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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
最終章 異世界で転生者たちが現代兵器を使うとこうなる
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海峡防衛戦


 空中艦隊壊滅の情報は既に、第二防衛ライン―――ウィルバー海峡入り口に展開する、テンプル騎士団海軍の主力艦隊の元へと届いていた。


 対消滅榴弾による飽和攻撃という、核戦争を想定したドクトリン。通常の敵であれば、それで壊滅していただろう。敵国本土に撃ち込んでいれば、それこそ世界地図が変わる事になっていたに違いない。大自然が生み出した今の大陸のいくつかに、まるで虫が喰い破ったかのような丸い大穴がいくつか開く事になっていたかもしれない。


 それだけの火力をつぎ込んでもなお、敵の進撃は止まらない―――想定できた事ではあるが、ヴィンスキー提督はもしかしたら、という希望も先ほどまでは抱いていた。空中艦隊がもう少し持ちこたえ、敵に損害を与えてくれるかもしれない。あるいはそこで敵の進撃が停滞し、増援の航空隊が到着すれば押し返せるかもしれない、と。


 しかしそれも、圧倒的な物量と、機械ゆえに死を恐れないという2つの利点の前には無力であった。ただただ暴力的な物量で敵を押し潰す、確かにそれは合理的な手段なのかもしれない。すぐに成果を挙げられなくとも、人的資源が有限である以上はいずれ疲弊し枯渇する。ならばそうなるまで、ひたすら攻撃を続け出血を強いれば良い。合理的な手段ではあるが、そこに誉などあるものか。栄誉などあるものか。


「提督、空中艦隊は最新鋭の武装を搭載していました。機動性も我々より上―――司令部が切り札として位置付け、予算を増額する理由も頷けます」


「分かっている」


「その虎の子の空中艦隊が短時間で全滅するという事は……」


「覚悟はできてるさ」


 古くなった軍帽を手に取り、我が子のようにそっと撫でた。ヴィンスキー提督が被っているそれは、今のテンプル騎士団海軍で採用されているものではない。創設当時、それこそテンプル騎士団海軍の艦艇が数えるほどしかなく、海軍を名乗る事すら躊躇われるほどの規模であった頃に採用されていた古いものだ。何度も修繕を繰り返し、しかし潮風で傷んだ古い軍帽は、ヴィンスキー提督やジャック・ド・モレーと共に年季を重ねてきた老兵と言えた。


 元々、覚悟はしていた事だった。むしろここまで、艦と共に生き残っている事が奇跡と言っていい。


 整備班からもよく耳にしたことだ―――ジャック・ド・モレーの限界は違い、と。


 この艦は転生者の能力で生産された兵器だ。そう言った兵器は、48時間が経過すると自動的にメンテナンスが行われ、最善の状態になるという利点がある。おそらくは転生者にメンテナンスのノウハウがない場合の救済措置と思われる機能だ。


 それを何度も繰り返し、最善の状態を維持していても―――”老い”には抗えないものである。


 100年間、この海で戦ってきたジャック・ド・モレー。いかなる激戦であろうと常に先頭に在り、大破してもなお自力で母港まで帰還した女傑。しかしそれも、人間に例えるならばもう老婆だ。杖をつき、自分の力で立つ事すらままならぬ老兵なのだ。そんな状態でもなお最前線に立ち、二度の世界大戦を戦い抜いたというのだから驚きである。


 しかし今回ばかりは、そうはいかない。それがヴィンスキー提督とハサン艦長の認識だった。


 つまらん陸での勤務ではなく、海軍として―――船乗りとして、海で死ねるというのがせめてもの救いか。この艦こそが棺で、海が墓標。それで良いではないか。そう思ったからこそ、提督も艦長も遺書は書いていない。家族もそれを良く分かっているからだ。


