夏の日、ママの計画で旅行に出かける ⑨
「見て、これ、凄く可愛い。似合う?」
歩きながら見かけた洋服のお店。リボンのついた帽子を試着してパパとママに問いかける。沢山の帽子をわたしは持っているのだけど、お店に行く度に欲しいものが沢山あるの。
こういう洋服や帽子って幾らでも欲しくなるのよね。
洋服作っている人って凄いなって思うもん。素敵なものがお店に行くと沢山あるから。
「ああ」
「とても似合っているわ。ベルレナはどんな帽子でも似合うわよね」
「ありがとう! これ買うね! パパとママに似合うものも選ぶね」
パパとママの言葉に嬉しくなって笑った。
それからパパとママに似合うものを選ぶ。二人の分もよく選んでいるからパパとママの服の種類も増えてきたなぁって思う。パパもわたしが言えば色んな服を着てくれるし、色んな恰好の二人を見れるだけでわたしは嬉しくなるのだ。
いくつかの帽子を購入してお店を出る。
その後、高価なお店の並ぶエリアに寄った。貴族の子たちも多くいる街だからか、そういうお店も多いみたい。バカンスにやってくる人たち向けに色んなものが置かれているのである。
そういうちょっと高級感溢れるお店に足を踏み入れると、ちょっとだけ嫌な視線を向けられたりもする。それはわたしたちが貴族ではないというのが分かったからなのかも。
貴族たちばかりが訪れるお店だとプライドが高い店員さんも多いのかもね。でもパパとママがためらいもせずにそこのお店の商品を購入していたらすぐ態度が変わっていた。
お店にとっては金払いが良いお客さんってとてもありがたいものなんだろうなって思った。でも露骨に態度が変わるとちょっとびっくりする。
貴族だって一目見て分かる子たちには最初からにこやかにしていた。最初からにこやかに接客してくれるお店もあって、そういうお店があると嬉しかった。急に態度を変える人よりもそっちの方がいいよね。
それにしても実際にお金を持っているかどうかとか、どういう存在なのかとか一目見ただけでは分からないものだろうから、あんまり態度を変えない方がいいのになと思う。
わたしは将来、どんなふうに生きていくか分からない。
どういう仕事をしているかも分からないし、どういう暮らしをしているかもまだまだ分からない。ただパパとママとはずっと一緒に居たいとは思っているけれど、その先はまだ分からない。もし何らかのお店とかやることになるなら、態度を変えたりしないようにしたいなって思った。
杖のお店もあって、それなりににぎわっていた。結構人が多かったから入るのはやめたけれど、どうやら人気のお店みたいだった。
「あの杖のお店、にぎわってるね」
「有名な職人の作った杖が入荷しているらしい」
「そうなんだ。なんだか貴族の子たちばかりだね」
外から見る店内は、貴族の子供の姿がよく見られた。自慢げに杖を振り回しているけれど……、小さい子だからまだ魔法は使えないのかもしれない。
すごくはしゃいでいる様子。
わたしも自分の杖が完成したら、あんな風に楽しくて仕方がないって気持ちになるのかな?
材料は集められたけれど、ニコラドさんが忙しいみたいでまだ作成に取り掛かれてない。早く杖作りたいなって気持ちでいっぱいになった。
そのことがパパにはバレバレだったみたい。
「ニコラド、無理やり連れてこようか」
「駄目だよ。ニコラドさん、忙しいもん!」
「それか俺がジャクロナが教えるか」
「それも駄目! わたしはパパとママに完成したものを見せてびっくりさせたいんだもん」
あれも駄目、これも駄目と言ってしまっている気がする。でもパパとママはわたしの言葉を聞いても笑っていた。
「ニコラドさんが来てくれるまで待つから大丈夫! パパとママはただ楽しみに待っててくれたらいいの!」
わたしはパパとママの娘なのだから、二人がびっくりするようなものを見せたいんだ。
わたしが凄いって思っている二人が、わたしの作ったもので驚いてくれたらと思うから。
そうやって楽しく会話をしながら歩いていたら、急に遠く離れたところに火の柱のようなものが出来ていた。
周りが騒がしくなる。
わたしが冷静なのは、パパとママがいるから。それにもっと凄い魔法を知っているから。
「……パパ、ママ、あれって魔法の火だよね? どうしたんだろ?」
「魔法の操作を誤ったように見える」
「それ、大丈夫なの?」
「次の魔法は練られてない。問題はないだろう」
パパは淡々と答えてそういうので、わたしはほっとする。そうしているうちにローブを着た人たちがそちらの方に向かっているのが見えた。
「魔法師組合の連中が来たみたいね」
ママがその人たちを見て言った。
「それも組合の人たちが対応するの?」
「そうよ」
「ニコラドさんもこういうので忙しいのかな」
「ニコラドはああいう小物相手には暇つぶしとかじゃないと動かないと思うわ。もっと他の魔法師が対応出来ない案件は対応しているだろうけど」
ママの言葉を聞きながら、ニコラドさんってやっぱり凄いんだなと思った。結構危ない仕事もしているのかもしれない。




