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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
最終章 異世界で転生者たちが現代兵器を使うとこうなる
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鋼の奔流を超えろ


 いったい、どれだけの無人機を屠ったのか。


 腰だめで構えたブローニングM2重機関銃を乱射し、前方から押し寄せる戦闘人形オートマタの群れをスクラップに変えながら、ふと思った。


 最低限の防弾フレームしか持たぬ戦闘人形オートマタを屠るのに、9mmパラベラム弾を使用する拳銃があれば事足りる。それをわざわざ50口径の重機関銃で薙ぎ払っているのはオーバーキルとしか言いようがない。


 が、それだけの破壊力を見せつけても、敵の勢いは衰えない。


 それもそのはずであろう。敵は機械であり、死を恐れないからだ。


 普通の人間の兵士が相手であればどうか。50口径の弾丸に被弾しようものならば、たちまちその肉体は弾け飛び、原形すら留めぬ無残な肉塊と成り果てるだろう。目の前で、ついさっきまで話をしていた戦友がそんな無残な死を遂げれば、どんなに精強な兵士であれ士気を挫かれる……いや、そんなものではない。精神に、心に、いつまでも消えぬ深い傷を刻みつけるだろうし、その威力をおそれもするだろう。


 しかし機械にそれは無い。


 インプットされた行動パターンを選択し、司令AIであるL.A.U.R.A.からの命令に従い、淡々と作戦行動を実行に移すのみ。そこには敵への畏れも、死の恐怖もない。壊れたならば代用品スペアがいくらでもあるのだ。


 ヒートシールドの内側で、重機関銃の銃身が仄かに赤い光を帯び始めた。銃身が過熱している―――撃ち過ぎだ。機関銃とは弾をばら撒き遠距離の敵まで制圧してしまう戦場の王者だが、弱点も多い。突撃銃アサルトライフル以上に注意せねばならないのが銃身の過熱だ。


 無論、銃身を分厚くするなどの工夫をすれば加熱しにくくはなるが、それでも限度がある。それを防ぐために機関銃手たちは間隔を空けて射撃する事が多いとされているのだが……今はそんな事に構っている暇はなかった。暴発して機関部が弾け飛ぼうと、引き金から指を離すわけにはいかなかった。


「グレネード!」


 ドラムマガジン付きのRPK-203で応戦していたオリヴィエが、手榴弾の安全ピンを外して敵目掛けて思い切り投げつけた。まるで野球選手の放った本気の投球のように、手榴弾が無人兵器の群れへと突っ込んでいく。


 炸裂と同時に、弾幕を押し切ろうとしていた無人兵器の一団が弾けた。


「今だ、押し込め!!」


 12.7mm弾を使い果たし、銃身も溶鉱炉の中の鉄のように真っ赤になったブローニングM2重機関銃を投げ捨て、背負っていたAK-15を引っ張り出す。セレクターレバーを弾いて中段のフルオートにし、装着していた40発入りマガジンの中身をぶちまけた。


 無人兵器群の勢いが衰え、どんどん押されていく。


 ダメ押しに、M203の引き金を引いた。ポムンッ、とグレネード弾が砲口から飛び出し、なおも前進しようとする無人兵器たちの先頭集団を直撃。そのまま炸裂し、塞がりかけの傷口を更に押し広げていく。


 やがて、黒い壁のように立ちはだかっていたイナゴの群れが姿を消した。


 撃ち方止め、と親衛隊の兵士に告げ、そっと息を吐きつつグレネード弾を再装填。スライドした砲身の中へとグレネード弾を押し込んで、元の位置へと戻す。


 何とか殲滅したか……。


 無人兵器が涌き出ていた通路の向こうには、ミサイルサイロの底まで通じているであろう長いタラップがあった。


 全身を外殻で覆い、そこから思い切り飛び降りる。ズンッ、と床が大きくへこむ音と共に落下している感覚が消え、足の裏に微かな痺れを感じた。


 キメラの身体とは便利なものだ。戦闘に最も適した種族であるという自負があるが、まさにその通りと言っていい。寿命の短さを除けば、便利な身体だった。


 同じように降下してきた親衛隊全員の到着を待って、再び前進を再開する。


《ノーチラスより各員、ハーキュリーズ13が移動を開始。地球への落下コースに乗りました》


 あまり時間がない。


 視界の右端に、宇宙ステーションからのものと思われる映像が表示された。姿勢制御用のスラスターと外付けのブースターにより加速を開始した巨大な衛星砲が、ゆっくりとではあるが地球へ接近しつつある。あのまま前進を続ければ、やがて地球の重力に捕らえられ、大気圏への落下を開始するだろう。


