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爆音を奏でる者


 私に向かって剣を振り下ろそうとしていた転生者の眉間が、後方から飛来したライフル弾に撃ち抜かれた。頭を揺らしながら鮮血や頭蓋骨の一部をばら撒いた哀れな転生者の少年が、そのまま後方へと吹っ飛んでいく。


 カラン、と地面に落下した剣が金属音を響かせると同時に、今度は後方で魔術の詠唱をしていた転生者の頭が、一発のライフル弾に射抜かれる。転生者が放つ魔術は強力としか言いようがないが、詠唱中は隙だらけだ。魔力の変換に使う術式の生成に集中することになるため、目の前から攻撃が接近してきても即座に回避することはできない。仮に回避する事ができるほどスピードのステータスが高かったとしても、無煙火薬によってすさまじい速度で発射される7.62mm弾を回避する事は極めて困難だっただろう。


 誰かが残って支援をしてくれているのか、と思った次の瞬間、後ろから走ってきた男が鋼鉄の腕で私の腕を掴み、自分の方へと引き寄せながら叫んだ。


「ぶちかませ、マリウス!」


「了解ぃ!」


 返事が聞こえた直後、砲撃で抉られた大地のど真ん中で金色のマズルフラッシュが迸った。銃声を置き去りにしながら飛来した無数の7.92mm弾の凄まじい弾幕が、転生者の群れを無慈悲に穿っていく。血飛沫や肉片が飛び散り、既に大地の上に倒れている死体たちを赤く汚していった。


 転生者たちの断末魔を聞きながら、私を引き寄せた男の顔を見上げる。


 助けに来てくれたのは、最も信頼している男だった。


 強制収容所で、手足を失った状態で囚われていた哀れな少年。


 妹を惨殺したクソ野郎共に復讐するために、テンプル騎士団に入団した。そして、私に忠誠を誓い、危険な作戦だろうとお構いなしに成功させてくれた、私だけの切り札。


 やはりお前か、力也………!


 虚ろな目つきの男を見上げていると、彼はこっちを見下ろしながらニヤリと笑った。


「ボス、お怪我は?」


「ない、気にするな。お前こそ、よく助けに来てくれた」


 ホルスターからトカレフTT-33を引き抜き、左手で連射して転生者を蜂の巣にする力也。数名の転生者がこっちに弾丸を放ってきたが、彼はすぐに義手のフレーム――――――大破したオルトバルカの戦車の装甲を流用しているらしい――――――で跳弾させ、無力化してしまう。


 義手というのは便利なのだな。私も博士に頼んで、義手や義足に変えてもらうべきだろうか。


 でも、姉さんは猛反対しそうだな………。私は子を産み、キメラの遺伝子を次の世代に受け継がせる事ができればどうなっても良いと考えているのだが。


 ぴたりと7.92mm弾の弾幕が止まる。機関銃に装着されていたベルトを使い果たしてしまったのだろう。


 機関銃の破壊力と連射速度は素晴らしいが、再装填リロードには時間がかかる。レシーバーにあるカバーを開け、そこに新しいベルトを突っ込んでからカバーを閉じ、コッキングレバーを引く必要があるからだ。そういう部分は、クリップで弾丸を装填したり、マガジンを交換するだけで済むライフルよりも使い勝手が悪い。


 だが――――――力也の後ろから現れた少女が、体勢を立て直そうとしている敵兵たちに最も無慈悲な追撃をお見舞いしてしまう。


「ふぁいあー☆」


 可愛らしい声でそう言った直後、手にした火炎放射器から煉獄の業火が迸った。白い制服を身に着けた転生者たちがあっという間に火達磨になり、絶叫しながら地面を転がり始める。だが、彼らの肉体に着火した炎は地面に押し付けられても全く消えず、彼らの肉体を黒焦げにしていった。


「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ! 消ぜっ、消じでぐれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「待ってろ、今水を――――――グゥッ!?」


 仲間を助けるために魔術で水を出そうとしていた転生者が、唐突に喉を押さえ始めた。顔を真っ赤にしたかと思いきや、血の混じった唾液を吐き出しながら崩れ落ち、身体を痙攣させてから動かなくなっていく。


 何が起きたのかと思っていると、力也が私を庇ったまま尻尾を使って自分のガスマスクを外し、私にガスマスクを付けてくれた。


「フィオナ博士が独自に調合した燃料だ。着火すれば、その燃料が燃え尽きるまで決して消えない。そして気化した燃料は毒ガスと化し、吸い込んだ者の肺を膨張させて破裂させる」


