灰色の虐殺者
そろそろ前作みたいなおまけをやるべきか迷ってます。ただ、結構シリアスな話ばっかりだったので、シリアスさが台無しにならないか心配なんですよね(苦笑)
2発の5.45mm弾を叩き込まれた敵兵が、頬とこめかみに穿たれた風穴から肉片や鮮血を噴き出しながら後ろへと崩れ落ちていく。仲間を殺されたことに気付いた他の敵兵が鞘の中から剣を引き抜き、こっちに向かって雄叫びを上げながら突っ込んできたが、別の仲間がすぐさま叩き込んだ2発の5.45mm弾がその雄叫びを強制的に終了させる。
木箱の陰から姿を現した特殊部隊の隊員が、側頭部にAN-94の2点バースト射撃を叩き込まれた敵兵が死亡していることを確認してから、サプレッサー付きのAN-94をそっと下ろした。頭を撃たれたのだから普通の人間ならば死亡しているが、稀に同胞と戦う事もある。吸血鬼は弱点である銀を使った弾丸や聖水を使った攻撃を叩き込まなければすぐに傷を再生させてしまうので、頭に弾丸をプレゼントしたとしても、しっかりと死亡していることを確認する必要がある。
窓から片手を突き出し、反対側の建物の中ででっかいサプレッサーを装着したスナイパーライフルを構えてこっちを見張っている特殊部隊の隊員に室内の制圧を終えた事を告げる。
「室内を制圧」
『こちらアクーラ4、了解』
「引き続き建物の周囲を見張れ。生き残りがいたらすぐに射殺しろ、”ニコライ4”」
『隊長、いい加減コールサインで呼んでくださいよ』
笑いながら、向かいの建物でスナイパーライフルを構えているニコライが言った。ニコライは特殊部隊に所属する数少ない吸血鬼の兵士の中の1人であり、優秀な狙撃手であったラウラ・ハヤカワの教え子でもある。
ラウラの教え子たちは気配の消し方が巧い。どこから狙撃するかという事を予め把握していなかったら、彼を探し出して合図するのに時間をかける羽目になっていた事だろう。
一緒に室内に突入した部下たちにも合図を送り、倒れている死体をチェックする。
室内に倒れているのはボロボロの服を身に纏った騎士たちだった。よく見ると、ボロボロになっている服は元々はオルトバルカ連合王国騎士団の制服であったことが分かる。穴だらけになった軍服にオルトバルカ騎士団のエンブレムが描かれているのを確認した俺は、部下たちが仕留めた人数をチェックしてから、ブリーフィングで聞いたこの建物に立て籠もっている人数と合っているかどうかチェックした。
この作戦のクライアントは、ハヤカワ家とかなり親密な関係にあるオルトバルカの王室からだった。虎の子の騎士団に所属する騎士たちが、昔に併合された旧ラトーニウス領出身のラトーニウス独立派の騎士たちと共にオルトバルカ王国に反旗を翻して反乱を起こしたという。俺たちが引き受けたのはその反乱軍の鎮圧だった。
もし団長がヒロヤであれば、あいつが説得するために丸腰でここへとやってきていた事だろう。だが、今の団長はあいつのように甘い男ではない。人々に牙を剥く存在であれば、自分の身内だろうと無表情で粛清するほど冷酷な男である。
とはいっても、説得して相手を改心させるよりは相手を排除するようなやり方の方が慣れているので、正直に言うと俺はこっちの方がいいと思うがな。
『アクーラ1、こちら”ボレイチーム”。反乱軍司令部の地下にて人質を確保。損害なし。人質にも負傷者は見受けられません』
「よくやった。”シエラチーム”、そっちは?」
『こちらシエラチーム、反乱軍の伝令の排除に成功』
『こちら”デルタチーム”、現在中庭で敵の増援部隊と交戦中。申し訳ありませんが、手が空いていましたら手伝ってくれませんかね? あとでハンバーガー奢るんで』
やれやれ。
苦笑いしながら、無線機に向かって言う。
「ポテトとタンプルソーダもセットにしていいならやってやる」
『了解、お願いします』
「よし、同志諸君。ちょっとばかり残業していくとしよう」
テンプル騎士団の特殊部隊は、複数のチームで構成されている。1つのチームは陸軍や海兵隊から選抜されてきた8人の優秀な兵士たちで構成されており、そのうちの2名はスナイパーライフルやアンチマテリアルライフルを装備した狙撃手となっている。
