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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第五十三章 機械仕掛けの神
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抗う意志、託した未来


 部屋に戻ると、テレビの音がうっすらと聞こえてきた。子供向けの番組の音声のようで、折り紙の折り方についての解説が聞こえてくる。が、それを聞いている者は誰もいない。ソファの上に寝転がってテレビを見ていた筈の息子リキヤはぐっすりと眠っていて、テレビの音声に混じって寝息が聞こえてくる。


 彼はまだまだ無邪気な子供だ。いっぱい遊んで、たくさん勉強して、そうして大人になっていく……戦争などない平和な世界で、きっと。


 母になった日から、最愛の我が子に願う事はただ一つ。”私のような大人にはなるな”、それだけだ。


 復讐のために、憎しみだけを糧にして力を振るう―――そんな事だけは、して欲しくない。果ての無い復讐心に焼かれるのも、そして喪失の苦しみを味わうのも私だけでいい。そんな負の遺産を次の世代になんて残したくない。


 復讐という行為が悪、というわけではない。やりたいのならば好きなようにやればよい。私も、力也に対してそう言った。復讐がしたいというならばやって見せよ、と。


 ただ、その道に進むからには二度とヒトに戻れぬものと覚悟せよ―――相応の対価が必要になってくるのだ。重く、苦しく、果ての無い対価が。


 眠るリキヤの頭を優しく撫でた。部屋の外で何が起こっているかも知らず、ぐっすりと眠るリキヤ。


 ああ、知らなくていい。部屋の外で、国の外で何が起こっているかなど。学校に行った時、教科書を見て学べばいい。


 そっと我が子を抱き上げ、優しく抱きしめた。結局私は、この子に母親らしいことをしてあげられただろうか。ふとそんな事を思い、残った右目が熱くなるのを感じた。


 いつか、この子が大きくなったら思い出してくれる筈だ。母はこんな人だった、と。


 抱き上げたリキヤを、部屋の外に待つ親衛隊の兵士に静かに預けた。


 この国は、クレイデリアは戦場になる。だからそうなる前に、民間人の疎開が政府主導で始まりつつあった。受け入れ先はジャングオ、オルトバルカ、ランゴジヤ、モルゴリア、タイワン、コーリア、倭国などの永久安寧保証機構加盟国。この子は倭国へと疎開する手筈になっている。


「……私たちの希望だ。どうかこの子を頼む」


「お任せください」


 子を預けた親衛隊の兵士に敬礼し、何も知らずに眠る息子を見送った。


 こうして我が子と触れ合うのもこれが最期だ……いずれこんな日が来るのではないか、という覚悟はしていた。随分と早い別れになってしまったが、覚悟の上だ。


 タンプル搭の自室に飾ってある、力也と一緒に撮った写真を眺めた。シズルが死ぬ前、家族みんなで撮った写真。この時カメラマンをやってくれたのはウラル教官だった。


 ああ、みんな死んでしまった。


 教官も、シズルも、姉さんも、力也も。


 もう、私の周りには誰もいない。


 あの子しか……力也が託してくれた未来だけだ。


 少しばかり遅くなってしまったが、私もみんなのところに逝くとしよう。


「……行ってくるよ、力也」


 カラー写真の中、復讐を誓った男とは思えぬほど幸せそうな笑みを浮かべる夫にそう告げ、私は部屋を後にした。













 広間の中には、各地から呼び戻された兵士たちが集合していた。


 陸軍、空軍、海軍、海兵隊、特戦軍、情報群、全5軍の精強な兵士たち。中には第一次世界大戦前から生き残っているベテランも多い。


 漂ってくる緊張感は今までの比ではなかった。


 それはそうだろうな、と思う。


 今までの戦いは”勝つための戦い”だった。敵との戦力差がはっきりと見えていて、勝利が覆る事は決してない―――そんな、勝ちが決まった戦いに赴く同志たちを鼓舞してきた。


