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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第五章 純白の戦場、真紅の殺意
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劇薬

今回は第五章のエピローグとなりますので短めです。


「ボス、他の戦場に派遣する兵力はどうするつもりだ?」


 ネイリンゲンから旧ラトーニウス領へと向かう列車の中で、俺はセシリアに尋ねた。彼女はオルトバルカ国内で革命が勃発した際に、テンプル騎士団の全兵力を革命軍を支援するための義勇軍として派遣すると約束してしまっている。当たり前だが、全戦力を義勇軍として派遣するという事は、革命が終結するまでは実質的に帝国軍との戦闘をすべて放棄することに等しい。


 もし帝国軍が革命中にテンプル騎士団もろともオルトバルカを消し去ろうとしたら、俺たちは革命中のオルトバルカと一緒に壊滅することになるだろう。


 ある程度は兵力を残しておいた方がいいのではないか、と提案しようとすると、セシリアは扇子を広げながらニヤリと笑った。


「心配は無用だよ、力也。革命が始まる頃には戦争は終わる」


「なに?」


「大損害を被っているのは連合王国だけではない。ヴァルツ帝国軍も大損害を被っているし、ヴリシア・フランセン帝国はあのゴダレッド高地の奪還に失敗したことで崩壊寸前だ。フェルデーニャ軍の攻勢が成功すれば、あの二重帝国は滅ぶ」


「アスマン帝国は?」


 ”帝国軍”を構成している国家は、『ヴァルツ帝国』、『ヴリシア・フランセン帝国』、『アスマン帝国』である。ヴァルツ帝国とヴリシア・フランセン帝国は戦争で大損害を被っているものの、アスマン帝国は他の二ヵ国と比べると壊滅的な損害は被っていないため、仮に同盟国が降伏したとしても戦争を継続する事ができるだろう。


 すると、セシリアは首を横に振った。


「アスマン帝国は我が騎士団に牙を剥くことはない」


「なぜ?」


「身内のようなものだからさ」


 列車がトンネルに入ったらしく、窓の向こうに広がっていた雪原が、全ての風景を暗闇に明け渡す。真っ暗になった窓の向こうを見つめながら水筒を取り出したセシリアは、中に入っている紅茶を口へと運んだ。


「元々、アスマン帝国はクレイデリア連邦の一部だった。他の種族たちと共存するのではなく、大昔にカルガニスタンを支配していた帝国を復活させようとする者たちが作り上げた国だ。その中には、テンプル騎士団の同志たちもいたという」


「なるほど」


 テンプル騎士団の同志たちもアスマン帝国にいるからこそ、同盟国に命じられたとしてもテンプル騎士団へと攻撃することはできないというわけか。


 確かに、アスマン帝国と他の2つの帝国の間には距離感があると言わざるを得ない。アスマン帝国はヴァルツ帝国とヴリシア・フランセン帝国と同盟を結んでいるものの、小規模な遠征軍を派遣して支援している程度だ。他の帝国と手を組んで連合軍を殲滅しようとしているのではなく、オルトバルカの侵略を迎え撃つために帝国と同盟関係を結んでいる状態である。


 実際に、アスマン帝国軍が牙を剥いている国家は、現時点ではオルトバルカのみだ。


「それに、アナリア合衆国も帝国軍に宣戦布告する準備を進めているらしい。もしアナリア合衆国が連合軍に参加すれば、帝国軍は九分九厘劣勢になるだろう。ヴァルツ帝国はその前に、間違いなく攻勢を仕掛ける」


「―――――――”春季攻勢”か」


 この冬が終われば、帝国軍は攻勢を仕掛ける。その攻勢の標的となるのは、国内で革命が勃発しつつあるオルトバルカ連合王国になる事だろう。


 革命軍が本格的な武装蜂起を開始するのは、その春季攻勢を退けてオルトバルカが完全に疲弊した時だ。春季攻勢を退けられれば、ヴァルツ帝国軍は連合軍に参加するアナリア合衆国を迎え撃つ事ができなくなるし、辛うじて攻勢を退けたオルトバルカ軍も壊滅的な損害を被ることになる。


「だが、帝国の連中はその春季攻勢であいつらを投入するぞ」


「分かっている」


 ヴァルツ帝国は、間違いなく春季攻勢で浸透戦術と転生者を組み合わせた作戦を実行する。突撃歩兵の代わりに強力な転生者を後方へと浸透させることで、敵の防衛ラインを強引に前後に分断してズタズタにするのだ。


 攻勢を迎え撃つ際に大損害を被れば、革命軍を支援するための義勇軍を派遣できなくなる。春季攻勢が始まる前に破壊工作を行って敵にある程度損害を与えつつ、軍拡を行う必要があるだろう。


「それと、勇者も潰す必要がある」


 セシリアの父親の仇である王室を滅ぼしたら、彼女の家族を奪った挙句、俺たちに濡れ衣を着せて明日花の殺害に加担したと思われる勇者にも復讐しなければならない。だが、春季攻勢を退けて戦争が終結してしまったら、帝国軍への攻撃はできなくなる。勇者へ報復するためには、敵国であるヴァルツ帝国を攻撃するという大義名分が必要なのだ。