 落下ポイントはここだ。


 想定される被害は計り知れないが、少なくともファルリュー島及びラトーニウス沿岸地域の完全消滅は確定だろう。この予測を受け、既に大使館を通じてラトーニウスの沿岸部の住民には避難勧告が出されており、向こうの政府も対応に当たっているという。


 通路の先は、やはりミサイルサイロになっていた。上部を覆っていたサイロのハッチはタンプル砲の飽和攻撃で吹き飛んでおり、クレーターの一部と化してしまっている。底の方には大量の瓦礫やら岩塊が散乱していて、ここがミサイルサイロだったという面影はあまり残されていないが……幸い、世界核へと至るエレベーターは健在らしい。


 問題は……。


「……」


 顔を出した途端、銃弾が跳弾するような音が連鎖し、周囲の壁から細かい破片が舞った。


 戦闘人形オートマタ……しかもあの特攻を前提とした簡易型ではない。筋骨隆々の人間を模した、戦闘を前提としたタイプの戦闘人形オートマタ。それがミサイルサイロ壁面に残された足場やキャットウォークの上で、AK-12を手に待ち構えている。


 奴らだけではない……頭上の大穴の外から、特攻型の戦闘人形オートマタの一団までもが入り込んでいるようで、それらを潜り抜けなければあのエレベーターまで辿り着く事は出来なさそうだ。


「オリヴィエ」


「はっ」


「私が先に行く、援護しろ」


「了解しました」


「―――私が向こうに着いたら、お前たちはノーチラスに戻れ」


 メニュー画面を出し、ここで武器を切り替える。メインアームはいつもの20式小銃と、威力と弾数を頼みとした62式機関銃、サイドアームはSFP9。手榴弾もいくつか追加しポーチに収めて、私は通路から飛び出そうとした。


 62式機関銃を抱える腕を、オリヴィエが掴んで制止する。


「待ってください」


「なんだ」


「私も……いえ、我々もお供します」


「ダメだ」


「何故です」


 オリヴィエの目は真剣だったが、それ故に困惑も浮かんでいるのが見て取れた。信じてついてきたのに、死地を与えてくれると思っていたのに、今になって何故。そう訴えている。


「……お前たちまで道連れにするわけにはいかないからだ」


「意味が分かりません……貴女は出撃前、”共に死んでくれ”と……そう仰ったではありませんか」


「ああ、確かに言ったな」


「では何故、我らに帰れと仰るのです? 我々親衛隊は、貴女への忠誠を忘れたことは今まで一度たりともありません。勝利へ突き進むならその露払いを、敗北への行進ならばお供を……皆、その覚悟でここに居るのです。共に地獄で焼かれる覚悟はできております、団長……どうか、どうか最期までお傍に……!」


 ここまで欠けることなくついて来てくれた親衛隊の隊員たちの顔を、ゆっくりと見渡した。


 ああ、どいつもこいつも真面目な奴だ。私がやれと命じれば、大喜びでそれを全うする優秀な兵士たち。彼女たちの技量も、そしてその忠誠心も、全て本物だ。偽物などどれ一つとしてありはしない。


 だからこそ、死なせるわけにはいかないのだ。


「オリヴィエ……いや、お前たち」


 ゆっくりと銃を下ろし、親衛隊の隊員たちに―――”妹”であり、”娘”でもある彼女たちへ語り掛ける。


 悔いが残らぬように。


 きっとこれが、私からの―――母からの、あるいは姉からの最期の言葉になるだろうから。


「世界大戦でも、そしてこの戦いでも、多くの同志たちが命を落とすだろう。そして私はこの命と引き換えに、L.A.U.R.A.を、そしてそれと同化したフィオナを討ち取る」


