表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第五章 純白の戦場、真紅の殺意
58/744

メリエンベルクの戦い 後編


「攻撃隊、出撃準備完了しました」


 ナタリア・ブラスベルグの艦橋から飛行甲板を見下ろしていた艦長に、ホムンクルスの乗組員が敬礼しながら報告する。ジャック・ド・モレー級戦艦の船体を改造した空母であるナタリア・ブラスベルグの飛行甲板には、既にランケン・ダートや爆弾をぶら下げたソッピース・キャメルたちが待機しており、極寒のラトーニウス海にプロペラの音を響かせ続けている。


 空母ナタリア・ブラスベルグは、元々は戦艦だったジャック・ド・モレー級の船体を空母に改造した艦であるため、通常の空母と比べると艦載機を搭載できる数は少ない。それゆえに、空爆を終えて帰還したパイロットたちの機体に燃料の補給と爆弾の搭載を済ませたら、すぐに出撃させることになる。


 艦長は甲板の上で出撃準備を済ませているパイロットたちを見つめながら、唇を噛み締めた。ナタリア・ブラスベルグはテンプル騎士団海軍の唯一の空母であるため、派遣されているテンプル騎士団の地上部隊を支援するために、世界中の戦場へと艦載機を出撃させてきた。パイロットたちに休息をとらせずに再び出撃させることも珍しくない。


 もし同型艦があればナタリア・ブラスベルグの乗組員やパイロットたちの負担も減る事だろう。既に円卓の騎士たちはナタリア・ブラスベルグの同型艦を2隻ほど生産する事にしているらしいが、同型艦が生産されるのはセシリアのレベルが上がり、ポイントが増えてからである。


 彼女のレベルが上がるまで、ナタリア・ブラスベルグは単独で航空支援を続けなければならないのだ。タンプル搭が陥落する前のテンプル騎士団海軍では、他の空母や、ジャック・ド・モレー級を改造した航空戦艦が何隻も運用されていたのだが、無事にタンプル搭から脱出する事ができた空母はナタリア・ブラスベルグだけだったのである。


 幸運なことに、このメリエンベルクの戦いもテンプル騎士団が圧勝しており、既に敵が鹵獲した戦車を何両か撃破することに成功しているという。後は再編成されたばかりの敵の守備隊を撃滅し、司令部を殲滅するだけだ。


 既に制空権は確保している上に、帝国軍は航空隊を投入していないため、攻撃隊を戦闘機で護衛する必要はないだろう。


 艦橋から若いパイロットたちを見下ろしながら、彼らが全員戻ってきますようにと祈った艦長は、後ろのホムンクルスを振り向きながら命じた。


「第四次攻撃隊、発艦!!」













 敵の塹壕の中で、次々に爆炎が生まれた。


 プロペラの音を響かせながら急降下してきたソッピース・キャメルたちが、ぶら下げていた爆弾を投下し、ランケン・ダートを塹壕にばら撒く度に火柱が噴き上がり、その爆炎に呑み込まれた敵兵たちが砕け散っていく。


 燃え盛る塹壕の中から機関銃やライフルで応戦する兵士も見受けられるが、彼らが照準を合わせて飛行機に弾丸をぶち込むよりも先に、無慈悲な機銃掃射が敵兵の肉体を木っ端微塵にする。爆弾を投下し終えた攻撃隊は、これでもかというほど塹壕の中に機関銃の弾丸を叩き込んでから踵を返すと、進撃する私たちに向かって手を振ってから、沖で待機しているナタリア・ブラスベルグへと戻っていった。


 敵の防衛ラインの位置は、ジャック・ド・モレー級の主砲の射程距離ギリギリだ。できるならば航空隊にはもっと支援してほしいところだが、早く母艦に戻らなければ燃料切れになってしまうため、あとは戦車部隊で敵を打ち破らなければならない。


「歩兵隊、戦車を盾にしながら前進!」


 進撃するシャール2Cの車体から飛び降りつつ、戦車の車体に乗っていた他の随伴歩兵たちに命じる。メリエンベルク平原の麦畑の跡地に降り積もった雪を、テンプル騎士団が採用しているがっちりとしたブーツで抉りながら戦車の陰に隠れ、三八式歩兵銃に銃剣を装着する。


 テンプル騎士団が採用しているこのブーツは、元々は冒険者向けのブーツだったという。冒険者は危険なダンジョンの調査をする事が役目であるため、危険な崖や洞窟の中を移動することが多かったらしい。


