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パパとのお出かけ ②

「わぁ!! 森だよ、パパ!! 一瞬で森だよ!! 凄い、パパ凄い!!」

「……ベルレナ、興奮しすぎだ。煩い」

「わ、ごめん。パパ」



 目の前に広がるのは森だった。



 一面の緑。そして花々が咲き誇り、小さな鳥が飛んでいるのも見えた。木々の隙間から青い空が見えて、それもまたわたしの気持ちを高ぶらせた。



 思わず興奮したわたしはパパに怒られてしまった。わたしはしゅんとする。しゅんとしたわたしの頭をパパはぽんぽんと軽くたたく。そしてわたしはパパと一緒に歩き出した。パパとの手は繋がれたままだ。

 初めて来る場所だというのにパパと一緒で、パパと手を繋いでいるというだけでどうしようもないぐらいの安心感があった。これもパパの力だろうか。




「えへへ」

「楽しそうだな」

「楽しいもん。パパとお出かけだから」

「そうか」

「うん」



 わたしは思わずにこにこと笑ってしまう。

 パパとお出かけというだけでいつもよりも楽しい気持ちになれる。少し森の中を歩くと、街道に出た。




「ひらけてるね」

「旅人のための通り道だからな」




 この開けた土の道は、この土地を治める貴族が築いたものらしい。昔は此処には道などひかれていなかったらしい。そんな場所がこうして旅人たちが通るための道になっているなんてすごいと思う。




「ねぇ、パパ。あれは」

「あれはな――」

「パパ、あの馬車、沢山のものが積まれているね」

「あれはな――」



 わたしがあれはあれはと気になって口を開けば、パパはそのことについて説明をしてくれる。




 商人の乗っている馬車には沢山の荷物が積んであって驚いた。わたしはベルラだった時、当たり前みたいに商人から物を買っていたけれど、商人たちはこうして長い道のりを移動して物を運んでくれていたのだろうか。

 そう思うと不思議な気持ちになった。




 パパは転移という魔法で一瞬で移動することが出来るけれど、普通の人はやっぱりそれは出来ないらしい。やっぱりわたしのパパは凄いなってにこにこしてしまう。

 しばらくパパと手を繋いだまま歩くと、街に辿り着いた。



 その街には門番がいて、わたしたちは軽く話を聞かれた。パパが「娘と共に旅をしている」というと納得された。わたしとパパの見た目はそっくりだから、わたしが娘ということを納得したのだろう。





「ねぇ、パパ。この街で何をするの?」

「買い物だ」

「なにを買うの?」

「お前の物だ」

「わたしのもの?」



 わたしはパパの言葉に驚いて聞き返してしまう。パパはぴたりと立ち止まってわたしを見る。わたしもパパをじっと見つめる。





「そうだ。お前のものだ。あの屋敷はお前が暮らしていくために色々足りないだろう。色々買ってやるから選べ。そして欲しいものがあるなら言え」

「いいの?」

「ああ。いいさ。お前は俺の娘だからな」



 パパがわたしのことを娘といってくれるだけで嬉しかった。パパの本心は分からないけれど、ただその言葉だけでわたしは単純で嬉しくなってしまった。

 でもパパに何処に行きたいかと問いかけられてわたしは答えられなかった。




 もちろん、街に来たのだから行きたい場所は山ほどある。わたしはベルラだった頃から買い物が大好きだった。家のお金でほしい物を沢山買っていた。お兄様に買いすぎだって呆れられて、だけどお父様とお母様は笑って許してくれていた。



 あれも思えばわたしの我儘だったのだろう。わたしが我儘でも、お父様たちは許してくれたけれど、でも我儘じゃないわたしのほうが皆好きなのだ。



 そう思うと、何処に行きたいとか、何が欲しいとかパパに言えなかった。一言でも口にしてしまえばわたしの何処に行きたい、これが欲しいという欲望があふれ出て、わたしはパパに嫌われる我儘な子になってしまう。



 無言になったわたしにパパは、



「服を見るか」




 といってわたしを服が並んでいるお店に連れて行ってくれた。















「わぁ」




 服のお店に辿り着いてわたしは思わず声を漏らしてしまう。



 わたしはベルラだった時から自分で身に着けるものを買うのが好きだった。だから色んな種類のドレスをわたしは持っていた。とはいえ、わたしの身体を使っているあの子はわたしが着もしないのにクローゼットにしまっていたドレスや装飾品を売ったり、孤児院に寄付したりしていたけれど。




 公爵令嬢として相応しい程度のドレスを必要最低限あの子は残していた。思えばあの子はわたしと違って高価なドレスを買うことを好んでいなかったのだ。ぶつぶつと「これが金貨20枚もするなんて」といっていたこともあった。

 こう考えてみると、“わたし”と“あの子”は結構違うと思う。でもそれだけ違ってもお父様もお母様もお兄様も、周りの侍女たちもわたしが居なくなったことには気づいていなかった。





「好きなものを好きなだけ買うといい」

「え」

「いいから」

「で、でも……」




 好きなものを好きなだけ買うといい、なんて言われてわたしは戸惑ってしまう。だってそんなことを言われたら我儘なわたしが顔を出してしまう。




 結局わたしはあの子に身体を奪われてから、自分が我儘だったことには気づけたけれど――やっぱりわたしは我儘なのだと思う。



 だってわたしはこのお店に入った途端、全部欲しい!! ってあれもこれも欲しい!! って思ってしまったから。





 パパに好きなだけ買っていいと言われて、あれもこれもって言いそうになってしまったから。

 パパは躊躇うわたしを見る。ちょっと不機嫌そうで、わたしはパパを怒らせてしまっただろうかと不安になった。

 だけどパパはわたしに何か言うことなく、店員を呼ぶと「この子に似合う服を」といって硬貨を持たせた。





 その女性はパパがお金持ちなお客様だと分かったのだろう。目をキラキラさせてわたしの服を選んでくれた。

 それからわたしは着せ替え人形のように色んな服を着せられた。

 正直言ってわたしは楽しかった。





 だって新しい身体になって、ベルレナになってから白いワンピース以外着てこなかったから。赤、黄、青といった様々な種類の服を身に纏い、わたしはやっぱり自分好みの服を着ることが好きなんだなと思った。

 この服にはこんな装飾品が似合いそうとか、こういう靴が似合いそうとか、そんなことばかり考えてしまっていた。




「お嬢様は大変美しく、全てお似合いです!!」




 女性がそう言ってわたしのことをおだてる。でもその言葉は紛れもない本心だと分かる。だって鏡に映る今のわたしは前のわたしと劣らずに可愛く、どんな服でも着こなしていた。




「ベルレナ、どれが欲しい?」




 これまで何十種類もの服装を身に纏った。その中でどれが欲しいのかとパパはわたしに選ばせようとしている。

 そんなことを言われたら我儘なわたしが顔を出して「全部!!」といってしまいそうになる。だけどそんなことをしてパパに嫌われたくないので、わたしは我儘な自分に見ないふりをする。




「じゃ、じゃあこれ」

「それだけじゃ駄目だろう。他も選べ」

「えっと……じゃあ」




 一着だけ選んだら他にも選ぶようにパパに言われ、わたしはおずおずと選ぶ。最終的に五着ほど選んだ。あと下着も買った。

 パパはもっと買ってもいいと言ったけれど、そこまでは言えなかった。


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