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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十一章 殺しの遺伝子、滅びの遺伝子
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亡霊の遊園地


「ただいま、兄さん」


 いつもなら、先に明日花が学校から帰ってくる。俺は放課後に色々とバイトがあるので、彼女よりも先に家に戻ることは殆どない。


 でも、今日は明日花が後に帰ってきた。


 買い物に行ってきたのだろうかと思いながら出迎えた俺は、彼女の服装と顔を見て絶句する。


 服装は学校の制服のままだった。しかも制服の上着はいたるところが泥や血らしき赤い液体で汚れていて、彼女の顔には痣や傷がいくつもある。まるで、何度も殴り続けられたように。


「………何してた」


「えっ? ご、ごめんなさい………階段で転んで、その時にお財布落としちゃって………………兄さんが頑張って稼いでくれたお金なのに」


「………………三原か」


 彼女を傷だらけにした男の名を言うと、明日花はびくりと震えてから俯き、首を小さく縦に振った。


 最近、同級生の三原が明日花を虐めているという話をリョウから聞いていた。確かにあいつは昼休みや放課後になると1年生の教室に出入りしているので、その時に明日花を虐めているに違いない。


 階段で転んだり、財布を落としたというのは嘘だ。


 学校から帰ってくる途中に、三原たちに殴られて財布を奪われてしまったのだろう。


 母親がクソ親父に殺され、そのクソ親父も刑務所に入っているせいで2人で暮らしている以上、バイトで稼いだ生活費の一部を失うのはかなり大きな痛手だ。だが、明日花が幸せになってくれるならいくらでも金を用意しようと思う。


 なのに――――――彼女についにこんなことをするとは。


 涙を流す明日花の頭の上にそっと手を置いてから、俺は彼女の隣を通り過ぎた。靴を履き、玄関に置いてある金属バット――――――前に明日花を虐めてたバカから奪った戦利品だ―――――――を手に取って肩に担ぎ、玄関のドアを開ける。


「にっ、兄さん、どこに行くんですか?」


「………………ごめん、今からバイトなんだわ」


 とんでもない嘘だ。金属バットを使うバイトなんてあるわけがない。


 ニコニコしながら明日花の顔についている血を拭い去り、もう一度彼女の頭を撫でた。


「待ってろ。兄ちゃん、もっといっぱい金稼いでくるからな」


 呆然とする最愛の妹にそう言ってから、俺は玄関のドアを閉めた。


 さて、金を稼ぎに行くとしよう。


 ――――――三原のバカの居場所は、分かってるからな。












『バイクを確認』


 前世の世界で最愛の妹と暮らしていた時の夢を、無線機から聞こえてきたエレナの声が強制的に終了させる。明日花から奪った金でカラオケに行こうとしていた三原たちをボコボコにし、奪われた生活費とあいつらの持ってる金を全部奪って、帰りにケーキを買って家に戻るところまで夢を見れれば最高だったんだがなと思いながら、無線機に向かって「三原か?」と問いかける。


『おそらく。サイドカーに乗ってます』


「サイドカー?」


 1人で来いと言った筈だ。


 ルールを決めたのはこの俺だ。お前はそのルールに従うプレイヤーでしかない。なのに、プレイヤーの分際でルールを無視するとは。


 溜息をついてから、近くにある放送用の機器のスイッチを入れていく。


 廃棄された遊園地とはいえ、フィオナ機関を取り換えるだけで機械は何とか動いた。もちろん観覧車やジェットコースターも動くようだが、この状態で一般の客のために開園する事はないだろう。こんな状態で何の罪もないお客さんが来れば、レールの折れたジェットコースターや、ボルトが錆び付いたせいでバラバラになりそうな観覧車の餌食になってしまう。


 まあ、クソ野郎へのおもてなしには丁度いい。


 楽しんでくれよ、三原。


 










 クレイデリアが奪還されたばかりだからか、国境にはクレイデリア国防軍の警備隊すらいなかった。全盛期であれば巨大な防壁を用意し、常に大量の警備兵が機関銃を構えて待機していたというが、国境付近にあったのはその壁の残骸だけだ。


 とはいっても、ここに来るのがもっと遅くなっていれば、全盛期ほどではないとは思うが国境警備隊も駐留していた事だろう。やっぱりローラントのバカが救出作戦の立案をしてくれることに期待しなくて正解だった。


 サイドカーから降り、双眼鏡で遊園地の方を見渡す。


 9年前に帝国軍が実施したクレイデリア侵攻作戦が始まる前までは、あの遊園地には客がたくさんいたのだろう。だが、クレイデリアを占領した後はずっと放置されていたせいで、壁に描かれた可愛らしい動物の絵はペンキが剥がれて恐ろしいイラストと化しているし、巨大な観覧車も錆だらけだ。


 戦後になったら、ヴァルツの企業があそこを使って遊園地を再び開園させようとしていたらしいが、もしその計画を実行するならば、またクレイデリアの占領から始めなければならないだろう。


