表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/744

シュヴァルベ


 キャノピーの向こうへと、無数のロケット弾が立て続けに放たれた。


 白煙を後端部から噴出しながら発射されたロケットたちは、滅茶苦茶になった平原で無数の弾丸を弾きながら、ダミアン市へと肉薄を試みる敵の歩兵部隊や戦車部隊へと無慈悲に牙を剥いた。操縦桿を引いて他の隊員たちと共にMe262を上昇させると同時に着弾したらしく、大地が炎に包まれる。


 爆音は聞こえない。


 上昇しつつ、ちらりとキャノピーの後方を一瞥する。ばら撒かれたロケット弾によって敵の戦車は何両か撃破されたらしく、火達磨になっている車両が見える。ハッチが開き、身体を炎に包まれた戦車兵たちが飛び出している。


 ロケット弾は、戦車だけではなく周囲にいた随伴歩兵にも牙を剥いていた。撃破された戦車の周囲にはバラバラになった死体や黒焦げになった肉片のようなものが所狭しと並んでいる。中にはこっちに向かって銃撃してくるやつもいるが、ジェット機にそんな攻撃が当たるわけがない。


 訓練で何度もやった旋回のタイミングを思い出しつつ、操縦桿を横へと倒す。まるで俺が握っている操縦桿と他の隊員たちの機体が連動しているかのように、編隊を組んでいる5機のMe262たちが、アーサー1の乗る赤いMe262を中心に左へと旋回を始めた。


 アーサー隊は、基本的にドッグファイトや単独行動は行わない。こうやって5機で編隊を組み、思い切り加速しながら敵機へと突撃しつつ機銃やロケット弾で攻撃して攻撃目標を通過し、旋回してから攻撃を繰り返すのだ。場合によっては散開したりすることもあるが、ヘルムート叔父さんがアーサー1になってからはこの戦法が基本となっている。


『各機編隊を崩すな、もう一度だ』


 分かってる。


 旋回が終わる。指を30mm機関砲の発射スイッチに近付けつつ、照準器を覗き込む。こいつの機首に搭載されている機関砲は、人間の兵士にははっきり言ってオーバーキルだ。7.62mm弾ですら人間の歩兵を殺す事ができるんだから、30mm弾で人間の兵士を撃てばどうなるかは言うまでもないだろう。


 転生者が標的であっても同じだ。30mm弾の圧倒的な運動エネルギーと貫通力は、転生者を守る防御力のステータスを無視するほどの殺傷力を誇る。


 辛うじて生き残っている敵兵たちが機関銃やボルトアクションライフルで応戦を始めたらしく、地上でマズルフラッシュが煌く。中には杖らしきものを構え、魔法陣の構築を始める奴もいた。転生者だろうか。


 コクピットの中で溜息をつきながら、機関砲の発射スイッチを押した。


 機首に搭載された4門の30mm機関砲が火を噴いた。魔法陣を構築している途中だった転生者が持っていた杖もろとも木っ端微塵になり、大地で煌くマズルフラッシュの数がどんどん減っていく。


 機銃掃射を止め、操縦桿を引く。血まみれの大地が消え失せたかと思いきや、太陽が昇ったことによって蒼く染まった天空がキャノピーの向こうにあらわになる。血肉や残骸が転がる禍々しい大地の上に広がるとは思えないほど美しい空へと向かって飛びつつ、再び仲間たちと同時に旋回。編隊を全く崩さずに旋回を終え、アーサー1の指示を聞きながら次の標的を狙いを定めようとしたその時だった。


『アーサー4より各機に通達。11時方向に敵機を捕捉』


 お、敵も戦闘機で迎え撃つつもりか。


「アーサー4、戦闘機か?」


『……爆撃機もいます。狙いはダミアンの陸軍かと』


 拙いな。


 舌打ちしながらちらりとダミアンの方を見た。既にダミアンの市街地にある建物の屋上には対空砲が設置されているし、公園とか広場には高射砲も設置されている。市街地上空へと近付けばその対空兵器たちが火を噴くだろうが、爆弾を搭載した爆撃機は地上部隊にとっては脅威になる。


 墜とすべきだ。


『アーサー1より各機、制空権の確保へ向かう』


『『『「了解」』』』


 5機のMe262が、編隊を全く崩さない状態で同時に旋回する。高度を上げつつ敵機の位置を確認し、呼吸を整えた。


 敵機の数は結構多い。殆どが古めかしい複葉機ばかりで、戦闘機は40機くらいはいるようだ。5機で編隊を組んだ連中が低高度と高高度に展開し、その中間に爆撃機の群れがいる。主翼にでっかいプロペラを積み、機首、胴体上部、機体後部に空冷式の機関銃を搭載した大型の爆撃機だ。


 俺たちが標的を爆撃機に切り替えた事を察したのか、護衛を担当する編隊のうちのいくつかが急に旋回して、こっちへと飛んでくるのが見える。迅速な対応ができるのは良い事だが、俺たちを撃墜できなきゃ意味はないぜ?