「は、博士がそんなものを………?」


 炎そのものだけでなく、気化した燃料まで敵兵に牙を剥くとは………。


 片手で口と鼻を押さえつつ、StG44を右手と尻尾で持って射撃する力也。火達磨になった転生者たちの向こうから他の転生者たちが銃弾を放ったり、魔術で反撃してくるが、炎が発する陽炎で彼の姿が歪んで見える上に、煙が毒ガスであるせいで迂闊に近寄る事ができないせいで命中精度は劣悪だった。


 容赦なく敵兵にライフル弾を撃ち込む力也。黒煙や焼死体の向こうにいる敵の転生者たちが、次々に頭や胸板を撃ち抜かれて呻き声をあげ、崩れ落ちていく。


 向こうにいる敵は見えない筈なのに、なぜ彼の攻撃は殆ど当たっているのだろうか。


 黒煙の向こうでマズルフラッシュが煌く。自分の近くを掠めた弾丸を無視しつつ、力也はそのマズルフラッシュが煌いた場所へと弾丸を放つ。


 敵のマズルフラッシュや魔力反応を索敵に使っているのだ。


 ライフルを発射する際の敵兵の姿勢は、訓練を受けていれば予測はできる。力也はマズルフラッシュが見えた位置を参考にしてライフルを構える敵兵の姿勢をイメージし、そこへと弾丸を撃ち込んで命中させているのである。


 もちろん、自分が逆にその方法で撃たれる恐れがあるため、彼は数発放った後に位置を変え、そこからさらに敵兵を狙撃していた。


 ドン、と後方にいる狙撃兵――――――エレナだろう――――――が放った弾丸が、黒煙を穿って敵兵の眉間を直撃する。


 再装填リロードが終わったのか、マリウスの機関銃も再び火を噴いた。圧倒的な運動エネルギーを与えられた7.92mm弾の群れが、黒煙に立て続けに穴を穿ち、反対側にいる敵兵たちを次々に引き千切っていく。


 無数の転生者の群れが、たった数名の特殊部隊に足止めされている………!


 もちろん、敵が体勢を立て直せばすぐに叩き潰されてしまうだろう。だからこそ、力也たちは敵を混乱させ、体勢をすぐに立て直せないような攻め方をしている。


 火炎放射器の攻撃で敵兵を排除しつつ黒煙で視界を悪化させ、その反対側から狙撃と機関銃の掃射で攻めることにより、敵を強引に前進できないような状態にしているのだ。きっと黒煙の向こうにいる敵兵たちは、未だに私の救援にやってきたスペツナズの兵士たちの人数を把握できていないに違いない。


 空になったマガジンを投げ捨てた力也が、再び私の近くへとやってくる。私の手を引いて戦車の残骸の影に隠れ、背負っていた無線機を置いてスイッチを入れた彼は、灰色の空の向こうを見つめながら命じた。


「第一分隊より第二分隊、支援砲撃を要請する。座標はЙ-2-6。繰り返す、座標はЙ-2-6」


『こちら第二分隊、支援要請を受諾。これより砲撃を開始する』


 第二分隊も来ているのか。


 だが、スペツナズ第零部隊の第二分隊は第一分隊のサポートを行うための部隊であり、砲兵隊ではない。迫撃砲での支援砲撃なのだろうか。


 灰色の空から、何かが落下してくる音が響き始める。私たちの頭上を飛翔し、上昇を続けるための運動エネルギーを使い果たしてしまった物騒な鋼鉄の来訪者たちは、大地が発する重力にいざなわれ、抉れてしまった平原へと降り注ぐ。


 次の瞬間、大地に産み落とされた火の海の反対側に、立て続けに爆炎が生まれた。火の海が発する黒煙のせいではっきりと見えないが、砲弾が着弾する度に、敵の転生者たちが放つ魔術やマズルフラッシュの数が減っているようだ。


 とはいっても、おそらく使用しているのは小口径の軽迫撃砲だ。砲兵隊が運用する大型の迫撃砲と比べれば砲弾の射程距離は短いし、殺傷力も大きく低下してしまっている。


 だが、それなりに近距離にいる敵兵の群れを吹き飛ばし、土まみれの肉片にしてやるには十分な威力と言っていいだろう。


『アクーラ2よりアクーラ1、本隊より蒼い信号弾を確認』


「姉さんか!」


 後ろを振り向くと、確かにテンプル騎士団の主力部隊が撤退した砲口から蒼い信号弾が発射されているのが見える。撤退が終わったら打ち上げろと言って姉さんに託した、あの蒼い信号弾に違いない。


