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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
最終章 異世界で転生者たちが現代兵器を使うとこうなる
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決死の防衛戦


 夕暮れの空に、黒い花がいくつも咲き乱れた。


 ボフォース40mm機関砲から放たれる、対空用の炸裂弾だ。近接信管を内蔵したそれが炸裂して、ネイリンゲンへと殺到してくる無人機たちを引き裂いているのだ。


 巨人が大地を踏み鳴らすかのような轟音を発し、40mm機関砲が凄まじい勢いで砲弾を呑み込み、砲口から吐き出していく。それに大慌てで砲弾を継ぎ足すのは若手の装填手たちだ。弾幕が途切れぬよう、重い40mm砲弾のクリップを準備し、撃ち尽くしそうになる度にそれを継ぎ足していく。そんな作業を一体どれだけ続けた事か。


 装填手の1人であるフレディは、上官の怒号にびくりとしながらも砲弾を装填し、「装填ヨシ!」と声を張り上げる。


 甲板の上は死体だらけだ。機関砲には血飛沫が飛び散り、周囲に積み上げられた砂入りの土嚢袋は血肉まみれ。黒く塗装されていた甲板の上も戦死した仲間の死体や千切れた手足の一部、肉片を含んだ血でべっとりと汚れており、歩く度に滑って転倒しそうになる。


 潮の香りも、もう遥か遠い彼方へ去ってしまったかのようだった。海の上に居るというのに、漂ってくるのは血や膿の臭い、炸薬の臭い、そして高圧魔力特有の刺激臭。これが戦場の臭いか、と歯を食い縛っていた彼の耳に、CICのオペレーターからの報告が届く。


『9時方向、敵機多数! 突っ込んでくる!』


 8時方向から殺到しつつある無人兵器の群れとは別の群れが、イナゴのように密集しながら、風を切る鋭利な音を響かせネイリンゲンへと突っ込んでくる。既に肉眼でも見える距離まで詰められているにも関わらず、他の砲塔もCIWSもそちらへの迎撃には着手していない。


「右25度、仰角30度ぉ!!」


 指揮官の指示で、砲手たちが手元のハンドルを必死に回した。巨大なボフォース40mm4連装機関砲が旋回し、砲口を迫り来る敵機へと向ける。


「撃てぇ!!」


 砲手たちが雄叫びを上げながら、砲弾を撃ち出し始めた。巨大な機関砲が立て続けに吼え、水平線の彼方に黒煙の壁を築き上げ始める。


 が、向かってくる敵機を屠るには、たった数門の機関砲だけでは数が足りな過ぎた。砲弾の炸裂が生み出す炎の壁が段々とネイリンゲン側へ押され始め、そこを突破してくる無人機たちが増え始めたのである。


 備え付けられたブローニングM2重機関銃の簡易銃座群が火を噴き、ボフォース40mm4連装機関砲の撃ち漏らしを迎撃し始めた。12.7mm弾の曳光弾が無人機を穿ち、次々に海の藻屑にして行くが、それも長くは続かない。


 ドンッ、とネイリンゲンの左舷に火の手が上がる。弾幕を潜り抜けた無人機の1機が、ネイリンゲンの煙突付近に突っ込んできたのだ。生還を期さず、その物量での圧倒と、それが叶わぬ場合は特攻でダメージを与える事を想定した異形の無人兵器―――既に多くの艦艇が、この特攻の集中攻撃で沈められている。


「おい、タシュケントが沈む!」


 砲手か、装填手の誰かが絶望的な声で叫んだ。


 他の艦の状況にまで気を配る余裕が無かったから、フレディは他の艦がどうなっているのか全く気付かなかった。戦闘開始時から主力艦艇4隻を付きっきりで護衛していた、スターリングラード級重巡洋艦『タシュケント』が火達磨になり、回避運動を続ける艦隊からついに落伍してしまったのである。


