正式採用ライフル会議
前回は男の娘と刀の話でしたので、今回はライフルの話です。
キャメロットの中には、巨大な円卓が置かれた会議室がある。円形の部屋の中の中央に居座る巨大な円卓の周囲には15人分の椅子が用意されており、円卓の中心部には蒼い結晶で作り上げたかのような、美しいレンズのような物体が埋め込まれている。
そのレンズのような物体からは、円卓の外側へと向けてケーブルのようなものが伸びており、まるで骨格のように伸びているケーブルたちは、最終的には団長用の席の前に設置された小さなモニターへと接続されている。
この会議室に足を踏み入れ、円卓の周囲に座って会議に参加することが許されるのは、”円卓の騎士”と呼ばれる特別な兵士たちだけだ。
円卓の騎士とは、テンプル騎士団の会議に参加する資格を与えられた兵士たちの事である。簡単に言えば議会に参加する議員のような存在であり、テンプル騎士団が創設されたばかりの頃は住民や兵士たちが選挙で円卓の騎士を選んでいたという。そのため、あくまでも円卓の騎士は会議に参加する議員の称号であった。
だが、セシリアの話では、現在の円卓の騎士は”テンプル騎士団の幹部”の事を意味しており、選挙で選ばれることもなくなってしまったという。確かに今は戦時中だし、本拠地を失っている状態なのだから、疲弊した組織の中で選挙をしている余裕はないので、このような方式にしたのは仕方がないと思う。
円卓の周囲に座っている兵士たちを見渡していると、隣にある団長の席に座っているセシリアがゆっくりと立ち上がった。
「では、これより会議を始める」
彼女の席は用意されているが、俺の分の席は用意されていない。ここで席に座って会議に参加したいのであれば、全ての円卓の騎士に実力を証明しなければならない。
というわけで、今回の会議には団長であるセシリアが許可をしてくれたので、参加させてもらっている。とはいっても、今回の会議は俺がいなければ議論することはできなくなってしまうがな。
席に腰を下ろしたセシリアの隣に立ったまま、周囲を見渡す。円卓に用意されている席には空席が多いが、おそらく本来ならばあそこに腰を下ろしている円卓の騎士たちは、任務で出撃しているのだろう。現時点でキャメロットに残っているのは、ウェーダンで共に戦った第6遠征軍と、2日前に東部戦線の奇襲作戦を終えて帰還した第4遠征軍のみである。
参加している他の円卓の騎士の隣にも、俺と同じように立ったまま会議に参加している兵士がいる。
円卓の騎士の隣に立っているのは、”従者”と呼ばれる兵士たちだ。簡単に言うと議員の秘書のような存在で、テンプル騎士団に所属する円卓の騎士は、組織に所属している全ての兵士の中から従者を選ぶ事ができるという。
テンプル騎士団2代目団長『ユウヤ・ハヤカワ』の代に決められた制度らしい。
ちなみに、現時点ではセシリアには従者はいない。従者を選ぶのは義務ではないらしいが、選ばない場合はかなり仕事の量が増えてしまうので、殆どの円卓の騎士は従者を選ぶという。
ボスは俺を従者に選んでくれるだろうかと思っていると、円卓の中央に埋め込まれたレンズが光り出した。やがて、レンズの中から無数の蒼い菱形の結晶のような物体が姿を現したかと思うと、円卓の中心部で他の結晶と絡みつき合い、すらりとしたライフルのような形状へと変貌していく。
あれはフィオナ博士が開発した立体映像の投影装置だ。団長の席にあるモニターをタッチし、魔力を流し込みながら操作することで、あのように立体映像を円卓の中心部から映し出すことができるらしい。
形成された映像は、4丁のボルトアクションライフルだった。この世界で開発されたボルトアクションライフルではなく、前世の世界で勃発した第一次世界大戦や第二次世界大戦で活躍した、優秀なボルトアクションライフルたちである。
「ウェーダンでの勝利と、我が騎士団へ1人の転生者が入団してくれたことにより、ポイントに余裕ができた。そこで、我が騎士団で正式採用するライフルを決定し、弾薬や装備を統一しようと思う」
そう、議論することになるのは”テンプル騎士団で正式採用するライフル”である。
第二世代型転生者の能力は、転生者と結婚しなければ転生者の遺伝子がどんどん薄れていき、能力も劣化していくという特徴がある。能力が劣化していけば最新のアサルトライフルや戦車を生産できなくなってしまうため、軍事力は急激に低下していくのだ。
しかも、セシリアはまだレベル45である。ステータスも十分に高いが、まだテンプル騎士団の全ての兵士にライフルと弾薬を支給できるほどのレベルではない。そのため、ライフルが行き渡っていない兵士にはドロップしたライフルを手当たり次第に支給しているのだが、ドロップした全く種類の違うライフルを手当たり次第に装備させてしまった事により、テンプル騎士団の兵士たちが持つライフルや弾薬がバラバラになってしまっているのだ。