 けれども今回の戦いは違う。


 勝利は見えず、はっきりと見えているのは敗北のみ。一度戦場に出たからには、戦死はほぼ確定という絶望。この場に居る兵士たちの大半が戦死し、戦後には多くの棺が並ぶ事だろう。クレイデリアの国旗をかけられ、物言わぬ棺と化した同志たちと、それの周囲で泣き喚く彼らの家族たち。そんな光景が思い浮かぶ。


 勝利か、全滅か。


 今の我々に突きつけられている現実は、テンプル騎士団が今までやってきた事と同じだ。


 因果応報……そう言いたいなら言えばいい。


「―――同志諸君、今日まで私と共に戦ってくれたことに、この場を借りて感謝する」


 マイクに向かって告げた。静まり返った広間の中に、私の声だけが響いていく。


「知っての通り、フィオナ博士の遺した負の遺産……L.A.U.R.A.が生み出した無数の無人兵器により、クレイデリアは甚大な被害を受けた。そしてそれはこの国に、そして世界へと拡散しようとしている」


 どこにも逃げ場はない。クレイデリアが陥落すれば次の国へ、そしてそこが滅べばその次の国へ。あれはそうやって人間の命を蹂躙し世界を渡り歩く、恐ろしい兵器なのだ。


 機械であるが故に死を恐れず、一切の情けの無い兵器たち。それの拡散を、我々は防がねばならない。


「既に非戦闘員は国外への疎開が始まっている。我々は祖国に留まり、奴らを迎え撃つ。私は親衛隊と共にファルリュー島へ突入、奴らの親玉を討ち取る。同志諸君、君たちとこうして話をするのも、これが最期になる」


 最後の一言で、集まった兵士たちがざわついた。


 それはそうだろう。この戦い、特に私がやるべき事は事実上の特攻―――生還を期さぬ、そういう類の作戦だ。


 だが、それでいい。


 死が怖くない、と言ったら嘘になる。


 正直、死ぬのは怖い。今まで死ぬのは怖くないと公言してきたが、実際にそれが目前に迫るとなると、やはり怖い。


 しかし、それで同志たちの命を、そして子供たちの未来を守れるのであれば。


 それに、多くの命を奪ってきた女にはお似合いの末路だろう。


 今、ここに居る兵士の大半が第二次世界大戦末期や、戦後に入隊した若手だ。入隊したばかりの頃は軍服が似合っているとは言えず、まだ子供っぽさが残っていたのを今でも覚えている。同志一人一人の顔と名前を思い浮かべながら、彼らを改めて見渡した。


 みんな、立派な顔つきになった。未来を守る大人の顔になった。立派な戦士の顔になった。


「今までは諸君らに”死ぬな”と言ってきた。だが、今回ばかりはそうは言えない。敵の戦力は強大で、諸君ら全員を生還させられる保証はない……いや、むしろ諸君らを死なせる公算の方が遥かに大きい。私は君たちに”死ね”と命じる事しかできない」


 最初は彼らを少しでも鼓舞するために、嘘でも”勝てる”と言おうと思ったが、やめた。せめて最後は、ありのままの言葉で、ありのままの現実を告げ、彼らを戦場に送り出そうと思う。


 彼らだって、薄々勘付いているだろうから。


「今まで我々は同じことをしてきた。そして我々にそれが返ってくる……極東には”因果応報”という言葉があるが、まさにその通りだ。今度は我々が、かつての我々に蹂躙されようとしている。尊厳も何もない、ただただ無慈悲な死を突きつけられている。では我々は、何のために生まれたのか? 我々のこの意志は、突きつけられた現実を、無残な未来を、死を受け入れるためだけに在るのか?」


