魔法大国へと向かう ①
すっかり山は赤く色づいている。秋の訪れと共に、わたしたち家族は、予定していた魔法大国フェアラーシェへと向かうために準備を進めている。
といっても、パパとママと一緒だから持っていくものもあまりないし、移動も簡単だけど。
今はフェアラーシェは、わたしの住んでいる山とは違って暖かい季節らしい。違う大陸の、全く異なる地方にあるので季節も異なるのだ。
というわけで、わたしは半そでのシャツとスカートに着替えている。頭には帽子を被る。
あとパパとママも着替えているよ。パパもママも本当にどんな格好でも似合うから、わたしはそれを見ただけで嬉しくなってしまう。
前に大きな街に出かけた時にわたしとママで選んだものとか、パパに着てもらっているの! なんだかんだわたしとママが着てほしいって言ったら、パパは色々着てくれるんだよね。
やっぱりパパってなんだかんだ、ママのことは特別には思っているんじゃないかなって思うけれど全然進展する気配は今の所なさそう。でもパパとママの関係性って、そもそも今の関係に落ち着くまでも凄く長かったはずだから、変わるとしたらいつ頃になるんだろうね?
わたしとパパと、ママで家族になった時から比べると仲良くなっているとは思うのだけど。
「ベルレナ、どうしたの?」
「なんでもない!」
ママのことをじーっと見ていたら聞かれたので、そう答えておく。
不思議そうな顔をしたママと手をつなぐ。もう片方の左手ではパパと手を繋いで、そのまま転移でわたしたちは移動する。
目の前の景色が一瞬で切り替わって、そこは太陽の日差しと暖かい場所で育つ植物がある。
事前に聞いてはいたけれど、思ったよりも暑そう。
パパが手をかざして何かをしている。
「パパ、何しているの?」
「ここは魔法に長けた奴が多いからな。痕跡を念入りに消しておいた」
「そうしておかないと転移してきたのが分かるってこと?」
「そこまで感知できる奴がどれだけいるかは分からないが、もしかしたらいるかもしれないからな」
魔法文化が栄えているこの国は、それだけそういうことが出来る人が居る可能性があるってことなんだなと思った。
パパやママみたいに表立って前に立つことはないけれど、実は感知魔法に優れているみたいな人もいるかもしれないしね。
二人の話を聞いた限り、この国に魔導師は滞在していないみたいだけど。
というか、魔導師が神のように崇められる国だからこそ皆寄り付かないのかもしれない。わたしが知っている魔導師たちは、神のように崇められたいとか、権力を持ちたいとかそういう気持ちなんて全く持たずに生きているように見えるから。
魔導師の存在を知っていて、魔導師に国に留まって欲しいと思うのならばそういう考えをやめたらいいのになぁ……なんて思う。
それでいてパパやママたち魔導師が興味を持つような面白いものを用意すれば、やってくるなんてことはあるだろうに。
そんなことを思いながら、パパとママと一緒に歩く。
一つの街に辿り着いた。
わたしが見たい魔法の大会がある街は、此処からもう少し先に行ったところみたい。
この街は、会場に向かうための通り道でもあるみたい。わたしたちと同じように大会や発表会を目当てに此処にいる人も結構いるみたいだった。
……他国から訪れた人もいるみたいだけど、子供連れの人は大丈夫かな? とちょっと思う。
それはこの国にやってくる前に散々、才能のある子どもは国に引き取られる可能性があると聞いたからだ。
何も知らずに来ているのならば、悲しいことにならないかとちょっとハラハラする。
あと子供だけでここにいる子もいるみたい。わたしと同じ年ぐらいか、それよりも年下の子。
「ねぇ、パパ、ママ。小さい子もいるね」
「大会に出場するためだろうな。活躍すれば生活は安泰になるだろうから」
わたしはその言葉に、納得した。
余裕がなさそうな子が多いのは、その大会で結果を出さなければと焦っているとかなのかな。大会で結果を出したい! といった風な子たちが上手く結果を出せたらいいなと思った。
それからわたしたちは、大会や発表会目当てに会場へと向かう子たちと一緒の馬車に乗った。
わたしも参加するのかと一人の子供に聞かれたけれど、首を振っておいた。そしたらわたしのことを魔法が使えない子供だと思ったのか、ちょっとした魔法を見せてくれた。
馬車でしばらく移動すると、目的の街へとたどり着く。
宿は結構満室が多かった。でもちょっと料金が高めの宿は空いていたので、そこにわたしたち家族は泊まることになった。
大会や発表会を見るためのチケットに関してはパパとママが事前に準備してくれていたみたい。一番料金が安いものだと、見るのが大変らしいというのを聞いた。だからわたしがゆっくり見れるようにちょっと値段の張るものを用意してくれたみたい。