 編隊の右端を飛ぶアーサー4が旋回し、爆撃機の群れへと向かう。俺も同じく右へと旋回し、アーサー4の後についていく。後方では編隊の中心を飛んでいたアーサー1やその隣を飛んでいたアーサー3も旋回し、迎撃を試みる敵機を無視して爆撃機へ向かって行く。


 機銃を撃ちながら上昇してくるバカ共を置き去りにし、爆撃機へと向かう。爆撃機の機銃の射手たちが大慌てで空冷式の機関銃をこっちへ旋回させ、8mm弾で随分と薄い弾幕を張り始める。もちろん、そんな攻撃は全く命中しない。近くを掠めていく曳光弾の中を疾走しつつ爆撃機に肉薄し、機関砲の発射スイッチをちょっとだけ押した。


 ドドンッ、と機関砲が火を噴いた直後、爆弾をぶら下げた爆撃機が真っ二つになった。金属製の部品で造られている爆撃機でも耐えられないほど強力な機関砲なのだから、未だに木製の部品で造られているヴァルツの爆撃機が耐えられるわけがない。


 爆撃機の編隊の中を飛びながら次の爆撃機へ狙いを定め、機関砲で粉砕する。バラバラになった爆撃機からパイロットや機銃の射手たちが放り出され、叫び声を上げながらパラシュートを開いて大地へと落ちていった。


 これで2機。


 だが、後ろを飛んでいるヘルムート叔父さんはとんでもない事をやっていた。


 爆撃機のエンジンを正確に撃ち抜いて機能を停止させ、ふらついたその爆撃機を近くを飛んでいる爆撃機と激突させて2機まとめて撃墜していたのだ。しかも、たった1発の30mm弾しか使っていない。味方機を巻き込んで墜ちていく敵機を一瞥し、ヘルムート叔父さんは今度は別の爆撃機のコクピットを正確に撃ち抜いた。血肉の混じった金属片や木片が飛び散り、爆弾をぶら下げた爆撃機が、ダミアンへの進撃を試みるヴァルツ軍の真上へと落ちていく。


 どさくさに紛れて敵の地上部隊にも損害を与えた叔父さんのMe262が、俺とアーサー4を追い抜いていく。編隊の先頭に立ったのを確認してから再び編隊を再構築し、アーサー1を中心に5機で宙返りする。強烈なGが肉体に牙を剥き、呼吸が苦しくなった。


 歯を食いしばりながらGに耐えつつ、空の代わりにキャノピーの真上に居座る大地を見上げる。墜落した爆撃機の爆発に巻き込まれたヴァルツ軍の戦車が燃え上がっていた。ダミアンに落とす筈だった爆弾が味方の地上部隊のど真ん中に落ちたのだから、敵の陸軍はかなり混乱している事だろう。


 宙返りを終え、機体を元の角度へと戻す。護衛の複葉機たちが必死に機銃を撃ちながら突っ込んでくるが、古めかしい複葉機がジェット機に追いつけるわけがない。必死に迎撃を試みる敵機を意に介さず、再び爆撃機を狙う。


 ドン、とアーサー3が機関砲を放つ。さすがに正面から衝突する覚悟で突っ込んでくる敵機が鬱陶しいと思ったのだろう。正面から接近していた複葉機が砕け散り、パイロットが地上へと落ちていった。


 機体のスピードや火力の差はあまりにも大きい。なのに、ヴァルツの連中は俺たちを”蛮族”と呼んでいる。


 技術力で上回り、あらゆる種族の共存を実現しているテンプル騎士団(俺たち)と、人間による多種族の迫害や支配に固執するヴァルツ帝国(クソ共)ならば、どっちが野蛮なんだろうな。


「墜ちろよ」


 呟きながら、機関砲の発射スイッチを押した。主翼をエンジンもろとも捥ぎ取られた爆撃機が体勢を崩したかと思いきや、そのままきりもみ回転を始める。まるで巨大な風車のようにぐるぐると回転を始めた爆撃機は、自分の真下を飛んでいた爆撃機に主翼を叩きつけて巻き込み、一緒に墜落していった。


 叔父さんみたいに狙ったわけじゃない。今のは正直に言うと偶然だ。


 まあ、狙ったのかって仲間に聞かれたら狙ったって言っておこう。そういう事にすればクラリッサも兄である俺を凄いと思ってくれるに違いない。


 旋回しつつ、残っている爆撃機がいないか確認する。爆撃機はもう既に壊滅状態で、ダミアン市に爆弾を投下するという任務を果たせた機体は1機もいない。市街地で待ち構えていた対空砲の砲手たちの仕事を奪っちまったのは申し訳ないと思ってるが、地上部隊に爆撃による被害は出ていないのだから許してくれるだろう。


