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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十一章 殺しの遺伝子、滅びの遺伝子
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餌食と報復


 明日花(俺の妹)を殺したのは、誰だ。


 来栖ではなかった。


 霧島姉妹でもなかった。


 残っている容疑者は、お前と勇者の2人。殺したのは確実にこのうちのどちらかだ。


 どちらが殺していようと、勇者と三原をぶち殺してやるという目的は変わらない。だが、殺していた方にはもっと絶望してから死んでもらう。奴らの全てを奪い取り、絶望させ、完全にぶち殺す。


 それが俺の目的だ。


 それが俺の存在意義だ。


 復讐を成し遂げるために、俺は彼女(魔王)と共に戦ってきた。お前らに復讐するために身体に機械を移植し、邪魔をする敵兵を惨殺し続けてきた。


 復讐を果たさなければ、死ねない。


 復讐を果たすまで、明日花の所に逝く事は許されない。


 先ほどまで絶望していた三原は、俺の顔を見上げながら凍り付いていた。自分が明日花を殺したからなのだろうか。それとも、自分の上官である勇者を裏切ることになるのを恐れているのだろうか。


「答えろ」


 どちらかなんだ。


 少しずつ目つきを鋭くしながら、三原を見下ろす。彼は俺の目つきが鋭くなっていく度に、美海が蘇るかもしれないという希望が掠れていくと考えたのか、あっさりと答えを教えてくれた。


「………………お、俺じゃねえ………勇者だよ」


 ――――――天城、お前が殺したのか。


 俺の妹を。


 最愛の家族を。


「お前の妹を殺す気はなかったんだ………痛めつけたり、犯してればお前を苦しめられると思ってた………。だから、ぶん殴る時も殺さないように気を付けてたんだ」


 殺さないように気を付けてた?


 心の中で急激に肥大化しそうになった怒りを鎮圧する。まだ殺意を向けてはいけない。俺を痛めつけやがった事の仕返しもしてやりたいが、そんなくだらない怒りはどうでもいい。こいつをぶち殺す理由は、明日花の復讐だけだ。


 復讐することは確定している。だから、まだ怒るな。


「………………それで?」


「あ、ああ………お前が強制労働させられている間に、少し犯してやろうと思って彼女のいる牢屋に行ったんだ。そしたら………ち、血まみれの剣を持ってる勇者がいて、牢屋の中にお前の妹が倒れてた………。こっ、殺したのは俺じゃねえ! あの勇者なんだよっ!」


「そうか………お前じゃないのか」


「ああ、そうだ。俺じゃない」


「分かった」


 教えてくれてありがとう、三原。


 ルガーP08をホルスターから引き抜き、劇場の天井へと向けて発砲する。9mm弾の小ぢんまりとした薬莢が飛び出し、マズルフラッシュを容易く置き去りにした弾丸が天井を直撃した。


 三原をここまで連れてきた兵士を狙撃したエレナは、ジェットコースターのレールの近くにある高台でこっちを見ている筈だ。劇場の窓の外からでも、今のマズルフラッシュは見えた筈である。


 やがて、劇場の扉の方からモシンナガンを背負ったエレナがやってきた。容姿は死んでしまった明日七にそっくりだけど、瞳や頭髪の色は違うし、キメラと同じく角と尻尾が生えている。


 彼女を目にした三原は、どうやらエレナを死んだ明日花だと勘違いしたらしい。目を見開きながらエレナを凝視し、ルガーP08をホルスターに戻した俺の方を見上げてくる。もし彼女が生き返って俺と一緒に戦っていたのであれば、こんなどす黒い復讐心が生まれることはなかっただろう。わざわざ三原の彼女を生け捕りにし、幻を使って三原に彼女を殺させるような面倒なことはさせずに、ただ単に二人を殺す”程度”の復讐心で済んだ筈だ。


 エレナを明日花という事にし、彼女を生き返らせたと嘘をついて、死者を蘇生する技術を本当に持っていると思わせるのに利用しようと思ったが、見破られそうだからやめておこう。


「これですね」


「ありがと」


 エレナが取り出した注射器を受け取り、中に入っている黄色い液体を三原に見せる。注射器の中に収まっている黄色の液体の内部では、まるで雲の群れの間から覗く雷のように緋色の光が煌いていた。もっと大きな容器に入れて暗闇に置いておけば、照明として使えるかもしれない。


 だが、これはそんな”まともな”用途のために作られたものじゃない。これ以上ないほどおぞましい事をするためにフィオナ博士が造った、彼女の発明品の1つだ。


 フィオナ博士はとんでもないものしか造らないが、これは復讐に非常に役立つ。それに彼女は”復讐はいけないことだ”と咎めることがない。俺の復讐に全力で協力してくれる人だから、彼女の事は気に入っている。出来るならばいつか恩返しがしたいものだ。