「艦長、前方に転移反応」


「来たか」


 CICの魔力観測員からの報告で、全員の目つきが変わった。空気が一気に重くなり、呼吸が苦しくなる錯覚すら覚える。


 ついに来たのだ、破滅の死者が。人類を滅亡へ追いやろうとする滅びの使徒が。


 対空戦闘の準備は既に済んでいる。


 今回の戦闘では対空戦闘能力が重視される事から、各艦にはボフォース40mm連装機関砲や4連装機関砲の徹底した増設が行われている。それにCIWSや速射砲まで加えた外観は、さながら大戦中の戦艦のようだった。ミサイルが実用化されて迎撃の成功率が上がり、無駄な装備を省いてすっきりした外見となった現代の艦艇からは程遠い、ハリネズミの如く対空兵装を満載した戦時中の戦艦。ジャック・ド・モレー級の姉妹たちは皆、先祖返りしたかのような外見となっていた。


 やがて予想外の報告が、魔力観測員からも告げられる。


「前方の転移反応……友軍のものです」


「何だと?」


 友軍―――空中艦隊に生き残りが居たか。


 魔力反応が増大し、それが質量投射に転じたその時だった。CIC内部に居る乗員たちが一斉に絶句したのは。


 モニターに映った船外の映像。そこに投影されていたのは、確かにフォボス級原子力空中空母のものだった。ステルス機の機首を肥大化させたような形状は、空を悠然と泳ぐクジラのようにも思える。


 しかしその船体のいたるところには穴が空き、そこからは血のように紅い炎が噴き上がっていた。ステルス性を考慮し艦内に収納された武装も殆どが破壊され、ウェポン・ベイのハッチも、艦載機の発進口も破壊された無残な姿を晒したのは、フォボス級空中空母『ミランダ』だった。


 数週間前に就役したばかりの新造艦である。


 その船体の表面には、まだ例の無人兵器がへばりついていた。推力を維持できず、このままでは海面に墜落するのみとなってもなお、応戦を続ける砲塔を潰すためであろう。


 やがて何度か小さな爆発を繰り返したミランダは、ウィルバー海峡の出入り口を塞ぐかのように展開した主力艦隊の遥か手前で力尽きた。黒煙と炎で黒と紅のコントラストを空に刻みながら、ミランダの船体が海面に接触する。


 派手な水柱が噴き上がったかと思いきや、大きな爆発が生じ装甲の表面が弾け飛んだ。そのままミランダは、いたるところに穿たれた大穴から浸水を許し、艦内に残った乗員や無人兵器を道連れに、あっという間に深海へと姿を消していった。


「―――転移、来ます」


 蒼穹に、紅い魔法陣が浮かんだ。


 回転しながらスパークを発した魔法陣たちから、まるで黒い塗料をぶちまけたかのように漆黒の”何か”が姿を現す。液体のようにも見えたそれは、やがて密度が多少薄くなるにつれて、大量の羽虫の集合体―――それこそイナゴの群れのように、艦隊へと殺到してきたのである。


「全艦、攻撃開始!」


「スーパー三式弾、砲撃始め!」


 旋回した主砲―――ジャック・ド・モレー級の矛とも言える60口径44㎝4連装砲が、一斉に火を噴いた。それはまるで、圧倒的な軍勢で攻め込む敵を迎え撃とうとする、騎士たちの最期の咆哮のようにも思えた。


 44㎝砲から放たれた砲弾が、着弾寸前に空中分解を起こす。中から姿を現したのは、無数の乾電池を思わせる小型の炸裂弾たちだ。やがてそれぞれに搭載されていた近接信管が動作すると、空中で連鎖的に炸裂し、接近を試みる無人兵器群の陣形を大きく捥ぎ取った。


 スーパー三式弾の有効性は、以前の首都襲撃の際に実証されている。無人兵器の侵攻こそ食い止められなかったものの、その進軍を大幅に遅延させることに成功した事が確認されているのだ。


