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ニコラドさんは色々詳しい ④

「あとはベルレナはもっと普通の人がどう生きているかは知った方がいいとは思う」

「うん。わたしの暮らし、周りから見て見れば普通じゃないもんね。街のお友達たちと話しているとやっぱりパパは魔導師だから凄いんだなってそう思うもん」




 わたしはパパに守られて、この場所でのびのびと過ごしている。



 ――危険なことなど何もなく、魔導師であるパパの常識を当たり前の日常として生きている。

 でもそれってちょっと街に出て、お友達と話していても分かるけれど普通ではきっとないのだ。



 わたしはパパとママと一緒によくお出かけをする。だから街の一部分のことは知っている。でも結局わたしは出かけた街でずっと暮らしているわけではなくて、わたしにとっての日常はこの人里離れた屋敷の中なのだ。



「そうだな。だから学園に入学する前にもう少し色々常識は知っておいた方がいいとは思う。そうじゃないと色々めんどくさいからな」

「うん。パパとママが魔導師だってことも、学園では言わない方がいいだろうし、それを周りに気づかれることもしない方がいいよね」

「そうだな。ディオノレは敵対するやつに容赦がない。手を出さなきゃディオノレは大人しく魔法の研究だけしているのに、力を持つ魔導師だからとディオノレをどうにかしようとする考えの奴も多いから」



 ニコラドさんの言葉には実感が籠っている。



 パパは周りに対して興味が少ないので、下手に何かちょっかいを出されることがなければ大好きな魔法の研究をずっと続けているだけなのだ。

 わたしはパパと一緒に過ごしているから、パパがそういう人だって知っている。

 でもパパのことをよく知らない人は、パパのことを勝手に恐れて、パパのことをどうにかしようとしたりもするみたい。




「ニコラドさんにもそういう人たちよく来るの?」

「俺か? まぁ、そうだな。昔はよく来たな。ただ今は色々手をまわしているし、俺の今までの行動も相まってそういうことは少ないな。たまに「魔法師組合を裏で牛耳る化け物め」とか言われて襲われることはあるが」

「え、なにそれ?」

「俺たち、魔導師は不老だろう。いつまでたっても姿が変わらない。普通の人は当たり前に年を取っていくものだ。俺たちは明確に普通の人とは違う。だからこそ勝手に恐れられるし、勝手に色々解釈されてそういう風に襲われることもある」



 ニコラドさんは魔導師が明確に普通の人とは違うから、仕方がないなんてそんな風に笑う。

 ニコラドさんは気にした様子がない。パパやママだってそういう風に勘違いされたり、襲われたりしても気にしないだろう。でもわたしはなんだか悲しいなと思った。



「パパもママも、ニコラドさんも……優しいのにね。魔導師として力を持っていてもそんなことはしないのに」

「ははっ、まぁ、基本的に魔導師なんて極端な奴が多いからな。大体が魔法に傾倒して、魔導師なんてものに至ったやつらだ。でもその感覚は普通の人たちには分からないし、理解もされない」

「そっかぁ」

「分かり合えないやつらとは分かり合えないで割り切った方が楽なんだよ。話してどうにかなるのならともかく、どうにもならないやつらも多いんだから」



 ニコラドさんは軽い調子でそう言い切る。



 それにしてもニコラドさんはいつも笑っているし、明るい人だけど、やっぱり長く生きているからこそ色んな経験をしているんだなと思った。

 わたしはニコラドさんの話を聞いて色んなことを考える。



 魔導師がそれだけ勝手に恐れられてしまうのは、それだけ魔導師が他と違うからだと言った。異種族たちは明確に見た目も違うからこそ、自分たちと違うといっても納得できるのかもしれない。

 でも魔導師は、人と変わらない見た目をしている。だから余計に自分たちと違うことを実感すると怖くなるのかな?




「ねぇ、ニコラドさん。魔導師って人間だけがなるの?」

「俺は会ったことはないけれど、他の種族もいるって聞いたことはある。ただ人間から魔導師になるものが多いと思う」

「それはどうして?」

「元々の寿命が短いからこそ研究にそれだけ必死になるんだろ。それに魔法を使うのに適さない種族も多い。人間にも言えることだけど、自分の産まれた集落だけが全てで、それ以外の暮らしも知らない存在たちなんて今を生きるのに必死で、魔法を学ぶ機会もないやつらも多いからな」




 ニコラドさんの言葉に確かに、と思う。




 わたしもベルラとして生きていた時、魔導師の存在なんて知らなかった。貴族令嬢としての常識しか知らなくて、当たり前みたいに両親のように結婚していくとしか考えていなかった。



 そういう当たり前の常識があって、それに満足していたり、今を生きるのに必死だったりすると皆それどころではないのだろうと思った。



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