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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第五十三章 機械仕掛けの神
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魔法の石


「思考の具現化?」


 それが事実であれば、なんと夢のような話か。


 思考の具現化―――頭の中で思い浮かべた事が、現実となるというのである。そんな夢のような特性が、この石に秘められていたとでも言うのだろうか。


 まだステラ博士の分析結果を聞いて信じられないでいると、博士は研究室のテーブルの上に置いたメモリークォーツのサンプル―――長方形のプレート状に生成されている―――を拾い上げた。


「所有者の記憶を映し出す、というのは単なる特性の一部であった可能性が高い……我々技術部は、そう結論を下しました」


 元々、メモリークォーツは大昔の戦争で伝令が与えられていたものだ。敵情視察を行い、脳裏に焼き付けた光景を映像として味方に提供する。言語で伝えるよりも手っ取り早く正確なそれは、たちまち戦争の結果を左右する重要なアイテムとして普及し―――しかし埋蔵量が少なかったこともあって、あっという間にこの世界から枯渇した。


 それもまあ、当然だ。メモリークォーツとはそもそもこの星の物質ではなく、隕石としてこの地球に降り注いだ地球外の物質。故に隕石の落ちた地域でしか得る事が出来ず、現在では天然のメモリークォーツの価値は非常に高いとされている。


「しかしそれなら、何故当時の軍人たちはそれに気付かなかった?」


「おそらくですが、一定の魔力量と使用者の”感情”が引き金(トリガー)になっている可能性が高いかと」


「魔力と感情……」


「ええ……今後はもっと検証していく予定ですが、おそらくは」


 やっと辻褄が合ったような気がした。パズルのピースがぴたりと収まるのを見届けた、あの感覚にも似ている。


 南カフリアでフィオナが使った、あのプレート状のメモリークォーツ。あれが発動してからは不可解な現象ばかりが起こった。射撃の弾道を逸らされたり、弾丸が180度反転して襲い掛かってきたり、ロケット弾や爆弾が不発だったりと、普通では考えられない現象ばかりが立て続けに起こったのを思い出す。


 もしステラ博士の仮説―――使用者の思考を現実のものとするという特性が備わっているのだとしたら、辻褄は合う。チェルノボーグの動力を賄ってなお余りある膨大な魔力と、フィオナ自身の思考を以てすれば、先ほど述べた不可解な現象を現実に変える事は十分可能であろう。


 今まで我々は、これを単なる”軽くて硬い装甲の新素材”としか見てこなかった。が、その実態はその程度のものなどではない。下手をすれば戦争の在り方を変える……いや、世界の在り方そのものを変えかねない代物と言えるだろう。


 この力、他者に渡すわけにはいかない。


 特に西側諸国―――我らの行動の意味を見誤り、東側諸国と徹底抗戦の構えを見せつつあるアナリアには。


「博士、ちなみに一つ聞くが」


「なんです?」


 車椅子に座ったまま、幾何学模様の浮かぶ蒼いプレート状のメモリークォーツを眺めていたステラ博士がこっちを振り向いた。メモリークォーツの淡い光に照らされた彼女の顔には、何を知りたいか分かってますよ、と言わんばかりの不敵な笑みが浮かんでいる。


 なんだ、お見通しか。


「……メモリークォーツのこの特性を使ってくる敵を撃ち破るには、どうすればいい?」


 フィオナの操ったチェルノボーグ、それに搭載されていたメモリークォーツによる思考の具現化―――そんな能力を意のままに操る相手と戦うのは、はっきり言って絶望的だ。極端な話、敵が私に”死ね”と念じればそれが現実となりうるのだから。


 はっきり言って勝ち目がない。


 フィオナの一派と戦う以上、今後同様の能力を持った敵との戦闘も考えられる。そうなった時に対抗できる手段は果たして存在するのか?


