世界樹との邂逅1
創造神の神殿に引き籠り、延々とレベル上げに励み始めてから三週間程が経つ。
最初の1日目はリプレイモードでベラルやダダン等と言った強敵を召喚。
が、全く勝負にならない。
7日目になると徐々に慣れて来たのか、一対一の一騎打ちではすぐに決着がつかなくなってきた。
俺の目的はレベル上げであってリプレイモードの敵を粉砕する事ではないので、すぐさま自分に負荷をかけるために追加でワイバーンや魔族を召喚したりした。
当然の問題として二対一という状況に慣れるには苦労したが、幸い死ぬことがないので様々な無茶な戦略戦術を駆使する事ができ、最終日になると二対一の状況でもある程度戦える程にまで成長した。
いまの状態でベラルと戦ったらたぶん僅差で勝利するだろう。
単純にレベルが上がったのもそうだが、何より聖騎士のスキル『聖盾招来』を覚えたのが大きい。
『聖剣招来』と同じように魔力を消費して光の盾を具現化するスキルだが、防御したい時にいつでも目の前に展開でき、さらに空中に浮いているため自分の動きの阻害にもならないという点が強い。
その分二つの招来スキルを駆使するため魔力の消費は以前より激しくなったが、俺には『魔力強奪』があるのでまだまだ戦闘に余裕がある。
聖盾はベラルの得意とする矢による弾幕攻撃を防ぎきるので、遠距離攻撃をする相手と相性が良いというのも彼女に対して勝率が良いと考える要因だ。
ただ大きなハンマーを振り回してくるダダンや、そもそも実力が離れすぎている賢者アーガス相手には使い物にならなかった。
ここらへんは対策が必要だろう。
とまあ、こんな感じで日々の修行に一段落を付けた訳である。
ちなみに紅葉は途中で泣き言を言い始めたので、奥の手であるスナック菓子やチョコレートを提供してやるとすぐにやる気が復活した。
まだ二尾のままだけど、いずれ三尾になる日も近いように思える。
「ついでに、もうすぐ魂魄使いのレベルも20に到達するな……」
魂魄使いと錬金術師がそれぞれレベル20以上で複合職業『悪魔』の爆誕だ。
この地雷臭しかしない複合職がどんな力を秘めているのかはまだ未知数だが、まあ聖騎士の性能を考えればそれなりに強いのだろう。
そうであって欲しい。
余談だが、魂魄使いのレベルが上がったことで3つ目のスキル、『魔力知覚』が追加された。
これまた『魔力強奪』や『魔力譲渡』と同じく使い勝手が微妙なスキルで、ただ知覚するというだけの能力である。
たぶん基本職である魂魄使いのスキルはここで打ち止めだと思うが、いったいこの三つのスキルを習得して何がしたいのだろうか。
職業補正を複数受けられる俺だから有効活用できるが、本当に一般の人が習得していたら地雷でしかないぞ……。
なにせ一人につき一つしか補正は受けられないからなぁ……。
まぁ、現状はだいたいこんなところである。
「じゃあ、そろそろ外に出るか」
「やっとかえ?」
「ああ、待たせたな」
今までの反省を終え、戦力も充実したことだし一先ずの修行を終えて神殿から退出する。
外は相変わらず森が広がっており、遠目には魔族が暗躍していたあの町が見える。
いつも通りの光景だ。
……目の前に半透明の人型さえ居なければ、だが。
そいつは俺と目が合うと嬉しそうにお辞儀をして、去っていく。
なんだったんだ今の?
敵対的という訳では無かった、というか友好的だったけども。
「どうしたのかえ?」
「なあ、今目の前に半透明の人間が居なかったか?」
「ぬぁ? それなら男とこの世界に来てから、ずっとくっついておったぞ?」
……は?