一般的なテンプル騎士団の兵士は、大口径の7.62mm弾を使用するAKMやAK-15を支給される。大口径の弾丸であれば、対人戦だけでなく、巨大な魔物との戦いでも魔物にダメージを与える事ができるからだ。人間だけでなく魔物との戦闘も想定しているため、テンプル騎士団の兵士の装備は大口径の銃が望ましいと言われている。
だが、特殊部隊の任務は敵陣への潜入や要人の暗殺であり、基本的に想定される敵は人間ばかりであるため、支給される銃は小口径の弾薬を使う銃となっている。要するに、特殊部隊は対人戦闘に特化した部隊なのだ。
俺が率いるこの”アクーラチーム”は、一番最初に設立されたスペツナズのチームである。そのため、所属している兵士はベテランばかりであり、テンプル騎士団の中でもトップクラスに錬度が高い部隊と言っても過言ではない。先ほど応援を要請してきたデルタチームは、まだ未熟な兵士たちばかりで構成されている。
未熟とは言っても、海兵隊や陸軍から選抜されたりスカウトされてきた優秀な兵士たちなのだが。
ちなみに、三週間前に”エコーチーム”が設立されており、選抜試験に合格したばかりの新入りたちが本部で訓練や教育を受けている。
サプレッサー付きのAN-94を構えつつ、反乱軍司令部の中庭へと向かう。通路には既に警備兵たちの死体が転がっていて、床に敷かれている真っ赤なカーペットは兵士たちが流した鮮血で湿っていた。しかも敵兵の大半は弾丸で頭を撃ち抜かれるか、ナイフで喉を切り裂かれており、普通の銃撃戦のように胴体に弾丸を叩き込まれて死亡した敵兵の遺体は見当たらない。
スペツナズに入隊する条件の1つは、”射撃訓練の最高難易度を95点以上でクリアする”ことだ。テンプル騎士団の射撃訓練の最高難易度は、的が素早く動く上にフェイントのような動きをするため、狙いを定めて撃ち抜くのは極めて難しい。
その訓練を95点以上でクリアする兵士がスペツナズに入隊しているため、兵士たちの射撃の技術は非常に高い。敵が馬やバイクに乗っていたとしても、お構いなしにヘッドショットをお見舞いできるというわけだ。
向かいの建物の窓から、バイポッドを展開したスナイパーライフルを構えつつ通路を見張っていた狙撃手たちも、俺たちと共に移動を開始する。今すぐに中庭へと移動し、敵の増援部隊の攻撃で苦戦しているデルタチームの兵士たちを支援しなければならない。
死体だらけの通路を通過し、中庭の近くにある窓からAN-94を突き出そうとしたその時だった。
『先生、俺に任せろ』
ヘッドセットから低い声が聞こえたと思った次の瞬間、灰色の外殻に身を包んだ怪物が、いつの間にか司令部の上空で待機していたスーパーハインドの兵員室から飛び降りた。フードの付いた黒いコートに身を包んだその怪物は、落下しながら両手に持った2丁のAK-15のフルオート射撃を反乱軍の残存部隊へと叩き込んでいく。まるで戦闘機の機銃掃射のような弾幕で敵兵を何人か木っ端微塵にした怪物は、マガジンが空になった2丁のアサルトライフルを空中で投げ捨てつつ、腰の後ろから生えている灰色の尻尾を腰の剣へと伸ばして鞘の中から剣を引き抜き、まだ生き残っている敵兵をそのまま両断してしまう。
金属製の兜がお構いなしに切断される音が一瞬だけ響き渡り、空中でぶちまけられた7.62mm弾の薬莢たちが、豪雨のように石畳に落下して金属音を奏でた。
唐突に姿を現した灰色の怪物を目の当たりにして、反乱軍の兵士が凍り付く。身体中をドラゴンのような灰色の外殻で覆われているせいなのか、傍から見れば古めかしい防具に身を包んだ騎士のようにも見えるが、頭部に残っている人間の頭髪の中からはダガーの刀身のような角が2本も伸びている上に、腰の後ろからはドラゴンのような尻尾も生えている。
その怪物は尻尾で持っていた剣を右手に持ち替えたかと思うと、まだ凍り付いている敵兵に向かってその剣を思い切り投擲した。漆黒のロングソードが敵兵の頬を直撃し、そのまま頭の上半分を切断してしまう。
頭の上半分を切断された兵士が崩れ落ちるよりも先に、灰色の怪物は腰のホルスターの中からトカレフTT-33を引き抜いた。
目を見開いている敵兵を次々に撃ち抜いていく怪物を見下ろしながら、かつて一緒に戦ったハヤカワ家の当主たちを思い出す。中庭で反乱軍の騎士たちを蹂躙する灰色の怪物の戦い方は、ユウヤやタクヤの戦いにそっくりだった。
