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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十一章 殺しの遺伝子、滅びの遺伝子
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力也VS三原


 何が”悪魔”だ。


 力也の放った弾丸を剣で弾き飛ばして距離を詰めながら、何度も銃を放ってくるクソ野郎を睨みつける。確かに、勇者の野郎に手足を切断された筈の力也の今の姿は、人間というよりは悪魔に近いと言ってもいいだろう。移植された義手の指には小型のナイフの刀身のような形状の”爪”が収納されているし、よく見ると腰の後ろからは機械の尻尾のようなものが生えている。


 傍から見れば、機械で造られた悪魔のようにも見える。


 ふん、あいつにはお似合いだ。お前に人間の姿は似合わない。


 向こうの世界にいた頃から、力也は悪魔のような男だった。妹を虐めた奴らへは必ず報復していたし、報復を受けた奴は病院送りにされるのが当たり前だった。相手が上級生だろうと、社会人だろうとあいつは妹を守るためならば躊躇せずに襲い掛かり、ボロボロになりながら全員病院送りにしていたのだ。


 もちろん、妹を虐めたのが下級生だろうと、女子生徒だろうとお構いなしだ。女子の顔面に右のストレートを思い切りぶちかましたり、バットでぶん殴ったこともあったという。


 だから、高校であいつに手を出そうとする奴はそれほど多くなかった。もちろん俺もあいつから報復を受け、当たり前のように病院送りにされていた。


 あの時は力也に勝てるわけがないと思っていた。………………だがな、今は違う。


 今の俺には端末の力がある。敵をぶち殺せばレベルが上がるし、ステータスもどんどん協力になっていく。弾丸を剣で弾き飛ばせるほどの反射神経だって手に入ったし、敵兵をパンチで殴り殺せるほどのパワーもあるんだ。


 あんな奴はもう敵じゃねえ。


 姿勢を低くしながら肉薄すると、力也はぎょっとしながらアサルトライフルを投げ捨てた。マガジンを交換するよりも、それを投げ捨てて近接戦闘用の武器に持ち替えて白兵戦をするつもりなのだろう。正直に言うと戦い方も前世の世界のままだと思っていたが、実戦を経験してそういう判断力だけは上がったらしいな。


 力也がこっちに向かって投げ捨てたアサルトライフルを剣で両断しながら、俺は嘲笑した。


 あいつが取り出した近接武器は――――――剣や棍棒ではなく、ただの鉄パイプだったからだ。


 元々は圧縮空気とか蒸気の配管に使われていたものなのか、バルブと圧力計がまだ残っている。それを剣の代わりに腰に下げてたっていうのかよ。


「みっともねえなぁ!」


 右足で一気に踏み込みつつ、右手に持った剣を思い切り振り下ろす。体重移動まで活用して振り下ろした一撃ならば、人間の肉体を縦に両断する事は容易いんだが、力也はその剣戟をただの鉄パイプで受け止めやがった。


 剣と激突した衝撃で、役目を果たす事ができなくなった圧力計の針が揺れる。


「剣くらい装備しとけ、カスが!」


「うるせえ、鉄パイプだって優秀なんだよ!」


 何が優秀だ。


 力也は剣を受け止めながら強がったが、少しずつ後ろへと押され始めていた。おそらく、ステータスやレベルの差の影響だろう。転生者同士の戦闘では、レベルが高い方が勝利するのは当たり前だ。端末で造れる能力や武器を活用すれば多少レベルが下の奴でも格上の転生者と互角に戦う事はあるというが、俺のレベルを下回ってる時点で力也に勝ち目はねえ!


 後ろに押されているのが、俺よりもレベルが低い証拠だ!


「とっととてめえをぶち殺して、美海を返してもらう!」


「やってみろ!」


 義手に力を一瞬だけ込めた力也が、俺の剣を押し返す。上半身がぐらりと後ろに揺れてしまうが、すぐに体勢を立て直して剣を振り上げる。


 だが、力也は鉄パイプで剣をさっきのように受け止めたかと思いきや、鉄パイプを傾けて剣を滑らせ、俺の剣戟を左側へと逸らしやがった。鉄パイプもろとも力也を両断するつもりで力を込めていたせいで、受け流された途端に体勢を崩してしまう。