 退艦命令が発令されたらしく、甲板上では乗員たちが海へと飛び込んでいく姿が見えた。中にはまだ対空戦闘を続ける砲手たちも見受けられたが、彼らの多くは突っ込んでくる無人兵器の物量に押され、燃え盛る艦の甲板に無残な骸を晒すばかりであった。


 そして無人兵器たちには、当然ながら船乗りたちの暗黙のルールなどない。


 基本的に、艦を沈められ海上を漂う船乗りへの追撃はご法度だ。これは全世界の海軍でも共通の認識であり、船乗りとしての誇りを重んじるテンプル騎士団海軍や特戦軍の一部の艦もその例外ではない。


 上層部からは海上を漂っていようと敵であれば射殺せよと厳命されているにもかかわらず、海軍ではその命令を無視し、食料と水を乗せたボートを下ろしてやるか、そうでなくとも何か掴まれる物を海上に放り投げてやるのが当たり前だった。


 敵を皆殺しにするのが当たり前のテンプル騎士団であっても、海軍はその例外だったのである。


 しかし無人機たちはそうではない。彼らは母艦を失い、傷つき海上を漂う乗組員たちに対しても容赦なく攻撃を加えた。対物レーザーで狙撃し、あるいは鉤爪で切り裂き、負傷した乗員諸共深海へと沈んでいく無人兵器たち。


 最早逃げ場はない。海を漂っていれば仲間の駆逐艦がいずれ助けてくれるだろう、という楽観的な考えは捨てなければならない―――フレディはその残酷過ぎる現実に、そして敵の慈悲の無さに戦慄した。


 勝利か死か、それだけなのだ。


「1番、装填ヨシ!」


「2番ヨシ!」


「3番装填完了!」


「4番ヨシ!」


「撃てぇ!!」


 火達磨になりながら段々と転覆していくタシュケントを尻目に、フレディは訓練通りに砲弾を装填。弾薬箱から次の砲弾を引っ張り出そうとして、顔に何か暖かいものが降りかかったのをはっきりと感じた。


 ぬるりとした感触と鉄の臭い。それだけで血が飛び散ったのだと理解した彼が目にしたのは、損傷しながらも突っ込んできた無人兵器の鉤爪に首を捥ぎ取られ、弾薬箱の山の上に倒れ伏した戦友の姿だった。


「ジノヴィ……?」


 首から上が無く、血に塗れた背骨の一部が露出している無残な姿。一瞬誰なのかは分からなかったが、攻撃前にそこに立っていた仲間の記憶と、制服の胸元にある名札で、それが同郷の戦友である事を悟る。


 分かっている、彼はもう死んだ。最期の言葉も無ければ、人間としての尊厳もない。下手をすれば自分が死んだ、という事にすら、彼の魂は気付いていないかもしれない。


 駆け寄って抱き抱えてやることも出来ず、フレディは無力感に苛まれながらも、とにかく彼の分も職務を全うする事にした。それが亡き友人への弔いになると信じて。


「1番2番ヨシ!」


「3番ヨシ!」


「4番ヨシ!」


「撃てぇっ!!」


 砲弾が尽きるまで、そしてこの命が尽きるまで―――戦う事しかできないのだ。


 逃げる場所など、もうこの世界のどこにもない。













「左舷損傷!」


「火薬庫付近で火災!」


「消火急げ! ダメージコントロール!」


 敵の攻撃は左舷に集中しているようだった。


 ジャック・ド・モレー級戦艦は、戦艦の中でも特に防御力に秀でている事で知られている。ジャック・ド・モレーがかつて、無数の魚雷と対艦ミサイルの集中砲火を受け、更にレールガンの直撃で艦首を砕かれてもなお、自力で帰港したという事例からもその堅牢さが窺い知れるというものだ。


 このネイリンゲンも、強襲揚陸艦としての機能を付与されたとはいえジャック・ド・モレー級の端くれ。ベースとなったジャック・ド・モレー譲りの打たれ強さはなお健在で、既に無人機による30回以上の特攻を受けてもなお、戦闘を継続中である。


