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高周波対物爪


 歯を食いしばりながら、製造装置の陰から躍り出ながらMP18を連射する。銃声と弾丸が弾き飛ばされる音を聞きながら別の製造装置の陰へと飛び込んだ直後、金属製のカバーで保護されている製造装置の表面を、サクヤが鹵獲したMP18から放たれた9mm弾が立て続けに直撃した。


 彼女を無力化するためにやってきた俺たちのアドバンテージは、丸腰のサクヤと違って武装している事と、武装した兵士が2人いることだった。もう1人仲間がいるという事は挟撃ができるという事だし、銃で武装しているという事は彼女の攻撃の射程距離外から弾丸を叩き込めるという事を意味する。


 だが、博士はサクヤの奇襲で頭をぶっ潰されて殺されてしまったし、彼女の銃をサクヤが鹵獲したことでこっちだけが武装しているというアドバンテージも消え失せてしまった。自分よりも格上の相手と同じ条件で戦えば、どちらが不利なのかは言うまでもない。


 製造装置の陰からバレルジャケットで覆われた銃身を突き出し、サクヤに向かって9mm弾を放つ。運よく外殻の隙間を弾丸が直撃してくれれば9mm弾でもダメージを与える事ができるんだが、MP18の命中精度はそれほど高くないため、外殻の隙間を直撃する確率は高くないだろう。


「!!」


 彼女の放った弾丸が、俺隠れている製造装置を何度も直撃して甲高い音を奏でる。当たり前だが、俺はキメラのように外殻を生成して身を守ることは”まだ”できない。ステータスも初期ステータスのままなので、被弾すれば普通の兵士と同じように大ダメージを受ける。


 3つ目のマガジンが空になる。4つ目のマガジンを装着しつつ、ホルダーの中に入っている最後のマガジンを見下ろして舌打ちをした。運よく外殻の隙間を弾丸が直撃してくれれば彼女を無力化できるが、威力の低い9mm弾でキメラの外殻を貫通することは不可能だ。サクヤは首から上は外殻を生成していないため、頭を狙えばすぐに殺せるのだが、セシリアには『できるならば殺すな』と言われている。あそこを狙うのは、無力化が困難だと判断した場合の最終手段だ。


 これ以上弾丸を叩き込んでも、彼女にダメージを与えることはできないだろう。


 ちらりとホルダーの中の手榴弾を見下ろしたが、それに手を伸ばして投擲することは許されない。ここはホムンクルスの赤子たちが製造される製造区画だ。現在は装置が金属製のカバーや装甲で覆われているものの、あのカバーは拳銃用の弾丸から装置を保護することしかできない。ライフル弾で撃たれれば貫通されてしまうし、手榴弾の爆風にも耐えられない。


 周囲の装置に損害を出さないように戦うには、外殻の隙間に弾丸を叩き込むか、白兵戦しかない。


 白兵戦―――――――。


 左手の指を見下ろす。普通の人間の指よりも第一関節から先が長くなっている指には、折り畳み式のナイフの刀身が収納されている。これを展開するだけで、敵兵の首元を容易く切り裂く事ができるのだ。


 こっちはステータスで身体能力を全く強化されていないただの人間の兵士であるのに対し、相手はステータスで身体能力を強化されている上に、人間よりも身体能力が大きく発達しているキメラである。しかも実力は、現在の団長であるセシリア以上だ。白兵戦を挑んだとしても、両手両足を粉砕されて止めを刺されるのが関の山である。


 だが、このままMP18のマガジンを使い果たすまで通用しない銃撃を続けるよりはマシだ。随分とリスクが高くなるが、接近戦を挑んだ方がいいかもしれない。


 MP18を背中に背負い、呼吸を整えながら指に収納されている合計10本の折り畳み式ナイフを展開する。もう左腕が痙攣することはなくなったから、こいつを使って戦っても問題はないだろう。


 一瞬だけ頭を上げてからすぐに引っ込める。その瞬間、サクヤが手にしたMP18を発射し、銃声と跳弾する音を製造区画の中に響かせる。


 フェイントが成功したのを確認してから、両腕の義手を盾にしつつ姿勢を低くして装置の陰から躍り出た。


 9mm弾が漆黒の義手を直撃するが、この義手は金属製の部品で作られている。ボルトアクションライフルの弾丸も弾く事ができるほどの防御力があるのだから、9mm弾で貫通できるわけがない。


 姿勢を低くしながら肉薄し、右腕を大きく伸ばす。そのままバランスを崩して右へと転倒してしまいそうになるほど身体を傾け、右腕から展開したナイフ()を床に擦りつけながら思い切り振り上げる。


 漆黒のナイフが、サクヤの右肩を掠めた。ナイフの先端部が外殻に触れた瞬間に一瞬だけ火花を発し、でっかい岩にチェーンソーを叩きつけたかのような甲高い音を響かせる。


「くそっ!」


 やはり、通常の状態で外殻の切断は無理か………!


