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パパの友達 ②

 パパはその人に声をかけられて、少し嫌そうな顔をした。どうしてそんな表情をしているのだろうか。それにしてもトバイが横に控えているということは、この人がトバイの主人であるニコラドさんなのだろうか。



 わたしはそう思いながらまじまじとその人を見る。




 綺麗な赤色。

 なんだかベルラだった頃をちょっと思い出してしまった。わたしの昔の家族は皆綺麗な赤髪だったから。



 その人はわたしに気づいているだろうに、わたしに話しかけることはなく、パパだけに話しかけている。よっぽどパパと話したかったのだろうか。それともわたしのことが嫌いなのだろうか。



「……ニコラド、何故いる」



 やっぱりこの人がニコラドさんらしい。パパとは違った意味で綺麗な顔立ちの人だ。何だか活発そうな見た目で、パパとこういう人が友達というのは何だか想像していなかった。



「何故って、お前がホムンクルスの娘が出来たとか言っていたからな。興味本位で来たんだ。昔からホムンクルスの身体は出来ても魂まではないとか言っていただろう。どうやってホムンクルスを生み出すかというのがお前の長年の課題だっただろう。それが急に解決したっていうんだ。しかもわざわざ俺に連絡をくれるなんてさ」



 楽しそうに笑ったその人はようやくわたしのほうに視線を向ける。まじまじと見られてちょっと怖い。トバイの主人だし、パパの友達なら怖くないはず……と思うけれどやっぱり怖いものは怖いのだ。



「この子がホムンクルスねぇ……。生まれたばかりのホムンクルスなら赤ちゃんみたいなものだろ。俺はニコラドって、言葉わかんねぇか?」

「……分かる。わたし、ベルレナ。よろしくお願いします」

「うおっ、いきなり喋ったぞ、こいつ。生まれたてのホムンクルスってこんな喋るのか?」

「……ニコラド、ベルレナの魂は見た目通りの年代だ。赤ちゃん扱いするな」

「へ?」



 ニコラドさんはパパの言葉に驚いたような表情をして、わたしのことをまたまじまじと見る。



 そんな風にみられるとちょっと驚いて、わたしはパパの後ろに隠れてしまった。

 それにしてもニコラドさんの言っていることはどういうことなのだろうか。わたしの魂が赤ちゃんみたいだとそんな風に思っている?



「おい、まさか、ディオノレ!! どっかから魂引っこ抜いてきたのか!? 攫ってきたのか!?」



 なんだか怖い顔をしてニコラドさんがそう言うから、わたしは身体をびくつかせてしまった。



「そんなことはしない」

「本当だろうな? お前、研究のためならそのくらいしそうだからな」

「本当だ。それに俺も流石にそんなことまでは出来ない」

「おい、出来ないって、出来たらやるつもりなのか??」

「……ベルレナがいるからそんなことはしない」



 パパがそう言えば、ニコラドさんは驚いたような表情を浮かべた。どうしたのだろうか?



「お前、まじか!! やばい。めっちゃおもしれー!! ホムンクルスの子供と暮らしているって聞いたからもっと荒んだ関係かと思ったのに!! あのディオノレが!!」



 驚いた顔を浮かべたかと思ったら、ニコラドさんは爆笑し始めた。わたしはその笑い声に、恐る恐るパパの後ろから顔を出す。


 それにしてもこんな風に声をあげて笑っている人、はじめて見た。



 公爵家では貴族としてこんな風に声をあげて笑うことはしてはいけないって言われていた。はしたないからって。……でもそっか。わたしもう、公爵家の娘ではないから……、こんな風に爆笑してもいいのかもしれない。そういう機会があるかは分からないけれど。




「……煩いぞ」

「ははは、だってしょうがねーだろ。あのディオノレが小さな女の子を可愛がっているとかおもわねーもん。はー。笑った」



 ひとしきり笑ったニコラドさんは、相変わらず笑顔を浮かべている。そしてしゃがみこみ、わたしと目線を合わせる。そしてにっこりと笑った。なんだかパパと違って人懐っこい笑みというか――、そういう何だか明るい笑みだ。


 さっきまでわたしに興味がなさそうにしていた人とは別人のようだ。




「ベルレナちゃん、中身何歳だ?」

「八歳……」

「八か、うん、見た目通りの年齢だな。それにしてもディオノレが中身が八歳の女の子を可愛がっているとか。うん、良いことだな」



 そう言いながらニコラドさんはわたしのことをにこにこしながら見ている。そしてわたしの頭に手を伸ばそうとして、パシッとパパに叩かれてはじかれていた。




「うわ、なんだよ。ちょっとベルレナのことを撫でようとしただけだろ? ベルレナは俺に撫でられるの嫌だったか?」

「ううん。撫でられるのは好き」

「そうか、そうか。可愛いなぁ。なぁ、ディオノレ、ベルレナがいいっていっているからいいだろ?」

「駄目だ。ベルレナ、こいつは不審者だ。撫でられるのは駄目だ」




 ……わたしはニコラドさんに撫でられても全然良かったのだけど、なぜかパパはニコラドさんに撫でられないでほしいみたい。



「じゃあ、ニコラドさん、駄目」

「は! 拒否られた!! なんだよー、ベルレナはディオノレ大好きかよー。俺とも仲良くしようぜ?」

「ん、パパ、大好き!!」



 パパのことが大好きだと告げれば、パパに頭を撫でられた。

 その様子を見て、またニコラドさんは面白そうに笑っていた。




 それから外で話すのも……ということで屋敷の中に入ることになった。トバイは山で散歩をしてくるということで、三人だけで中へと入った。


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