 足場の悪い場所での移動を想定した冒険者向けのブーツがベースになっているため、雪原でも非常に移動しやすい。


 とはいっても、大昔に冒険者たちが全てのダンジョンを調査したことでこの世界の世界地図が完成してしまったため、冒険者という職業は廃れてしまっているがな。だが、彼らが愛用していた装備やアイテムは改良されて世界中の軍隊に支給されている。


 ガギン、と、シャール2Cの正面装甲で金属音が産声をあげた。敵が塹壕から放った弾丸が正面装甲を直撃したのだろう。だが、シャール2Cの正面装甲は非常に分厚い。野砲や戦車砲でも正面装甲を貫通することは不可能なのだから、ボルトアクションライフルで貫通できるわけがない。


 ちなみに、テンプル騎士団のシャール2Cは改造が施されている。エンジンをフィオナ機関に換装したことで機動力が向上しているし、後部の砲塔の代わりにルノーFT-17の砲塔を37mm砲ごと移植したことによって火力も向上しているのだ。後方から回り込もうとしても、車体側面の機関銃に蜂の巣にされるか、37mm砲の榴弾で吹き飛ばされることになるだろう。


 戦車部隊の先頭を進んでいたシャール2Cの1号車『ジャンヌ・ダルク』に搭載された75mmカノン砲が火を噴いた。ルノーFT-17の37mm砲とは比べ物にならないほど強烈な爆音が轟いたかと思うと、先ほどの空爆で火の海と化していた敵の塹壕の中に、新しい爆炎が生れ落ちる。


 次の瞬間、ゴォン、と、先ほどの敵のライフル弾がシャール2Cの正面装甲を直撃した時よりも強烈な金属音が響き渡った。ぎょっとすると同時に、正面装甲に弾かれてひしゃげた金属の物体が雪原の中に落下し、麦畑の跡地に大穴を開ける。


 今しがた雪原の中に埋まる羽目になったのは、先端部がひしゃげた円筒状の物体だった。もしひしゃげていなければ、先端部は尖っていたに違いない。


 そう、砲弾である。


「1時方向と2時方向に敵戦車!」


「鹵獲された戦車か!」


 生き残っていたのか………!


 雪原の向こうに、まるでシャール2Cの車体を小さくしてから砲塔を取り外し、車体の正面に戦車砲を搭載したような外見の兵器が鎮座しているのが見える。あれがヴァルツ軍に鹵獲された、オルトバルカ軍のM1菱形突撃戦車に違いない。


 すると、別の車両に搭載されている戦車砲が火を噴いた。薬莢の内部に充填されている高圧魔力を炸裂させたことで撃ち出された砲弾が、今度はシャール2Cの車体の側面を直撃した。ゴギン、と先ほどよりも強烈な金属音が荒れ狂い、弾き飛ばされた砲弾がひしゃげた状態で雪原を穿つ。


 はっとしながら、シャール2Cの側面の装甲を凝視した。シャール2Cの正面装甲は戦車砲ですら貫通できないほど堅牢だが、その代わりに側面と後方の装甲は薄くなっているのである。口径の小さな戦車砲やライフルの徹甲弾では貫通できないほどの厚さだが、大口径の戦車砲に徹甲弾を装填して至近距離で放てば、シャール2Cの巨体に大穴が開く羽目になるだろう。


 だが、被弾した個所は少しばかりへこんでいる程度だった。


 超重戦車の防御力に驚愕している内に、75mmカノン砲を搭載した巨大な砲塔がゆっくりと旋回を始める。自分が狙われていることを察知した敵の戦車は慌てて後退しようとするが、残念なことにこの戦車に乗っているのは、テンプル騎士団陸軍の中で最も錬度の高い第1遠征軍の兵士である。慌てふためきながら後退したとしても、砲撃を外すことはないだろう。


 75mmカノン砲が火を噴いた直後、雪原の向こうで紅蓮の光が荒れ狂った。薄い正面装甲をあっさりと貫通した75mmカノン砲の徹甲弾が、敵の車内にあるフィオナ機関まで木っ端微塵にしてしまったのである。フィオナ機関から高圧の魔力が漏れ出した挙句、その魔力が車内の砲弾を誘爆させてしまった事によって、砲撃を受けた敵の戦車は乗組員が脱出するよりも先に火達磨になった。


