メルンブルッヘ襲撃作戦 ブリーフィング
戦闘シーンを書いてるとテンションが上がりますが、こういうブリーフィングのシーンを書いててもテンションが上がります(笑)
「6時間前、西部戦線に潜伏中だったエージェントから報告があった」
会議室に集合した赤き雷雨の隊員たちにそう言いながら、セシリアは円卓の中央に浮遊している蒼い立体映像を切り替えた。西部戦線の戦場の写真を表示していた立体映像が砕け散り、無数の蒼い六角形の結晶たちが、今度はフランギウス共和国の沿岸部の地図を再現する。
その地図に、連合軍を意味する緑色の勢力圏と、帝国軍を意味する赤い勢力圏が表示された。今のところは連合軍が優勢らしい。
「一週間前、ある転生者が帝国軍の上官の命令を無視して離反し、強制収容所へと送られたという。その転生者は人間以外の種族を迫害するのを止めるように上官や勇者に何度も直訴をしていた”良い奴”だそうだ」
「ほう、そういう転生者は絶滅危惧種かと思った」
「ああ、私も博物館でしかお目にかかれないと思っていた。…………結局、彼は帝国軍の命令に違反した挙句、皇帝に反旗を翻そうとした危険分子という汚名を着せられ、強制収容所送りとなった」
強制収容所………。
虐げられている人々に救いの手を差し伸べようとしたその転生者も、かつて俺が放り込まれていたような強制収容所の檻の中で絶望しているのだろうか。それとも、救えなかった人々の復讐を誓っているのだろうか。
「5日前、その転生者はヴァルツ帝国の帝都からフランギウス共和国との国境付近にある『メルンブルッヘ』へと移送された。どうやら、帝国軍は懲罰部隊でも編成してそいつらに連合軍の相手をさせ、春季攻勢が始まる前に戦力を削られるのを防ごうとしているようだ」
赤い勢力圏と緑の勢力圏が消え、世界地図の映像がズームされる。凄まじい数の小さな蒼い結晶たちの配置が組み替えられていき、メルンブルッヘの地形が再現された。
「スペツナズの同志諸君には、メルンブルッヘにある基地へと潜入し、この善良な転生者を救出してもらいたい。また、フランギウス側からは他に囚われている連合国の捕虜を発見して救出した暁には、連れ帰った捕虜の人数分の報酬を支払うという申し出があった。転生者だけでなく、他の捕虜も救出してくれ」
助け出した転生者から帝国軍の情報を聞き出せるだけじゃなく、連合国の同盟国からは報酬を支払ってもらえるってことか。組織だけでなく連合軍にも貢献できるというのであれば、捕虜の救出も考慮しなければ。
それに、その転生者は勇者にも迫害を止めるように直訴したということは、勇者に関する情報を知っている可能性が高い。勇者さえ消せば帝国軍の転生者部隊は崩壊するだろうし、俺たちも復讐を果たす事ができる。とはいっても、この戦争の最中に奴を消すのは難しいだろうが。
だが、この世界大戦が帝国軍の敗北で終われば、帝国軍は数年後に必ず”第二次世界大戦”を引き起こす筈だ。
第一次世界大戦に敗北したドイツが、第二次世界大戦を引き起こしたように。
だから俺たちはその時に勇者を狩る。
今はあいつに顔や名誉にこれでもかというほど泥を塗り、ポップコーンでも食いながらくつろぐとしよう。
「了解だ、ボス。それで、メルンブルッヘはどんな場所だ?」
「メルンブルッヘは沿岸部にある。フランセン共和国崩壊後からはヴァルツ帝国の領土となったが、世界大戦勃発前まではフランギウスとの領土問題の原因になっていた地域だ。まあ、世界大戦が勃発した以上は”戦勝国の景品”ということになるがな」
「だったら是非フランギウスに買って欲しいですね、同志。俺はフランギウスに金貨30枚賭けます」
「じゃあ俺は年収全部賭ける」
スペツナズの隊員たちが冗談を言うと、セシリアは苦笑いしながら立体映像を切り替えた。
「おいおい、戦争の結末は分かっているだろう?」
ああ、勝つのは連合国だ。
現時点でヴリシア・フランセン帝国軍は壊滅的な損害を被っており、機能を停止しつつある。ヴァルツの同盟国であるアスマン帝国も、テンプル騎士団の身内のような存在と言っても過言ではないため、この帝国は味方と考えてもいいだろう。