 とはいえ、それがいつまで続くか。


「艦長」


 副長のリコが、険しい顔でこちらを振り向いた。


「火薬庫での火災は鎮火の見込みがないとの事です」


「止むを得ん……火薬庫へ注水、急げ」


「しかしそれでは主砲が……」


「これだけ距離を詰められてはもう主砲は役に立たん……無用の長物のために艦を吹き飛ばすわけにはいかないよ」


「了解……火薬庫へ注水、急げ!」


 さて、これで虎の子の44cm砲は使えなくなったわけだ。


 友軍の状況を確認する。既に当初想定されていた防衛線は完全に瓦解、本土への攻撃を許してしまっている状態だ……これは敵があの物量に物を言わせ、艦隊の防衛ラインの頭上を強引に飛び越えて本土に浸透するという反則技をやってのけたからなのだが、艦隊は未だに健在で、戦闘自体も続いている。


 とはいえ、ジャック・ド・モレー級の中にも既に沈んだ艦が何隻か出始めており、艦隊の損耗率は55%に昇っている。エミリア・ゲートでも対空戦闘が継続されているが、もはや本土への進行を阻止するという本来の目的は砕かれ、”少しでも本土へ向かう敵の数を減らす”という方針にすっかり変わってしまっていた。


 ただただ死ぬためだけに戦っているような、そんな感覚すら覚える。


「クガルプール大破!」


「!!」


 艦隊の陣形の左翼を担っていた同型艦クガルプールが、ついに敵の猛攻に耐えられなくなったらしい。モニターには艦上構造物を無残に破壊され、まるで幽霊船のような姿になったクガルプールの痛々しい姿が映されていた。


 乗員たちが海へと飛び込んでいくが、なおも無人兵器たちの攻撃は止まらない。対空砲火が一気に弱まったのを良いことに、大量の無人兵器が瀕死のクガルプールへと雪崩れ込んでいった。


 艦橋の付け根にイナゴの群れが群がり、大量の爆炎がクガルプールを呑み込んでいく。やがて船体のいたるところで小さな爆発が連鎖し、船体が大きく左へ傾き始めた。


「クガルプールより入電。”我、戦闘継続ナラズ、先ニ逝ク。未来ヲ頼ム”」


「……赦せ」


 助けに行く事すら、叶わない。


 海上へ放り出された同志たちを見殺しにする事しかできない無力感を噛み締めながら、僕はただ戦い続けるよう命令する事しかできなかった。


「残った艦で陣形を再編、火力を集中。敵の注意をクガルプールから引き離す」


「了解」


 これで少しでも、クガルプールの乗員が助かれば……そんな希望を抱いたその時、残酷な現実が今度はネイリンゲンに牙を剥く。


「敵機350機、12時方向より接近!」


「!」


 別動隊……!?


 攻撃を左舷に集中させていたのはフェイントか……それとも左舷への攻撃に集中している隙を突いてきたのか?


 迎撃を命じるよりも先に、艦首や主砲の砲塔上部、艦橋のスポンソンに増設された機関砲群が火を噴いていた。


 ミサイルもCIWSも既に撃ち尽くし、残ったのは各所に増設された40mm機関砲のみ。もはや艦隊は主砲やミサイルを放つ海戦の主役などではなく、対空砲を満載した浮き砲台に成り下がっていた。


 砲手たちの腕は優秀で、12時方向から突っ込んでくる敵が次々に落ちていく。40mm機関砲の炸裂弾が無人機たちの華奢な機体を容易く砕き、捻り潰していく姿はCICからでもはっきりと分かった。


 だがそれでも、敵の勢いは衰えない。むしろ攻撃を受けて激しさを増し、ネイリンゲンへと着実に迫ってくる。


 回避運動を取っているネイリンゲンの進路を追尾するように、敵の無人兵器も進路を変えた。回避も、迎撃も間に合わない―――そう察知する頃には、僕の手は手元の無線機のマイクに伸びていた。