 こっちが体勢を崩している隙に、鉄パイプをくるりと回し、圧力計やバルブが付いていない方の先端部をこっちに突き出してくる力也。よく見るとその先端部は斜めに切断されたことによって尖っており、敵を串刺しにできるようになっている。


 身体を咄嗟に逸らしてその追撃を躱している内に、彼の腰の後ろから伸びていた機械の尻尾がホルスターへと伸びた。革製のホルスターの中からハンドガンを引き抜いた尻尾が、先端部から伸びている3本の機械の指――――――義手の指とデザインが同じだ――――――がハンドガンのグリップを掴んだのを目にした瞬間、俺は思い切り右へとジャンプした。


 尻尾の指が引き金を引いたらしく、ハンドガンから弾丸が飛び出す。今の尻尾を使っての銃撃を見切れるわけがないと高を括っていたのか、攻撃を回避された力也は目を見開きながらそのハンドガンで追撃しつつ、俺から距離をとる。


 くそったれ、あいつに尻尾があるという事を忘れていた………!


 それにしても、あの尻尾は便利そうだな。指は3つしかないが、あの指のおかげで手のように物体を掴むこともできる。場合によっては今のようにハンドガンなどの銃を使って自分の両手の代わりに銃撃することもできるのだろう。


 あの尻尾も警戒しながら攻撃しなければ、確実に奇襲される。


 劇場の座席の陰に隠れながら、腰に下げているホルスターの中を見下ろす。着替えを持ってきた警備兵が「拳銃も持ってないと怪しまれそうでしたので」と言いながら渡してくれた、ヴァルツ製の拳銃だ。俺も射撃訓練を受けた際に使ったことがあるが、あまり的には命中しなかった。


 こいつを使って応戦するべきかと思ったが、ホルスターへと伸ばそうとしていた左手を引っ込め、首を横に振る。


 力也は銃を使って戦う事に慣れている。遠距離にある的にも簡単に弾丸を命中させるだろうし、銃の構造やどのような特徴なのかも完全に把握している事だろう。それに対し、こっちは何回か銃の分解とか組み立てを行い、簡単な射撃訓練を受けた程度である。ステータスやレベルで勝っていても、銃を使う事に関する経験ではかなり劣っていると言っていい。


 第一、わざわざ銃を使って応戦するという事はレベルが上というアドバンテージを捨てることを意味するじゃねえか。


 だったら、もう隠れなくていい。このまま正面から突っ込んで、あのクソ野郎を切り刻んでやればいいのだから。


 待ってろよ、美海………!


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 座席の陰から飛び出し、剣の切っ先を劇場の床に擦りつけながら力也に向かって突進する。尻尾に持たせていたハンドガンのマガジンを交換していた力也はぎょっとしながら義手を別のホルスターに伸ばし、もう1つのハンドガン――――――尻尾が持ってるのよりも銃身が長く、でっかいマガジンが付いている――――――を引き抜いた。


「剣で銃に勝てるわけねえだろうが!!」


 尻尾に持っていたハンドガンを左手に持ち、力也は2丁拳銃で次々に弾丸をぶっ放してきやがった。大半の弾丸は剣で弾き飛ばしたり回避したが、数発の弾丸が肩や脇腹を掠め、剣戟よりもはるかに強力な運動エネルギーで傷を刻み付けていく。


 その痛みを感じると同時に、ぞっとした。


 相手の攻撃力のステータスがこっちの防御力のステータスを下回っていた場合は、攻撃は弾き飛ばされる。弾丸が命中しても皮膚を貫通する事はないし、剣で斬られても皮膚には傷はつかない。だから相手の攻撃力とこっちの防御力に大きな差がある時は、ただ単に正面から突っ込むだけで容易く肉薄できるのだ。


 なのに、今の攻撃は――――――俺の皮膚に傷をつけた。


 力也の攻撃力のステータスだけは、俺の防御力よりも高いのか?


 いや、そんなわけがない。俺の攻撃力は2900で、防御力は3000。先ほどの白兵戦で俺よりも攻撃力のステータスが低いという事が証明されているのだから、あいつの攻撃力がこっちの防御力を凌駕しているわけがない。


 さっきは手を抜いたのか? それとも、防御力のステータスを無視したり、ある程度ステータスの差を緩和できるようなスキルを装備しているのか?


 皮膚に弾丸で傷を付けられた以上、被弾するのは危険だ………!


