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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編

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下を向いては何も見えない

 その週末は、兄さまもお父様も、ずっと一緒に遊んでくれた。特にお父様が厩に連れて行ってくれて、ラグ竜を見せてくれたのが楽しかった。


「キーエ」

「キーエ」


 寄ってきたラグ竜が大きな声で鳴く。厩と言っても、屋敷から少し離れたところにあって、しかもそれはかなり広い草原につながっていた。ラグ竜は30頭ほど。王都にこんな広い土地を持っていてラグ竜のためだけに使っているとか、もしかしてオールバンスはとてもお金持ち?


「私が主に使っているのはこのラグ竜なのだが、ラグ竜は一頭だけでは寂しがるので、厩をもたない近隣のラグ竜をまとめて預かっているのだ。そうして群れにしておけばラグ竜も落ち着くからな。うちのラグ竜は五頭ほどだ」

「私の竜はこれですよ」


 兄さまが嬉しそうに一頭のラグ竜の胸を叩く。この竜は旅の間も一緒だったので私も知っている。そして竜も私を知っているので、どこか心配そうにそっと口で私を押してみている。私は両手でそのラグ竜の頭を抱えた。


「だいじょぶよ」

「キーエ」


 そうなの。元気がないわと、そう言っているようだった。私は大丈夫という意味を込めてラグ竜の頭をそっとぽんぽんと叩いた。


「ラグ竜が怖くない子どもって、珍しいですね」


 思わず護衛が声を出した。


「なあに、嬢ちゃんは特別さあ。まあ、ルーク様もディーン様も怖がったりしなかったが」


 竜の仮親という、私が竜に大切にされるわけをあらかじめ聞いていたらしい少し年老いた厩番が自慢そうだ。


「リア、乗ってみるか」

「あい」


 父様がまずラグ竜に乗り、私は厩番から父様に手渡しだ。手綱はもたずに、私を抱っこしながら草原をゆっくりと歩く。兄さまは並んでラグ竜に乗っている。囲われているとはいえ、その端も見えないほど広い草原からは、屋敷が見える他はほとんど何の建物も目に入らず、私は久しぶりにのびのびした気持ちになった。


「リア、毎日退屈か」


 お父様が突然そう言った。退屈。そうなのかもしれない。少なくとも、トレントフォースではお店では自分もみんなの一員だったし、狩りでは結界箱をもって参加したりと、生活のために生きているという実感があった。でも今は、何もかも整えられ、手を出すところのない毎日である。


「あい。リア、しゅることがないでしゅ」

「リアくらいの年なら、遊ぶのが仕事なのだが、さて」


 お父様はなにか考えているようだ。


「ナタリーはどうだ」

「ちゃんとちてる」

「遊び相手にはならないか」


 私は首を横に振った。申し訳なくて、遊んでくれとは言いにくいのだ。隣で兄さまが気がかりそうにこちらを見ている。


「家庭教師をつけるという手もあるのだが」


 まだ読めない言葉がたくさんあるので、それは嬉しい。


「むじゅかちいほん、よむ、ちたい」

「そうか。それも一つの手ではあるが、少し早すぎるしな」

「私の時も三歳からでした。まだ二歳になっていないうちにそれはどうかと思います」


 なるほど、兄さまはそうだったのか。三歳というのも早いような気がするが。


「ルークの場合ダイアナが、いや、なんでもない。ゴホンゴホン」


 お父様は案外うっかりで、すぐになにか都合の悪いことを口に出してしまう。今回のダイアナとはいったいなんだろうか。気にはなるがここは突っ込まないほうがいいのだろう。


「なあ、リア」

「あい」


 お父様は私を呼んだが、そのまま黙ってしまった。兄さまが隣で横に首を振っている。やめた方がいい? 

 そんな感じだ。


「父様な、ちょっと頼まれごとをしていてな。しかしリアは披露目前だし、外に出したくはない。しかし外に出すといっても城だし、そうすると少なくとも父様と昼は一緒で、休憩時間には会えるかもしれないし」


 ぶつぶつ言っている。兄さまがあきれたような目でお父様を見た。


「結局、自分のためではないですか。お父様、ずるいですよ」

「少なくとも、城のほうがおもちゃは多いと思うのだが。それに殿下のお子と一緒なら、家にいるより人の目が多い。警備的にも安心だしな」


 どうやらお父様と城に一緒に来ないかと言われているようだが、どういうことなのだろう。


「リア、実はな、前々から、お前を息子の遊び相手にと、あー、この国の王子から求められていてな」

「そのこ、いくちゅ?」

「あー、リアより一つちょっと上で、三歳かな、確か」

「しゃんしゃい。たいへん」

「ブッフォ」


 この声は後ろをついて来ていた護衛の声だ。一歳児が三歳児に何を言っているという笑い声なのだろう。しかし、男の子で三歳と言ったら、もちろん、中には静かな子もいるだろうが、たいていは一日中走り回っているような元気な子ばかりだ。それに対して、私はそれほど活発なほうではない。


「りあ、いっしゃい。もっとおおきいこにちたらいい」

「そうだよなあ。お父様もそう思うよ。だがな」


 お父様が困ったように顎に手を当てた。


「お父様、いくらリアと一緒に過ごしたいからと言って、ちゃんと考えてください。癇癪持ちで年上の遊び相手からも避けられるようなお子ですよ。活発でいいとか言われていますが、年下の女の子を遊び相手になど、王家は一体何を考えているのか」

「まあ、そうなのだが。私には別に態度は悪くはないのだぞ」

「大人ですらお父様に太刀打ちできないのに、三歳児ができると思いますか」

「いや、ルーク、そこまで言わなくても」


 お父様がたじたじとなっていて面白い。兄さまもずいぶん言うようになったものだ。私は感心して兄さまを眺めた。


「とにかく、一度だけでも父様と城に来てみないか。お披露目の後でもいいかと思っていたが、相性もある。何より昼は父様と一緒だし」


 普段ならすぐに行くと言ったと思う。そして私限定で心配性なお父様に、あれこれ準備させられて、結局城に行くまでずいぶん時間がかかったと思うのだ。でも、その時私は自分では気が付かなかったが、相当落ち込んでいたのだと思う。


「りあ、おうちにいましゅ。おうちでしじゅかにちてましゅ」


 私はそう答えていた。お城に行ってもどうせ一人なのだ。一人でないとしたら、乱暴な三歳児の相手をさせられるだろうし。お昼はお父様と食べるのかもしれないけれど、その後はどうせ一人になるに決まっている。それなら家にいたほうがいい。


 自分でも信じられない。それがいい子だと、そうするべきだと思っていたなんて。


「リア、なんてことだ」

「お父様、これは駄目です」


 なぜか兄さまと父様は青くなり、私はすぐに城に連れていかれる話にまとまったのだった。








1月は休まず月木で更新できそうです(´ω`)

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