 ざわめきも消え、広間の中を静寂が包んだ。


「―――いや、違う!」


 静寂を、自分の声で突き破る。自分の意志で、自分の魂で。


「我々の意志は、そんな理不尽な現実に抗うために在る筈だ! 理不尽を払い除け、決して譲れないものを守り抜くため、そしてそれを未来につなげるために在った筈だ!」


 兵士たちが目を見開く。突きつけられた現実を目にし、沈みかけていた彼らの魂に再び火が燈ったのがはっきりと分かった。


「死の運命を、我々は黙って受け入れたりはしない! 滅ぶべくして滅ぶというのならばそれも良いだろう! だが、滅ぶというのならば、奴らに精一杯抗ってからだ! 一匹でも多く地獄に引きずり込み、我らの存在意義を、我らの力を、意志を、魂を刻みつけてからだ! そうしてから胸を張って、安らかに眠る先人たちの元へ、そして散っていった同志たちの所に逝こう!!」


 兵士たちが声を上げた。種族にも性別にも関係なく、今、ここに居る全ての兵士たちの意志は一つだ。


 それをたまらなく、私は申し訳なく感じている。


 散々立派な言葉を並べ立てたが、結局のところ彼らに言った言葉を要約すれば『戦って死ね』という事だからだ。


 みんな、すまない。


 今まで感じたことも無い罪悪感に苛まれながらも、最後まで声を張り上げた。


組織(テンプル騎士団)祖国(クレイデリア)、そして同志諸君らに栄光を! 我らの未来のため――――――今日、共に死んでくれ!!!」


 下がりつつあった兵士たちの士気は、一気に頂点まで達した。タンプル搭地下の広間をぶち破らんばかりの歓声が響き渡り、兵士たちの声が大地を揺るがす。


 私も、そして同志たちも―――皆、死に場所を得た。


 我々の命、その終着点を。













 タンプルフォンをタッチし、画像フォルダを開く。中に残っているのは家族と一緒に撮った写真ばかりで、力也が死んでからはまだ幼いリキヤと2人で撮った写真ばかりが残っている。


 初めて立って歩いたリキヤに、離乳食を口の周りにべっとりと付けながら無邪気に笑うリキヤ、転んでも泣かずに我慢しているリキヤ。短い間だったけれど、私にとっては幸せな時間だった。


 ファルリュー島へ、私たちの死地へと向かうノーチラスの艦内で、そっと想う。私を母にしてくれてありがとう、と。


 タンプルフォンの電源を落とし、それを自室に置いた。これは私が死んだ後、遺品として処理してもらおう。対消滅榴弾の爆発で身体は消し飛ぶだろうから、遺体は残らない。代わりに棺の中にでも入れてもらうとしよう。


《間もなく作戦展開地域。上陸部隊は格納庫へ》


 立ち上がり、格納庫へと向かった。潜水艦とは思えぬゆったりとした通路を通過し、タラップを駆け下りて、特殊作戦モジュールに換装されたノーチラス級の艦内を進んで行く。


 用意された格納庫は、ユニコーンに搭載されたものよりも広かった。そこには潜水艇である”ヘヒト・イェーガー”が3隻も用意されていて、既に乗員の登場が始まっている。艇長たちは潜水艇のチェックを開始しているようで、水中機銃のターレットが回転しているのがはっきりと分かった。


 1号艇へと乗り込み、内部のシートベルトを締める。向かいの席にはオリヴィエもいて、最後までAKのチェックをしていた。


 彼女たちと弾薬を共用するため、私も合わせてAK-15を持ってきた。カスタマイズは以前と同じ、ロングバレルにPRSストック、アンダーバレルにはM203グレネードランチャー。持ってきた武装は他にもあるし、かつてないほどの重装備となっている。


 懐に手を突っ込み、チョコレートの包み紙を取り出した。それをいくつかの小さな破片に砕き、チョコレートの欠片を親衛隊の兵士たちに配る。


 最後の晩餐にしては量が少ないかもしれないが……。


 自分の分を口に放り込み、ゆっくりと溶かしていく。


 チョコレートとはこんなに甘いものだったか……そんな事を考えている間に、格納庫内部への注水が始まったようで、水が流れるような音が潜水艇の装甲越しに聴こえてきた。


 さあ、行こう。







 最期の戦いへ。







 第五十三章『機械仕掛けの神』 完


 











 最終章『異世界で転生者たちが現代兵器を使うとこうなる』へ続く




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