さまらしくない言い方だ。


「会いに来るとしても、やっぱり大きいお休みでしょうから。お父様に相談して、まずはおじいさまのところ。それからウェスターと考えましょうか」

「あい!」


 旅の予定ができた。


「ところで、おじいさまはいつまでいられるのですか?」

「そう、実はな」


 兄さまの質問に、おじいさまは私を抱っこしてから牧場のほうに目をやった。


「ルークは聞いているだろうか。アルバート殿下に、ファーランドの貴族から婚約の打診が来ていることを」

「アルバート様ですね。はい、噂は知っています。ですが今まで他国から王家に嫁いだ人はいなかったので、おそらく決まらないだろうとも聞いています」


 アルバート殿下とは誰だろうか。私はおじいさまに抱かれ、牧場とラグ竜を眺めながら話を聞いていた。


「第二王子ですよ、リア。つまり、ニコのおじさまに当たります」

「おじしゃま」

「20歳くらいですから、そうですね、モールゼイのマーカスと同じくらいです」


 モールゼイというのは、四侯の冬の空のような色の人たちだ。たしか年上の人がハルおじさま。そして、


「まーく。はいいろのおにいしゃま」

「そうなんですが、そうなんですが」


 兄さま、どうした。


「兄さまと呼ぶのは私だけでいいのですよ。マークはおじさまで十分です。ええ、十分ですとも」

「ええ、ばーととおなじくりゃい」

「バートと? ではバートもおじさまです」


 そんな強引な。おじいさまが私を抱きながらわははと笑っていて、不安定なことこの上ない。


「リアにはおじいさまは一人だけだものなあ。いくらでも呼んでいいぞ」

「おじいしゃま」

「なんだい、リア」

「もう、そうじゃないですよ、おじいさま。おじいさまはいつまでいられるのかという話をしていたのに」

「ハハハ、そうだった」


 おじいさまは抱っこに飽きてきた私を下ろすと、ずれた話をもとに戻した。


「ファーランド側の強い押しで、結局、顔合わせだけしてみようという話になってな」

「ファーランドが……」


 兄さまは眉をひそめた。私は、冬の枯草に交じっている何かの綿毛を集めながらそれを聞いていた。


「ファーランドだけとつながりを持てば、ウェスターとイースターも黙ってはいないはず。あえて王族を外して普通の貴族にしてきたのでしょうが、王はどういうおつもりなのでしょう」


 兄さまは時々12歳とは思えないことを言う。


「案外、単なる見合いかもしれないぞ」

「見合い、ですか?」


 兄さまは聞き返した。


「ランバート殿下は、たまたまそれほど身分の高くない貴族から、好きな女性を見つけられたが、あちこち国内を見回っているアルバート殿下にそんな機会はないだろうし。国内の有力な貴族とはかえって結びつきを作りたくないだろうからな」

「それならばウェスターの貴族とも、イースターの貴族ともという話になってかえって面倒なことになるかもしれないのに」

「まあ、つまり、王族は四侯と同じくキングダムからは出られない。相手のお嬢さんをキングダムの王都まで招いてしまうと、既成事実となりかねない。というわけで、北のネヴィルの領地でお見合いということになるのさ」


 つまり、おじいさまは。


「おうじ、ちゅれていくの?」

「そういうことだな。面倒だが」


 余計な一言はオールバンスだけではないようだ。


「もちろん、リアに会うのが一番の目的だったぞ」

「あい!」


 ついでにできることはまとめてしたほうがいいので問題ない。


「こないだまで南のほうの視察に行っていたと思うのだが、そろそろ帰ってくるはずだから、そうしたらいっしょに北の領地に戻る。それまではまあ、ここにお世話になるのさ」


 それで、ニコと一緒にいてもアルバート殿下に会ったことがなかったのだなと思い至った。それならばおじいさまが長くいられるように、王子はゆっくり帰ってきたらいいのになと、その時は私は他人事のように考えていた。






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