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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編

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お城へ

 それからも町のあちこちを指さしつつ、おそらく30分ほどで城についたと思う。初めてだから何とも思わなかったが、これが毎日だと結構飽きるかもしれない。幼児には30分は結構長いのである。


「わあ、おおきい!」


 さすがにウェスターの城と比べても大きかったし、お父様が顔パスで大きな城の門をくぐった後は、お城にたどりつくまでの庭園も広かった。


「きょぞく、でないから」

「ん? リア、どうした?」

「ちーべる、おちろ、おにわちいしゃかった。きょぞく、でるから」

「そうなのか。リアは父様の知らないことも知っているのだなあ」


 お父様はちょっと寂しそうにそう言った。本当はお父様も辺境に行ってみたいのだ。しかし、元々生きていた世界でも、旅行と言えばまず国内だった。無理に辺境に行かなくても、行くところはたくさんあるのではないか。


「おとうしゃま、りょこう、いっちょに、いきましゅ」

「旅行か」

「おうとも、おうとのしょとも、まだみてないでしゅ」


 お父様ははっとして何かに気づいたような顔をした。


「そういえば、辺境に出さえしなければ、どこに旅行に行ってもいいのだ。そうだな、一緒に出掛けような」

「あい」

「もっとも、我らが来ると言うことで大騒ぎであろうな。よし、お忍びだな」

「あい。しょれで」


 まあ、どこに行くのにも護衛隊がついてくるらしいのでお忍びなど無理だろうが、楽しみができた。


「まずは北の領地からがよいだろう。クレアの」


 お父様は私をすまなそうに見つめた。


「リアの母様の実家だ。おじいさまに叔父様もおられるし、辺境にも近い。ルークも連れて、きっと楽しい旅行になるだろうよ」

「おじいしゃま!」


 ちゃんと親戚がいたのだ。私は嬉しくなって座席の上でぴょんぴょん弾んだ。とまあ、そんな話ができるくらい、門から城までは長かった。


 広い庭園には噴水もあり、きれいに整えられた植栽もあちこちに配置されていた。お父様とお話しながらそれらを見るのに一生懸命だった私は、城の前にずらりと並んだ人たちには気が付かなかった。


「さ、城に着いたぞ」

「あい!」


 護衛のハンスが御者台から降りて、竜車のドアの前に移動した気配がした。そして誰かがドアを開ける前に、お父様はさっさとドアを開けてしまった。


「これは……」


 お父様は一瞬立ち止まると、緊張してがちがちのナタリーを先に降ろした。


「リア、出ておいで」

「あい」


 お父様に手を伸ばすと、さっと抱え上げてくれた。にっこりお父様を見上げた私だが、お父様は片方の口の端をちょっと上げて微妙に皮肉気な顔をしている。


「おとうしゃま、どうちたの?」


 お父様は私を抱いたまま目を城のほうにやった。私もつられてそっちを見た。


「うえ」

「ブッフォ」

「ハンス、にゃい」


 私はハンスに首を振った。どうもこの護衛は笑いの沸点が低すぎる。それでは護衛として失格ではないのか。もっとも、これだけの人の前で萎縮せずにいられる胆力は大したものかもしれない。


 そう、城の入り口にはたくさんの人が並んでいた。貴族の人らしい雰囲気の人もいれば、その護衛、お付きの人、メイド、なんだかごちゃごちゃしている。そしてその人たちの前に、文官と思われるほっそりとした背の高い人が一人、護衛と思われる人が三人、ドリーくらいの年のメイドが一人、姿勢を正して立っていた。


 お迎えの人が五人、残りは野次馬ということになるだろうか。


「ひましゅぎる」

「その通り」


 ぽつりとつぶやいた私とお父様に、ハンスがまたぐっと詰まるが、さすがに護衛としての役割を思い出したようだ。まじめな顔をして私たちの左後ろに控えた。ナタリーは右後ろにいる。


「ずいぶん遅かったですね、オールバンス殿」

「特に何時とは決められてはいなかったはずだが。出迎えも頼んではおらぬ」


 お父様よりやや若いだろうか。茶色のまっすぐな髪をお父様のように首の後ろできっちりと結わえた人が、お父様と不毛な会話をしている。


「そちらがリーリア様ですか。なるほど、噂通りの淡紫」


 その人は、お父様に抱かれた私をちらりと見下ろした。目のことを言われるのは慣れているが、それでも気持ちのいいものではない。私はほんのちょっとイラっとした。そこでプイっと顔を背けてお父様の胸に顔をうずめた。


 途端に後ろの野次馬ががやがやし始めた。小さい子どもがかわいいというような好意的なものがほとんどだ。別にかわいらしさを狙ったものではないのだが。


「時間も押しておりますし、それではリーリア様は私共がお預かりいたします」


 文官の声に、護衛が一人前に出てきた。知らない人に抱かれたくない。私はお父様にしがみついた。


「必要ない。ニコラス王子のところまでは私が連れていく」

「殿下は勉強部屋までいつも自分でおいでになります。遊び相手だけが親と一緒では、殿下に対して不公平になります」

「貴公も言っている通り、リーリアは遊び相手として呼ばれてきた。殿下が遊ぶ時間だけ一緒にいさせればよい。やいやいうるさいから連れてきてみれば、一歳児を朝から親と引き離そうなどと道理が通らない」


 私も遊び相手と聞いて、トレントフォースのように、夕方から二時間かそのくらい、一緒に遊ぶだけだと思っていた。もしかしたら午前中かもしれないけれど。そして残りの時間はお父様と一緒にいられるのかと思っていた。


「とりあえず数日は一日一緒にしてみて、様子を見るという話になったではありませんか」

「私は聞いていない」

「それは何とも」


 どうやら行き違いがあったらしい。せっかく遊び相手になる子が来るということで張り切った王子側と、私のことが心配で、おそらくどう守るかということばかりに頭が行っていたお父様側と、まったくすり合わせができていなかったに違いない。


私は思わずあきれてお父様の胸から顔を上げた。お父様越しに、ハンスがまじめな顔をしながら笑いをこらえているのが見えた。まったく。お父様が話を聞かなかったのか、それとも城側の不手際なのか。さて。


 その時、城の扉から、やはり文官らしき人が急いでやってきた。まっすぐお父様を目指している。どうしたのだろうか。



「転生幼女はあきらめない」

2月15日、サーガフォレストさんから発売。

イラストレーターは藻さん。とてもかわいくリアを書いてくださっています! 書影は来週には出ると思います!


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