屋敷の中でのんびりと過ごす ①
「ふんふんふ~ん」
わたしは鼻歌を歌いながら、窓を開ける。
秘密基地に来訪者が来てから、わたしはしばらく屋敷の外には出ていない。なんだろう、初めてパパと出会った時はわたしは外に出る事なんて考えてもなかった。でも今はパパにたくさんの場所に連れて行ってもらっているし、ユキアと一緒に山を歩いたりしている。
だからなんだかずっと屋敷の中にいるのは、少しだけ不思議な気持ち。
だけどパパ、ママ、ユキアもいるし、全然退屈はしていない。やりたいことは沢山あるもん。
それにしてもこうやって窓を開けるだけでも気持ちが良くなる。
《ベルレナは朝から楽しそうだね》
「うん。楽しいもん。今日は何をしようか、ユキア」
ユキアに問いかければ、ユキアは悩んだ仕草をする。
《じゃあ、今日は魔物のノートの続き書くとかは?》
「いいね。じゃあ、そうする!」
魔物の情報をまとめたノートは、楽しくて少しずつ書き進めている。なんというか、どんどん私とユキアの知っている魔物の情報も増えていくから書き終わる気はしない。多分、書き終わらずにどんどん新しい情報が書き加えられていくのだと思う。
終わりが見えないのって、知らないことをどんどん知ることが出来るってことだよね。凄くワクワクしながら書いているの。いつか魔物の情報をまとめるのに飽きたらやめるかもしれないけれど、しばらくは飽きずにずっと書いていると思う。
ユキアと今日の予定を簡単にたてた後は、朝食の準備をするために台所へと向かう。
「あら、ベルレナ、ユキア、おはよう」
「ママ、おはよう!!」
もう既にママが居たので、一緒に朝食の準備をする。
ママと一緒にこうして料理をするのも楽しい。毎日、どんな料理をパパに食べてもらおうかなんて考えながら一緒に料理をしているの!
「ねぇねぇ、ママ。パパに用事がある人はまだ山に来ているんだよね?」
「そうね。……すぐに諦めたらいいのだけど」
ママは何とも言えない表情でそう言った。ママも同じように誰かがやってきて嫌な思いしたことあるんだろうなと思う。
パパはパパに用事がある人たちと会う気はないみたいだけど、どうなるのだろうか?
どうなるのだろうと思うけれど、全然不安はない。だってパパとママがいるから。
パパとママが居るなら、どんなことがあっても大丈夫だってそんな気持ちになるから。
「ママはやりたくないことをやってほしいって言われた時はどうしていたの?」
「そうね。基本は無視ね。ただ無理強いしてくる相手は殺したわね」
さらりとママがそんなことを言うので、少しだけ驚いた。
ママもそういう冷たさというか、割り切っている部分があるんだなと思う。ママは魔導師だからそれだけ簡単に人の命をどうにか出来るだけの力があって、そんなママ相手にそういうことをしたらただでは済まないのも当然なのかもしれない。
「……ベルレナ。ディオノレはその用事がある連中が本当に聞き分けが悪ければ、ベルレナが驚くようなことをやると思うわ」
「パパが言っていた手荒い反応だよね」
「ええ。そうよ。ディオノレはベルレナには良いお父さんだろうけれど、そういう冷たい面もあるから。私は出来れば……、ベルレナがディオノレのそういう冷たい一面も受け入れてもらえたらいいなと思うわ」
ママは少しだけ真剣な目をして、そんなことを言った。
わたしはママの言っていることが少し分からなくて、首をかしげる。
「ディオノレは優しいだけじゃなくて、冷酷な面だって持ち合わせているってことよ。そういう面って子供にとっては怖いものでしょ? ディオノレはベルレナに怖がられたら悲しむと思うもの」
パパの冷酷な面。
わたしはパパのそういう面を知らない。パパはわたしに優しくて、わたしはパパのことを大好きだって思っている。
それでももしかたらパパの恐ろしい面を見たらわたしが怖がるかもってママは心配しているのだ。
「わたしはパパが何をしても、パパのことを怖がらないって自分では思っているよ。……でも何も起きてない時だと、口だけになっちゃうかも」
うん、わたしはパパがどれだけ冷たい面を見せても、怖れたりなんてしないって思ってる。だけれども私がアイスワンドで怖がられた時のことを思うと、恐怖心って感情でどうにかなるものではないのかもしれないとは思った。
「そうだと安心するわ。……でも怖かったらその気持ちは隠さないで欲しいとは思うわ。怖いと思っても、その後にちゃんとディオノレを受け入れて欲しいとは思うの」
「うん。まぁ、でもパパが手荒い真似をしないのが一番いいよね」
「そうね」
パパに用事がある人たちが、しつこくないといいなぁとそんなことを思った。