 一旦隠れるべきかと思ったが、近くに遮蔽物はないし、今更遮蔽物に隠れるために距離をとる方が逆に危険だ。このまま突っ込んで敵の弾丸が飛来する時間を短縮し、決着をつけるべきだろう。


 俺を来栖とか霧島姉妹と一緒だと思うなよ、力也ぁ………!


 銃口から弾丸が飛び出すと同時に、突っ走りながら左へと一気にジャンプする。そのまま近くにあった座席の上に飛び乗ってから更にジャンプし、ステージの上から次々に射撃してくる力也へと上空から襲い掛かる。


「!」


 ぎょっとしたあいつがこっちに向かって引き金を引いた瞬間、左肩で激痛が生まれた。その激痛をもたらした元凶が纏っていた運動エネルギーで左肩が後方に突き飛ばされるが――――――どうでもいい。


 このまま剣を振り下ろせば、あいつには当たる。


「くたばりやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 雄叫びを上げながら、右手に持った剣を思い切り振り下ろす。


 ガギン、と装甲に剣が激突するような音が響いた。黒い金属の破片が舞い上がり、弾丸と薬莢をこれでもかというほどばら撒いていた力也のハンドガンが、その銃のグリップを握った義手ごと宙を舞う。


「―――――――!」


 バチッ、と、切断された義手の断面から露出したケーブルがスパークを発した。潤滑油のような液体が血管のようなケーブルから溢れ出し、ステージの上に橙色の液体をばら撒いていく。


 ゴトン、とステージの上に落下した自分の義手を一瞥したリキヤは、歯を食いしばりながら左手のハンドガンを乱射して後ろへと下がった。ハンドガンが放つ弾丸を右手の剣で弾き飛ばしつつ、左腕をホルスターの中へと突っ込みつつ距離を詰める。


 左肩を撃ち抜かれたわけだから、訓練の時よりも命中率は酷いことになってそうだ。しかも右手に剣を持ちながら突っ走っている状態での射撃だからな………。


 だが、この距離ならば何発か当たってくれる筈だ。


 すらりとしたヴァルツ製の拳銃を握りながら、力也に向かって連射する。美海の苦痛を与えた復讐だけじゃなく、さっきお前らにぶち殺された警備兵の仇も取ってやる。もちろん、警備兵を撃ち殺しやがったスナイパーも見つけ出してズタズタにしてやるさ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


「このクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 右の脇腹に力也が放った弾丸が直撃し、左足の太腿を別の弾丸が掠める。遮蔽物がない状態で、至近距離で銃撃戦を繰り広げればお互いの弾丸はお互いの肉体をこれ以上ないほどズタズタにする。共倒れになる可能性もあるが、あんな奴に殺されてたまるか。


 こっちの放った弾丸も、何発か力也に命中していた。2発の弾丸が尻尾に命中して機械の尻尾を切断し、別の弾丸が力也の胸板を穿つ。もう一発の弾丸が足を直撃したが、ガキン、と金属音を奏でながら弾かれてしまう。


 義足だ。


 力也のハンドガンが弾切れになる。片腕と尻尾を失った状態の力也は、弾切れになったハンドガンを投げ捨て、左腕の指先から爪のようなナイフを展開して襲い掛かってきやがった。


 こっちもハンドガンを投げ捨て、剣で応戦する。射撃ならば俺の方が劣っているが、白兵戦ならばステータスが上回っている俺の方が遥かに有利だ。とはいっても、向こうの攻撃はこっちにも通用するから、油断するわけにはいかない。下手したらあの爪で心臓をズタズタにされちまう。


 爪を展開したまま、力也は肩のホルダーから引き抜いた投げナイフを一気に3本も投擲してきやがった。剣を思い切り左から右へと薙ぎ払い、衝撃波を飛ばして3本まとめて迎撃してから、俺も力也に向かって突進していく。


 爪を展開した義手を左斜め下から振り上げてくる力也。突進をやめて身体を後ろへと逸らし、漆黒のナイフが展開されている義手の一撃をあっさりと回避する。攻撃を空振りして隙だらけになっているのは喜ばしい事だが、あいつの義手から伸びた爪のリーチはナイフのリーチと変わらない。剣を振るうには距離が近過ぎる。