「………三原さん、お気を付けて」


「ありがとう。お前のおかげで助かった」


「いえいえ。………彼女さんの事、必ず助け出してくださいね」


 ここまでバイクを運転して連れてきてくれた警備兵が、ニコニコしながら励ましてくれた。


 こいつのおかげで、俺は総司令部を脱出する事ができたのだ。彼が用意してくれた警備隊の軍服に着替え、偵察部隊のふりをして堂々と総司令部の正門から出て、クレイデリアまでやってきたのである。


 胸ぐらを掴んだことを謝ろうと思ったその時、その謝罪を耳にするべき若い警備兵が頭を大きく揺らした。後頭部から赤黒い液体が飛び出し、頭蓋骨の破片らしき白い物体がそれと一緒に飛び散る。


 その直後に遠くから聞こえてきた銃声が、いきなり警備兵が血を噴き出して倒れた理由を告げた。


 ――――――撃たれたのだ。


 バイクから転がり落ちた警備兵をちらりと見下ろす。弾丸は眉間を正確に撃ち抜いたらしく、やけにでかい風穴が開いている。生きているわけがない。


 急いで遮蔽物に身を隠さなければ、自分も彼と同じ運命を辿ることになると直感して走り出そうとしたが、それよりも先に半壊しているスピーカーがいきなり音を発した。


『………………1人で来いと言った筈だ』


「力也………!」


 排除したってわけか………!


 ボロボロになっているスピーカーを睨みつけていると、一瞬だけノイズが聞こえ、再びあの忌々しい男の声が溢れ出す。


『忠告しておく。我が騎士団の優秀な狙撃手が、お前の彼女の眉間に照準を合わせている。命じるだけで、彼女の脳味噌は滅茶苦茶になるぞ』


「ふざけんじゃねえ! そんな事させてたまるか!」


『ああ、そうだろうな。だったら大人しくルールに従ってやがれ』


 ふざけやがって………………!


 美海を助け出したら、あのクソ野郎を今度こそしっかりと殺してやる。美海を連れて帰還すればローラントや勇者に咎められるだろうが、あの悪魔の首を持ち帰れば勲章はもらえる筈だ。


『さて、ルールを説明しておく。俺はこの遊園地の北側にある劇場にいる。そこまで辿り着き、俺を倒したらお前に美海を監禁している部屋の鍵をプレゼントしよう。要するに、俺を倒せば美海は助かる。いいな?』


「望むところだ………無残にぶち殺してやる」


『ふん………修正用のモザイクは、自分の無残な死体を隠すためにとっておくんだな』


 無残な死体になるのはお前だ、速河力也………!


 腰に下げていた剣を引き抜き、遊園地の正門を蹴破って遊園地の中へと突入する。かつてはポップコーンや飲み物を売っていた露店の前を通過すると、柱の上に取り付けられたボロボロのスピーカーから子供が大喜びしそうな明るい音楽が流れ始めた。


 消えていた照明に次々に灯りがつき始め、沈黙していたメリーゴーランドが唐突にぐるぐると回り始める。錆び付いたレールの上を走り始めたジェットコースターが金属の軋む音を奏でたかと思うと、千切れたレールから飛び出して、正面にあった建物に突っ込んだ。


 まるで、幽霊が再び遊園地を蘇らせたようだ。


『モリガン・パークにようこそ、三原くん。色々とボロボロだが、楽しんでくれたまえ』


 何がモリガン・パークだ。


 確かに、回り始めた観覧車の柱には大昔に壊滅したモリガン・カンパニーのロゴマークが辛うじて残っているのが分かる。ここを建造したのがモリガン・カンパニーだったから遊園地にモリガンの名を冠したのだろうか。それとも、大昔に存在した傭兵ギルドの名前が由来なのだろうか。


 気味の悪い園内を見渡していると、下水道へと繋がっているマンホールの隙間から、どろりとオレンジ色の粘液のようなものが溢れ出し始めた。その粘液はマンホールの上で球体のような形状へと変形すると、こっちに向かって粘液の触手を伸ばしてくる。


 スライムか!?


 くそったれ、魔物は大半が絶滅危惧種じゃねえのかよ!?


『人工スライムだ。本物のスライムは貴重品でな』


「じ、人工スライム………!?」


『安心しろ、粘液はオリジナルと同じく強酸性だ。暇だったらリトマス紙でも入れてみると良い』


「バカにしやがって!」


 所詮は粘液の塊だろうがよぉッ!


 魔力を剣へと伝達させ、刀身に炎を纏わせる。周囲で光を放つ証明よりもはるかに強烈な緋色の炎を纏った剣を振り払い、粘液の触手を伸ばしてきたスライムを両断する。刀身がスライムに触れた途端、ジュウ、と水がフライパンの上で蒸発するような音が響き、薬品のような臭いを発しながらスライムは蒸発してしまう。


 触れたら終わりだが、触れなければいい。


 次々に姿を現すスライムたちを炎の剣で蒸発させながら奥へと進む。確かにスライムに触れられればあっという間に皮膚や肉を溶かされて吸収されてしまうが、あくまでも粘液で構成された魔物であるため動きは早くない。十分に距離をとっておけば安全だし、フェイントを使うような知能もないからビビらなければ対処は楽だ。


