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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編

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おじいさま

リア視点に戻ります

 どうやら私はお昼寝をしていたようで、気が付くと自分の部屋のベッドにいた。いつもならニコが待ち構えているのだが、今日はもう帰ったのだろう。オレンジを採るのは面白かったが、たくさんの人に会うのはやはり疲れた。


 オレンジと言えば、今度ラグ竜を連れてきて、ラグ竜の頭に乗って手を伸ばしたらどうだろう。そんなことをぼんやり考えていると、ナタリーが温かいタオルで顔を拭いてくれた。


「ありがと、なたりー」

「リア」

「にいしゃま!」


 兄さまがそばにいたらしい。声のする方にくるりと向くと、そこにはもう一人知らない人がいた。がっしりした体、少し白いものの走る茶色の髪、日焼けした顔にしわ、そして茶色の瞳。その人は思わずというようにぽつりとつぶやいた。


「クレア……」


 クレア。お母様のことだ。そう思う間もなく、私はその人に抱きしめられていた。人見知りする暇もない。もっとも私はほとんど人見知りはしないのだけれど。


 お日様の気配、古い革のにおい、そしてかすかにラグ竜のにおいもする。


「この目の形も、口元も、あちこちはねて言うことを聞かない髪も、いたずらな表情も、クレアの小さいころそのままではないか……」


 そうなのだ。お父様も兄さまも、きれいなまっすぐの髪をしているのに、私の髪だけ言うことを聞かないのだ。


「おじいしゃま?」


 思わず口に出したら、返事が雨のように降ってきた。


「そう、そうだよ! 私がおじいさまだよ! こんな賢い子は見たことないなあ。な、ルーク!」

「そうですよ! だから早く会わせたかったのに!」


 中年と少年がキャッキャしている。


「やれやれ、お義父様、私もずっといたのですよ。リアに会いたいからと言ってまったく気が付かないとは」


 後ろの方でお父様が苦笑している。


「おお、ディーン。よかったな。リアが帰ってきて、本当によかったな!」

「ええ。ええ、本当に!」


 わたしを挟んだままがっしりと抱き合っている。狭い狭い。


「こんなにクレアにそっくりなことに気が付かなかったとは、ディーンも案外間が抜けている」

「最初は色しか目に入らなかったのです。それにほっそりとか弱かったクレアに比べるとリアはぷっくりとむちむちとしていて」


 何だと! 赤ちゃんがぷっくりしていなかったら、それは不健康ということではないか。


「おとうしゃま……」


 人をぱっと見だけで判断するとは、まったく困った人だ。


「大切に思うようになってからは、クレアと似ているかどうかなど考えもしませんでしたな。そう言えばルークもダイアナに似ているか?」


 あらためて兄さまをじっと見ているお父様に、兄さまもあきれたようだ。


「今頃ですか、お父様。生まれてから12年もたっているのに」

「すまん」


 お父さまのポンコツ具合がよくわかるエピソードだろう。これがオールバンス家の外に広まらないでほしいものだ。


「話がずれてしまったが、リーリア、お誕生日おめでとう」

「ありがと」


 親戚には初めて会った気がする。


「辺境で頑張ったいい子には、プレゼントをもって来たぞ!」

「ぷれじぇんと?」


 私は首を傾げた。そう言えば、プレゼントはもらっていなかったような気がする。


「いただいたプレゼントはまとめてありますからね。後で見ましょう」

「あい!」

「おじいさまのプレゼントはなあ」


 そこで止めるとわくわくしてしまうではないか。


「なんと、ラグ竜だ!」

「わあ! え?」


 ラグ竜? 二歳の女の子に?


「リア専用のラグ竜だぞ!」

「わあ、ありがと」


 一応お礼は言ったが、ラグ竜なら牧場にいっぱいいるのだが。それにまだラグ竜に一人で乗ってはいけないと言われているから、微妙と言えば微妙なプレゼントだ。


「ラグ竜は寿命が長いからな。これから大人になってもずっと付き合えるぞ」

「おじいさまの土地はラグ竜の産地なんですよ」


 おじいさまと兄さまは気が合うようだ。私はラグ竜には複雑な思い出があるので、この枕元に置いてあるラグ竜のぬいぐるみくらいで十分なのだが。


 わたしに会いに来てくれたのは嬉しいのだが、どうやらおじいさまと兄さまだけでなくお父様も気が合うようだ。家の者が気を利かせて夕ご飯をパーティー風にしてくれていたので、四人でにこやかにおしゃべりしながら食事を取った。


「クレアも人見知りをしない子だったが、リアもやはり同じか」


 おじいさまが目を細めた。


「クレアは大人になってからも同じで、この常に不機嫌そうなディーンとも臆せず話していたからなあ」

「面目ありません。あの頃は気持ちが荒れていたようで、不機嫌なことも多く」

「いやいや、常に無表情で冷たい男、それがディーンの評判だったぞ。四侯の噂はキングダムの果てにまで聞こえてくるからな」

「それは……」


 お父様が絶句するのを見たのは初めてかもしれない。お父様のことだから、自分が興味を持たれているかどうかも興味はないし、興味を持ってどうするのかと言いたいところだろう。


 ウェスターでさんざん、四侯として人目にさらされた私と兄さまは顔を見合わせて苦笑した。そして思った。もし自分がお母様で、初めて四侯を見るのだったら、どんな不機嫌な人が来るのかわくわくしただろうなと。私に似ていたというなら、お母様もきっとわくわくして客人を待ったに違いない。


「おかあしゃま、たのちみにちてた、きっと」

「リア! その通りだとも。さすがにクレアの娘だ。クレアはな、不機嫌で冷たい男とはどのような者か、眉間のしわの数は何本かなどと予想して楽しみにディーンのことを待っていたよ。それほど出かけられぬ体質だったので、客は楽しみでなあ」

「それで……」


 お父さまが何かを思い出したかのように言いよどんだ。なんだろう。お父様は私をちらりと見ると、顔をそらし、なんだか気まずそうに、


「クレアは私のもとに、何が楽しいのかきらきらした目をしてやってきて、『なんだ、しわが一本もないのですね』とがっかりした様子で、まだ若い私に何と失礼な女子かと思ったのが最初の出会いだった」


 とつぶやいた。まさか眉間のしわを楽しみにしていたとは、お母様、さすがお父様と結婚した勇者です。


「私と一緒にいたがる女子は多かったが」


 それは四侯としてモテていたということですね。


「クレアほど予想のつかぬ女子は見たこともなかった。それにいつも楽しそうで」


 それで周りにいる女子とは違うところにペースを乱され、惹かれたというわけですね。なるほど。


「リア、何をニヤニヤしているのだ」


 お父さまは席を立つと私をさっと抱え上げて、私の髪に顔をうずめた。


「そうだった。クレアもそうして淑女らしからぬ顔でニヤニヤとして」


 その後は何を言っているのかもごもごすると、すぐに話題をそらしてしまったが、見えなくなったお父様の顔がどうなっていたのか明日兄さまに聞かなくちゃ。そう思っていたのだが。


 次の朝、さっそく牧場に連れて行かれ、プレゼントのラグ竜を見た途端、そんなことは吹き飛んでしまっていた。


「キーエ」


 え、小さいけど、子どもなの?


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