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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第五十二章 鉄のカーテンの下で
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潜伏先

今回エピローグみたいな感じなので短めです。


《タンプル搭よりフォボス、着陸を許可します》


 艦橋の窓の向こうに、見慣れた巨砲が迫ってくる。32基の薬室を持ち、7つの支柱と無数のワイヤーで支えられた長大な砲身。遠くから見れば巨大な要塞砲だが、麓から見れば確かに塔にも見える事だろう。


 本部の名称の由来となった切り札。それを取り囲む岩山の周囲に広がる岩場の一角が唐突に解放され始めた。そこから露になったのは、船体を減速させる用途に使用されるトラクタービームのターレットと、全長400mの船体を収めるに十分なサイズの乾ドックを思わせる空間だった。


 トラクタービームによる減速と管制室からの誘導に従い、高度を落としたフォボスの船体がふわりと乾ドックへ降り立っていく。船体が乾ドックに収まったかと思いきや、壁面から巨大なアームが伸び、フォボスの船体を鷲掴みにしてそのまま安定させる。


 フォボスが無事に着陸したのを確認してから、私は親衛隊の隊員を連れて船体の下層部へと向かった。あくまでもフォボスは空軍所属の兵器で、それを借りて今回の作戦を行ったに過ぎない。余所者はとっとと降りた方が良いだろう。


 協力してくれた空軍の同志たちには、後で礼を言わねば。


「しかし、よろしかったのですか? ご命令があれば残骸を回収できたのですが」


 そう言いながら隣を歩くのは、作戦中このフォボスの艦橋で状況を監視していたオリヴィエだった。ホムンクルス兵ではあるものの、その中でも特に私に瓜二つ―――左目に眼帯があるという点でもだ―――であり、特異な雰囲気を纏っている。


 まあ、それも仕方のない事だ。彼女の生まれた経緯を考えれば当たり前であろう。


 オリヴィエたちは私にとって歳の離れた”妹”のような存在なのだから。


「構わんさ」


 彼女の方を振り向く事なく、あっさりとそう言ってみせた。表情を伺わなくとも、オリヴィエが少し不満そうな顔をしたことくらいは分かる。


 廃駅の構内で戦った、4体の戦闘人形オートマタ。あれの残骸はそのままヴァルツに置いてきた。きっと今頃ニールゲンの連中が回収し、解析を行っている事だろう。海神の手に渡る可能性もあるが、それはそれで良い。


 フィオナの技術は我々テンプル騎士団のものより更に50年、この世界の技術水準から見れば100年進んでいる、とまで言われている。まさに宝の山といっていい代物だ。それを西側へプレゼントするとは思えない。


「”迷惑料”のおつもりですか」


「まあ、そう思ってもらって構わん」


「しかし、あのニールゲンの事です。技術の解析まではできなくとも、将来的に我らの脅威に―――」


「我らの敵はフィオナとその遺産のみ」


 敵を見誤るな、という警告を込めて言うと、オリヴィエはそれ以上何も言わなかった。


 一時期の私もそうだが、周りの全てが敵に見えてしまう事がある。それはそれで仕方のない事だ。権力と圧倒的軍事力を手にすると、誰でもそうなってしまうものである。


 下層部のハッチから降りると、外には親衛隊の兵士を引き連れたシルヴィアが待っていた。出迎えてくれた彼女たちに敬礼を返し、タラップを駆け下りる。


「解析はどうなっている」


「データの送信先が判明しました」


 そうか……何とか最低限の目標は果たせたというわけだ。


 可能であればローラントの首も持ち帰りたかったところだが、それはまあ仕方ない。いずれにせよあの男も消すのだ、それが少し遅れるだけの事。


 詳しくは中央指令室で、と言いながら、私たちを案内するシルヴィア。


 彼女の後を歩きながら、少し考える。


 隣に居るオリヴィエの正体は”私のホムンクルス”だ。タクヤ・ハヤカワを雛型としたホムンクルス兵ではなく、このセシリア・ハヤカワを雛型としたホムンクルス兵。技術部が”より高性能な兵士の量産”を目的に進めていた計画だが、タクヤ・ハヤカワのホムンクルス以上に個体差が大きく安定しないため、少数生産されたのみに留まっている。