基本的に、軍隊では使用する武器や弾薬を統一するのが鉄則である。同じライフルを支給すれば、そのライフルを持つ兵士たちに同じ弾薬を支給するだけで済むが、もし装備がバラバラであれば、そのライフル専用の弾薬をいくつも用意することになってしまう。
しかも、当たり前だがライフルがバラバラであれば性能までバラバラになってしまうため、ライフルは統一することが望ましい。
そこで、今回は正式採用するライフルを決定するために会議を開いたのである。
「力也」
「了解、ボス」
持っていた書類を見下ろしながら、円卓の騎士たちに説明する。
「現在、我が騎士団の正式採用するライフルの候補となっているのは、『三八式歩兵銃』、『マンリッヒャーM1895』、『ルベルM1886』、『モシンナガンM1891』の4つです」
立体映像に映し出されているのは、その4種類のライフルたちだった。
この4種類のライフルたちは、既にテンプル騎士団の兵士たちに支給されている。とはいっても、どのライフルも使用する弾薬がバラバラなので、ライフルを統一する必要がある。
円卓の騎士たちが目の前に置かれている資料を見下ろしたのを確認してから、説明を継続した。
「ライフルの特徴を説明いたします。まず、三八式歩兵銃です。使用する弾薬は4種類のライフルの中では最も小さく、6.5mm弾を使用します。非常に反動が小さく、命中精度が極めて高い銃ですが、口径の小さな弾薬を使用するため殺傷力、ストッピングパワー、貫通力は4種類の中で最も小さいです」
三八式歩兵銃は旧日本軍が採用していたライフルだ。アメリカやドイツが採用していたライフルよりも口径の小さな弾薬を使用するため、反動が非常に小さい。命中精度も優秀だが、口径が小さいという事はストッピングパワーや貫通力が小さいという事を意味している。攻撃力よりも命中精度を重視した銃だ。
優秀な銃のうちの1つだが、正直に言うと俺はこの銃はあまり好きではない。
アサルトライフルであれば、小口径の弾薬で敵を仕留められなくても、フルオートやセミオートでもう一発ぶちかましてやればいい。だが、三八式歩兵銃は一発ぶっ放したらボルトハンドルを引く必要のあるボルトアクションライフルである。発砲すれば必然的に隙を晒すボルトアクションライフルだというのに、敵を一撃で仕留められない可能性があるのは致命的な欠点である。
頭を狙えば問題はないかもしれないが、敵の乱戦の最中に胴体よりもはるかに小さな頭を狙撃できる余裕があるとは思えないし、まだ錬度の低い兵士たちに正確に頭を狙えるほどの技術はない。
とはいっても、こいつの弾薬は残しておいた方がいいだろう。”あの銃”の弾薬と同じだからな。
「マンリッヒャーM1895も三八式歩兵銃と同じボルトアクションライフルですが、こちらはボルトハンドルを後方に引き、元の位置に戻すだけで即座に発砲できるため、連射速度は非常に優秀と言えます。しかし、ボルトハンドルの操作方法が他の銃と異なるため、この銃の使い方に慣れていない兵士には訓練が必要になるでしょう。即戦力になることはないと思われます」
マンリッヒャーM1895は、第一次世界大戦中にオーストリア・ハンガリー帝国が採用していたボルトアクションライフルだ。当時のボルトアクション方式の銃は、まずボルトハンドルを捻ってから後方へと引き、また元の位置へと戻して捻る必要があった。だが、このマンリッヒャーM1895はボルトハンドルを後方へと引き、元の位置まで戻すだけで次の弾丸を発射することが可能な『ストレートプル・ボルトアクション方式』を採用していたため、当時のボルトアクションライフルの中では極めて高い連射速度を誇っていた。
余談だが、このストレートプル・ボルトアクション方式は、現在では”ブレイザーR93”というスナイパーライフルで採用されている。
連射速度が速くなるのは魅力的だが、ボルトハンドルの操作方法が従来のライフルとは異なるため、これを使ったことのない兵士たちには訓練を受けて使い慣れてもらう必要がある。そのため、これを採用したとしても即戦力にはならないだろう。
「ルベルM1886は、このライフルたちの中では最も多い弾数が利点です。チューブマガジンを採用しており、強力なライフル弾を8発も装填して立て続けに発砲することが可能です。弾丸の口径も大きいですが、チューブマガジンに弾丸を装填する方式のため、クリップを使って装填することができません。また、銃身も長いため、塹壕戦では非常に使い辛くなることが予想されます」
こいつは初期装備に使わせてもらったライフルだ。第一次世界大戦で、フランス軍が採用していたボルトアクション式のライフルである。
弾数が多いので立て続けに攻撃する事ができるが、チューブマガジンを搭載していることによってクリップを使って弾薬を装填できないため、再装填には時間がかかってしまう。それに銃身が非常に長いので、塹壕の中での戦いで使用するのは難しいだろう。実際に、俺も敵の司令部へと突入した際は得物をコルトM1911に持ち替えて応戦していた。