 これは使命であり、復讐なのだ―――あの女、女神モリガンを名乗った女への、私たちの復讐なのだ。


 神がヒトを造ったというのならば、我らには造られた命として生きる資格がある。それを、神の気まぐれで奪われるような事があってはならない。もしそのように理不尽な運命を突きつけてくるというのならば、この剣で、牙で、魂で、全身全霊を以て抗う覚悟がある。


 我々はもう、十分に奪われた。


 だからこれ以上奪われないように―――次の世代が喪失の苦しみに苛まれないように、死にに行くのだ。


 それは私1人で良い。ここに居る若い命が、私よりも若い命が散りに行く必要などない。


「多くの同志たちが散っていった……戦争が終わったら、それは焼け野原からの再スタートだ。そうなった時、お前たちのような兵士が居なければ、次の世代に道を示してやらねば子供たちが道に迷ってしまう。確かに共に死んでくれとは言ったが、全滅するような事があってはならんのだ。玉砕するような事があってはならんのだ。誰かが1人でも多く生き残って、次の世代にこの事を語り継いでいかねばならんのだ。私はお前たちに、そして勇敢な同志たちにその役目を託したい」


「団長……」


 そっとオリヴィエの肩に手を置いた。微かな方の震えが、確かに伝わってくる。


「子供たちは希望を抱いた種だ。お前たちは生き延びて、焼け野原にその種を撒け。どんなに破壊の限りを尽くされても、忍耐の果てにきっとそれは芽吹く。―――破壊の時代は、私の死で最後にしたい」


 だから、頼む。


「……ずっと、貴女を実の姉のように慕っておりました」


 肩だけでなく、声まで震わせたオリヴィエを優しく抱きしめた。歳の離れた妹とはこのようなものなのか―――自分の遺伝子を使った、親衛隊のホムンクルスたち。私は彼女たちを、一度たりとも複製だと思ったことは無い。


 皆、家族だ。1人の人間だ。ヒトとしての魂を宿した、立派な戦士たちなのだ。


「どうか……どうか、ご武運を」


「……ありがとう」


 オリヴィエから手を離し、再びスリングで下げていた62式機関銃を抱えた。手のひらからオリヴィエの温もりが、あの温かさがはっきりと消え、冷たく無機質な金属の感触が返ってくる。


 彼女たちの姉から、1人の兵士に還った瞬間だった。


「―――背中、任せた」


 それだけ告げ、ミサイルサイロの中へと躍り出る。


 途端にキャットウォークの上から、無数の5.45mm弾が押し寄せてきた。足元で、床の上で弾丸が弾け、枯れ枝を踏み折る音にも似た乾いた音を連鎖させる。


 身体中を黒い外殻で覆いつつ、上半身を捻って応戦。腰だめで構えた62式機関銃の7.62mm弾をキャットウォークの上に撃ち返し、戦闘人形オートマタの防弾フレームに火花を散らせる。


「援護開始! 撃ちまくれ!!」


 後方に残った親衛隊の兵士たちも援護を始めてくれた。7.62×39mm弾の弾雨が戦闘人形オートマタの弱点―――頭部の制御ユニットを穿ち、機能を停止した個体がサイロの底へと落下してくる。


 ゴウッ、と頭上で何かが迫ってくる音がした。


 見上げなくとも分かる。あの無人兵器群が迫ってきているのだ。


 左手を62式機関銃から放し、ファイアーボールを頭上に放つ。限界まで加圧された闇属性の魔力を含んだそれは、暗黒の熱線と化し、無人兵器の一団を真正面から貫く。直撃するまでもなく蒸発した個体や掠めただけで融解した無人兵器が続出し、私を呑み込もうと迫っていた無人兵器たちはあっという間に勢いを失った。