無茶な戦い方だが、技術と圧倒的な力で強引にその”無茶”を実現させてしまうような戦い方。
ヒロヤは敵を殺すことが全くなかったから、ああいう戦い方を見るのは久しぶりだ。
「ま、待て、降伏す―――――」
武器を投げ捨てて両手を上げた敵兵の頭に、風穴が開いた。同じように降伏しようとしていた兵士たちが、風穴から血を噴き上げて後ろへと倒れていく仲間を見下ろしながら凍り付く。
「お、おい………降伏する…………だ、だからもう攻撃を止めてくれ…………!」
「は?」
トカレフTT-33を反乱軍の騎士たちへと向けながら、灰色の怪物は敵兵を睨みつけた。ヒロヤ以外の歴代の団長たちは、クソ野郎には全く容赦をしない男たちだった。貴族に家族を人質にされて仕方なく貴族に手を貸したような騎士たちは見逃したり、捕虜として受け入れていたが、私腹を肥やすために人々を虐げるような連中は、降伏すると言ったとしても絶対に降伏は許さない。
だが、彼はユウヤやタクヤ以上に容赦のない男と言ってもいいだろう。
以前に、彼の教育のためにスペツナズの任務に同行させたことがあったのだが、彼はスペツナズが確保した捕虜に銃を向けようとしていたのである。確かに、その捕虜はクソ野郎に手を貸した男だったが、諜報部隊の調査で病気の娘を人質に取られていた事が発覚したため、殺さずに捕虜にすることになっていたのだ。
しかし、彼はその捕虜まで殺そうとした。愛娘を人質にされていたとはいえ、クソ野郎に加担したことで死者が何人も出たのだから粛清するべきだと平然と言ったのである。
銃声が何度か響き渡った。降伏しようとしていた敵兵が何人か中庭に倒れており、石畳を鮮血で真っ赤に染めている。中には逃げ出そうとする兵士もいたが、すぐにトカレフTT-33で後頭部を撃ち抜かれ、仲間たちと同じ運命を辿った。
「粛清完了」
そう告げながら、テツヤはこっちを見上げて親指を立てる。
頷いてから、AN-94を背中に背負った。窓から身を乗り出し、そのまま中庭へと飛び降りる。
「タンプル搭でゆっくりしてても良かったんだぞ、テツヤ」
「何言ってるんです、先生。最前線で戦う兵士たちの事をしっかりと理解しなければ、兵士たちは総大将にはついてきません」
「ハッハッハッ、タクヤも同じことを言ってたよ」
「ご先祖様の言っていることは正しいですからね」
一緒に戦う事になる部下たちはさぞかしヒヤヒヤすることになるだろう。下手をすれば、一緒に戦っている総大将がすぐ近くで戦死する羽目になるのだから。タクヤやユウヤも陸軍の兵士たちに出撃するのはやめてくださいと止められていた事を思い出しながら、死体だらけになった中庭を見渡した。
既に、反乱軍の殲滅のために陸軍と海兵隊が攻勢を開始している。反乱軍の守備隊は、反乱軍にしては数が多かったものの、ホムンクルスをいくらでも生産できるようになってしまった以上、テンプル騎士団が物量で敵に劣ることは有り得ないといってもいい。敵が1億人の軍隊を送り込んできたら、こっちは平然と100億人の”哨戒部隊”で返り討ちにする事ができるのだから。
おそらく、今回の反乱はラトーニウス王国の復活を目論む連中が黒幕だろう。友軍の攻勢が終わったら、すぐにシュタージの連中が黒幕の居場所をすべて調べ上げ、俺たちに連中の抹殺を依頼してくる筈だ。
すぐに新しい仕事ができる事は、既にアクーラチームの戦友たちは勘付いているようだった。
「こりゃ、今のうちに彼女との夕食の予定はキャンセルした方が良さそうですね」
サプレッサー付きのSV-98を持ったニコライが残念そうにそう言った。
「仕方ないさ、俺たちは軍人だからな。…………つーか、お前彼女いたのか?」
「この前酒場で知り合ったんですよ。すごく綺麗なエルフの子なんです」
「おいおい、隊長に無断で彼女作ったのかよ?」
「え、許可貰わなきゃダメなの!?」
「ウラル隊長はまだ独身なんだぞ、ニコライ」
「お前ら、タンプル搭に戻ったら久々にランニングでもするか」
「「「「「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」
くそったれ、俺よりも先に彼女を作りやがって。