 だから、間合いを開けてもらう。ぶん殴るついでにな。


 左手を思い切り握り、次の攻撃を出そうとする力也の顔面を思い切り殴りつけた。俺の攻撃力とあいつの攻撃力にはかなり大きな差があったらしく、顔面にパンチを叩き込まれた力也は頭を大きく後ろに揺らしながらよろめいた。


 その隙に――――――右手に持っている剣を、思い切り突き出す。


 攻撃が来ることを察知した力也が慌てて後ろへと下がるが、彼の反射速度よりも俺の剣が直進する方が速かった。


「―――――――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ぐしゃ、と、切っ先が力也の眼球を貫いた。


「あっ、ああ………あぁ………………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 鋼鉄の左手で剣に貫かれた左目を押さえながら、悪魔が叫ぶ。


 片目を潰された力也は、絶叫しながらよろめき、ステージの奥の壁に激突した。そのままゆっくりと床の上に崩れ落ち、切っ先が真っ赤になった剣を持っている俺を睨みつけてくる。


 呼吸を整えながら、ゆっくりと前に向かって歩いた。


「っ!」


 こいつが、美海に苦痛を与えた。


 くだらない復讐のためだけに、俺の彼女を痛めつけ、絶望を与えた。


 命乞いしてきても関係ない。普通の兵士どころか負傷兵や非戦闘員まで無慈悲にぶち殺す組織の一員なんだったら、同じように無慈悲に殺されてもいいだろう?


「――――――これで終わりだ、悪魔ぁっ!!」


「や、やめ――――――」


 血まみれの剣が―――――――悪魔の胸板を、無慈悲に貫いた。


 悪魔は身体を痙攣させながら血を吐き、自分の血でいたるところが真っ赤になった義手で、自分の胸板を貫いている剣の刀身をぎゅっと握る。引き抜くための悪足掻きなのだろうか。それとも、助けてくれと懇願するためなのだろうか。


 すると、胸を貫かれて苦しんでいる悪魔が、俺の顔を見上げながら言った。








「――――――三原くん………どうして………………?」


 







「――――――え?」


 今の声は――――――力也の声ではなかった。


 ちょっと待ってくれ。


 今の声は――――――美海の声だ。


 なぜこいつから美海の声が聞こえたのかと思っている内に、剣で貫かれている力也の肉体が崩壊し始めた。


 真っ黒なテンプル騎士団の制服は純白の転生者の制服に変わっていき、がっちりした肉体が華奢な少女の肉体へと変わっていく。刀身を掴んでいる手や足が機械の手足からすらりとした手足へと変貌し、俺を見上げていた悪魔の虚ろな目が――――――絶望する少女の目に変わった。


「み………美……海………………?」


 俺が剣で貫いていたのは――――――――悪魔ではなく、美海だった。


「え、どうして………さっきまで俺はあの悪魔と………………」


「どうして………わ、わたしに………こっ、こ………こんな………………ひどいこと………を………………」


 あ………ああ………!


 ち、違うっ………違うんだ、美海!


 俺はお前を助けに来たんだ。あの悪魔から救い出し、お前に苦痛を与えたあいつに報復するために来たんだ!


 なのに………何で俺はお前に剣を突き立てた?


 血涙を流しながら目を見開き、右手で俺の腕を掴んでくる美海。慌てて剣を引き抜こうとするが、彼女が手を掴んでいるせいで剣が抜けない。


「わたし………しんじてた………………みはら………くんなら………………たすけてくれるって………………」


「や、やめろ………!」


 俺はお前のために来たんだ………!


 だから、絶望しないでくれ………!


 俺を見捨てないでくれ………!


 だが、絶望した美海は血を吐きながら、俺の耳元でこう言った。






「――――――うらぎりもの」






 そう言った直後、美海が動かなくなった。


 人生の最後の最後で、恋人である俺に自分の絶望を叩きつけて――――――動かなくなった。


「み、美海………」


 手を掴んでいた美海の手が離れ、剣で貫かれていた美海が床の上に崩れ落ちる。彼女の胸を貫いていた血まみれの刀身が抜け、傷口から赤黒い血液が溢れ出す。


 死んでしまった美海を見下ろしながら呆然としていると、後ろの方から拍手が聞こえてきた。


「――――――お見事だった、三原くん」


「!」


 後ろに立っていたのは――――――先ほどまで戦っていた筈の、黒い制服に身を包んだ”悪魔”だった。

 


次回で何があったかの解説がありますので、お楽しみに。

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