「艦長から艦首の全乗組員、直ちに船体後方へ退避せよ!」


 艦首側に居る乗員に退避を促す頃には、CICの内部で喧しい警報音が鳴り響き始めた。この艦に乗っていて聞きたくない警報音の中でも3本の指に入る―――最も聞きたくないのは原子炉の異常に関する警報だ―――衝突警報だった。


 無線機の向こうが一気に慌ただしくなってから数秒後、CICが連鎖的に振動に見舞われた。艦長席のアームレストを通じて、がたがたという振動が確かに伝わってくる。


 それが何か、報告を受けなくとも分かる。迎撃の間に合わなかった無人兵器群が、ネイリンゲンの艦首を立て続けに直撃したのだ。十分な加速を得て、自らを質量弾とした無人兵器たちの捨て身の特攻。それを受け、艦首がどんどん潰れていく。


 やがて爆音らしき轟音がCICに届き、艦が一際大きく激震した。


「状況報告!」


「艦首大破! 魚雷発射管室にて浸水発生!」


「本艦の速度、20.4ノットまで減少!」


「隔壁閉鎖、急げ!」


 ここに来て、テンプル騎士団の艦艇に共通する攻撃的な設計が裏目に出た。


 ほとんどの戦艦には搭載されていないものだが、ジャック・ド・モレー級の艦首には533mm魚雷の発射管が4門搭載されている。対潜戦闘用の魚雷や対艦ミサイル、対艦用の長距離魚雷といった兵器をここから発射する事が可能だが、魚雷の射程は艦砲と比較すると短く、更に砲撃戦の際に誘爆する危険性もあるため、イギリスのネルソン級などの例外を除いて殆どが撤去されている。


 その魚雷発射管室に浸水が発生しているというのだ。あそこには雷撃担当の乗員たちが詰めていた筈だが……。


「隔壁は!?」


「まだ閉じられていません!」


 もう一度、手元の無線機のマイクに手を伸ばし雷撃担当のライリーを呼び出す。まさかさっきの攻撃で全滅したのではないかと思ったが、聞き慣れた男の応答があり、僕はちょっとだけ安堵した。


「ライリー、隔壁閉鎖はどうした?」


『艦長、少しだけ待ってください! エリックとマカールが瓦礫の下敷きに!』


 エリックとマカール―――第二次世界大戦終結後にこの間に配属となった若手だ。訓練での成績も優秀で、どちらも素直な乗員だったのを今でも覚えている。


 その2人が瓦礫の下敷きになり、その救助のために隔壁閉鎖を待ってほしい……それがライリーの主張のようだった。


 艦長として、乗員の命を守る義務がある。それは良く分かっているのだが―――浸水はかなり深刻なようだった。艦首の大破と浸水により、艦の速度がみるみる落ちている。このままでは敵の格好の的になるばかりか、沈没の危険性が更に高まってしまう。


 2人の乗員の命と引き換えに、それ以外の乗員を死なせることは出来ない―――残酷な運命を天秤にかけ、その答えに苦しみながらも、僕はライリーに告げる。


「ライリー、隔壁を閉じろ」


『しかし!』


「690人の乗員を危険に晒す気か、ライリー!」


『……了解』


 残酷な選択をしなければならない事を―――目の前で部下を切り捨て、見殺しにしなければならぬという重い決断を彼に強いた事を、僕はこれ以上ないほど悔いた。仕方がない、という言葉は免罪符にはならない。こうならないような状況を作るのが艦長たる僕の役目なのではないか。


『伍長、待って、置いて行かないで』


『助けて……お願い、助けて』


 無線機の向こうから聞こえてくるのは、水の流れる音に混じった2人の悲壮な声だった。見殺しにされる、切り捨てられる―――それを悟った人間の絶望的な声。今まで親身になってくれた上官に縋りつこうとする、痛々しい声だった。


 隔壁が閉じる音と共に、その声はどんどん小さくなっていき―――やがて、ゴボゴボと泡立つような短い音の後、それは完全に聞こえなくなった。


『艦長……隔壁、閉鎖しました』


「……ありがとう」


 ライリーの押し殺すような報告に、僕は短く返答する。


 



 ―――赦せ。




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