 頼む、教えてくれ―――そう念じながら彼女の蒼い瞳を凝視していると、「簡単な事ですよ」と言いながらステラ博士は微笑んだ。


「同じくメモリークォーツでそれを相殺すればいい、それだけの事です」













 化け物には化け物をぶつけ、メモリークォーツにはメモリークォーツをぶつける。


 目には目を、メモリークォーツにはメモリークォーツを、というわけだ。きわめて単純明快、深く考えるだけ無駄というものだが、これくらい過程と結果が単純な方が私にとってはやりやすい。


 対物破砕槌を抱え、チェルノボーグの巨体へ肉薄しようとする私を、ローラントの操る瓦礫の山が押し留めようとする。崩壊したキャットウォークや壁の一部、撃破された戦闘人形オートマタの残骸で形成された粗末なバリケード。それがふわりと浮遊したかと思いきや、ぐるぐると時計回りに高速回転を始め、まるでライフリングで回転を得た弾丸のように凄まじい速度で突っ込んでくる。


 弾速の速さもそうだが、表面積の広さの関係から回避は困難であろう。あんなのに直撃すれば、人体など容易く砕け散る。


 が、そんな必要などない。


 対物破砕槌を握る手に力を込め、肩から余分な力を抜いた。


 ローラントよ。


 貴様がやっている事は何か、もう一度思い起こすがいい。


 フィオナの掲げた下らん理想に賛同し、我らに牙を剥いた。それだけでも万死に値するが―――我が一族を利用し、(力也)の復讐までもを利用したフィオナの傀儡に成り下がった貴様は、それ以上に許しがたい存在。


れ者めが―――」


 憤怒を感じ取ったのか、対物破砕槌に内蔵されているメモリークォーツが紅い輝きを放った。黒い表面の打撃部の隙間から、うっすらと禍々しい光が漏れ出る。


 両手で柄を握り、それを思い切り瓦礫の塊に叩きつけた。


 まるでガラス球を叩き割るかのように、コンクリートやら防弾フレームで押し固められた塊が砕けた。弾け飛んだ破片や装甲の断片、コンクリートの欠片が飛び散り、再び目の前にローラントの操る機械の巨人が姿を現す。


 もう既にメモリークォーツの特性―――”指向の具現化”が可能な力場に足を踏み入れている。いつどこで、何が起こってもおかしくない、完全なローラントだけの領域。そこではあの男こそが法律で、あの男だけが秩序で、あの男が王。


 なんとも気に入らない。


 そんなふざけた領域、この私が粉砕する。


 ”惨殺あるのみ”だ。


 装甲が展開し、巨体の各所からターレットが顔を出した。マウントされているのはブローニングM2重機関銃。12.7mmNATO弾を使用する50口径の重機関銃で、その威力は人間など眼中に無いと言わんばかりのレベルだ。どこであろうと、命中すれば人体が弾け飛ぶレベルである。


 そんなものをフルオートで連射する―――生身の人間にとっては悪夢のようなものだろう。遮蔽物という概念すら一蹴してしまう悪魔の兵器が、ざっと見ただけでも16基。まさにハリネズミと言っていい。


 重機関銃群が火を噴くと同時に、チェルノボーグの周囲にあったキャットウォークが一斉に壁面から引き剥がされた。まるで透明な巨人の腕に鷲掴みにされているかの如く浮遊するや否や、獲物に狙いを定めた急降下爆撃機のごとく頭上から降り注いできた。


 重機関銃の弾丸はキメラの外殻で防ぎ、迫り来るキャットウォークは対物破砕槌で薙ぎ払う。ゴシャアッ、と派手にひしゃげる音を響かせながらキャットウォークが押し退けられ、歪な形のスクラップに成り果てる。


「団長!」


「下がってろ、オリヴィエ!」


 援護してくれるのはありがたいが、メモリークォーツを持たぬオリヴィエに対抗手段は無い。今は自分の身を守る事に専念するべきだ。


 心配そうにこちらを見守る彼女に微笑み、再びローラントを睨む。


 私は誰かに守ってもらわなければならぬほど、弱い女ではないつもりだ―――勝利は己の力で掴み取る。誰が何と言おうと、力こそが全てなのだから。


 思い切り床を踏みつける。ボンッ、とミサイルサイロのコンクリートの床が大きくへこみ、まるで砲弾でも落下したかのようなクレーターが出来上がる。


 全身の力を左足に集中させ、更に脚力を魔力でブースト、そこに更に転生者としての強化された身体能力でブーストをかけ全力で跳躍。空中へと逃れた私を重機関銃の弾幕が追うが、曳光弾が射抜くのは眼下の何もない空間のみ。照準がこちらの速度に追い付けていない。