銃身を切り詰めればある程度は使い易くなるが、チューブマガジンを採用しているルベルM1886にそんな事をすれば、銃身と一緒にチューブマガジンまで切り詰めてしまう事になり、8発も弾丸を装填できるという利点を捨てることになる。しかも銃身が短くなれば命中精度が悪化するため、銃身を切り詰めるわけにはいかない。
「モシンナガンM1891は、この4種類のライフルの中では最も信頼性の高いライフルです。弾数は5発のみですが、大口径の弾薬を使用するため優秀なストッピングパワーと殺傷力を誇ります。命中精度も優秀ですが、銃身が長いため、こちらも塹壕戦には適さないでしょう。ですが、銃身を切り詰めたカービンもありますので、塹壕へと突入する部隊へはそちらを支給すれば問題はないかと」
モシンナガンM1891は、ロシア帝国軍が日露戦争や第一次世界大戦に投入したボルトアクションライフルだ。非常に信頼性の高いライフルであり、あまり動作不良を起こすことはなかったという。使用する弾薬は”7.62×54mmR弾”と呼ばれる大口径の弾薬であり、高い命中精度と殺傷力を併せ持つ代物である。第一次世界大戦よりも前に開発された旧式の弾薬だが、何と現在でも現役の弾薬であり、ロシア製のスナイパーライフルや機関銃の弾薬に使用され続けている。
問題点は銃身が長い点だろう。ルベルM1886と同じく、塹壕戦には適さない。
だが、モシンナガンM1891には銃身を切り詰めたカービンも存在するため、敵陣に突撃する部隊にはそのカービンを支給すれば塹壕の中でも猛威を振るう事だろう。
「この4種類のライフルが、我がテンプル騎士団の正式採用ライフル候補として選ばれております。質問はありますでしょうか」
円卓に座る兵士たちを見渡しながら問いかけると、早くも蒼い頭髪の女性の兵士が手を挙げた。髪型はセミロングだが、顔つきは武器屋のジェイコブや他の部隊で目にするホムンクルスと全く同じだ。彼女もタクヤ・ハヤカワのホムンクルスなのだろう。
「新兵、ボルトアクションライフルではなくセミオートマチック式の銃ではダメなのか?」
ちらりとセシリアの方を見てから、資料を円卓の上に置いて説明する。
「セミオートマチック式の銃は、確かにボルトアクションライフルよりも連射速度が速いため、ボルトアクション式の銃よりも隙は少ないでしょう。ですが、現時点では信頼性の低い銃しか生産できないため、それを前線で戦う同志たちに支給するわけにはいきません。それに、ポイントに余裕ができたとはいえ、まだ弾薬をたっぷりと用意できるほどのポイントはないため、信頼性が高く、弾薬をそれほど消費しないボルトアクションライフルが現時点では最適解と判断いたしました」
第一次世界大戦の頃のセミオートマチック式のライフルは信頼性が低い銃が多かった。そのため、セミオートマチック式のライフルは空軍のライフルマンたちに支給され、飛行機に乗りながら敵機を攻撃するために採用されていたのである。
有名なのは、スイスのSIG社が開発した『モンドラゴンM1908』だろう。
「ふむ………ならば、モシンナガンにするべきではないか?」
「マンリッヒャーM1895はダメか? 連射速度が速いなら、敵に弾丸をこれでもかというほどぶち込めるぞ?」
「大尉、あの銃は他の銃とは操作方法がかなり異なる。慣れてない兵士には訓練が必要だ」
オークの大尉は、連射速度を重視したマンリッヒャーM1895を選んだらしい。確かに、ストレートプル・ボルトアクション方式を採用した銃だから、この候補に選んだ銃の中では連射速度は間違いなく最速だろう。
だが、ボルトハンドルの操作方法が他の銃と異なるため、支給したら兵士たちには訓練で使い慣れてもらう必要がある。
「信頼性を重視するべきだろう。戦場で泥まみれになるのは日常茶飯事だ」
「その通りだ。銃が動作不良を起こしたら、兵士たちは棍棒かスコップで戦う羽目になる」
「うむ………では、信頼性が高いモシンナガンか」
議論をしている円卓の騎士たちに向かってぺこりと頭を下げてから、一歩後ろへと下がる。すると、腕を組みながら席に座っていたセシリアが立ち上がり、議論をしている円卓の騎士たちを見渡した。
このライフルたちの中から選ばれることになるのは、信頼性が最も高いモシンナガンM1891になりそうだ。
「では、採用するライフルはモシンナガンとする」
円卓の騎士たちを見渡しながらそう言うセシリア。マンリッヒャーM1895を選ぼうとしていたオークの大尉も、連射速度よりも信頼性を重視するべきだと思ったらしく、セシリアを見つめながら首を縦に振っている。
こうして、テンプル騎士団ではモシンナガンM1891が採用されることになった。