先ほどテツヤが飛び降りたスーパーハインドが、ゆっくりと中庭へ降りてくる。俺たちはヘリの喧しいメインローターの轟音を聞きながら、こっちをライトで照らしているパイロットに向かって手を振った。
キメラたちの寿命は、人間よりも短い。
40代までは20代の若さと身体能力を維持できるものの、50歳になった途端に肉体が急激に老化してしまうのである。それゆえに、キメラたちの”定年”は50歳と言われている。
テンプル騎士団の歴代の団長たちも、40代になった頃には自分の子供たちにテンプル騎士団の団長の役目を継承させ、自分たちが祖先から受け継いできた兵器のデータも継承させてきた。そして、役目と力を継承した次の世代の円卓の騎士たちが、テンプル騎士団の指揮を執ってきたのである。
だが、自分の力と役職を継承させたキメラたちは、まだ退役はしない。自分たちからあらゆるものを継承した子供たちが道を踏み外したり、暴走しないように監視する必要がある。
そのため、テンプル騎士団の初代団長であったタクヤ・ハヤカワは、団長をユウヤに継承させた後に『元老院』と呼ばれる組織を作り上げた。圧倒的な規模を誇るテンプル騎士団のあらゆる指揮系統にも属さない、完全に独立した”もう一つのテンプル騎士団”と言っても過言ではない存在である。
元老院の構成員は退役した団長や円卓の騎士で構成されており、ホムンクルスのみで構成された部隊も保有している。もしテンプル騎士団の団長が道を踏み外した際に、即座に鎮圧するための特殊部隊だ。
とはいっても、その特殊部隊が出動するような事態はテンプル騎士団の分裂や内乱を意味する。そのため、元老院が保有する特殊部隊はまだ一度も実戦を経験していないし、元老院が特殊部隊を保有しているという事を知らない団員も多い。
しかし―――――下手をすれば、その特殊部隊を初めて実戦投入する羽目になるだろう。
「テツヤ団長はやり過ぎです」
年老いたエルフの団員が、純白の円卓の向こうでそう言った。
テンプル騎士団が黒い制服や設備を保有しているのに対し、元老院の制服や設備は真っ白だ。そのせいで、元老院の会議は宗教組織の会議のように見えてしまう。
「先月の遠征では、我が軍を攻撃しようとした少年兵を射殺しようとしたのですぞ」
「だが、少年兵を退けなければ我が軍にも被害が出るではないか」
「我々はクソ野郎を根絶やしにするための組織じゃ。子供を殺すための組織ではないのじゃぞ!!」
「テツヤを更迭するべきだ!」
「しかし、今の円卓の騎士はテツヤ派が多い。そんな事を打診すれば、テンプル騎士団との間に大きな軋轢が生まれるのではないか?」
「我々はテンプル騎士団を監視するための組織だ! 軋轢程度を恐れていては、機能停止した機械も同然ではないか!!」
「その通りだ! 我々には特殊部隊もある!」
「やめろ、同志たちと内乱を始めるつもりか!!」
老人たちの議論を聞きながら、年老いたヒロヤ・ハヤカワは目を細めた。
元老院の構成員たちは、今の円卓の騎士との間に軋轢が生まれることを恐れているのだ。しかし、テツヤの更迭を打診しなければ、テツヤは平然と少年兵や何の罪もない捕虜を虐殺し続けるだろう。
だが、仮に打診したとしても、今の円卓の騎士たちはテツヤ派ばかりである。彼の更迭を打診したとしても否決されるのが関の山だ。元老院は道を踏み外した円卓の騎士を粛正するための特殊部隊を保有しているが、それを投入して我が子を葬り去ることになれば、テンプル騎士団は間違いなく分裂することになる。
幼少の頃から、テツヤは容赦のない男であった。ヒロヤがどれだけ敵を説得するように教育してもそれを拒否し、初陣で盗賊団を皆殺しにしてしまったのである。
だからこそ、ヒロヤは彼に団長の座を譲ったが、タクヤやユウヤから受け継いだ兵器のデータはまだ彼に継承させていなかった。
(我が子が劇薬になるとは…………)
唇を噛み締めながら、ヒロヤはテツヤが戦闘で敵兵を虐殺する映像を見つめ続けた。
この時点でのスペツナズのチームは、『アクーラチーム』、『ボレイチーム』、『シエラチーム』、『デルタチーム』、『エコーチーム』の5つとなっております(各チームは8名の兵士で構成されています)。
※テンプル騎士団の元老院は天下り先ではありません。そんな事を言ったら粛清されるのでご注意ください(笑)




