動けるようになって ②
わたしの部屋の隣のパパの部屋の扉を開ける。
「また、ちらかってる」
パパの部屋は汚い。パパが寝る前に読んでいた書物が転がっていたり、飲みかけの珈琲の入ったコップが置かれていたり、脱いだ服がそのままにされていたり……。パパは片づけを面倒だと思う性格らしかった。
屋敷自体はそれなりに綺麗な状態に適度にしているらしいが、パパの部屋に関しては結構物が散乱しがちだ。わたしはパパの部屋をこの前掃除したのだが、また物が色々溢れている。
ただ埃などはない。それはパパが屋敷にかけている魔法の効果らしい。
「パパ! 朝だよ」
「……ん」
わたしが大きな声をあげても、パパは夢の世界に旅立っている。
パパは寝起きが悪い。わたしが何度起こしても中々起きない。こんなに寝起きが悪い人が、わたしが歩けない間は一生懸命はやく起きようとしてくれていたのだと思うと、嬉しかった。
「パパ」
わたしは床に散乱している物を踏まないように歩きながらパパのベッドに近づく。パパのベッドは一人ではもったいないぐらいに大きい。これはただ単にパパが快適なベッドで眠りたいからというのが理由らしい。パパは眠ることが好きなのだ。
「パパ、朝だよ。起きて。一緒に朝食、作ろう」
動けるようになったら美味しい料理を作りたいと思っていたわたしだが、公爵令嬢として生きてきたわたしは料理の仕方など分かっていない。そんなわけで「料理をしたい」といったわたしにパパは一緒に食事を作ってくれることにしたのだ。
パパは魔法の扱いがとてもうまいから魔法でなんでも出来るのだが、わたしに料理を教えるためかちゃんとパパ自身が一緒に料理をしてくれている。
「パパ!!」
何度かパパの身体をゆすって、呼びかければ、ようやくその瞳が開いた。
そのお月様のような黄色の瞳が、何事だとでもいう風に視線をさ迷わせる。そしてわたしの瞳と合う。
「……ベルレナか」
「朝だよ、パパ」
「ん」
「寝ない! 朝だよ、パパ!!」
「……俺の中ではまだ夜だ」
「パパの中ではそうでも、今は朝!!」
パパはもっと眠りたいらしく、子供みたいに駄々をこねる。寝起きのパパは見た目よりも子供っぽい。パパはわたしよりもずっと長生きをしていて、わたしよりもずっと大人なはずなのにこういうところはわたしよりも子供なように見えた。
パパはようやくむくりと身体を起こす。その綺麗な白い髪がボサボサになっている。パパの寝相はあまりよくないようなのだ。起きるといつも寝ぐせがひどい。
「……ベルレナ。おはよう」
「パパ、おはよう」
パパはまだ眠たそうだが、わたしの方をみておはようと挨拶をしてくれた。わたしも笑顔でその挨拶に返事を返す。
その後、パパは魔法を使って顔を洗ったり、寝ぐせをただしたりした。なんとも贅沢な魔法の使い方だが、パパにとってこの位朝飯前らしい。パパ凄い!! とわたしはその度になる。
「パパ、朝ごはん、準備しよう」
「ああ」
パパは起き上がると、台所へと歩き出す。その時にパパはわたしの歩くペースを考えて、ゆっくり歩いてくれる。わたしは歩けるようになったとはいえ、まだ走れるほどではないのだ。パパのその心遣いにパパはなんだかんだ優しい人だよなぁと思う。
パパと一緒に台所に辿り着く。
台所でパパと一緒にパンを焼いたり、炒め物をしたりする。パパの料理は大体焼くで終わる事が多いらしい。あとは適当にスープを作るとか。
パパはわたしに教えるために魔法を使わずそれらをやってくれた。わたしが将来的に魔法が使えるかはわからないけれど、今は魔法を使えないから魔法なしでの料理を教えてくれているのだ。
わたしもいつかパパみたいに魔法を使えるようになるかな。でも例え魔法を使えるようになったとしてもちゃんと自分の手で料理の練習はしておきたいな。もしかしたら魔法が使えるようになったとしても使えない場合があるかもだし。
それに料理みたいな日常的なことに魔法を使えるのはパパだからだと思う。限られた世界しか知らないわたしだってそのくらいは分かる。
「パパ、手先器用だね」
「生まれつきだな。お前も慣れないわりにはちゃんと出来ているな」
パパの手先が器用で、凄いなぁと思った。パパは魔法が得意だったり、手先が器用だったり、本当に色んな事が出来て凄い。パパはわたしのことを慣れてない割にはちゃんと出来ていると褒めてくれたけれど、もっとパパの役に立てるようになりたいな。