 腰の後ろから伸びている尻尾にその注射器を持たせ、ステージの奥にある血の海で倒れている美海の死体を抱き抱える。床を埋め尽くす血液と彼女の死体はもう冷たくなっていた。


 美海の顔には、血涙が流れた痕がまだ残っている。普通の人間が流す透明な涙ではなくて、絶望した人間が流す禍々しい涙。自分の大切だった人が、自分を助けるどころか止めを刺したのだから、最後に彼女が味わう事になった絶望がどれほど凄まじいかは言うまでもないだろう。


 大切な人に裏切られる絶望は、大切な人が命を落とす絶望よりもはるかに上なのだ。


 大切な人が死んでしまった時もかなりの絶望を味わう事になる。もう二度とその人と会ったり、話をする事ができなくなってしまうのだから。だが、死者が蘇ることはないという事は当たり前なのだから、時間が経てば諦めはつく。


 しかし、大切な人に裏切られれば、その絶望は一生消えない。死者のように諦めがつくこともない。その大切な人が生きている以上、いつかは何とかなるのではないかという希望が生まれてしまうからこそ、その事を何度も考え、一生消えない絶望を何度も思い出すことになるからだ。


 だから、美海の絶望も決して消えない。


 三原はそれに気付いていない。


 廊下に出てから、廊下の奥にある部屋の扉を開ける。キャメロットの居住区にある部屋よりも少し広い部屋の中に、小さなテーブルと椅子がいくつか置かれていた。元々は演劇の出演者たちの休憩室だったのだろうか。部屋の隅には演劇に使う衣装らしきものが置かれていて、テーブルや椅子たちと同じく埃まみれになっている。


 9年前にクレイデリアがヴァルツ帝国に占領されてから、ずっと放置されていたのだろう。当たり前だが清掃員がやってきた形跡はない。


 床を覆っている埃を義手で少しばかり払ってから、そこに美海の死体を寝かせた。純白の制服にしみ込んだ彼女の血液が、埃まみれの床に禍々しい紅い模様を描き始める。


 傍から見れば、これから死体を使った儀式をする魔術師たちのようにも見えるだろう。大昔だったら、ここにいる奴は全員教会の連中に異端者扱いされ、火炙りにされていたに違いない。


 国によっては人間の死体を使った儀式は違法だったらしいからな。今ではどの国でも違法らしく、死体を使った魔術は禁術に指定されているらしいが。


 だが、これからやるのは”魔術”じゃないからセーフである。


 義手で彼女の血痕の痕を拭い去り、美海を死なせてしまった事に罪悪感を感じているふりをしてから、尻尾に持たせていた注射器を手に取った。


「な、なあ、それはなんだ?」


 ちょっとしたランタンのように光を放っている注射器を見ていた三原が、不安そうに尋ねてくる。


「博士が発明した死者を蘇生させるための薬品だ。死亡してから一日以内であれば、死亡した人間を蘇生させられる。テンプル騎士団では全ての兵士にこれを携行させ、戦死した兵士たちを蘇生させながら戦っている」


 もちろん嘘ですよ。


 そう説明してから、注射器の針を美海のうなじにそっと近づける。冷たくなってしまった彼女の白い肌に注射器を突き立てる前に、ちらりと三原の顔を見た。彼が首を縦に振ったのを見てから、エレナに目配せし、注射器の針を美海のうなじに突き立てる。


 ランタンのように光る液体が、どんどん彼女の身体へと投与されていく。緋色に煌いていた液体が注射器の中から消え失せてから、ゆっくりと注射器の針を抜いた。


 フィオナ博士が発明した薬品を投与された死体から手を離し、三原に目配せする。


 安心しろよ、これで美海は蘇る。


「み、美海………」


 血まみれの手で涙を拭い去ってから、まだ床に横になっている美海の傍らへと向かう三原。まだ冷たい彼女の手を握り、血涙の痕が残っている顔を覗き込んでいる隙に、俺とエレナはそそくさと部屋の出口の近くへと下がっていく。


 このまま眺めているのも面白いだろうが………”巻き込まれちまう”からな、この部屋にいたら。


 唐突に、美海が目を開けた。血涙のせいでちょっとばかり赤く染まった眼球があらわになり、顔を覗き込んでいた三原がびくりと震える。だが、まだ彼は死んだ美海が生き返ったと信じている事だろう。絶望しながら死んでいった自分の彼女が、もう一度目を開けたのだから。


 だが――――――血涙のせいで眼球が少し赤くなっているせいなのか、美海が彼に会うために生き返ったというよりは、自分を殺した怨念で強引に蘇ったようにも見えてしまう。


 恋人に会いに来た少女ではなく、自分を殺した相手への報復を望む悪霊。


 俺と同じだな、と思った直後、目を開けた美海を見つめていた三原が凍り付いた。


「み、美海………?」


 目を開けた美海は、血で真っ赤に汚れた歯をあらわにしながら、自分の恋人の名前ではなく―――――――呻き声を発していたのだ。大きく空いた口からは血でうっすらと汚れた涎が溢れ出し、真っ白な両手を伸ばして三原の両肩をがっちりと掴む。