 MP18を投げ捨てたサクヤが、外殻で覆われた左腕を突き出してくる。指先からは、俺の義手のナイフほどではないものの、鋭い爪が伸びていた。敵兵の喉元に突き立てれば容易く息の根を止められるだろう。


 その一撃を義手で防ぎ、一旦距離をとる。


 通常のナイフで外殻を切断できないのであれば、これを使うしかなさそうだ。


 左腕の義手の肘にあるスイッチを押す。その瞬間、左腕に煉獄の鉄杭(スタウロス)の代わりに内蔵されていた高出力型フィオナ機関が起動し、両腕と両足に魔力の伝達を開始した。


 義手と義足の繋ぎ目が、真紅の光を発し始める。


《フィオナ機関、起動。魔力伝達を開始》


 甲高い声がフィオナ機関の軌道を告げた。やがて、展開しているナイフも徐々に真紅に染まり始める。


《伝達率、50%》


 魔力の反応を検知したらしく、サクヤが後ろへとジャンプした。床の上に転がっていたMP18を手に取り、それをこっちへと向けてからトリガーを引いてくる。


 先ほどと同じように右腕で弾丸を弾きつつ、姿勢を低くして肉薄する。姿勢を低くした状態から爪を振り上げてくる事を予測していたらしく、サクヤは銃撃を止めてMP18の銃床をこっちへと突き出してきた。


 振り下ろされた銃床を回避し、彼女が持っているMP18へと向けて思い切り左腕の爪を薙ぎ払う。一瞬だけ金属が溶ける臭いがしたかと思うと、甲高い金属音と火花が至近距離で産声をあげた。


 真紅の5本の爪は、容赦なくMP18のバレルジャケットを両断していた。微塵切りにされた銃から手を離したサクヤは無表情のまま外殻で覆った腕でその爪を防ごうとするが―――――真紅に染まった切っ先が外殻に触れた瞬間に、またしても甲高い音と火花が産声をあげる。


 先ほどの一撃は外殻を切断する事ができなかったが、今度の一撃は彼女の漆黒の外殻へと食い込んでいたのである。


 攻撃を喰らうのは拙いと判断したのか、後ろへと大きくジャンプするサクヤ。床に転がっているフィオナ博士の死体からコルトM1911をホルスターごと拾い上げ、.45ACP弾を連射してこっちを牽制してくる。


 再び製造装置の陰に飛び込んで回避しながら、俺は呼吸を整えた。


 よし、こいつなら攻撃は通用する。


 真紅に染まった爪を見つめながらニヤリと笑った。


 義手の指の部分に内蔵された真紅のナイフは、単なる折り畳み式ナイフではない。ステラ博士が左腕に高出力型フィオナ機関を搭載するように設計を変更しなければ、単なるナイフだったかもしれないが。


 このナイフは、左腕の高出力型フィオナ機関から伝達される魔力で高周波を生成し、ナイフの刀身に振動を発生させることで切れ味を爆発的に高めることが可能なのである。発動中は刀身、義手、義足、角の繋ぎ目が真紅に変色する上に魔力を発生するため、敵に簡単に発見されてしまう恐れがあるものの、フィオナ機関が生成する高周波は手にしている全ての刃物に振動を発生させて切れ味を向上させるため、白兵戦での殺傷力は一気に上がるのだ。


 このナイフの正式名称は『高周波対物爪』というらしい。出力を上げれば15mmの装甲を強引に切断することも可能だという。


 爪を展開したまま、肩のホルダーに収まっている投げナイフを掴み取る。義手から伝播した高周波が投げナイフの刀身を真紅に染め上げ、投げナイフにまで振動を発生させてしまう。振動によって切れ味を高められたナイフを投擲しつつ、再び姿勢を低くして肉薄する。サクヤは投げナイフを左腕の外殻で防いだものの、切れ味が上昇した投げナイフはそのまま彼女の外殻に突き刺さった。


 外殻の裂け目から溢れ出た鮮血が、製造区画の床に滴り落ちる。


 キメラの外殻は皮膚が変異したものである。つまり、外殻を貫通されたり切断されるという事は、皮膚を貫通されたり切断されることに等しいのだ。


『――――――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 外殻に刺さっていた投げナイフを引き抜いたサクヤが、雄叫びを上げながら突っ込んできた。頭も漆黒の外殻で覆い、頭部から突き出ている2本のダガーのような翡翠色の角も更に伸びていく。


 キメラの角は、感情が昂ると勝手に伸びていくという特徴があるのだ。


 爪を展開した両腕を振り回し、サクヤの両腕の外殻を切り刻んでいく。立て続けに血飛沫と火花が舞い散り、血が焦げるような臭いが鼻孔へと流れ込んでくる。右腕を振り上げて鎖骨へと向かって振り下ろしたが、爪が彼女の方の外殻を切り刻むよりも先に義手をサクヤに掴まれてしまう。


『セシリアは………わたし………が………ま……まも……ま………まも………る………!』


「!」


 彼女の自我か………!?