そんな馬鹿な。
俺は今初めて見かけたんだが。
ということは、アレかな。
考えられる要因としては、今まで見えなかったものが見えるようになるスキル、『魔力知覚』の能力が関わっているのだろうか。
察知能力に優れた妖怪である紅葉に見えていて、俺がずっと気づかなかったという事はそう言う事だろう。
だが、魔力知覚習得でようやく見える存在って具体的になんだろうか。
「もしかして、……精霊か?」
「精霊と言われても、儂には良くわからんなぁー。そういう妖怪じゃないのかえ?」
「いや、この世界に妖怪はいない」
たぶん精霊の線が濃厚だな。
実際に俺はアプリの力で世界樹に付き従う大精霊達を見た事があるし、間違いないだろう。
ここで気になるのは、ずっとくっついていたにしてはやけにあっさりと離れて行った事だが、何がしたかったのだろうか。
するとさっき飛んでいった人型、もっと詳しく言えば風を纏った緑の人型が戻って来た。
しかも、複数の仲間を連れて。
わらわらと集まって来た緑の人型は目の前で整列すると、少しだけ大きい個体を中心に頭を垂れて来た。
な、なんだなんだ。
「父よ、此度は三週間ぶりのご降臨に際し、矮小なる我ら風の精霊に目を向けてくださり感謝の念が堪えません」
「ふむ……」
ふむふむ。
父っていうことは要するに、もしかしなくても自分達を生み出した父ってことだろう。
で、俺に何か用があるのだろうか。
しばらく黙り込んでいると、頭を垂れたまま微動だにしない緑の人型が、俺の言葉を待つかのように沈黙している。
……このまま放置してたら日が暮れそうだな。
とりあえず何か声を掛けてみる。
「あー、そのなんだね。君達、自然体でいいよ、自然体で」
「はっ! ご命令承知致しました! お前達、父の命令だ。今すぐ自然体にしろ」
リーダー格であろう少し大きめの個体がそう言うと、周りの者達はわらわらと宙に舞い始める。
だがそれは宙を舞い始めたというだけであり、代わりに頭を垂れた状態からビシッと姿勢を正して敬礼モドキのような態度を取り始めた。
うん、これ以上は無限ループだな。
どうやらこの相手は、俺がこの世界を創り上げた神だと既に認識しているらしい。
確かにこの肉体は設定として創造神の分身だし、加護の影響が強い龍神や世界樹、そしてその眷属たちに俺のことが認識できていてもおかしくはない。
だが問題なのは、ここまでこの風精霊とかいうやつらに畏まられるとやりにくい、という事だ。
いや、まあ一応神だからね、認識さえすればそりゃ色々畏まるとは思うよ。
でも俺からしてみれば、突然精霊が見えるようになったら既に完全服従する下僕としての教育が行き届いてました、ってどうなのよ。
迷惑ではないが、困惑するわこんなん。
だけど威厳を崩してこの精霊達にガッカリされるのはちょっと嫌なので、ダメ元で取り繕ってみた。
「で、用件は何だ? ずっと俺の後をつけていたのは、何か理由があっての事なんだろう? 語って見せろ」
「はっ! 我らの上位存在である風の大精霊シルフィード様と、世界樹にして精霊神である女神様が魔王に関する報告を行いたがっております。現在は精霊神様がこの大陸の魔王に関する仕上げに入っており、問題が無ければすぐにでも父と面会をしたいと……」
なるほど。
良く分からないが、この大陸の魔王に対して仕上げを行っていたらしい。
その上で仕上げ内容の報告を含めて俺と面会したいと……。
ふむ。
何というか、俺に聞かれてもね。
正直そんな畏まらなくても、会いに来たければそうするといいよ、って感じだ。
というか仕上げってなんだよ。
たぶんこの大陸の魔王っていうのは商人を誑かした例の黒幕なんだろうけど、そいつをどう仕上げたのかは怖くて聞きたくない。
明らかに俺を上位の存在として認識しているし、ミンチになった魔王の死体とか持ってこられたらどうしよう。
ちょっと怖いが、かといって俺になにか不都合がある訳でもないので承諾することにした。
「分かった。それでは面会を行おう」
「承知致しました! それでは失礼致します!」
それだけ言うと風精霊たちはすぐに目視できない距離まで飛んでいった。
すごいスピードだな。
というか俺、ここで待たなくちゃいけないのだろうか。
いや、そんな事ないか。
たぶん適当に過ごしてれば向こうから出向いて来るだろう。




