お誕生日は、楽しく過ごす ①
「良い天気!!」
わたしは朝から、鼻歌を歌いながら窓を開ける。
心地よい風と、花の匂いが香ってくる。なんだかワクワクした気持ちでいっぱいになるね。
わたしは朝からご機嫌だ。だってね、今日はお祝いの日なんだよ。わたし達とお誕生日のお祝いの日。
毎年ね、この日はわたしにとって特別な日なの。
わたしが身体を奪われてしばらく、パパに見つけてもらうまでの間はもちろん苦しかったよ。
だってわたしの誕生日なのにね、あの子がずっとお祝いされていたから。わたしに対して、おめでとうって言ってくれる人が一人も居なかった。
わたしの存在に誰も気づいていなかったのだから、当たり前のこと。
だけれども――あの当時は、ただただ悲しかった。自分のことしか考えられていなかった一面も大きかったと思う。
今のわたしは、パパとママと一緒に居て、何処にでも行ける。
公爵令嬢として生きていた頃のわたしにとっての世界って、家と、家族に連れられて向かう先だけだった。だけど今のわたしは、本当に行きたい場所にどれだけ離れていても行けることが出来る。
……うん、わたしにとってパパとママが転移魔法を使えることは当たり前のことではあるけれど、これって特別なことだもん。
誕生日をお祝いする歌をついつい口ずさむ。
色んな地域に顔を出すと、その分、知らない誕生日の歌を知れたりするんだよ。そういう、知らない歌を知れるのもとても楽しくて仕方がないの。
流石に、全部の歌は覚えられない。
わたしはこのことを覚えておきたいなと思ったことも、そのうち忘れてしまったりも当然するの。パパとママにはわたしは物覚えが良い方だと褒めてくれるけれど、流石に全てのことを覚えてられることはない。なんだろう、魔法のことだったらもっと覚えていられるのにな。
……やっぱりわたしにとって、魔法の方が歌よりもずっと関心が大きいからなのかな?
それに魔法に関しては、パパとママに後から聞いて学ぶことは出来るけれど、歌のことはそうではないからかもしれない。
パパとママが歌うことが大好きだったら、もっと沢山覚えて帰れたはずだけど。
覚えておきたい歌は、楽譜を買ったりもたまにするの。あとは街の名前と曲名をメモしたりとか。
そういうことをきちんとメモしていると、いつどこで出会った歌なのかもわかりやすいんだ。誕生日のお祝いの仕方も地域によって違ったりする。ただ流石にそのお祝い方は、今まで通り祝っているけれど。
パパとママと一緒にお祝いして、食事を摂っている時は流石に歌ってない。大体覚えた誕生日の歌は、一人で歌っていることも多いかも。
楽しい気分でいっぱいの中で、ただただお祝いを歌うのって楽しいの。
今日のわたしは早起きしてしまったから、パパとママが起きてくる時間まで暇だからというのもあるけれど。
もう少ししたら朝ごはんを用意するよ。
《ベルレナ、朝から何しているの?》
わたしが朝からご機嫌な様子を見せていると、ユキアが目を覚ましたみたい。ユキアはわたしのことを不思議そうな顔で見ている。
「今日はお誕生日のお祝いの日なの。だからね、楽しいなって歌ってしまっていたの」
わたしが笑ってそう告げると、ユキアは納得した様子だった。
「わたし、パパと一緒の誕生日は四回目! ママとは二回目の誕生日で、何だかそれも嬉しいよね。今年はシミーレも一緒だし、徐々に人が増えているんだよ!!」
来年は学園に通いだすわけだから、もっとたくさんの人と出会うことになる。流石に入学してすぐにこの屋敷に連れてこられるぐらいに仲良くなる人は出来ないかも。
でも再来年は、此処に連れてこられるぐらいの仲良しなお友達が出来ているかもね。
そういう先のことを考えると、楽しみだなと思う。
《でもお祝いの日は学園だったりするんじゃない?》
「それはそうだけど、その場合は当日じゃなくて休みの日にこっちに帰ってきてお祝いになるかなぁ。でも当日もきっとパパとママは「おめでとう」って言葉はかけてくれると思うんだよね。はっ、でも学園でも誕生日が嬉しいなと歌ったりしたら、迷惑になっちゃうかな」
わたしたちの今、住んでいる屋敷は周りに家なんて一軒もない。此処は魔物が沢山住んでいる山の上で、普通の人は此処で暮らすことなんて出来ないから。
だからちょっと大きな声を出したり、騒がしくしたりしても誰も困ったりはしないし、迷惑もかけない。
ただ学園で生活を進めるのならば、そう言う認識で居たら駄目なんだろうな。
歌う時は、周りに音が漏れないように魔法を使うべき? それか小声で歌うとか? そういうのがいいのかもね。
出会ったばかりの人に、「お祝いしてほしい」って言ったら嫌がられたりするかな。学園で出会う人たちは突発的な知り合いではなくて、何年かは一緒に過ごす人になるわけだから付き合い方もきちんと考えないと。
改めてわたしはそんなことを考えるのだった。
そうしてユキアと話しているうちに、朝ごはんの準備をしなければならない時間になったので私は部屋を出た。