 ゴウッ、と巨大なチェルノボーグの剛腕が迫る。57mm機関砲を搭載してこそいるが、もうそれが威力を発揮する間合いではない。あまりにも近すぎる。


 だから砲撃ではなく、剛腕での打撃という原始的な攻撃を選択したのだろう。重厚な装甲と、57mm機関砲の砲身での殴打。あるいは鷲掴みにし握り潰すという、趣味の悪い攻撃でも考えていたのかもしれない。


 この男は、殺す。


 本物が既にこの世を去っていようと、目の前に居るのがローラントの抜け殻であろうと関係ない。


 この男の策で何人の同志たちが命を落としたか。祖国の解放を、組織の勝利を願い、志半ばで散っていった多くの同志たち―――彼らの無念が、私に力を与えてくれた。


「弱者は黙って―――地に伏せろッ!!」


 咆哮と同時に縦に一回転。勢いを乗せ、全ての体重と腕力を乗せた対物破砕槌の一撃を、迫り来るチェルノボーグの剛腕に振り下ろした。


 渾身の一撃のつもりだった。


 それは巨人に戦いを挑もうとする、身の程知らずの小人の一撃にも等しいかもしれない。あるいは巨竜に挑む羽虫の一噛みか―――比べるまでもないほどの一撃だったかもしれない。


 しかしそれは、ローラントの、そして何よりも私の予想を遥かに上回る威力を見せた。


 棍棒の一撃を防いだかに見えたチェルノボーグの剛腕。しかしその表面が大きくへこんだのを皮切りに、回路が断絶し、フレームがへし折れ、やがて巨人の剛腕が完全に折れ曲がる。


《馬鹿な―――》


 歪んだ装甲の隙間から、鮮血のようにオイルが滴り落ちた。スパークを発しながら機能を停止していく剛腕を足場に、更に跳躍。ミサイルサイロ内で固定砲台と化したチェルノボーグの頭上を完全に捉える。


 ああ、良い眺めだ。


 かつて、己の歪んだ理想を思い描いていた男の穴倉―――ローラント、貴様の墓標に相応しいじゃあないか。


 健在な重機関銃群に加え、両肩にある23mm機関砲のターレットまでもがアクティブになった。生き残った左腕も動員し、搭載したほぼ全ての火器を空中の私に向けてくる。


 息を止めつつ、身体中の魔力を全力放射。自身の周囲に散布するかのように高圧魔力を展開し、一斉射撃に備える。


 足りない分は体内の魂を魔力に変換し何とか賄う。魂を使う度に、腹の中で泣き叫んでいた人間の声が1つ、また1つと消えていくのがはっきりと分かった。


《何故だ……理解できない、何故……?》


 だから機械は駄目なのだ―――。


 チェルノボーグの武装が立て続けに火を噴く。12.7mm重機関銃、23mm機関砲、対戦車ミサイルランチャーに加え、57mm機関砲の集中砲火。戦車を木っ端微塵にし、塹壕を焼け野原に変えられるほどの圧倒的火力が、たった1人の人間へと向けられる。


 が―――それが私の肉体を引き裂くことは無かった。


 弾丸が、砲弾が、ミサイルの群れが、私を直撃するよりも先に―――その矛先が、悉く”逸れる”。


 まるで弾丸たちが、標的に直撃するのを拒んでいるかのように。


 どれだけ機関銃が吼えても、どれだけミサイルが唸っても―――それらの一発たりとも、私には当たらない。


 メモリークォーツによる思考の具現化。それはまさに、戦い方を一変させる力と言っても良かった。


 なかなか命中しない砲撃に業を煮やしたのか、まだ健在な左腕を大きく突き上げてくるローラント。しかしその巨人の如き鋼鉄の剛腕も、辿ったのは先に破壊された右腕と同じだった。私の肉体に触れるよりも先に、指を構成する57mm機関砲の砲身がぐにゃりと折れ曲がる。


