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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
最終章 異世界で転生者たちが現代兵器を使うとこうなる
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二度あることは三度ある


「はぁっ、はぁっ……」


 乱れた呼吸を整えようと努力しながら、これだけ攻撃を叩き込んでも平然としているタクヤを睨みつける。


 タクヤ・ハヤカワ本人ではなく、彼女の姿を模し、戦闘力もコピーした複製に過ぎない木偶人形―――いや、あれを木偶人形だの傀儡だの評するのはもう止めるべきだろう。操り人形であることに変わりはないが、そう言って見下していられる相手ではない。


 今までの戦闘人形オートマタが雑兵に思えるほどの力。今までの度重なる交戦で蓄積された戦闘データと、それを元に導き出された結論。試行錯誤トライアンドエラーの賜物と言ってやるべきか。


 ぐぐ、と首筋に突き立てられた刀身の破片を引き抜き、顔色も変えぬタクヤ。傷口からは人工血液が溢れ出ているが、機械たる奴は何も感じていないようで、無表情を貫き通している。


 これでは相手をどれだけ追い詰めているのか、実感が湧かぬというものだ―――ボディブローで折られた肋骨を再生させて立ち上がるが、やはり再生能力の衰えが顕著になりつつあった。今まではあっという間に塞がっていた傷口も、すぐに元通りになっていた骨折も、再生完了まで数秒を要する有様である。


 魂が尽きる瞬間もそう遠くないだろうが―――それでも良い、今更助かろうなどと、生き延びようなどとは思わない。元より死ぬつもりでここに来たのだ。


 未来は全て、子供と同志たちに託した。きっと彼らが、破壊の跡―――焼け野原に再び希望を芽吹かせてくれると信じて、私はここに来た。


 最期に流れる血は、私のもので良い。


 あと12分―――それが私の余命。


 ならば最期まで、戦って死のうではないか。戦って戦って、戦い抜いて最期を迎える―――それがハヤカワ家当主としての、戦乱の時代に生まれた者としての本懐であろう。


 折れた刀の代わりに、腰の後ろにある鞘の中から1本のナイフを引っ張り出した。それはまるで獣の爪のように荒々しく、しかし死神の鎌のように鋭い。相手をただ殺すために生み出された、血塗られた武器。


 在りし日の力也が愛用していた、彼のカランビットナイフだった。


 ボウイナイフのようなサイズのそれをくるりと回し、人差し指をリングに通して逆手持ちに構えた。姿勢を低くし、しかし踵は浮かせて、身体から余分な力を抜きつつ息を吐く。


 こうしているだけで、彼が―――先に逝った夫が、力を貸してくれているような錯覚を覚える。


 そう、錯覚だ。彼はもう、この世にはいない。彼の姿で私に語り掛けてくる者がいるとしたらそれは私の妄想か物の怪の類だ。


 タクヤが両手に炎を纏わせ、天に向かって咆哮した。それと同時に周囲から一斉に蒼い火柱がスパークと共に噴き上がり、蒼いキメラの姿を模した傀儡の頭上に雷が落ちる。


 火の粉とスパークの乱流から姿を現したタクヤの手には、2丁のPL-14が握られていた。


 二丁拳銃―――これもまた、タクヤが得意としていた戦術だ。私ですら2丁の拳銃を同時に、全く同じ精度で扱う領域に達していないのだが、タクヤ・ハヤカワはそれを完全に使いこなし、至近距離での戦闘では彼女の右に出る者はいなかったと言われている。


 ドンッ、とタクヤが跳躍。空中で両目から紅い光の残像を発し、凄まじい勢いでハンドガンを連発してくる。


 9mmパラベラム弾、マガジン内のそれを使い果たさんばかりの勢いの集中豪雨。頬を、肩を銃弾が掠め、身体中を引き裂かれるような痛みと衝撃が苛む。


 自分の血飛沫の中でタクヤを睨みつけ、大地を思い切り踏みつけた。まるで砲弾でも落下したかのような衝撃波が生じ、焼け爛れた地面から小石や結晶の破片が舞い上がる。


 それを左手でまとめて掴み取り、跳躍してから落下に転じたタクヤ目掛けて思い切り投げつけた。単なる投石、それも散らばる小石を投げつけたに過ぎないが、牽制や目くらましとしては十分だった。