 周囲を走行している他のルノーFT-17たちが、機関銃やなけなしの野砲で応戦してくる塹壕へと向けて37mm砲の榴弾や機関銃による攻撃を始める。中には敵の野砲が直撃して擱座するルノーFT-17も見受けられたが、幸運なことに2名の乗組員は無事だったらしく、ハッチを開けて脱出すると、装備していたコルトM1911を引き抜き、他の随伴歩兵たちと一緒に戦車の影に隠れて進撃を始めた。


 シャール2Cの陰から身を乗り出して塹壕を狙撃しつつ、塹壕の中にいる敵兵たちを見渡す。諜報部隊シュタージからの報告では、この東部戦線の帝国軍の司令官は双子の転生者だという。ナバウレア攻勢でその片割れをリキヤが生け捕りにしたが、もう片方が残っている筈だ。


 その片割れは、あの守備隊の中にいるのだろうか? それとも、力也が既にぶち殺したのだろうか。


 健在なのであれば排除する必要があるが、もし力也が始末したのであれば、この攻勢の難易度は一気に下がるだろう。転生者の錬度が低いのは喜ばしい事だが、あいつらの能力はこちらの兵器を容易く破壊してしまうほど強力だ。


 総崩れになりつつある敵の守備隊を見つめながら、目を細める。


 敵が総崩れになるのが早すぎる気がする。


 いくら艦砲射撃と空爆をこれでもかというほどお見舞いした後に、大規模な戦車部隊で塹壕を攻撃しているとはいえ、敵は戦車部隊が塹壕に肉薄するよりも先に総崩れになっている。塹壕の後方には、塹壕から逃げ出そうとしている兵士も見受けられる。


 もし指揮官が健在であれば、もっと士気は高い筈だ。


 力也がもう転生者を始末したのか?


 違和感を感じながら敵の塹壕を銃撃していると、後部の砲塔のハッチからエルフの戦車兵が顔を出した。


「同志団長、報告です! 速河二等兵と副団長が、敵の転生者を生け捕りにしたとのことです!」


「おお!!」


「あの新入りがやったのか!?」


「すげぇ………英雄だ!!」


 報告を聞いた随伴歩兵たちが、目を輝かせながらその兵士を見上げた。対戦車ライフルを装備して敵陣の側面へと浸透した力也たちが転生者を生け捕りにしたおかげで、敵がもう総崩れになったらしい。


 素晴らしいな、力也。


 そういえば、あいつは初陣のウェーダンでも大きな戦果をあげたにもかかわらず、まだ勲章を与えていなかったな。この攻勢が終わったら階級を上げ、勲章を与えよう。


「これより、敵の塹壕へと突入する! 各員、白兵戦準備!!」


「白兵戦準備!」


「銃剣装着!」


 随伴歩兵たちが戦車の影に隠れながら、モシンナガンM1891にスパイク型の銃剣を装着し始める。中にはライフルを背中に背負った代わりに、腰に下げていた棍棒を用意したり、鞘の中から剣を引き抜く兵士もいた。


 白兵戦は、テンプル騎士団が創設された頃からのお家芸と言っても過言ではない。私の祖先であるタクヤ・ハヤカワが、テンプル騎士団の同志たちに銃を支給した後も、同志たちは棍棒や剣を使い続けていた。


 異世界で生まれた飛び道具よりも、剣や棍棒で白兵戦をする事になれていたからだ。


 兵士たちがそれを得意としていることを見抜いたタクヤ・ハヤカワは、敢えて白兵戦の訓練を廃止せず、棍棒や剣を正式採用して兵士たちに支給し続けたという。


 白兵戦を得意とするとはいっても、敵も飛び道具を持っていれば接近する前に殺されてしまうのが関の山である。しかし、兵士たちに銃を支給して訓練を行ったことにより、飛び道具を持っている敵に銃で応戦する事ができるようになったし、歩兵部隊は常に戦車部隊と共同で進撃を行っていたため、射撃よりも白兵戦が得意な兵士が多くても問題はなかったのだ。


 棘が付いた大きな金属製の棍棒を肩に担いだオークの兵士が、ヘルメットに上げていたゴーグルを装着して敵兵を睨みつける。別のルノーFT-17の後方に隠れていたハーフエルフの兵士は、テンプル騎士団で正式採用されているロングソードを引き抜きながら左手にコルトM1911を構えると、こっちを振り向いてから首を縦に振った。