それに対し、連合国はフランギウスとフェルデーニャが健在だし、もう少しすればアナリア合衆国も参戦する可能性が高くなる。東部戦線に鎮座するオルトバルカ連合王国も、革命が勃発しかけているにもかかわらず、未だに圧倒的な兵力を維持している。
春季攻勢を退ける事ができれば、ヴァルツは戦争ができなくなるのだ。
「それで、君たちに襲撃してもらうのはメルンブルッヘ沿岸部にある帝国軍の基地だ。軍港には潜水艦や数隻の巡洋艦が停泊していることが確認されている。沿岸部には沿岸砲台群も確認されているため、艦艇での強行突入は不可能だろう。ジャック・ド・モレー級を派遣して沿岸砲台群を破壊してもいいが、その隙に捕虜や転生者が別の場所に移送される可能性がある。救出が最優先目標である以上、迂闊に艦艇で接近して敵との砲撃戦を誘発するようなことは避けるべきだ」
「では、南東部から上陸しよう。そこから徒歩で移動し、基地に潜入する」
基地の近くにある沿岸部へとボートで上陸するのは危険だが、南東部にある浜辺へとボートで上陸するのは大丈夫だろう。基地や沿岸砲台群とは距離が離れているので、上陸前に偵察機に発見されない限りは敵に察知されることはない筈だ。
「了解だ。なお、北部の『ロイジェンデール』ではフランギウス軍とヴァルツ軍が戦闘を繰り広げている。フランギウス軍が突破に成功できる可能性はあまり高くないとは思うが、もしフランギウス軍が突破すれば、そのままメルンブルッヘへと攻め込むだろう。可能な限り速やかに捕虜と転生者を救出せよ」
『『『『了解』』』』
あくまでも、今回の救出目標は転生者だ。
できるならば捕虜は全員助けたいが――――――場合によっては、捕虜たちは二の次にする羽目になるかもしれない。
「それと――――――この作戦には、私も同行する」
『『『『………えっ?』』』』
セシリアはにっこりと微笑みながら立ち上がると、腰に下げている日本刀の柄に手を置きながら扇子を広げた。あの扇子は倭国の商人から購入したものらしく、彼女のお気に入りだという。
「ぼ、ぼっ、ぼ、ボス、あんた………総大将だろ?」
「何を言っている。ゴダレッドでも最前線で戦ったではないか」
「い、いや、今回は少人数での潜入だぞ? ああいう大規模な戦闘とは違って、総大将が戦闘に参加する必要はないと思うんだが」
「スペツナズの実力を見てみたい。それに、私も戦いたくてな」
総大将も潜入するのかよ………。
確かにセシリアは非常に強い。射撃はそれほど得意ではないらしいが、接近戦や白兵戦では間違いなくテンプル騎士団最強だろう。ウラル副団長ですら、接近戦ではもうセシリアに勝てなくなってしまったという。
ちなみに、俺はセシリアとの剣術の訓練で勝ったことは一度もない。彼女は転生者の能力で身体能力が強化されているし、人間よりも遥かに瞬発力や筋力が発達したキメラだから普通の人間では太刀打ちできない。だが、仮に彼女がキメラではなく人間だったとしても、彼女に剣術で勝つことはできないだろう。
だが、彼女の専門は”潜入”ではなく”戦闘”である。敵の弾丸を刀で弾き飛ばしながら銃を乱射して肉薄し、敵兵を一刀両断するのが彼女の得意分野なのだ。
要するに、スペツナズの戦い方には向いていない。
「ボス、潜入の経験は?」
「教官から5年前に訓練と講習を受けた。見つからなければいいのだろう?」
首を傾げながら言うセシリア。確かに敵兵に見つからなければいいのだが、場合によっては敵の警備兵をこっそりと始末する必要があるし、敵が用意したトラップにも細心の注意を払わなければならない。大規模な戦闘とは違って、注意しなければならない事の数が多いのだ。そして1つでも注意を疎かにすれば、敵兵に見つかって袋叩きにされるのである。
くそったれ、油揚げを彼女に渡せば諦めさせられるかもしれないんだがな。今度からは交渉用に油揚げを持ち歩くことにしよう。
