魔法大国へと向かう ②
宿の部屋から、窓の外を見下ろす。それだけでもなんだか楽しい気持ちでいっぱいになる。
魔法使いを思わせる姿をした人が多い。
おしゃれしている人はあんまり見かけられないのは、文化の違いと言えるのかもしれない。
「ねぇねぇ、パパ。ローブとか着ている人が多いけれど、全員魔法を使えるのかな?」
「いや、全員ではないだろうな」
「じゃあ、使えない人もそういう恰好している?」
「そうじゃないか?」
「なんで?」
「さぁ」
不思議だなと思ったので、街の人に聞いてみようかなとパパとの会話から思った。
ここで魔法の大会が行われるからなのかな。
パパとママと一緒に食事を摂った後、街をぶらついた。逸れないようにちゃんと三人で手を繋いでいる。こうしていたらもし片手が離れても、どちらかとは一緒に居られるもんね。
人の数が多いから、迷子になる子も多いのかもと思った。
それにしてもこの街は、宿の数が多いなぁ。後は杖のお店とか、魔法関連のお店も結構多そう。服屋さんは、魔法使いっぽい服が多かった。
「ねぇ、なんで魔法使いの服が多いの?」
「この街では大会が行われるからね。そこから英雄が生まれることが多いんだ。皆、そうなりたいと望んで買っていくんだよ」
「皆、英雄になりたいの?」
「それはそうだよ。国で活躍する英雄になるのは誰もが憧れることだろう? お嬢ちゃんはそうではないのかい?」
「んー。わたしには分からないかなぁ」
英雄になりたい。
そういう気持ちはわたしにはよく分からない。
それは力があっても好きなように、前に立つことなく生きているパパとママが傍に居るからかもしれない。
でも憧れる人の真似をしたいっていう気持ちはちょっと分かるかも。大好きな人と一緒のものが増えると嬉しいからね。わたしもパパとママと一緒のものが増えると嬉しい気持ちでいっぱいになるから。
可愛い服を探してみたけれど、あんまり気になるものはなかった。可愛い服探しはこの街ではあんまり出来なさそう。
というか、今が大会の時期だから余計にそういう魔法使いっぽい服ばかりがおかれているらしい。正直、大会の時以外はこの国には来る予定はないので、他の時期にどういう様子かは分からないなと思った。
服屋を後にしてまた街を歩く。
魔法の練習が出来る施設とかも充実しているみたいで、そこは人だかりが凄かった。大会に向けてああいうところで練習したりするのかな? あとは街の外でも練習している人は多いらしい。ただ魔物がいる郊外での練習で命を落とす人もいるんだって。
実際にわたしが街を歩いている時に、お葬式みたいなのが行われているのを見た。
誰かが亡くなるのって怖いことなのに、この街の人たちは割とそれを日常的に受け入れている感があるのがちょっと怖い。
特にこういう大会の時期だとお葬式ってよく行われているらしい。あと身寄りのない人だと、葬式さえもなかったりするらしい。
そんなこの街のことを知りながら、わたしたちはぶらぶらと歩いた。
その最中に、
「うわーん」
泣いている子供を発見した。
街中なのだけど、誰も手を差し伸べる気配がない。どこか関わりたくないといった雰囲気が分かる。……どうしてだろう?
「パパ、ママ。周りが見て見ぬふりなのは気になるけれど、あの子、声かけていい?」
「ああ」
「もちろん」
わたしの言葉に二人は頷いてくれる。
二人ともわたしがやりたいと思ったことを、受け入れてくれる。多分、何があったとしてもパパとママが一緒なら大丈夫だって知っているからわたしはそのままその迷子の子供に近づいた。
「大丈夫?」
わたしがそう言って声をあげれば、その子は顔をあげる。
――その小さな女の子の瞳の色は、赤色。
綺麗な赤だなと思ったら、次の瞬間その色が変化する。
瞳の色がなんらかの影響で変わるっていうこと? わたしはそんな人には会ったことがなかったので驚いた。
驚いたけれど、ただ珍しいだけだと思ったのでその子に手を伸ばす。
「一人で怖かったよね? わたしたちと一緒に行こう。お母さんとお父さんと一緒に此処に来たの?」
わたしがそういって声をかければ、その子は笑ってくれた。
あ、また目の色が変わった。
こうやって瞳の色が変わるのはなんでかな?
なんて思っているとその子が口を開く。
「お母さんと来たの。でも……はぐれちゃって」
「そうなんだ。じゃあ一緒に探そう。泣かないで大丈夫だからね。わたしとパパとママで、一緒に探すから」
きっとこの子のお母さんも、この子がいなくなったことに慌てていると思う。
わたしはその子の手を引いて、パパとママの前に立つ。
「ベルレナ、周りが見て見ぬふりをしていたのは瞳が原因かもしれない」
パパがわたしにそんなことを教えてくれる。
どうして瞳の色が変わっていると、手を差し伸べないのだろうか?