 それよりも、テンプル騎士団(蛮族)共が人工的にスライムを造り出すほどの技術力を持っているとは………。


 将校共はあいつらの事を蛮族呼ばわりして見下しているが、実際は技術力ではヴァルツ帝国は大きく遅れている。情報によると、テンプル騎士団は古代文明の技術の発掘や解析を積極的に行っているため、先進国以上の技術力を持っているという。


 しかも、あいつらにはフィオナとステラという厄介な天才科学者がいる。あいつらの技術力の中核はその2人だろう。


 触手を伸ばしてくるスライム共を両断しながら、俺は冷や汗を拭い去る。


 もしテンプル騎士団がこの人工スライムを大量生産し、ヴァルツ本土への攻撃に利用すれば、ヴァルツ帝国は地獄と化すだろう。


 いや、そんな事をされる前に叩き潰せばいい!


 だから手始めに力也を潰す!


 やけにでっかいスライムを蒸発させると、大きな看板が見えてきた。看板には掠れた文字で『演劇を見るなら劇場へ! モリガンVSレリエル、大好評公演中!』と書かれている。


 ここが開園していた頃の宣伝の看板なのだろう。だが、この看板のおかげで力也のクソ野郎がいる場所が分かった。さっきジェットコースターが突っ込んだ建物が劇場らしい。


 あのジェットコースターが激突して力也が死んでいれば嬉しいんだがな。


 すると、劇場の正面の扉が開いた。ボロボロになったポスターが張られている扉の向こうから、ボロボロの服に身を包んだ人間が何人も姿を現す。敵兵が隠れていたのかと思って剣を構えたが、白銀の刀身を包んでいる炎がそいつらを照らし出した瞬間、そいつらが人間などではないことを悟った。


 あらわになっている肌は腐敗して変色していて、いたるところの肉が剥がれ落ちて筋肉繊維や骨が剥き出しになっている。手足もやけに細くなっていて、ふらつきながらこっちに向かって歩いてくる。


 ――――――ゾンビだ。


『三原くん、ホラー映画は好きか? ゾンビが出てくるやつはおすすめだぞ』


「………悪いが、ホラー映画は嫌いでな!」


 ゾンビも恐ろしい相手だが、対処法はスライムと同じでいい。いや、スライムのように触手をどこまでも伸ばしてくるわけではないのだから、難易度はスライムよりも下と考えていいだろう。


 身体を右に傾けてゾンビが振り下ろした腕を回避し、隙だらけの相手にボディブローを叩き込むように炎を纏った剣を突き立てる。腐った肉体が一瞬で真っ黒になり、突き刺されたゾンビが呻き声をあげながら黒焦げになっていく。


 剣を引き抜いて後続のゾンビの頭を両断し、姿勢を低くしながら剣を思い切り振り上げて後方のゾンビの首を撥ね飛ばす。火達磨になった首をサッカーボールのように蹴飛ばして後方のゾンビを怯ませ、その隙に両断して劇場の中へと突入した。


『………劇場へよ………こそ………。チケットは………でお買い求め………………さい』


 ノイズだらけのアナウンスを聞きながら、正面にあるでかい扉を蹴破る。端末のおかげで脚力が増幅された右足にあっさりと吹っ飛ばされた扉が劇場の中へと落下して、座席がいくつも並ぶ劇場の中に埃を舞い上げた。


 ここに力也がいる筈だ。あいつは劇場にいるって言ってたからな。


 剣を構えながら劇場の中を見渡していると、唐突に天井の照明が動き、ステージの上を照らし出した。


「―――――――ようこそ。出迎えはあれで足りたかな?」


 ステージの縁に腰を下ろしながらニヤニヤ笑っていたのは―――――テンプル騎士団の黒い制服に身を包んだ、あの時死んだ筈の男だった。向こうの世界にいた時は恐ろしい目つきをしている男だったが、今のあいつの目つきは虚ろだ。


 フードの付いた黒い制服を身に纏った力也は、背中に背負っているアサルトライフルを取り出した。あいつは向こうに世界にいた時から銃とか兵器には詳しかったから、この転生者の端末で銃を優先的に生産していたに違いない。


 なるほど、あいつは銃を使うのか。だったら接近しちまえば楽だな。


「足りねえよ、ボケ。俺を殺したきゃドラゴンでも用意しとけ」


「ドラゴンか………悪いが予算不足だ。だが――――――」


 シャキン、と小さな金属音が響き渡る。アサルトライフルのマガジンから放した力也の左手の指先からナイフが展開し、漆黒の刀身がいつの間にかあらわになっていた。


 よく見ると、あいつの指は第一関節から先が普通の人間の指よりも長くなっている。どうやら両腕は自分自身の腕ではなく義手らしい。


 確かに、勇者に手足を切断されていたからな。代わりに機械を移植して復讐しにやってきたってわけか。


 くだらねえ。機械なんかで転生者に勝てるわけねえだろうが。


「―――――――安心しろ、”悪魔”ならここにいる」


 そう言った直後、力也は俺に銃口を向けた。




次回は力也VS三原です。お楽しみに!

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