 主砲に続き、艦対空ミサイルや速射砲も火を噴き始めた。空へと打ち上げられる対空砲火がどんどん豪勢になっていき、12月の空が無人兵器の黒と爆炎の紅で彩られていく。


 海軍の主力艦隊だけではない。後方に位置する海上要塞”エミリア・ゲート”に搭載された44㎝砲も砲撃を始めていた。六角形の巨大なプラットフォームに合計で10基、合計40門もの44㎝砲が搭載された海上要塞の火力も支えとなり、無人兵器群の進軍が、一時的にとはいえ完全に停滞してしまう。


 前哨基地の火力と、主力艦隊に加え海上要塞や守備隊による全力攻撃ともなれば、その規模は桁外れだった。無人兵器群の予測は大幅に外れ、段々と無人機が転移に使った魔法陣側へと追いやられていく。


「―――転移反応、さらに増大!」


「!!」


 魔法陣の後方に、更に5つの巨大な魔法陣が姿を現す。それが何を意味するかを海軍の全将兵が察すると同時に、そこから濁流の如く、無人兵器の群れが溢れ出た。


 押し返しかけていた無人兵器たちが、ここに来て息を吹き返す。スーパー三式弾の飽和攻撃や対空ミサイルの直撃を意に介さず、黒い濁流はあっという間に艦隊の頭上にまで迫ってきた。そこから艦隊へと襲い掛かる一団にCIWSが火を噴くが、本流の行き先は艦隊でも、ましてや後方のエミリア・ゲートでもない。


「無人兵器群が艦隊頭上を通過! 防衛ラインが突破されます!」


「我々を無視して本土に行くつもりか……!」


 守備隊を無視しての、本土への直接攻撃。


 敵に損失という概念はない。個体数が減ったのならば、それを上回る数の戦闘人形オートマタを生み出せばいいだけの事だ。そして生産数を増やして圧倒的物量で迫れば、敵の守備隊を強引に押し切って本土へ雪崩れ込む事も可能であろう。


 桁外れた戦力を持つからこそ、出来る事であった。


 ジャック・ド・モレーの後部甲板に搭載された主砲が火を噴き、頭上を悠々と通過していく無人兵器の奔流へ砲弾を放つ。合計8発の砲弾が戦闘人形オートマタの群れを穿ち、黒い濁流の中に一瞬だけ赤い閃光を生み出したが、水流を殴りつけたところで水の流れを阻めないように、無人兵器の激流は止まらない。


 本土への攻撃が確定した、その時だった。


 地平線の遥か彼方から飛来した一発の砲弾が、無人兵器の濁流を真っ向から貫いた。圧倒的な運動エネルギーに穿たれ、黒い濁流があっという間に紅い爆炎へと姿を変えていく。


 その直後、艦隊の頭上で白い爆炎が弾けた。


 雪のように白い炎が無人兵器を呑み込み、その存在を消し去っていく。触れた物質を全て消滅させる超兵器―――対消滅榴弾。それは大気すらも例外ではなく、消し去られた上空の大気の影響を受け、作戦展開地域の気流にも乱れが生じた。


「何事か?」


「た、タンプル搭です! タンプル搭からの直接攻撃です!」


 ウィルバー海峡周辺は、タンプル砲の砲弾の有効射程距離内だ。それ以上ともなれば砲弾の射程距離外であり、攻撃を砲弾からミサイルへ切り替える必要があるが―――”槍”が届くというのであれば、問題はない。


