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パパとのお出かけ ③

 服屋を後にしてからもまだ買い物は続いた。パパは本当にわたしのために色んなものをそろえてくれようとしているらしい。




 雑貨屋や家具屋にも向かった。



 わたしが気に入るものがあるのならば何でも買うといいと、パパは何故だかわたしを甘やかそうとする。

 途中ではっとなって、もしかしたらパパは我儘なわたしに気づいてわたしを試そうとしているのだろうかと思ってしまった。




 だってわたしとパパは本当の親子ではない。




 そう考えると胸が痛むけれど、わたしとパパは他人である。パパはわたしを使おうとして拾っただけだ。わたしが幾らパパを慕っていたとしてもパパがわたしを本当の娘として接する理由はないのだ。

 でももしかしたらパパはわたしを観察しているから、甘やかしたらどうなるかというのも観察しているのだろうか。



 分からないけれど、我儘なわたしを前面に出すべきではないとわたしは思った。

 わたしにはパパしかいないのだから、パパに嫌われてしまわないようにしなければならないのだ。




「ほら、ベルレナ、これはどうだ。可愛いだろう」



 だからパパの誘惑には負けない。



「ベルレナ、これがお前に似合うと店主が言っているぞ」



 可愛い髪飾りを見せられても、



「ベルレナ、これは子供が気に入っているものらしいぞ」



 わたし好みの可愛いお菓子を見せられても、



「ベルレナ、こういうのはどうだ?」



 わたしが部屋に置きたいと思える家具を見せられても。




 我慢していた。本当は我儘なわたしが心の中で「欲しい! 買って!」と叫んでいるけれど、気に入ったものでも一度わたしはいらないという素振りをして、パパがどうしても買ってという時に選ぶということを続けた。




 欲しいものも沢山あったけれど、パパがお金を持っていようともパパに嫌われたくなかったから。



 ちなみに買ったものはパパが魔法でしまっていた。パパは重たいものでも魔法でしまって、持ち運ぶ事が出来るらしい。パパは店主たちに《アイテムボックス》を持っているんだなどと説明していた。それが持っている鞄だとも。



 でもわたしは知っているその鞄がただの鞄だということを。



 パパは魔法が得意だから自力で、色んなものを持ち運べる便利な《アイテムボックス》という鞄のようなことを出来るらしい。パパがその魔法を使えないように周りに装うのもパパが出かける前に言っていた面倒なことにならないためなのだろうか。



 パパと手を繋いで買い物を続けてしばらく経ち、すっかり太陽が空に上がっていた。朝食を食べてすぐに出かけたのにもう昼なのだ。

 パパとの買い物が楽しすぎて気づいたらこんな時間になっていて、わたしは驚いてしまった。

 そしてそんな中でぐぅううとわたしのお腹が鳴った。パパがその音が聞こえたからかわたしを見る。わたしは恥ずかしくなって下を向く。




「お腹がすいたのか。食べるか」




 パパはわたしにそう言って、わたしの手を引いて食事処に向かった。ベルラだった時は家でしか食事を取ったことがなかったから、こういう外で大勢が食べる食事処に来るのは初めてだ。

 話は聞いたことはあったけれど、平民達の食べる食事処は騒がしくて驚いた。



 このお店は入った途端、店員がわたしたちの元に近づいてきて空いている席に案内してくれた。椅子はわたしには少しだけ高くて、中々座れないでいるとパパがわたしを抱きかかえて座らせてくれた。



 屋敷だと魔法で浮かせられるから、パパ自身に抱きかかえられてわたしは驚いた。

 あのわたしをいつも浮かせている魔法も周りには知られない方がいい魔法なのかもしれない。パパは簡単に使っていたけれど、やっぱり凄い魔法なのだろう。



 それにしても椅子に座ったはいいけれど、此処からどうすればいいのだろうか。こういう場所に来たのが初めてなので分からない。

 そんなわたしに気づいたのかパパが冊子を見せてくれる。



「ベルレナ。好きなものをここから選べ」



 そう言って見せられた冊子には、食べ物の名前が書かれていた。なるほど。こういう場所はこうやって食べたいものを選んで出してもらう形式なのか。

 それを理解したわたしはその中から比較的安いものを選ぶ。



「もっと頼んでいいぞ。それだけで足りるのか?」

「うん。足りるよ、パパ」



 パパは少し何か考えるようにそんなことを言うが、わたしはこれだけで十分だ。この身体はまだまだ本調子ではなく、そこまでご飯を食べられるわけではない。それに屋敷ではいつもお腹一杯食べているから、外ではこの位でも問題はない。



 運ばれてきたのは麺の料理で、あまり食べたことのない味で美味しかった。こういう味付けってどうやって生み出しているのだろうか。わたしも料理をたしなむ身として気になったが、聞く事も出来ない。



 料理の本とかこういう街だと売っていたりするのかな。

 でも行きたいとは言いにくいし……と思っていたら、食事の後、本屋さんに連れて行かれた。本は洋服なんかよりもずっと高かった。パパはそこから好きな本を選んでいいと、幾らでも買うと言ってくれたけれど、服よりも値段が高いものをそんなに買ってもらうわけにはいかない。わたしはお金で何かを買うということをやったことがなかったからお金の使い方について詳しいわけでもない。



 それでも今日一日、色んな店を回って、本が高価なものだということぐらいわかる。



 パパは何も買わないという選択をわたしにくれなかった。

 なので、わたしは料理の本を買ってもらった。この街の料理人たちがまとめたレシピ本らしい。今日わたしが食べた麺の料理のレシピもあるだろうかと思うとわくわくした。



 本屋さんの後は、広場に連れて行かれた。

 わたしが楽しめそうな場所ばかりで、いいのだろうかというそんな気持ちになる。




「パパ、行きたいところないの?」

「俺はいいんだよ」



 パパに街で行きたいところがあったのではないかと問いかければそんな風に言われた。そしてパパはそのまま広場で売られていた食べ歩きの出来るお菓子を買ってきてくれる。

 砂糖は高価なものだからこれはお芋をあげたお菓子である。初めて食べるけど美味しい。公爵家ではケーキ類もよく食べていたけれど、パパの家で本を読んで砂糖を使ったお菓子は中々食べられないものだと知った。そういえば屋敷の食料庫には砂糖も大量にあった。それでもその書物を読んでからは大量に使うのがためらわれて、あまり使ってはいない。




「パパ、美味しいね」

「ああ」



 パパもポリポリとそのお菓子を食べていた。パパは表情も変えずにそれを食べているけれど気に入っているのだろう。わたしよりも多くそれを食べていた。パパはこういうお菓子好きなんだなとわたしはパパを知れて嬉しくなった。



 それから街をぶらぶらして、パパと一緒に色んなものを見に行った。

 夕方になると、パパが「帰るか」と口にして、わたしはそれに「うん」と答えた。

 パパとのお出かけ楽しかった。


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