それに、総大将も潜入を経験すれば更に強くなるかもしれない。
ならば、俺が潜入の教官になろう。
「分かった。ただし、指揮は俺が執る」
「よかろう。…………では、2時間後に駆逐艦『ヴェールヌイ』に乗艦せよ。ヴェールヌイはスペツナズを乗せた後、艦隊を離れてメルンブルッヘ沿岸部へと移動する。以上だ」
会議に参加した3人の隊員たちと共に、セシリアに敬礼をしてから踵を返す。会議室のドアを閉めてから、俺は頭を掻いた。
テンプル騎士団海軍の艦艇は、基本的にロシア製の艦艇で構成されている。駆逐艦はレニングラード級が運用されているし、重巡洋艦は戦艦に匹敵する主砲を搭載したスターリングラード級重巡洋艦が運用されている。戦艦は40cm砲を搭載したソビエツキー・ソユーズ級戦艦や、24号計画艦と呼ばれるソ連の戦艦をベースにした虎の子のジャック・ド・モレー級が運用されている。
海軍は陸軍や空軍のように大損害を被らなかったため、辛うじて圧倒的な戦力を維持し続けているのだ。
キャメロットで作戦の準備を終えたスペツナズの隊員と共に、メルンブルッヘへと向かう駆逐艦『ヴェールヌイ』の甲板を見渡す。当たり前だが、ジャック・ド・モレー級の準同型艦であるキャメロットと比べると甲板は小ぢんまりとしているし、搭載されている主砲もジャック・ド・モレー級の主砲と比べると非常に小さい。
このヴェールヌイは、テンプル騎士団海軍で運用されている唯一の”日本製の駆逐艦”だった。元々は”響”という名前の駆逐艦で、旧日本海軍が運用していたのである。
俺たちが乗っているヴェールヌイは、倭国――――――前世の世界で言うと日本だろう――――――にあるテンプル騎士団の支部で運用されていた駆逐艦だ。本部が壊滅する前に倭国支部から練習艦として使うために供与され、響という名前からヴェールヌイという名前に変えられたという。
タンプル搭陥落の際は、負傷兵や生き残った兵士たちを乗せてタンプル搭からの脱出に成功しているらしい。その後に、武装を施されて主力打撃艦隊に編入されたのだ。
前部甲板にある砲塔の側面には、倭国支部の乗組員が書いたのか、真っ白なペンキで『本部でも頑張れよ』、『響、今までありがとう』、『向こうでも立派な乗組員を育ててくれよ』と書かれているのが見える。
倭国の文字は日本語と全く同じだった。発音も全く同じなので、前世の日本語を放しても問題ないらしい。この世界の公用語であるオルトバルカ語も通じるが、倭国人がオルトバルカ語の勉強を始めたのは開国してからであり、オルトバルカ語が通じない地域もあるという。
「倭国語なのか、この文字って」
砲塔に書かれている倭国の乗組員たちからのメッセージを見つめていると、興味深そうに倭国の文字を眺めていたジェイコブが言った。
彼が身に纏っているのはテンプル騎士団陸軍の制服ではなく、黒いフードの付いたスペツナズ用の制服である。左肩にあるワッペンのエンブレムも、陸軍のエンブレムから血の雨と髑髏が描かれた赤き雷雨のエンブレムに変わっていた。
そう、こいつも入隊試験に合格してスペツナズに入隊したのである。
「ああ。ちなみに、前世の世界で俺が使ってた言語や文字と全く同じだ。そのまま通じるらしい」
「マジかよ、便利だなぁ。俺も一応勉強しとくか」
ジェイコブは色んな言語を習得している。現時点では8つの言語を習得しており、ヴァルツ語も喋れるので、ヴァルツ人の捕虜の尋問はこいつに任せている。
とはいっても、俺の持っている端末には翻訳機能もあるらしいので、わざわざ言語を勉強して習得する必要はないんだがな。
メルンブルッヘに上陸するメンバーは5人ということになった。今回の作戦は、転生者や捕虜を救出しなければならない上に、場合によっては戦闘中のフランギウス軍がメルンブルッヘへと攻め込んできて混乱する恐れがあるからだ。そのため、1個分隊のみで潜入し、残った2個分隊には新兵たちの入隊試験の継続を頼んでおいた。場合によってはその試験を中断し、こっちの救援に来てもらう事になるかもしれないが。