 艦隊の頭上を通過しようとしていた無人兵器の群れは大半が消滅していた。撃ち漏らしは事前に艦隊から発艦していた艦載機隊が、早くも掃討に入っている。


 勝ち目がない戦ではない―――濃密な闇の中に光が差したのを、ヴィンスキー提督はしっかりと感じ取った。


 100年前のあの時―――タクヤ・ハヤカワが輪廻を討ち取り、世界を救った時のように。


 今はただ、彼女の子孫を―――セシリアを信じる他ない。


 彼女を信じ、戦い続けるしかないのだ。













「初弾命中、敵戦力の大半が消滅」


「次弾装填。諸元同じ」


「了解、次弾装填。諸元同じ」


「対消滅榴弾、撃発位置まで前進」


「薬室内に損傷見受けられず」


「砲身冷却完了、放熱ハッチ閉鎖」


 薄暗い中央指令室の中で、ホムンクルス兵の淡々とした報告が続く。正面のモニターでは砲身の冷却を終えたタンプル砲のハッチが閉鎖され、二度目の砲撃の準備が整った姿が映し出されていた。


 当初、世界核へ―――L.A.U.R.A.への直接攻撃を継続するべき、とシルヴィアは主張した。セシリアが立案した、L.A.U.R.A.への衛星砲投下作戦は確かに確実であろう。衛星砲の質量と落下速度が組み合わされば、いくら無人兵器群だろうと防げないだろうし、移動手段を持たない筈のL.A.U.R.A.では逃げようがない。


 しかしそれは、終末誘導を行う人員―――すなわち、セシリア1人の命を犠牲にしてやっと得られる勝利である。


 シルヴィアが最後まで反対した理由はそこだった。セシリアが死ぬことは無い、他にも手段はある筈だ、と。しかしセシリアは頑なに首を横に振り、残った対消滅兵器群は本土防衛のために温存せよと続けたのである。


 結果として、そのセシリアの指示は正しかった。


 あそこでタンプル砲の対消滅榴弾による砲撃を行わなければ、戦闘人形オートマタたちの本土上陸を許してしまっていた事だろう。そしてそのまま本土決戦へ雪崩れ込み、L.A.U.R.A.を討ち取って戻ってくるであろうセシリアに焼け野原を晒す羽目になっていたかもしれない。


 数多くが命を落とすであろう同志たちと、最高指導者とはいえセシリア1人の犠牲で済む彼女の作戦。天秤がどちらへ傾くか、考えてみればすぐに分かる事だ。


 それでもセシリアに生きていてほしい、と考えてしまったシルヴィアは、やはり血のせいか、と自嘲する。


 やはり生きていてほしいものだ……自分の血を分けた”姉妹”には。


 しかしそれも、もはや叶わぬだろう。


 セシリアはこの作戦で死ぬ。そして自らの命と引き換えに、クレイデリアを守り抜く筈だ。


 最期の最期まで無茶をするお方だ、と呆れながらも、シルヴィアは命じた。


「第二射、撃てぇ!!」













 宇宙ステーションの中に持ち込んだラジオから、微かに音楽が漏れている。


 転生者がこの世界に持ち込んだ異世界の曲―――ドビュッシーの『月の光』だ。曲名となった月の光のように、優しく、静かなピアノの旋律。静かな夜に聴くのが似合いそうな曲だが、今だけはどうしても鎮魂歌レクイエムのように思えて、宇宙服に身を包んだ宇宙飛行士たちは息を呑んだ。


 衛星砲のメンテナンスを行うスタッフたちが常駐する、宇宙ステーション”バフチャー”の窓ガラスの向こうでは、外付けの誘導ユニットと対消滅榴弾を満載した異形の衛星砲が、地球へと向けてスラスターを吹かしている姿があった。


 やがてそれは衛星軌道を離れ、地球の重力に捕らえられて、紅い炎を纏いながら地表へと落下する事だろう。そして消し去るのだ。人類を滅亡に追いやりかねない、機械兵器の親玉を。


 その対価は、セシリアの命。


 だからこの曲は、今に限っては鎮魂歌レクイエムなのだ。自らの命と引き換えに、この世界を守ろうと戦う彼女への。


 この優しい旋律が、死を迎えるであろうセシリアを救いますように―――彼らはそう願いながら、地球へと落ち行く衛星砲を敬礼で見送るのだった。




 


 

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