ママの部屋と、昔の話 ③
「ママの産まれた場所って、あったかい所だったんだね」
ママの持っている荷物の整理をした後、わたしとママは一緒にベッドに座って話している。
パパは雪が降る地域で生まれたって言ってたけれど、ママは比較的あったかい国で生まれたみたい。
パパもママも私にとって凄くて、子供だった頃が想像できない。でもパパやママにも子供だった頃があるんだよね。
「ええ。あまり良い暮らしとは言えなかったけれど、まぁ、今考えるとかけがえのない子供の頃の思い出だとは思うわ」
ママはそんな風に言う。良い暮らしとは言えなかったというのは、辛いことでもあったのかな。ちょっときになるけれど詳しく聞いていいのかなってわからなかった。
「ベルレナ、難しい顔をしてどうしたの?」
「……えっとね、良い暮らしと言えなかったというの、聞いていいのかなって」
「それを気にしていたの? 大丈夫よ。昔、私の家はとても貧乏だったのよ。子だくさんだけど、お金がなくて」
わたしは身体を奪われる前も貴族の娘で、暮らしに困ったことはなかった。今だってパパとママがいるからなんの問題もなくて。
そう思うとわたしって恵まれているんだなって実感する。
そもそもわたしはパパが見つけてくれなかったらそのまま消えていたはずで。だからこそ、パパへの感謝は忘れないようにしたいなって改めて思う。だってパパに見つけられなかったら、わたしは暮らしに困るとか困らないとかそれどころじゃなかったはずだから。
「それで出稼ぎに出ることになったのよね。少し離れた街へ向かったから色々大変だった記憶があるわ。それで色々あって、中々村に帰れなかったりしたわ」
転移魔法という便利な魔法が使えなかったら、違う村や街に行くのも一苦労なんだなってママの話を聞いていると思う。
「いざ、帰れた時には家族は亡くなっていて、私はそれを知らずに送金していたから本当にびっくりしたわ」
「え。それ、どういうこと?」
「結婚した兄妹とは音沙汰がなくなっていたのもあるけれど、両親に関しては流行病で亡くなったことを村の人たちは私に教えてくれてなかったのよ」
「えっ。そんなことがあったの?」
「ええ。それで仕送りしていた分を取られていたのよね」
ママのそんな昔の話にわたしは驚いてしまった。だって家族のために送っていたお金を事実を隠してまで奪おうとする人がいるなんて信じられなかった。
わたしが驚いた顔をしていると、ママがわたしに続けた。
「世の中にはそういう人がいるのよ。自分のことばかり考えて誰かから搾取しようとする人は結構沢山いるから、ベルレナもそういう人には気を付けるようにね」
「うん。気を付ける。でも……世の中そういう人もいるけれど、そういう人ばかりってわけではないよね?」
「ええ。そうね。半々ぐらいかしら」
「そっかぁ」
半々ぐらいとそう思うぐらいママはそういう人たちと出会ってきたということなのかな。色んな大変な目にもあって、沢山の経験をして――そして今のママがいるんだろうなと思う。
ママは凄く頑張ってきたんだろうなって、ちょっと話を聞いただけのわたしも思った。
「ねぇ、ママの頭を撫でてもいい?」
「私の頭を?」
「うん。なんだかママ、凄く頑張ってきたんだろうなってそう思ったから。ママの頭撫でてみたいなって」
わたしがそういえば、ママは小さく笑って頷いてくれた。
ママの頭に手を伸ばして頭を撫でる。ママの髪は凄くさらさらで、撫でていると気持ちが良い。
「ママ、凄く頑張ってる。わたし、そんなママが凄いなって思うの」
「……こうやって大人になって誰かに頭を撫でられるのってなかなかなかったけれど、悪くないわね」
「ママ、パパに頭を撫でてっていってみたら?」
わたしはママが頭を撫でられるのが悪くないって思うなら、パパに撫でてもらうともっといいのではないかと口にする。
だってママはパパのことが大好きだから、大好きな人に頭を撫でられると凄く幸せな気持ちになるんじゃないかなって思うから。
わたしの言葉にママは凄く動揺していた。
「なななっ、そんなこと、ディオノレにいえるわけないでしょ!」
「ママはパパの奥さんって立場なんだから、甘えちゃえばいいと思うよ? パパね、結構頭を撫でるの好きなんだよ。わたしの頭もよく撫でてくれるの!」
「それはベルレナだからでしょう。その、私はあくまで契約だし……」
「んー、大丈夫だと思うよ? パパはママにそんなことを言われたらちょっと驚くかもしれないけれど、なんだかんだ頭撫でそうな気がする」
わたしはそう言ったけれど、ママには首を振られてしまった。
29日の活動報告で書影公開しています。
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