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幕間 とある国の騎士


「やった!! 穴をあけられたぞ」

「これで一歩前進した!!」




 俺は目の前で喜ぶ騎士と魔法使いたちを見ながら、何とも言えない気持ちになっている。




 ……そもそも俺はこの任務自体にあまり気乗りがしていなかったのである。

 俺たちの国では、王位継承権争いが行われている。俺は状況的に不利な第二王子の陣営だった。殿下は文献で、魔導師と呼ばれる不老の魔法使いの存在を知った。不利な状況を覆すには、その魔導師を配下につけるべきだなどと夢物語のようなことを言ったのだ。




 ……俺は正直、本当にそんな魔導師と呼ばれる存在が実在しているかどうかも信じられなかった。



 本当に実在するのなら恐ろしいと思ってしまった。それにそういう存在に配下に下れなんてどんなことが起こるか分からなかった。それに殿下は「何かしら魔導師と呼ばれる存在でも弱みはあるだろう。脅せばいい」とそんなことを口にしていた。






 ……俺は魔導師という存在がどういう存在なのかは知らない。それでもそういう風に書物に名が残されているような存在はとても恐ろしい存在だと思った。

 けれどただの騎士である俺には止めることなど出来ない。結局王族が決めたことに、下の者が反論するなんて出来ないのだ。




 そういうわけで魔導師が住んでいるという山に俺たちはやってきた。その山には強大な力を持つ魔物が多くおり、大怪我を負ったものもいた。

 山の中に小屋を見つけたが、そこはノックしても返答がなかった。誰も住んでいない小屋だったようだ。



 そしてその後、魔法使いたちがある場所に魔法の痕跡があると騒ぎ出した。



 魔法について分からない俺たち騎士は、何を言っているかわからなかった。それに魔法使いの中でもそれを感じ取れるものと、感じ取れないものがいるらしい。……力が弱いと感じ取れないとかで、感じ取った連中が馬鹿にしたように笑っていて気分が悪かった。




 魔法使いというものは、魔法を使えることを誇りに思い、魔法を使えないものを見下す傾向が強い。

 そういう魔法使いたちと一緒に任務をしているというだけでも気が滅入る。





 そうして長い時間をかけて、魔法使いたちが何かをし、そこに穴をあけた。そしてその先には大きな屋敷が見えた。それこそ貴族が住まうような巨大な屋敷だ。こんな屋敷がこれまで隠れていたというだけで俺は驚いた。



 ……やっぱり、これだけの力を持つ存在をどうにかするなんて無理じゃないか? なんて思う。

 だけど、そう思った時には遅かった。





 国の魔法使いたちが、それはもう長い時間をかけて開けた穴が、一瞬で塞がった。まるで何事もないように。




 ――そしてそれと同時に、その場に一人の男が現れる。




 どこからやってきたのか分からなかった。見たことがないぐらい綺麗な男だった。真っ白な髪に、黄色い瞳のその男は、



「うぜえ……」



 そんな風にその顔立ちに似つかわしくないような暴言を吐いた。



 そして次の瞬間には、俺たち全ての動きが止められていた。




 まさか、魔法……?



 しかしその男は、杖も何も持っておらず、詠唱をした気配もなかった。

 例えば詠唱などなく魔法を使えるとしても、これだけの人数の行動を制限するなんてありえない。

 男は何もしていないように見える。




 けれど、次の瞬間には目の前の景色が変わっていた。




 まさか……これは転移!? それも俺たちが連れてこられたのは、我が国のお城だ。守りの魔法がかけられているその場に、その男は悠々と侵入した。




「何者だ!?」



 それもピンポイントに、俺たちに魔導師を従えてこいと命じた殿下の目の前にである。驚いた顔をした殿下は、次の瞬間には、



「そうか、お前が魔導師だな! 我が配下に下ることを決めたのだろう!」



 そんなことを言い放った。



 いまだに身動きを制限されている俺は、何が何だか分からないが、少なくとも殿下が思っているような状況ではないことは分かる。

 というか、俺たちは特にどこの国からの遣いかも口にしていなかった。だというのに――目の前の男は、魔導師と呼ばれる存在はこの場に移動した。記憶が読み取られている……? それに気づいて、俺は戦慄した。



「うぜぇ」

「なっ!! 俺を誰だと思っている!! 俺は王族だぞ!」

「知るか」

「はっ! そんな生意気な口を聞けるのも今のうちだぞ!」



 そんなことをいって殿下は、一つの魔法具を発動させる。ああ、あれは殿下が拷問の際に使うものだ。魔法使いに魔法を使えなくするものだ。

 殿下のその魔法具に抗えた魔法使いを、俺は今まで知らない。

 けれど殿下が自信満々に発動させたその魔法具は、その男には利かなかった。

 その男は殿下を魔法で浮かばせる。目の前に浮かび上がらせた殿下を冷たい目で見据えている。




「ななななっ、俺に何をする!? 俺の配下に加わればお前は――」

「うぜぇ」



 男が何かをした。



 そうすれば、殿下の様子がおかしくなった。

 そんな殿下は床へと落とされる。殿下は何もしゃべらない。そして男はいまだに身動きが取れない俺たちの方へと近づいてくる。そして無言のまま手をかざされた。何かされているのだろうかと、怖ろしかった。




「おい、聞け。この国の上の連中に言っとけ。殺す」



 その目は本気だった。



 男はそれだけ言うと、その場から消えていった。そこでようやく俺たちの動きを封じていた魔法が解ける。




 ほっとしたのもつかの間、その後驚くべき事態が発覚した。

 殿下や、それ以外――魔導師を利用すべきなどという考え方を持っていた殿下に同意していた重臣たちが全員精神を壊されていた。

 ――強い魔法によるショック。それが原因だという。回復するかどうかも分からないとのこと。下手したら殿下たちは一生このままだろうと……、殿下たちを見た魔法使いが告げていた。

 第二王子殿下がそういう状況になり、王位継承権争いは終わった。




 次期国王の座を手にした第一王子殿下は、第二王子殿下たちの状況や俺たちからの話を聞いて「魔導師というものには手を出さないようにすべきだろう」と神妙に告げていた。



 俺も同意である。

 ……想像しただけで身体が震えてしまう。魔法使いを見るだけで身構えてしまう。あの男だったらどうしようと、あの男に殺されてしまうと……そんな恐怖心でいっぱいになった。



 やはり魔導師などという不老の魔法使いには、手出しなどすべきではないのだと改めて思った。



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