 蒼い信号弾の意味を理解した力也が、無線機に向かって「各員、攻撃中止。本隊へ合流する」と指示を出した。第二分隊の砲撃はぴたりと止まったが、エレナの狙撃とマリウスの掃射はまだ止まらない。敵のすぐ近くにいる私たちを支援するためなのだろう。


「ボス、走るぞ」


「ああ!」


 分かっている。さすがにこのまま一緒に戦うわけにはいかないからな。


 腰のポーチからスモークグレネードを取り出し、安全ピンを引き抜いてから放り投げる。力也はStG44のマガジンに残っている弾丸を全てフルオート射撃で敵に向かって放ってから、ライフルを背中に背負って走り出した。


 戦場の真っ只中で燃え盛る火の海を迂回しようとする敵もいるが、気化した燃料やエレナの狙撃が迂回を阻む。中には毒ガスを身に着け、火の海の中を強行突破しようとする転生者もいたようだが、顔を覆っていた毒ガスがあっという間に溶けたかと思うと、制服を炎が包み込み、彼も焼死体の1つと化した。


 力也と共に全力で突っ走り、後方で双眼鏡を使って敵の様子を観察していたジェイコブや、地面に伏せながらMG42を連射していたマリウスたちの脇を通過する。彼らは私と力也が離脱したのを確認すると、すぐに攻撃を止めて後ろをついてきた。


 戦車の陰で狙撃を続けていたエレナも、スコープ付きのモシンナガンM1891/30を背負い、戦場から離脱を始める。


 突っ走りながら、力也はちらりと後ろを確認した。


 迂回を阻止していたエレナの狙撃やマリウスの掃射が無くなったことにより、敵兵が火の海を迂回して私たちの追撃を始めたらしい。純白の制服に身を包み、ヘルメットをかぶった転生者兵たちが、端末によって強化されたスピードのステータスをフル活用し、離脱しようとする私たちを凄まじいスピードで追撃してくるのが見える。


 人間の走る速度というよりは、最高速度に達したスポーツカーとでも言うべきだろうか。人間サイズのスポーツカーだな。


 もちろん、牽制している余裕などない。銃を後方へと向けて適当に撃っても、弾丸は命中しないだろう。弾丸をばら撒くことも必要になるかもしれないが、銃はしっかりと狙いを付けて放つことで真価を発揮する武器である。


「コレットぉ!」


「こっちです!」


 前方に穿たれていた塹壕タコツボの中から、ヘルメットをかぶったコレットが顔を出した。傍らにはショットガンが置かれていて、土まみれのスコップが突き立てられているのが分かる。短時間で塹壕タコツボを掘り、準備していたというのだろうか。


 双眼鏡で闘劇してくる敵を見た彼女は、速度が予想以上に速かったからなのか、ぎょっとしながら目を離した。けれどもすぐに何かの起爆スイッチへと手を伸ばし、双眼鏡を覗き込みながら呼吸を整える。


 追撃してくる転生者の群れが、先ほどマリウスたちが攻撃していた地点を通過する。それを確認したコレットは双眼鏡を覗き込んだままニヤリと笑うと、カチッ、と素早く親指で起爆スイッチを押した。


 彼女の土まみれの指が、大地の向こうから追いかけてくる愚者たちに死刑を命じる。


 唐突に、地面から火柱が噴き上がった。圧倒的な衝撃波によって突き破られた土が宙を舞ったかと思いきや、火柱が土たちを巻き込んで焼き尽くす。噴き上がった火柱と衝撃波たちは全力疾走していた転生者たちをあっさりと飲み込み、バラバラにしていった。