 オリヴィエはその中の1人だ。歳は今年で24、私より10歳も歳下である。左目に生まれつき障害があったのも、私が左目を失った後に採取された遺伝子を使用した関係だろう。彼女以外にも、他の少数生産されたホムンクルスたちはみんなそうだった。生まれつき左目が白濁して視力が無く、良くても極端に視力が悪い場合や、色を正確に識別できない色盲を抱えている場合もあった。


 そういう経緯で生まれたから、私はオリヴィエの事を部下としてではなく、歳の離れた妹と認識している。実際に血が繋がっているのだから間違いではあるまい。


 それにしても……。


 それと似たような感覚を、シルヴィアに対しても抱いてしまう事が多々ある。


 いや、間違いではないのだ。私のホムンクルスだろうと、タクヤ・ハヤカワのホムンクルスだろうと、どちらにせよ血縁関係にある事に変わりはない。使われている遺伝子が祖先のものか、それとも私自身のものかの違いのみだ。


 前を歩くシルヴィアの後ろ姿を見つめているうちに、中央指令室の扉が見えてきた。重々しい防爆型ドアの前にはRPK-16を抱えた親衛隊の兵士が待機していて、私たちを敬礼で出迎えてくれた。


「特定は既に完了してるわ」


 中央指令室の中には既に立体映像の世界地図が表示されていて、腕を組んだままそれを姉さんが見上げていた。


 戦闘人形オートマタは、撃破される度に学習する。


 強敵との戦闘や苦戦をデータとして送信し、それを母体となるL.A.U.R.A.が受信。それをフィードバックし問題点を解消した戦闘人形オートマタを生み出す、というサイクルを何度も繰り返す事で、あの木偶人形共はやがて誰も倒せぬほどの強さを手に入れる、という仕組みになっている。


 だからそれの生産工場として機能しているL.A.U.R.A.を破壊しない限り、この戦いは終わらない。


 そのL.A.U.R.A.の潜伏場所が長らく不明だったから頭痛の種であり続けたのだが……海神側からの情報提供と協力により、奴らが撃破された際に送信するデータの解析が可能となった。


 今回の目的はあくまでもローラントの身柄の拘束ないし殺害であったが、それはあくまでも奴の頭部にあるメモリーユニットからの解析が目的だったからだ。戦闘人形オートマタとの戦闘でデータの送信が確認でき、その送信先の特定が完了したのだから、ローラントの始末は叶わなかったが最低限の目標は達成できたと言える。


「で、送信先は?」


 問いかけると、姉さんは立体映像を操作した。中央指令室にある団長席のすぐ目の前に投影された映像が動き、ヴァルツから紅い線が伸びるアニメーションが再生される。


 ヴァルツ中心部から伸びたそれはポーンラントを越え、オルトバルカまでもを越え、最近ではオルトバルカからの独立やNATOへの加盟を希望している事で色々と揉めているラトーニウスすら越える。


 行き着いた先は南ラトーニウス海に浮かぶ孤島だった。


「―――ファルリュー島よ」


 ファルリュー島。


 かつて、モリガンの傭兵たちと勇者が死闘を繰り広げた”第一次転生者戦争”の舞台となった場所。そしてその結果、勇者が異次元空間へ封印され―――フィオナがその封印を解いた、我が一族にとっては忌むべき場所。


 フィオナはそんなところにL.A.U.R.A.を隠していたというのか。


 まあいい……潜伏先が分かった以上、後はやるべき事をやるだけだ。


 過去からの因縁は、全て私の世代で終わらせる。





「攻撃部隊を編成しろ。ここで全て終わらせる」







 第五十二章『鉄のカーテンの下で』 完


 第五十三章『機械仕掛けの神』へ続く



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