 だが、戦争が終結して帝国が降伏してしまえば、いくら大半の条約を批准していないテンプル騎士団でも攻撃の継続は許されない。帝国軍への攻撃を続ければ、今度は連合国がテンプル騎士団に牙を剥くことになるだろう。


「ああ、革命が終わったら潰すさ」


 扇子を閉じて上着の内ポケットに放り込んだセシリアは、窓の向こうに広がる雪原を見渡しながら嗤った。


「―――――――世界大戦と革命が終われば、すぐに次の戦争が起こる」


 ――――――”第二次世界大戦”だ。


 ヴァルツ帝国が降伏したとしても、勇者は必ず再び戦争を引き起こす。極秘裏に再び軍拡を行って戦争の準備を行い、連合国に宣戦布告をする事だろう。


 勇者を滅ぼすのは、第二次世界大戦が始まってからという事か。


 できることならば今すぐ帝都に潜入し、ヴァルツ帝国軍総司令部にいる勇者の首を取りたいところだが、帝都の警備はこれ以上ないほど厳重だ。俺たちが革命を支援している間にヴァルツ帝国が降伏する可能性が高い以上、次の戦争が始まってから勇者を潰す必要がある。


「だから、まずは王室を潰す」


「分かった、ボス」


 あんたは俺の報復を肯定し、協力してくれた。


 だから、今度は俺があんたの報復に協力する。


 ボスが命じるなら、残った左腕を引き千切ってもいい。拳銃で頭を撃ち抜いてもいい。刀で腹を切ってもいい。


 何でも命令してくれ、ボス。


 俺はあんたの兵士なのだから。













 ヴリシア・フランセン帝国は崩壊しつつある。


 おそらく、春になる前には崩壊し、連合国に降伏することになるだろう。


 先ほど力也が執務室に持って来てくれた新聞の記事を見下ろしながらそう思った私は、机の上に置かれているティーカップへと手を伸ばした。中に入っているのはオルトバルカ産の紅茶である。ヴリシア産の紅茶も貴族に人気があるらしいが、ヴリシア産の紅茶は香りが強烈すぎるからあまり好きではないし、今のヴリシアは敵国だから、ヴリシア産の紅茶はなかなか手に入らない。


 オルトバルカ産の紅茶は、ヴリシア産の紅茶よりも香りは弱いものの、味は非常にさっぱりとしているから、ジャムの香りが紅茶の香りで消されることがないのである。


 新聞を読みながら紅茶を飲んでいると、執務室のドアをノックする音が聞こえてきた。


「セシリア」


「教官か」


 ドアを開けて入ってきたのはウラル教官だった。タンプル搭が陥落してから、父上の代わりに私を鍛え上げてくれたベテランの兵士である。教官はテンプル騎士団が創設された時からずっと所属しているから、実戦経験は他の兵士たちよりも豊富だった。しかも、テンプル騎士団の創設前はカルガニスタンでフランセン共和国――――――現在では崩壊している――――――と戦っていたという。


「あの”新入り”の件で話がある」


「力也か?」


 問いかけると、教官は首を縦に振った。


「あの男は、確かに我が騎士団の強力な戦力と言っていいだろう」


「うむ、あいつは凄いぞ。初陣で転生者を倒しているし、ナバウレア攻勢でも双子の転生者を生け捕りにしているのだからな。ふふふっ、私のお気に入りだ」


 教官もあいつを”強力な戦力”と認めるとはな。


 だが、教官は顔をしかめていた。


「…………だが、あいつはテンプル騎士団を救う”薬”ではない」


「え?」


 なぜだ?


 他の転生者のようにレベルが上がったり、ステータスが向上することがなくなってしまったとはいえ、あいつは非常に強力な転生者と言ってもいい。しかも、私のご先祖様の記憶もあるから、どんな武器でもすぐに使いこなす事ができる。


 なのに、なぜ彼は騎士団を救う”薬”ではないのだろうか。


「セシリア、よく聞け。あいつは”劇薬”だ」


「げ、劇薬………?」


「そうだ。…………あいつは、テンプル騎士団で内戦を引き起こした四代目団長(テツヤ)に似ている。確かにあいつの力は我々の切り札と言ってもいいが、使い方を誤れば組織を滅ぼす毒と化すだろう」


 テンプル騎士団の四代目団長『テツヤ・ハヤカワ』は、転生者を徹底的に弾圧したことによってテンプル騎士団を分裂させてしまい、テンプル騎士団が衰退する原因の1つとなった内戦を引き起こしてしまっている。


 ウラル教官も教え子だったテツヤに反旗を翻し、テツヤの娘である『クロエ・ハヤカワ』と共に反乱軍を指揮して彼を倒したという。


 内戦を経験したからこそ、教官は力也がテツヤの二の舞になることを恐れているに違いない。


「いいか、あいつの使い方だけは絶対に誤るな」


 そう言うと、教官は踵を返して執務室を出ていった。


「劇薬か…………」


 使い方を誤ることは許されない。


 テツヤ・ハヤカワの二の舞になれば、今度こそテンプル騎士団は滅んでしまうだろう。


 読んでいた新聞を机の上に置いた私は、溜息をつきながらティーカップへと手を伸ばすのだった。






 第五章『純白の戦場、真紅の殺意』 完


 第六章『血と鉄の揺り籠』へ続く


 


第六章はウラルの過去編となります。お楽しみに!

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