 注意を上に向けている間に、正面では別の戦闘人形オートマタの一団が新たな策を講じているところだった。


「!」


 黒い甲冑にも似た戦闘人形オートマタたち。その手にあるのは巨大な楯と、明らかに騎兵向けのサイズの円錐状の槍―――ランス。


 それが隊列を組み、私の目の前に立ちはだかっていた。


 62式機関銃で射撃するが、メモリークォーツ装甲でも使っているのか、盾は貫通を許さない。まるで巨大な岩塊か、戦車の正面装甲でも撃っているような感覚があった。ガガガンッ、と無意味な跳弾を繰り返す弾丸たち。ならば、と発砲をやめ、スリングで繋がった62式機関銃から手を離す。


 空いた両手に魔力を集中、そのまま戦闘人形オートマタの隊列に肉薄し、盾の表面に掌底を撃ち込んだ。


「どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 魔力を解放、至近距離でのファイアーボール。闇と炎の混ざった熱線が盾をあっさりと撃ち抜き、隠れていた戦闘人形オートマタの胸の左側を大きく消し飛ばす。


 この距離ならば、大気中での魔力損失による威力減衰も気にならない。フルパワーの一撃がお見舞いできる、というわけだ。


 隊列の一角を突き崩しつつ62式機関銃を掴み、無防備な後方から戦闘人形オートマタをひたすら銃撃。メモリークォーツ装甲を使っているとはいえ、あれには相当な重量があるのだろう。突破を許してしまった私への追撃があまりにも遅い。


 7.62mm弾で後頭部や脊髄を撃ち抜かれ、次々に擱座していく戦闘人形オートマタ。応戦すべくこっちを向く戦闘人形オートマタもいたが、その結果無防備な背面をオリヴィエたちに晒す羽目になってしまい、RPK-203の中距離射撃で脊髄を撃ち抜かれ、立て続けに撃破される結果となった。


 エレベーターまであと一歩―――そこで、機械が意外なしぶとさを見せる。


「!」


 頭上を一旦通過した無人兵器群の一団が、エレベーターの前で口を開けるかのように左右に広がったのだ。


 歯を食い縛り、62式機関銃から手を離す。またしても空いた両手に刀を握り―――迫り来る無人兵器の群れを、敢えて真正面から迎え撃った。


 刀を振り上げ、振り下ろし、体重を乗せた重い刺突で無人機を次々に切り裂いていく。私の身体も同じように奴らの爪で引き裂かれたが、前には進んでいた。勢いではこっちのほうが上だった。


 力也や姉さんはきっと、死ぬなら役目を果たしてからこっちにこい、と言うだろう。ああ、私はもう既に役目を果たした。力也から託された命を無事に世に送り出し、世界最大の脅威をこの命と引き換えに葬るのだ。これなら胸を張ってそっちに逝けるだろう―――年老いた老婆の姿ではなく、まだ若いこの姿の方がアイツも安心する筈だ。


 だから、退け。


 有象無象の木偶人形共よ、道を空けろ。


 私はセシリア・ハヤカワ―――”魔王”の子孫であるぞ。


 闇属性の魔力を乗せた本気の斬撃で、無人兵器の群れに大穴が開いた。そこへと飛び込み、エレベーターの中へと転がり込む。


 刀から手を離し、62式機関銃のフルオート射撃で無人兵器の群れを薙ぎ払う。


「行け! 行け、オリヴィエ!」


 思い切り叫んだ。声は届いていなくとも、彼女ならば分かってくれるはずだ。もう十分だと。ここまでで大丈夫だ、と。


 彼女は最後に立派な敬礼をすると、何かを叫んでから部下と共に踵を返した。


 どうか、無事にノーチラスまで辿り着けますように。


 エレベーターのボタンを押し、最下層―――フィオナのいる世界核へ。


 ここに来て、手が震えている事に気が付いた。


 なんと無様な事か。覚悟は決めたというのに、死ぬのが怖いとでもいうのか?


「……なんと」


 情けない。腹は括ってきた筈だが。


 まあいい、今更後戻りなど出来ぬのだ。


 使命を果たそう。


 やる事をやって、胸を張ってみんなの所へ逝こう。





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