 ダイナマイトや通常の爆薬の威力ではない。砲兵隊の集中砲火でも始まったのではないかと思ってしまうほどの爆発が、大地の向こうで立て続けに起こっている。


「――――――ダイナマイトや対戦車地雷と一緒に、第二分隊から貰った軽迫撃砲の砲弾も一緒に埋めたんです」


 双眼鏡で爆心地を見つめながら、コレットが言った。


「我々に支給されている爆薬は、全て高圧魔力を添加した対転生者用の強力なものです。破壊力は従来の爆薬のおよそ3倍です」


 それほどの破壊力を誇る爆発物を、彼女は大地にこれでもかというほど埋めていたというのか。


 爆心地の近くに生き残っている敵兵がいないか確認するコレットを見つめながら、彼女が力也にスカウトされた時の事を思い出す。コレットは元々陸軍の工兵隊に所属していた兵士で、破壊工作を得意としていた優秀な兵士であった。テンプル騎士団が劣勢だった時期も、他の団員たちと共に破壊工作を行い、ヴァルツ軍にじわじわと損害を与えていた実績がある。


 彼女は”あいつ”の教え子だから、優秀な兵士になるのは当たり前だろう。教官の方には極めて大きな問題があるが。


「さあ、後退しましょう」


 コレットがそう言った瞬間、無線機から聞こえる通信を聞いていたエレナが顔を上げた。


「敵陣に潜入中のエージェントより通達。敵軍は更に増援部隊を派遣した模様」


「転生者か?」


「いえ、通常の部隊と転生者部隊の混成部隊と思われます。数はおよそ30000名とのこと」


 30000名………!


 今まで温存していた物量を、ここで投入するつもりか。


 ふん、ヴァルツはこの戦いで勝つつもりらしいな。


「団長、さすがに拙いのでは………?」


「慌てるな、コレット。まだ手はある」


 確かにこちらの攻勢は止められた。だが、時間を稼いだことによって撤退時の損害は殆ど出ていないし、こちらはまだ空軍を温存している。それに、後方はコレットの”教官”もいるからな………。


「撤退するぞ。陸軍の第21工兵隊と合流する」


「え、それって、”あの人”の………!」


 そうだ、コレットの教官がいる部隊であり、彼女が元々所属していた部隊だ。


 部隊の名前を聞いた力也も私が考えている作戦を察したらしく、内ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。空軍は攻撃準備に手間取ったせいでまだこの戦場には到着していないが、そろそろこの灰色の空を無数の爆撃機が埋め尽くすことだろう。


 タンプル搭壊滅から反撃開始までの9年の間、実質的に機能を停止していた空軍が、9年間の鬱憤を晴らす時間がもうすぐやってくる。これから始めるのは、その前の仕上げだ。


「同志諸君、さっさと合流するぞ」


 そう言いながら、力也は仲間たちを見渡した。


「――――――早く”お片付け”しないとママに怒られるからな」


























 どんな”音”ならば、天国まで届くだろうか?


 灰色の空を見上げながら、僕は考え続ける。ここから天国までの間には、物理法則よりも堅牢な”壁”がある。生きている者たちがいるこの世界と、死者たちが眠る死後の世界。その壁の中へと浸透して、天国まで響くほどの音とは何だろうか。


 僕は――――――”爆音”だと思う。


 爆薬をたくさん爆発させることによって解き放たれる爆音。敵を吹き飛ばすことによって響き渡る断末魔。建物が倒壊する轟音。


 きっとそれは、空まで届く。


 いや、死者の世界まで届く。


「隊長、爆薬の設置が完了しました」


 敬礼しながら報告するホムンクルス兵に向かって首を縦に振り、耳に装着していたヘッドホンをそっと外す。外したヘッドホンを首にかけ、ポケットから取り出したタンプルソーダ味のキャンディを口の中へと放り込んでから、灰色の空へと手を伸ばす。


 抉られた大地の向こうから、テンプル騎士団の制服に身を包んだ部隊が戻ってくる。迫撃砲の砲身を抱えながら走ってくるのは、きっとスペツナズ第零部隊の第二分隊だろう。その後ろにいるのは第一分隊だろうか。


 そろそろ僕たちの出番みたいだ。


「さあ、演奏を始めようか」


「準備はできています、同志”ブリスカヴィカ”」


 頷いてから、腰に下げているスモールソードを引き抜く。真っ黒な細い刀身を振り上げながら後ろを振り向くと、ずらりと並ぶ工兵隊の隊員たちが、まるでこれから演奏を始めるオーケストラのように起爆スイッチを押す準備を始める。


 さあ、最高の爆音を響かせよう。


 スモールソードを指揮棒タクトのように振り上げながら、祈った。


 かつて、お婆ちゃん(イリナ)を魅了したこの爆音が―――――――天国まで届きますように。


 







新キャラ登場です。

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