 白兵戦ではあらゆるものが武器になる。ナイフ、スコップ、その辺の角材など贅沢なもので、酷い場合はヘルメットや食事用のフォークにナイフ、最悪な場合などはその辺に転がっている石や己の拳―――とにかくあらゆるものが凶器となるのだから。


 礫の群れがタクヤを直撃した。キメラの腕力で投擲されたそれは散弾にも等しく、外殻による防御が間に合わなかったタクヤの白い人工皮膚の表面を、鋭利な小石や結晶の破片が引き裂いていく。


 ケーブルのような形状の尻尾を伸ばし、一体どこから取り出したのかマガジンを交換。そして再び、マガジン内の弾を使い果たしてしまうほどの勢いで贅沢に弾幕を張ってくる。


 が、今度ばかりはさっきとは違った。


 攻守交代だ。


 9mmパラベラム弾、最も普及した拳銃弾の矛先に―――もう、私は居ない。


『―――』


「遅いぞ、木偶人形」


 ぎりっ、と黒い外殻に覆われた私の左手が、タクヤの首筋を掴む。


 ハンドガンを投げ捨て、丸腰でその手を払い除けようとするタクヤ。だが、明らかにさっきよりもパワーダウンしていた。やはり力比べではこちらが有利―――素早い攻撃とアクロバティックな動きに翻弄されず、力比べに持ち込んでしまえば勝機はある。


 次の瞬間、視界に天井が映った。


 平衡感覚が滅茶苦茶になり、何が何だか分からなくなる。


 背負い投げをお見舞いされたのだと理解した頃には、背中を思い切り地面に叩きつけられ、その衝撃で灰の中の空気を全て吐き出されていた。


「かっ―――」


 呼吸もままならず、身体に力も入らない。


 完全に硬直した私に止めを刺そうと、外殻で覆った拳を握り締めるタクヤ。それを振り下ろし、頭を砕こうとするタクヤであったが、そのとどめの一撃が頭を粉砕することは無かった。


 外殻の表面が眉間に触れるか触れないかのギリギリのところで、黒い尻尾がタクヤの腕を絡め取っていた。無論、私の尻尾だ。


『―――』


「―――ッはぁっ!!」


 息を吸いつつ力を込め、右手でタクヤの顔面を殴打。ガギュ、と外殻に阻まれた嫌な音が響くが、隙を作る事が出来ればよい。そのままタクヤの頭を掴みつつ、飛び起きる勢いを乗せて左のストレートで思い切り殴りつける。


 外殻で防がれるが、衝撃は伝わっている筈だ。いくら戦車砲すら受け止めるキメラの外殻とて、吸収できる衝撃には限度がある。これには個人差があるので効果が薄い場合もあるが、記録通りのタクヤの力を模しているというのならば、防御力そのものは平均的なキメラのそれを下回っている筈だ。


 あくまでも攻撃力とスピードに優れた兵士、それがタクヤなのだから。


 右手に握ったナイフで喉元を切り裂きにかかるが、刃が人工皮膚に達する寸前に、右腕をタクヤが掴んで強引に止める。力比べならば、と押し込むが、意外な事にタクヤはここで踏ん張りを見せた。


 ぐぐ、と切っ先が微かにタクヤの皮膚の表面を切り裂く。じわりと滲むのは、透き通った紅い人工血液。


 涙のように零れ落ちた瞬間、腹に強烈な衝撃が走る。


「―――!!」


 よりにもよって鳩尾に膝蹴りを喰らったらしい。


 一瞬ばかり力が弱まったその隙に、攻守が再び逆転する。


 回し蹴りを放ち、側頭部を打ち据えてくるタクヤ。脳が揺れ、視界がぼやけ、一瞬ばかり自分が今ここで何をしているのか、ここはどこなのか―――あらゆる記憶が、頭の中から消える。


 回復する時間も、タクヤは与えてくれない。左へと体勢を崩しつつある私を飛び蹴りで吹き飛ばし、焼け爛れた地面に叩きつける。


 2、3回ほど地面にバウンドしたところで、ようやく頭が再起動。今ここがどこなのか、自分が何をするべきなのか、全てが鮮明に思い出される。


 左手で頭を押さえながら立ち上がると、目の前にタクヤの姿はなかった。


 蒼く焼け爛れた地面に、小さな影が落ちる。


 反射的に身体を捻った。直後、まるで投下された爆弾のような勢いで、タクヤが頭上から襲い掛かってきた。


 頭を踏み砕くべく突き出された蹴りを回避し、岩の破片を浴びつつナイフを振るう。致命傷は与えられなかったが、タクヤの左の眼に大きな傷を与える事に成功したようで、彼女の姿を模した戦闘人形オートマタの動きが一瞬止まる。


