わたしは友人を増やしていく ②
その街は、夏だというのに涼しくて過ごしやすい場所だった。冬になると驚くほどに雪が降る場所なんだとか。場所によっては常に春な場所があったり、色々あるらしい。わたしはやっぱり知らないことが多い。
わたしはただの人間だけれども、いつかパパのようになれたりするだろうか。パパと一緒に生きていると、魔導師という存在に憧れたりもする。でもただパパのようになりたいからとそれを望むのはまた違う気がするから、よく考えようと思う。
「ねー、パパ、此処にはどのくらいいるの?」
「ベルレナがいたいだけいていいぞ。時間は幾らでもあるからな」
「パパはわたしを甘やかしすぎだよ。もっと叱っていいんだよ?」
「ベルレナは叱られるようなことしないだろう。駄目なことをしたら俺も流石に叱るぞ」
そんな風にパパに言われた。わたしはパパにとって、良い娘で居られていると思うと嬉しくて思わず笑ってしまった。
でも甘やかされてしまうと、昔のようになってしまうかもしれないからそのあたりはちゃんとしておかないと。もし私が間違いを犯してもパパは止めてくれるだろうけれどもね。
それにしてもこの街でパパと一緒にのんびり過ごせると思うと楽しみで仕方がないの。思わずにこにこと笑ってしまう。
「ベルレナ、楽しそうだな」
「うん。パパと一緒にこうやって出掛けられるだけでも嬉しいから。あのね、パパ、わたし、パパとやりたいことがいっぱいあるの」
「そうか」
「うん。あのね、このあたりに聖なる獣が住むって言われてる山とかあるんだって。そういう所にもいってみたいなぁ。でも街の人に聞いたら危険だって言ってたんだよね」
「俺がいるから危険はない」
「流石、パパ。一人では行かないから、一緒にいってくれる?」
「ああ」
南の方に視線を向ければ、そこには巨大な山があった。山頂の方は雪が積もっている。その山には聖なる獣が住んでいるんだって。そういう言い伝えがあるんだって街の人が教えてくれた。
街には優しい人が多くて、わたしが「これなに?」って聞くとすぐに教えてくれる。皆、にこにこしていて、わたしも嬉しくなった。
パパにそれを言ったら、「ベルレナが相手だからだろう」なんて言われた。なんだろう、にこにこしながら話しかけると、周りもにこにこするものなんだって。パパもわたしの笑顔を見て絆されたってそんな風に言ってた。
「じゃあ、沢山笑うよ! わたし、皆と仲良くなりたいもん」
笑顔を浮かべて、笑いかけて――それで仲良くなれるなら嬉しいなって思うから。
「そうだな。でも嫌なことがあったらちゃんと泣いて、怒るんだぞ。ベルレナは昔のことがあるから、人の顔色を窺ってしまうかもしれないけれど、そういうのはしなくていい」
「ふふ、わたし、パパのおかげで結構我儘だよ?」
パパに頭を撫でられるとほっとする。パパが一緒にいてくれているから、わたしは幾らでも我儘が言えてパパが傍にいてくれるからわたしはいつも笑顔でいられるのだ。
パパにありがとうの気持ちを込めて、沢山恩返しをしたいなとも思った。
パパは何をあげたら喜んでくれるんだろうか。パパは何でもできて、かっこよくて、ちょっと生活がだらしないところがあるけれど、わたしの自慢のパパだ。
そんなパパにサプライズで何かあげられたらきっと楽しいだろうなって思った。
そう決めたわたしは、「パパ、ちょっと一人でぶらぶらしてきてもいい?」とパパに問いかけた。
パパは心配そうな顔をしていたけれど、わたしが押し切った。何か危険なことがあったらパパを呼ぶからと言ったら許してくれたのだ。
街の外に出て、最近知り合ったお菓子屋さんのお姉さん――フェーヌさんの所に向かった。
「こんにちはー」
「あら、ベルレナちゃん。こんにちは。今日はお父さんは?」
「今日はね、一人で来たの!」
「まぁ、そうなの?」
「うん。ねぇ、ちょっとお話していい?」
「ええ。もちろん」
お姉さんはにこにこと笑いながら、わたしの言葉に頷いてくれた。こんな風に笑ってくれると何だか嬉しい気持ちになった。
「それで今日はどうしたの。ベルレナちゃん」
「あのね。パパに何かあげたいなって思うのだけど、パパは何をあげたら喜んでくれると思う?」
わたしとフェーヌさんは公園のベンチに隣り合って腰かけている。フェーヌさんが飲み物を買ってくれたので、それを一緒に飲む。
フェーヌさんはわたしの言葉に笑みをこぼしてくれる。
「お父さんに何かあげたいのね。可愛いわ。ベルレナちゃんは良い娘さんね」
フェーヌさんはそう言ってわたしに笑いかけてくれた。
それからわたしはフェーヌさんと一緒にパパにプレゼントするものについての話し合いを行うのだった。