 彼らに目配せしてから、敵の塹壕の様子を確認する。


 未だに生き残っている兵士たちがボルトアクションライフルで抵抗を続けているが、機関銃は見当たらない。野砲も先ほどの砲撃でほぼ完全に破壊されたらしく、生き残った砲兵が野砲で戦車に一矢報いる可能性が極めて低いと言えるだろう。


 もう突撃しても問題は無い筈だ。


 腰に下げた法螺貝を手に取り、そっと口へと運ぶ。


『――――――ブオォォォォォォォォォォォォォォォ!!』


『『『『『Урааааааааааа!!』』』』』


 法螺貝で突撃を命じた瞬間、戦車の影に隠れていた兵士たちが雄叫びを上げながら一斉に躍り出た。姿勢を低くしながら塹壕に向かって全力疾走していく兵士たちを見つめつつ、私も銃剣を装着した三八式歩兵銃を抱えてシャール2Cの陰から躍り出る。


 やはり、敵の機関銃は全滅していた。


 ボルトアクションライフルは強力な銃だが、複数の兵士たちと共に一斉射撃をしない限り、機関銃のような恐ろしい弾幕を張ることはできない。戦車部隊の砲撃と空爆で機関銃もろとも射手が全滅してしまった以上、ボルトアクションライフルのみで我々の突撃を防ぐことは不可能だと言ってもいいだろう。


 棍棒を肩に担いだオークの兵士の肩に、ライフル弾が牙を剥く。風穴から鮮血が噴き出したものの、そのオークの兵士は血まみれになりながら歯を食いしばると、有刺鉄線を棍棒で強引に叩き潰してから塹壕の中へと飛び込み、銃で応戦しようとしていた兵士たちの頭を棍棒で叩き潰した。


 ヘルメットもろとも頭が粉砕され、脳味噌や眼球が飛び散る。


 オークやハーフエルフの兵士は、キメラ、吸血鬼、サキュバスを除けば、人類の中で最も強靭な肉体を持つ種族と言われている。ライフル弾が数発命中したとしても平然と突撃を継続できるほど頑丈な肉体を持っているため、このような突撃に向いているのである。


 だからこそ、大昔は彼らが最も多く奴隷として売られていたのだろう。


 ハーフエルフの兵士も、ライフル弾に被弾しているにかかわらず、強引に肉薄して敵兵の首を剣で斬り落としている。彼は後ろから銃剣で貫こうとしていた敵兵にコルトM1911の.45ACP弾を叩き込んで射殺すると、正面から突っ込んできた敵兵の顔面を剣で両断してしまう。


 私も先陣を切ったオークの兵士が叩き潰した有刺鉄線を飛び越え、塹壕の中へと飛び込んだ。


 ライフルを向けてきた敵兵に6.5mm弾を至近距離でお見舞いし、ボルトハンドルを引いてから後方の敵に銃剣を突き立てる。強引に銃剣を引き抜き、傷口を押さえている敵兵を蹴飛ばしてから、その後ろにいた敵兵の頭をライフル弾で撃ち抜く。


 他の兵士たちと同じく、私も白兵戦が得意だ。


 射撃よりも面白い。


 血まみれの三八式歩兵銃を構え、塹壕から逃げ出そうとする敵兵の背中を撃ち抜く。後ろから接近しようとしていた敵兵を銃床で殴打してからくるりと回転し、まだよろめいている敵兵の喉元に向かって、斜め下から銃剣を突き立てた。


 銃剣を引き抜き、次の標的に照準を合わせる。


 既に、歩兵だけでなく戦車部隊も塹壕に肉薄していた。シャール2Cは既に塹壕を突破し、逃走する敵兵を履帯でお構いなしに轢き殺しながら、兵士たちを75mmカノン砲で吹き飛ばしている。


 力也だけでなく、先陣を切ったあのオークの兵士にも勲章をやろうと思いながら、私は生き残っていた敵兵を撃ち殺すのだった。












 こうして、ナバウレア攻勢の最終局面となったメリエンベルクの戦いも、テンプル騎士団の圧勝となった。


 ナバウレア方面に展開していたヴァルツ帝国軍とヴリシア・フランセン帝国軍の連合軍が総崩れになり、国境付近のメリエンベルクからさらに後退させられたことで、東部戦線の帝国軍は大損害を被ることになったのである。


 そして、この戦いでテンプル騎士団が投入した戦車や、海軍、空軍と連携した熾烈な攻勢は、列強国の軍隊が戦術の参考にする事になるのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