幕間 氷の国の騎士 ②
「……ベルレナちゃん、ショックを受けていなければいいんですけど」
「ショックは受けているでしょうね」
俺、マドーキはダニエメ様と話している。
ベルレナちゃんとディオノレさん……、そしてベルレナちゃんの母親にあたるというジャクロナさん。その三人が氷の国にやってきたのは、俺がベルレナちゃんたちと会ってから一年近く経過した日だった。
――俺はまたベルレナちゃんたちに会えたことが嬉しかった。
ゆっくり話をしたいと思っていた。このアイスワンドの国の王族であるビデック殿下とキデック殿下を連れて、ダニエメ様のもとを訪れた時、お二人がベルレナちゃんと仲良く話していることにほほえましい気持ちになったものだ。
なのだけれども……、結果は予想外だった。
ビデック殿下たちに連れ出され、ベルレナちゃんは外に出た。
――そしてその先で、ベルレナちゃんは魔物を倒した。ビデック殿下たちに襲い掛かっていた魔物を倒したベルレナちゃんは感謝こそされるのが当然とはいえ、恐れられる理由はない。
……でもまだ子供であるお二人には刺激が強すぎたようだ。
刺激が強すぎて、ベルレナちゃんにおびえてしまったのだ。
ベルレナちゃんはあれだけ可愛くて、か弱い少女に見えても――、魔導師の娘であるというのは事実なのだとそう実感した。
俺もベルレナちゃんがそれだけの力を持っていることには驚いた。
「……ビデック殿下たちの心がもっと強くなったら、ベルレナちゃんのことを受け入れられるようになれると思うのですが。ベルレナちゃんには悪いことをしました」
「あの二人がベルレナを受け入れるようになったところで、ベルレナがあの二人と仲良くするとは限らないわよ。怖がってくる連中なんて放っておけばいいってそういう教育をジャクロナたちはするだろうから」
ばっさりとダニエメ様はそう言った。
魔導師――そう呼ばれる人たちは、強大な力を持つ存在である。その力はどんな奇跡だって起こせる。このアイスワンドの国の中でも、ダニエメ様に恐怖心を抱いている者だっている。
ダニエメ様はこのアイスワンドの国を守り続けてきた英雄ともいえる存在なのに。
今、精霊獣の件でこの国の天候は荒れに荒れている。――それを解決できないダニエメ様のことを好き勝手言う者もいる。
魔導師と言えど万能ではなく、解決できないこともある。
だというのに、そのことを理解しない者はダニエメ様を悪く言ったりもする。
「……そうですか」
「そうね。ベルレナはもしかしたらしばらくこっちに来てくれないかもしれないわね。あんな風に怖がられたら嫌な気持ちにはなるだろうから」
「それはちょっと寂しいですね」
「そうはいっても、あの二人はまだおびえているのでしょう? こちらにも来なくなったし」
「……そうですね。お二人が何を考えているかは分からないですが、今はおびえてしまってますから」
ビデック殿下たちは、おびえてしまっている。
ダニエメ様の元へも訪れるのを躊躇している。
恐怖心を抱いてしまった気持ちは、おそらく時間をかけないと解消出来ないだろう。
「まぁ、幾ら恐怖心を克服したところでおびえた事実は変わらないのだから、仲良くは出来ないでしょうね。私も次にいつベルレナたちに会えるかしら? 会いに行くのは難しいから来てもらうしかないのだけど」
……ダニエメ様は、このアイスワンドの守護者であり、この国から外に出ることは中々難しい。ダニエメ様はこの地を真に守っている存在で、ダニエメ様が外に出続けると封印魔法が解けてしまう。
この国には、封印されているものがいると俺も昔から言い伝えとして聞いている。子供の頃はただの昔話だと思っていたけれど、今はそれが事実だと知っている。
――殿下たちがベルレナちゃんへの恐怖心や戸惑いを無くし、そしてベルレナちゃんがまたこの国を訪れてくれればいいと俺はそれをただ望むのであった。




