お誕生日は、楽しく過ごす ④
「ディ、ディオノレ」
ママに先に戻ってもらった。というのも、ママの恰好を見てパパが似合っているって口にしないかなと期待して。
わたしが一緒に戻ると、わたしのことばかりを見てパパはママの可愛さを見落としてしまうかもしれないもの。
「どうした?」
んー、パパってばいつも通り。もっとドキッとしたりすればいいのに。ママみたいに可愛くて綺麗な人が好意を寄せてくれているのって凄いことなのだけど!
でもパパってば異性から好かれるのは当たり前で、ママからの気持ちもただ受け取ってしまっているのかな。なんというか、そういうところは少しだけパパって傲慢な部分があるんだろうなと思った。わたしはそういう所も含めてパパのことがとても好きだけど。
案外、これでママの気持ちが別に向いたらパパも焦ったりしそう? 何だかんだパパってママのことを大切には思っているように見えるから。
「こ、この格好どう見えるかしら? ベルレナに選んでもらったのだけど」
やっぱり可愛い。
ママってパパのために一生懸命なんだよ。魔導師の女性とだけ聞いたら、少しだけ恐ろしい人なのではないかとかそんな風に勘違いをされてしまうもの。
それでもママってこれだけ可愛いんだもんなぁ。うん、綺麗な見た目なのに、これだけ愛らしいなんてすごいよね。ママのことを怖がっている人達もママの可愛らしさを知ったらそのまま好きになってしまいそう。
でもそれは嫌だから、家族の前以外ではもっとシャキッとした表情はしてほしいかも。ちょっとぐらい怖いって思われた方がママに近づくような人たちが居ないはず。
いけ、パパっ!
ママをときめかせるようなセリフを口にするんだ。
わたしはそんなことを思いながらじーっと、パパとママのことを見守る。
「似合ってる」
パパ、もっとかっこよく言おうよ!! 可愛いとか言えばいいのになぁ。でもパパだしなぁ。なんて思いながらわたしは事の成り行きを見守っている。
パパって見た目は良いのに女心が分かってないよねー? もう仕方がないんだから。でもそういうちょっと抜けているパパの一面も魅力的だなって思うけれど。
パパって魔導師で、見た目もよくて凄く完璧な感じなんだもんね。
「ふふ、ありがとう。ディオノレからそう言ってもらえると、えっと……そのね、私は凄く嬉しいの。だからこ、これからも時々そう言う言葉をかけてもらえると嬉しいわ。もちろん、無理はしてほしくないけれど」
「そうか。分かった」
ママの言葉にパパは頷く。
なんだかパパが本当にママのことを嫌だとか、そんな風に思っていたら此処で頷かないんだよね。
他の女性からこんなことを言われたら、きっとパパって拒否しただろうな。
思わせぶりな態度とかしないタイプだし。うん、パパらしいよね。
だからもっとママのことをパパが大切に思えばいいなってそう思っている。
「それより、ベルレナは?」
パパはわたしが居ないことを不思議そうだ。パパって、わたしのことを凄く可愛がっているから、なんでいないんだろうって思っているみたい。
パパとママを二人っきりにはしたいけれど、あまり心配をかけるわけにはいかないもんね。
わたしはそう思って、パパとママの前へと姿を現す。
「お待たせー。ほら、パパ、ママ、凄く可愛いでしょ」
わたしはそう言って、パパとママに近づく。
わたしの可愛い姿を、「可愛いー」って言ってもらいたいなとそう思ったから。
「可愛いな」
「ええ。とても似合っているわ。年々可愛さが増しているわね」
パパとママにそう言ってもらえて、嬉しくなってにこにこしてしまう。わたしはね、周りから可愛いって言われるのやっぱり好きなんだよね。
大人になってもそうありたいから、規則正しい生活をして見た目は保ちたいなぁ。魔導師になれたら、可愛いままのわたしで居られる? なんて、ちょっと動機が不純かな?
これまで出会ってきた人たちやこれから出会う人たちが先に亡くなって、悲しい気持ちに沢山なる状況を耐えられるかどうか。パパやママやニコラドさん、それに契約しているユキアたちはわたしの傍にずっといるだろうけれど、それ以外の人達は寿命を迎えるってことだよね。
……うん、魔導師になりたいかどうかって判断がつかないかもしれない。
大人になってから考えればいいことかもしれないけれど、まだまだ悩んじゃうよね。
ニコラドさんには「魔導師になればいい」って簡単に言われてしまったけれど。うん、わたしはまだまだ悩むんだろうな。
学園に入学したら、もっとたくさんの出会いがある。
尊敬できる先生とか先輩とかにも出会えるかも。そうなったら色んな思考が進むかな?
「ねぇねぇ、パパ。ママ。ぶらぶらしよう? 可愛い恰好で山を歩くのも楽しいと思うの」
さて、今日というお祝いの日はまだまだ時間がある。
ふと窓の外を見て、とても素敵な春の光景に歩きたくなった。
三人で並んで、ぶらぶらするのって楽しいよね。
わたしの言葉にパパとママが頷いてくれて、屋敷の周りを歩くことになった。