『片付けるぞ』


 残っているのは護衛の複葉機のみ。


『………よし、各機ブレイク』


 お、”自由時間”か。


 叔父さんの指示通りに編隊飛行を止め、標的を狙う。さすがに散開している敵機を編隊を組んだまま攻撃するのは効率が悪いと判断したんだろう。


「撃墜数が一番少なかった奴が食堂のシュニッツェルを奢るってのはどうだ? 乗る奴いるか?」


『面白いですね、乗りましょう』


『私も』


『じゃあ俺も』


『………ふん、たまに本気を出すのも悪くない』


 え、叔父さんもやるのかよ………。


 ぎょっとしながら敵機に狙いを定めていると、唐突に狙っていた敵機が木っ端微塵になった。爆炎の中に突っ込んでいった赤いMe262が爆炎を纏いながらきりもみ回転し、すれ違いざまにもう1機の複葉機を撃墜してしまう。


 アーサー1は機体をやや減速させつつ急旋回しやがった。叔父さんはそろそろ退役してもいい年齢なんだが、あのGに耐えられるんだろうか。


 旋回を終えた赤いMe262が、平然と飛びながら敵機の後方へと回り込む。嘘だろ、あの急旋回に耐えやがった。キメラの肉体は他の種族よりも頑丈だが、退役が近い叔父さんがかなりの無茶をした事は想像に難くない。


 赤い機体を見た敵のパイロットが、その機体に乗るパイロットの正体が”レッドバロン”だと気付いたらしく、慌てて旋回を始める。だが、機体が左へと旋回を始めた頃には、Me262の機首から放たれた30mm弾がコクピットをパイロットもろとも捥ぎ取って、胴体に大穴を穿っていた。


 おいおい、これじゃ俺たちが叔父さんに全員でシュニッツェルを奢る羽目になっちまう!


 慌てて敵機を撃墜し、周囲を見渡す。だが、早くも敵の戦闘機は30mm機関砲で粉砕されて撃墜されているらしく、ダミアン上空を飛んでいるのはたった5機のMe262だけだった。


 プロペラの音が消えた空を、5機のMe262がジェットエンジンの音を響かせながら、我が物顔で飛んで行く。


 さて、機銃掃射を再開しますか。


『アーサー1より各機、そろそろ帰還する』


 はっとしながら燃料計を見る。


 弾薬はまだ残ってるが、燃料が減ってきている。飛行場はかなり遠くにあるのだから、戻る途中でまた空中給油を何度か受けてから戻らなければならない。


 今すぐに引き返さなければ、燃料切れで墜落する羽目になる。


 指示通りに上空で仲間たちと再び編隊を組み、旋回してタンプル搭を目指す。


 やがて、青空の向こうから巨大な爆撃機の群れが飛んでくるのが見えた。まるで、巨大な魚雷にエンジン付きの主翼と尾翼を取り付けて、機体のいたるところに機銃を搭載したような形状をした機体だ。主翼と垂直尾翼にはテンプル騎士団空軍のエンブレム―――――爆弾をぶら下げたドラゴン――――――が描かれており、蒼く塗装されているのが分かる。


 爆弾を搭載したB-29の群れだ。


 100機以上のB-29が、編隊を組みながらダミアン上空へと飛んで行く。


 ヴァルツの連中はあの平原で皆殺しにされるという事を悟った俺は、コクピットの中で肩をすくめた。


 ちゃんと成仏しろよ、クソ野郎共。


















 ヴァルツの爆撃機は、ダミアンに近付く事すらできなかった。


 全ての爆撃機と戦闘機を撃墜し、我が物顔で帰還していくMe262たちを見上げる。たった5機であっという間に制空権を確保するどころか、敵部隊にも多少の大損害を与えてくれたエースパイロットたちは、テンプル騎士団空軍の切り札と言ってもいいだろう。


 義手を通常の状態へと変形させ、SKSカービンを構えながら大地の向こうを睨みつける。まだ健在な戦車たちが砲撃してくるが、市街地で待ち伏せしていたT-34-85やIS-2の集中砲火で、次々に撃破されていた。


 後は空軍が爆撃にやって来るまで持ちこたえていればいい。そう思いながら銃撃を開始すると、隣で双眼鏡を覗き込んでいたセシリアが微笑んだ。


「なあ、力也」


「どうした、ボス」


 敵の転生者兵をヘッドショットしながら聞き返す。彼女が双眼鏡で見ているのは敵部隊ではないらしい。


 敵部隊の後方を見ている。その事に気付いた俺は、はっとした。


「――――――もし、敵部隊の後方に我が軍の部隊が現れたらチェックメイトだと思わないか」


 そう、まだ兵力は残っている。


 攻勢を得意とするテンプル騎士団の中でも、特に遠征を経験することになる獰猛な連中が。


 彼女から双眼鏡を借り、俺も敵部隊の後方を確認する。


 まだあいつらがいる。


 ”テンプル騎士団海兵隊”が。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