 右手を突き出し、収束した蒼いファイアーボールを放つタクヤ。右へと転がってそれを回避し、とにかく右へ、あいつの右へ。


 片方の目が潰れているというならば、こちらは完全に死角だ。回り込めば私の姿は見えまい。


『―――』


 私の姿を追い、立て続けにファイアーボールを放つタクヤ。限界まで加圧された魔力を束ねたそれは、もはや火球の姿を成していない。蒼い熱線の奔流、SF的に言えばレーザーのようだ。掠めただけでも皮膚が焼け、全てを燃やし尽くす恐るべき一撃。


 多くの魔術師が一番最初に学ぶ、初歩の初歩とも言うべき魔術をここまで極めた先人には畏敬の念を抱かずにはいられない。


 が、それも当たらなければ無意味だ。


 常に死角に入り込むように立ち回っているからか、命中精度はいまいちだ。確かに命中すれば致命的な攻撃ではあるものの、一向に命中する気配がない。


 無論、油断はしない。相手は機械、パターンさえ分かれば次にどう動くは予想はつく。が、奴が取り込んでいるのは私たちの戦闘データに先人たちの記録―――機械らしからぬ狡猾な手を打ってくるかもしれない。


 その懸念が、私を救う事になる。


 ぞくり、と首筋に冷たい感触が走る。咄嗟に頭を下げ、反対側へと跳躍した。


 次の瞬間、一瞬の後に私が居たであろう場所を、蒼い電撃の槍が薙ぐ。


 もしあのまま死角を維持しようとしていたら、あの稲妻の束に焼かれていただろう。空気の焦げる臭いに心臓を凍り付かせながらも、攻撃の空振りというこれ以上ないチャンスを手に入れた。


 前傾姿勢になりつつ敵に突進。必中を期した今の一撃を空振りした事が予想外のようで、タクヤの動きが遅れる。


『―――』


「その首―――もらった!!」


 低くしていた重心から、飛び上がる勢いを乗せてカランビットナイフを振り上げる。ヒュン、と空気を引き裂く音に、風を引き千切るかのような不気味な音が連なる。まるでそれは地獄の底から聴こえる死者たちの呻き声にも、獣の唸り声にも思えた。


 セレーションだ。


 相手の肉を荒く、強引に引き裂くために追加されたのこぎり状の刃。本来サバイバルナイフなどの刃物に備え付けられ、鋭さを追求したカランビットナイフでは持ちえぬそれが、力也の得物にはあった。


 これが、奴の仕留めた標的が最期に聴いた音なのか。


 お前を地獄に落とす―――地獄で死者たちが待っているぞ、という悪魔からの死刑宣告。これが聞こえたからにはもう、逃れる術はない。


 ドッ、と今までには無い手応えが返ってきた。


 力也のカランビットナイフ、その恐竜の爪を思わせるサイズの切っ先が、タクヤの喉元を捉えていた。


 じわり、と紅い人工血液が滲んだかと思いきや、次の瞬間にはそれが噴き出し、焼け爛れた大地に紅い飛沫が撒き散らされる。


 それでは終わらない。


 一歩踏み出し身体を反時計回りに回転。勢いを乗せ、左手の裏拳を振り払う。


 傷口を抑え込もうともせず、ここまで肉薄した私を仕留めようと両手を突き出すタクヤ。蒼い外殻で覆われた掌に、蒼い火球と雷球が形成される。


 両親譲りの二重属性―――リキヤの炎と、エミリアの雷。


 素質に溢れる才人でありながら、努力を怠らなかったが故に最強の兵士になった。だからこそ、同志たちは貴女についてきた。


 ならば、私も。


 最大の敬意で応えるまで。


 闇属性の魔力を全力放出。再生能力に回す分の魂も消費して、右手に持ったカランビットナイフの刀身に魔力を纏わせる。


「―――往くぞ」


 それはタクヤへの言葉なのか、それとも自分を奮い立たせる言葉か。はたまた、この得物を使っていた力也への言葉なのか―――それは私にも分からない。


 けれども、それで枷が外れたような気がした。


 大地を蹴り、足を踏み出す。ドンッ、と踏み締めた地面が弾け、蒼い火の粉が舞った。


 タクヤの両手から蒼い熱線と電撃が放たれる。どのような名称の魔術なのか、私には分からない。もしかしたら体内の魔力を術式で変換せず、そのまま垂れ流しているだけなのかもしれないが。