 あの世から戻ってきた自分の恋人を抱きしめようとしているというよりは―――――――肉を咀嚼しようとする、猛獣のように見えた。


 次の瞬間、ぐちゃ、と肉が千切れる音と同時に真っ赤な血飛沫が飛び散った。涎と混ざり合った鮮血が埃まみれの床に血痕をぶちまけ、少年の絶叫が禍々しい少女の呻き声をあっさりと掻き消す。


 死んだ恋人との再会を望んでいた少年が、決して発することのない絶叫だった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 そう、起き上がった美海が三原の肩に思い切り噛みついたのだ。三原は絶叫しながら美海の身体を思い切り突き飛ばすが、彼が彼女を抱きしめるのは危険だと判断した頃には、死んだ筈の17歳の少女の歯は肩の肉に完全に食い込んでいた。


 ぶちっ、と肉が千切れ、食い千切った肉を咥えた美海が奥にある壁に叩きつけられる。


「あっ、ああ………!」


 左手で肩の傷口を押さえながら、三原はいつの間にか出口の近くにいた俺とエレナを睨みつけた。


「て、てめえ………だっ、騙したなぁ………っ!?」


「はははっ」


「あれっ………ぞ、ゾンビじゃねえか!」


「でも、彼女はまた目を開けたろ?」


「ふ、ふざけん――――――」


 叫びながら端末を取り出そうとする三原だったが、端末の画面をタッチして武器を用意するよりも先に、先ほど突き飛ばされた美海ゾンビが再び三原に背後から襲い掛かった。まるでアメフトの選手のように三原に後ろから体当たりをぶちかましたせいで、彼が取り出したばかりの端末が床へと転がり落ち、俺のブーツにぶつかる。


 それを拾い上げてポケットにぶち込んでから、エレナと共に部屋を出てドアを閉めた。この部屋には窓があるけれど、窓のサイズは人間の腕が2本くらい辛うじて通過できるくらいである。そこから逃げ出すことは不可能だろう。


 その窓とこの扉以外に出口はないので、鍵をかけてしまえばもう脱出する手段はない。端末を失って丸腰になった状態でゾンビを殺し、助けが来るのを待つか、ゾンビの餌になるしかないのだ。


『痛てぇっ! み、美海、やめろぉっ! がぁっ……あぁ………ゆ、指がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 ちゃんと戦闘訓練を受けていれば、丸腰でもゾンビを仕留めることはできる筈だ。けれども、残念なことに三原は端末の能力に頼り切っていた典型的な転生者の1人だったらしく、ゾンビになってしまった自分の彼女に次々に肉を食い千切られているようだった。


 中の様子を見たいんだが、開けたらゾンビがこっちにも牙を剥くので我慢しておこう。


 やがて、ドン、と内側から扉を叩く音が聞こえてきた。


 誰が叩いているかは言うまでもないだろう。


『たっ、頼むっ………開けろぉ………………食われちまう………っ!』


「………三原」


 ゾンビになった美海と一緒に呻き声を発しながら、必死に扉を叩く三原に俺は言った。






「―――――――悪魔の言う事を信じるからだ」














 肉を食い千切る音と、呻き声しか聞こえなくなった。


 扉と床の間から溢れ出た鮮血が、廊下の床を侵食し始める。戦場でいつも嗅いでいる血の臭いが、廊下を満たしている埃の臭いやカビの臭いと混ざり合って、禍々しい臭いへと変貌していた。


 扉に鍵をかけていることを確認してから、エレナを連れて踵を返す。この遊園地は隠れ家として使いたいが、今しがた美海と三原を2人きりにしてやったあの部屋は永遠に封鎖するべきだろう。開けたら危ないし、2人きりになっているのだから邪魔をするべきではない。


 ポケットの中から三原の端末を取り出し、彼の端末も機能を停止していることを確認してからニヤリと笑う。


 これで、残っているのは勇者だけだ。


 明日花、もう少しだ。


 もう少しで、お前を苦しめた元凶に復讐できる。


 もう少しで、あいつから全てを奪ってやれる。


 復讐を果たしたら、兄ちゃんもそっちに逝くからな。


 多分、お前のいる天国には行かせてもらえないかもしれない。復讐のために、悪い事をいっぱいしてしまったから。


 けれども、それでいい。


 お前を苦しめた連中から全てを奪ってやれるならば、地獄の業火で焼き尽くされてもいい。


 悪魔は、天国に行けないからな。


「………もう少しだ、明日花」


 ポケットの中から彼女のヘアピンを取り出して、呟いた。


 もう少しだ。


 もう少しで、この復讐劇は終わる。


 もう少しなのだ………。





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