事件解決
魔族の屋敷を制圧してから二日程が経った。
その間俺は貴族街で戦闘とは何事かと駆けつけてきた騎士達に連行されそうになったり、魔族の変異体を見つけた騎士たちから尋問されそうになったり、その他にもこんな所に子供が居るはずがないとかで、怪しいからという理由で牢に入れられそうになったりと、散々な目にあった。
全て貴族にも強い発言力を持つアーロンとベラルが事情を説明してくれたから事なきを得たが、もしあのまま牢にぶち込まれる事になっていたら一度日本戻っていたところだ。
牢屋の飯は不味いっていうしな。
そんな訳で色々とごたごたがあり、結局あの屋敷は魔族が拠点にしていた重要参考物件として騎士に押収された。
どうやら普段は姿を見せない魔族が纏まって退治されることは珍しいらしく、奴らがどのようにして人の目を欺いてきたかの研究に使うそうだ。
まあ奴らは純魔族というより、魔王の手によって儀式の方法を教えてもらったにすぎない下っ端だけどな。
あまり参考になる物があるとは思えないが、そこらへんは余計な事を言わない方がいいだろう。
また儀式の件については情報の危険性が高すぎるため、アーロンとベラルは秘匿しておくことにしたようだ。
俺は躊躇なく二人に広めてしまったが、これからは気を付けようと思う。
ちょっと創造神の知識は色々と規格外過ぎるんだよな。
で、一日目はそんな感じで終わり、二日目となると今度は戻って来たダダンを含め3人からの質問責めにあった。
やれお前は何者だ、やれその知識はどこで手に入れただの。
正直面倒くさすぎて、ここでもまた日本へ帰ろうか迷ったレベルだ。
しかし中々喋らない俺の態度を見て何かを悟ったのか、まず最初にアーロンが黙り込み、次にダダンが黙り込み、最後まで質問を繰り返していたベラルが渋々と引き下がった。
3人曰く、そもそも自分の素性すら明かさずに冒険者の素性を聞くのはマナー違反だ、という事らしい。
ベラルの場合は色々と知ってしまっているが、他2人については背景を知らない。
技術としてはダダンは恐らく鍛冶や物作りが得意で、アーロンは賢者として高い実力を持つということくらいだろうか。
だから俺もそのくらいの情報ならいいかと言う事で、聖騎士としての力を見せてみたりしたが、それはそれでなぜ子供が聖騎士の力を扱えているのかと呆れられた。
だが聖騎士の力を見せたのが良かったのか、光属性に強い適性を持つ者が闇属性の影響を強く受ける魔族だという線が考えにくいということで、一応の信用に繋がったらしい。
「ふぅ……。お前はいったいあといくつの隠し玉を持っているんだ。まるでビックリ箱だな」
「そう言われてもなぁ」
「まあいい。こうして俺が友の仇を討てたのもお前の能力と情報によるところが大きい。気は進まんが、一応借りとして認識しておいてやる」
そう言ったアーロンは呆れたような仕草をしながらも、懐から紙切れを差し出し俺に手渡す。
えーと、何々?
これはサインか?
えーっと、『賢者アーガス・ロックハートは貴殿を認め、ここに招待状を記す』ね。
ふむ、何のことかさっぱり分からんな。
良く分からんが、とにかく地図のような物と紹介状のような物が手渡された。
「もし時間が出来たらその地図に記された場所に向かい、招待状を渡せ」
「渡すっていうのは具体的に誰に? というかここはどこなんだ?」
「行けば分かる」
それだけ言ってアーロン、じゃなくてアーガスは黙り込んだ。
これ以上余計なことを喋る気は無いらしい。
というか面倒くさいのかもしれない。
こいつ説明があんまり好きじゃないからな。
一応覚えておこう。
手紙と地図を仕舞い込む。
「へぇ~、あの魔法研究にしか興味の無いアーガスが、まさかここまでするとはねぇ~。面白い物が見れたわ」
「全くじゃな、儂もこやつがここまで他人を気遣う所は初めてみたわい」
二人はそう言って珍しい物を見たと驚く。
確かにこの男は普段から魔導書と睨めっこしてばかりだし、あまりこういう事をするようなタイプには思えない。
ということはたぶんこの賢者にとって、何か大きな理由があるのだろう。
俺にとってはどうでもいいけどな。
そんなこんなで今回の事件は収束し、一応解決に携わった立役者の一人として、俺と紅葉は魔族から町を救った者として注目を浴びることになった。
冒険者ランクは俺がBへ、紅葉はCへと上がっている。
獣人からは「さすが天種様!」とか、「きゃー天種様こっち向いてー!」とか、紅葉が完全に見世物扱いになっているくらいだ。
本人は満更でもなさそうだけど。
なんだかんだ忙しかったが、俺としても称賛されるのはそれはそれで悪くない気分だ。
なにせ俺は器の小さいおっさん故、聖人君子のように何時何時も心に驕りは持たないなどという事はない。
称賛されれば人並みに嬉しいし、人並みに愉快な気持ちになる。
ま、当然だな。
紅葉なんかはもっとそれが顕著で、「儂、人生の波に乗って来たかも」とか言って調子に乗っているくらいだ。
こいつの場合は調子に乗り過ぎて転覆しそうだけども。
「まあ、時間があったらこの場所に行ってみる。とりあえずしばらくはやる事があるから、だいぶ後になるだろうけどね」
「構わん。好きにしろ」
「ああ、そうさせてもらう」
それっきり会話は途絶え、その日は解散となった。
アーガスはふらりと何処かへ旅立ち、ベラルは一度報告を行いに母の下へ戻るらしい。
ダダンはまだこの町に用があるらしく、残るようだ。
ちなみに忙しいというのはアレだ、とりあえず新機能であるタイムマシンとかいうのを使ってみたい。
ただそれだけである。
「よし紅葉、タイムマシンに乗るぞ」
「ふぁ? なんじゃって?」
「だからタイムマシンだって」
「たいむますいん?」
紅葉にはタイムマシンという概念そのものが分からないらしい。
まあ使ってみれば分かるだろうから、無理に説明する必要もないか。
そう思った俺は町を出て、人目につかない場所まで移動してから『創造神の神殿レベル2』へと足を踏み入れた。
次の企画の日付が決まりました。
8月22日に、夏の終わりイベントとして8話連続投稿致します。
是非この夏最後のイベントをお楽しみください。