 互いに絡み合いながら直進してくる、暴力的な魔力の奔流―――それに向かって、ナイフを薙いだ。


 ゴウッ、と魔力の奔流が―――タクヤの放った本気の一撃が、砕けた。


『―――』


 続けざまに熱線を放ってくるタクヤだったが、それよりも先に左へと飛んでいた。死角へ、再びタクヤの死角へ。彼の眼の及ばぬ領域へ。


 電撃を放ち追撃するタクヤ。蒼い大蛇の如き雷に捉えられるよりも先に跳躍し、空中へ。


『―――』


 タクヤの放った蒼い熱線が左肩を掠めた。肉があっという間に焼け焦げ、引き攣った皮膚のせいで左腕の動きが阻害される。まるで石膏で塗り固められたかのようだったが、ナイフを持つ右手が無事ならばそれで良かった。


 振り下ろした一撃が、タクヤの眉間を捉えた。恐竜の爪みたいなナイフが眉間を覆う人工皮膚を易々と貫き、人間であれば脳が収まっているであろう場所にある制御ユニットまで達する。


 奴の眼から、光が消えた。


 ナイフを引き抜き、後ろへと飛ぶ。残っていた手榴弾を空中で取り出し、それをダメ押しにとタクヤへ向けて放った。


 既に機能を停止していた、戦闘人形オートマタの完全体。天を睨む格好で動かなくなったそれが、手榴弾の爆炎に包み込まれる。


 ホムンクルスのオリジナルとなった相手の姿が炎に呑まれたところで、身体から力が抜けていくのが分かった。


「……」


 限界は近いのかもしれない。


 体内の魂は枯渇しつつあり、魔力もさっきの一撃でかなり消費している。戦えない、というわけではないが、戦う力はかなり限られている。


 まあいい、ハーキュリーズ13の落下まであと10分―――終末誘導まで踏み止まれば、後は全てを消し去ってくれるだろう。


「……?」


 ゆらり、と炎の中で人影が立ち上がる。


 タクヤ―――では、ない。


「……まさか」


 タクヤにしてはがっちりとした、筋骨隆々の巨漢。


 それはまるで、北方に生息しているというヒグマを思わせる。180cmの人間の肉体に、ありったけの筋肉を詰め込み、それを強靭な骨格で強引に支えているかのような後ろ姿。


 格闘家のような、という比喩表現ですら華奢に思えてしまう、その迫力。


 頭から伸びる頭髪はまさに、燃え盛る地獄の業火そのものだ。


 その姿はまるで―――。








「ご先祖様……?」








 二度あることは三度ある、という言葉が極東にはある。


 ああ、そうか。


 これで終わりだなどと考えた、私が浅はかであった。


 力也、そしてタクヤの戦闘データまで蓄積していたというならば―――この男のデータもあるべきだと、この力も備わっているべきだと察して然るべきだったのだ。




 かつて、異世界からやってきた少年。




 レリエルと幾度も死闘を演じ、転生者を絶滅寸前まで追いやった天敵。




 勇者との戦争に勝利し、子を育て、そしてレリエルを道連れに人知れず死んでいった男。




 ―――ハヤカワ家最強の戦士。




 炎の中で起き上がった巨漢が手にしていたのは、長大な対物ライフルだった。




 OSV-96―――12.7mm弾を使用するそれのアンダーバレルに、強引に小型化し切り詰めたRPG-7のようなものが見える。



 

 対物ライフルに対戦車兵器を搭載するという、常人からすれば理解できぬ得物。




 ハヤカワ家の中には、1人だけ存在したのだ。




 あまりにも重く、長大で、常人では手に余るそれを―――使いこなした男が。








「モリガンの……傭兵……」











 モリガンの傭兵、リキヤ・ハヤカワ。







 そこに立っていたのは、確かに私の祖先だった。







 我らの祖先―――”はじまりのキメラ”だったのだ。






 

第三形態

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