前部甲板で艦首を見つめていると、第一分隊の他のメンバーもやってきた。
こっちに向かって敬礼するエルフの女性の兵士とオークの男性の兵士に敬礼し、ニヤリと笑う。
「今回の作戦は寂しくなりますね、同志少尉」
そう言いながら、エルフの女性の兵士は真っ赤なベレー帽を手で押さえる。
彼女は『コレット・ベイカー』伍長。アナリア合衆国出身の女性で、SMGでの近接戦闘や爆発物での破壊工作を担当する。優しそうな目つきをしており、傍から見れば清楚そうな女性に見えるかもしれないが、非常に強気な女性である。
コレットが持っているのは、銃身を切り詰めたライフルの銃身にバレルジャケットを装着し、左側面にマガジンを装着したような外見の『MP18』と呼ばれるドイツ製のSMGだった。第一次世界大戦で開発された代物であり、最初期のSMGの1つである。
フィオナ博士に何度も端末のアップデートをお願いしていたおかげで、第二次世界大戦の頃の銃も生産できるようになりつつあるので、彼女はそろそろMP18とお別れをする準備をするべきだろう。嫌がるかもしれないが、もっと高性能な銃はたくさんあるのでそっちを装備してもらいたい。
彼女の隣に立っているのは、マドセン機関銃と予備のマガジンがたっぷりと入ったポーチをこれでもかというほど身に着けている大柄なオークの男性の兵士だった。身長は2m以上で、巨体はがっちりとした筋肉に覆われているのだが、非常に優しそうな目つきをしている。
彼は『マリウス・ドルグマン』伍長。オルトバルカ王国のエイナ・ドルレアン出身のオークの男性だ。機関銃や迫撃砲で俺たちを支援するのが役目だが、車の運転も上手いので運転手を担当してもらう事も多い。
「で、でも、今日は団長さんも一緒だよ?」
「分かってるわよ、マリウス。団長も同行する以上、失敗は絶対に許されないんだからね!?」
「き、緊張するなぁ…………」
「深呼吸しろ、マリウス。もしよければ俺の薄い本貸そうか? メイドのハイエルフと〇〇〇〇するやつが最高だぞ?」
「え、本当でありますか!?」
「作戦前に何の話をしてるんですか、ジェイコブ軍曹!?」
ちなみに、ジェイコブの役目は衛生兵である。なので、彼は俺たちよりも多く回復アイテムを携行することになっている。その代わり、得物はコルトM1911の銃身を7インチにまで延長し、ロングマガジン、タンジェントサイト、ストックを装着した代物と、通常のコルトM1911のみとなっている。
第一分隊には狙撃手は存在しない。通常時は他の2個分隊に支援してもらいながら潜入することになっているため、狙撃手は他の分隊に割り当てられるのだ。場合によっては俺が狙撃を担当することもあるが、これから潜入することになるメルンブルッヘの基地内は遮蔽物が多いので、それほど狙撃はできないだろう。
この4人が、赤き雷雨の隊員の中で最も錬度の高いメンバーである。
「まったく、えっちな事考えてたら敵兵に撃たれちゃいますよ! 同志少尉はそういう事に興味ありませんよね?」
いえ、あります。
ちらりとコレットの目を見てから、敵艦のいる方向へと旋回する戦艦の砲塔のようにゆっくりと目を逸らす。
「何で目を逸らすんですかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
実は、キャメロットの自室にはジェイコブから借りた薄い本が5冊ほど隠してあるのだ。
「コレット、力也だって5冊くらい持っ―――――――」
バカ、言うな!
ぎょっとしながらジェイコブの顔面へと手を伸ばし、思い切り義手でジェイコブの口を塞ぐ。けれども、勢いが強過ぎたせいでちょっとしたビンタと化してしまったらしく、ジェイコブは金属製の義手で口の周りを強打される羽目になった。
「るがー!?」
ジェイコブの口を押さえながら、左手で冷や汗を拭い去る。ゆっくりと後ろを振り向くと、コレットは目を細めながら言った。
「さ、最低………」
作戦開始前なのに。
くそ、最悪だ………。
※ルガーP08はドイツ製のハンドガンです。