 それだけではなかった。指の付け根にある機関砲の機関部までひしゃげ、砕け、潰れていく。後は腕部のフレームも同じ道を辿っていった。まるでプレス機で押し潰される廃車のように、形を変形させていく。


 攻撃するどころか、触れる事すら許されない。


 これでもう、邪魔する相手は居なくなった―――残るは頭部に座するローラントただ一人、その首を討ち取るのみ。


 最期の足掻きと言わんばかりに、頭部に搭載された5.45mm対人機銃が火を噴いた。AK-74かRPK-74を流用したものなのだろうが、そんな豆鉄砲で止められるわけもあるまい。


 落下する勢いを乗せ、彗星の如き勢いで、コクピットのあるチェルノボーグの頭部に対物破砕槌を突き下ろした。


 ―――有り得ない。


 計算が全て狂い、修正すら叶わなくなった哀れな策士のそんな言葉が―――どこで間違ったのか、何がいけなかったのかを己に問う声が、微かに聞こえた気がした。


 それが彼の、ヴォルフガング・ローラントという哀れな男の断末魔。


 かつては帝政ヴァルツの名将として名を馳せ、その知略で我らを苦しめた男とは思えぬ、何とも弱々しい声だった。


 ゴウン……とモーターが減速するような音を発し、頭を潰され主を失ったチェルノボーグの複眼型センサーから光が失せる。突き立てた対物破砕槌を強引に引き抜き、返り血のようなオイルを全身に浴びながら飛び降りると、先ほどまで弾幕を張り続けていた鋼鉄の巨人はミサイルサイロの底、かつての勇者の穴倉の底で動かなくなった。


 せめて奴の首だけでも持ち帰りたかったが……コクピットごと潰したのだ、原形はもはや留めてはいまい。


 ガゴンッ、と戦闘人形オートマタの倒れる音。振り向くと、返り血のように紅いオイルに塗れたオリヴィエが、銃身から陽炎を立ち昇らせたRPK-203を抱えながらこちらを見つめていた。


「終わった……のでしょうか?」


 その問いに、すぐ答える事は出来なかった。


 これで終わり……そんな筈がない。あまりにも、あまりにも呆気なさすぎる終幕。第一、戦闘人形オートマタを生み出しているであろうL.A.U.R.A.は未だ発見できていないのだ。まだ任務は終わっていない。


 その旨を伝えようとしたその時だった。 


 パチ、パチ、パチ。


 やけに間隔を空けた、相手を称賛するというよりは侮蔑のニュアンスを含んだ拍手が、がらんとしたミサイルサイロの中へと響き渡った。殺気と共に振り向くと、やはりそこには―――白く長い髪が揺れている。


 先ほどチェルノボーグに破壊された、制御室の割れた窓。


 そこに真っ白なワンピースを纏った幼女が佇み、蒼い瞳でこちらを見下ろしているのだ。無数の戦闘人形オートマタと、メモリークォーツを操る改良型チェルノボーグという難敵を退けた我々を、そこで見下ろしている。


 ああ、やはりか。


 やはり―――やはり、死んでいなかったのか。






『お久しぶりですね、セシリアさん』






「フィオナ、貴様ッ……!」


 私が抱く彼女への怒りは、オリヴィエも共有している。だからなのだろう。まだ私よりも若く血気盛んな彼女の方が、フィオナに銃を向けるのが早かった。


 私はただ、ミサイルサイロの底でオイルまみれの棍棒を手にしたまま、フィオナを見上げるばかりだった。


 絶望しているわけでは無い。殺したはずの相手の出現に、どうすればいいか悩んでいるわけでもない。


 むしろ、感謝したいくらいだった。私の同志たちを、そして一族を、夫を利用した怨敵。あの女を一度殺すくらいでは生温い。目の前で全てを奪う……それでもまだまだ生温い。


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もも何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もも何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も―――何度も、何度でも殺す。


 肉体だけでなく、心が完全に壊れるまで。生への執着が潰え、自ら死を望むほどの絶望をその心身に刻み込むまで。


 それほどの苦痛を与えぬ限り、我らはあの女を許さない。





「―――私を見下ろすな、フィオナ」




 

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