 鹵獲されたサクヤは、ここで錬金術師たちによって調整の上書きを行われていた。主任の話では、彼女の脳に施されていた20%の調整のうち8%は上書きが完了している状態だったという。


 肉体に封じ込められている彼女の魂が、弱まった調整に支配されている自我を奪還しつつあるのか………!?


「グッ!?」


 次の瞬間、脇腹に彼女の強烈なボディブローが食い込んだ。腹へと向かって突き出したパンチというよりは、まるで鉄骨が脇腹を直撃したかのような破壊力である。転生者の能力を使える上に筋力が人間よりも発達しているキメラの本気のボディブローを喰らった常人が、ただで済むわけがない。


 吹っ飛ばされながら、今の一撃で肋骨が3本ほどへし折られていることを悟った。口から鮮血が溢れ出し、床が黒と真紅の迷彩模様に染まる。


 ポーチの中からエリクサーを取り出して口へと運び、骨折をすぐに治療する。へし折られた肋骨が元通りになっていったことを確認しつつ、両腕が血で真っ赤に染まっているサクヤを睨みつけた。


「おい………クソ野郎共なんかに支配されてんじゃねえよ………! あんた、セシリアの姉なんだろう!?」


『セシ………リ……ア………』


 やはり、彼女の魂が調整から自我を奪還しつつある。


 無表情だったサクヤが、目を見開きながら血まみれの両手で自分の頭を押さえ始めた。全身を覆っていた外殻の生成が解除され、セシリアにそっくりな容姿の少女があらわになる。


「彼女はここにいる。あんたや家族の仇をとるために、帝国軍の連中と戦ってるんだ!」


『わたし………あのとき、しんで…………………』


「あんな奴らが施した調整に負けるな。あんたなら――――――――」


『まもらないと…………わ、わ、わた………わたし…………が…………』


 唐突に、サクヤの目つきが虚ろになった。真っ白な肌が再び漆黒の外殻に覆われていき、まるで人間の肉体にドラゴンの鱗や外殻を装着したかのような禍々しい姿に逆戻りしてしまう。


『わるいやつ、わたしがみんなやっつけないと………』


「くそったれが………!」


『わるいやつ、ころす…………ぜつめつするまで、ころす、ころす、ころす…………』


 こっちに右手を突き出し、手のひらに生成した翡翠色の炎を放ってくるサクヤ。翡翠色の火の粉と陽炎を纏いながら飛来する魔術を回避しつつ、再び彼女に肉薄する。


 今の魔術はおそらくファイアーボールだろう。大半の魔術師が一番最初に習得する初歩的な魔術だ。普通なら橙色の炎の球体が飛んで行く魔術なんだが、サクヤのファイアーボールは彼女の体内の魔力の影響なのか、翡翠色の炎だった。


 セシリアの話によると、サクヤの属性は炎と風の2つらしい。


 サクヤに肉薄し、両腕の爪を振り下ろす。だが、先ほどと同じように爪が彼女の外殻を直撃する前に、漆黒の外殻で覆われたサクヤの華奢な両腕に掴まれてしまう。


 今度は逆に、彼女の華奢な指が鋼鉄の義手に食い込み、義手のフレームを徐々にひしゃげさせ始めた。このままでは手首から先が握り潰されてしまうのは言うまでもない。


 右足で踏ん張りながら、左足を持ち上げた。脹脛の部分に力を込めた途端、脹脛に装着されていた小型カバーの中から、真紅に変色した両刃のブレードが金属音を奏でながら躍り出る。


 足に装着されたブレードだ。このブレードも高周波の影響で既に振動を発生しており、切れ味が上がっている。


「目を覚ませぇッ!!」


 叫びながら、そのブレードをサクヤの右足の脛に突き立てた。外殻を貫通したブレードが足の骨を掠めてアキレス腱を貫いたらしく、がくん、とサクヤの身体が揺れる。


 その隙に両腕を振り払おうとする。彼女の両手はあっさりと振り払う事ができたが、今度はその両手で俺の首を掴んできやがった。


「かっ――――――――」


『ころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころすころす』

 

 鱗で覆われたサクヤの尻尾が、顔に装着していたガスマスクを引き剥がした。濃度が薄くなりつつあるとはいえ、対人用の睡眠ガスが鼻孔の中に流れ込んでくるせいで、段々と意識が朦朧としてくる。


 くそったれ。明日花の仇をとるために両腕と両足を機械の部品に変えてもらったというのに、仇をとる前に死んだ筈の女に殺されるとはな………。


 笑えない結末だ。


 爪を彼女の目にぶち込んでやろうと思ったその時だった。


「―――――――姉さんっ!!」


『!』


 銃剣付きの三八式歩兵銃を手にしたセシリアが―――――――サクヤを睨みつけていた。

 



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